770 お前は姿が変っても中身は全然変わらんな
色々あったけど、ようやく学校へ到着。
少し前までは、俺もここに通ってたんだよな。メディア校長に、卒業という名目で追い出されてしまったけど。
もっとモラトリアムを満喫したかったよう。
それはさておき。
俺が通ってた頃は、まだ冒険者予備校という名前だったけど、貴族向けの学院と統合したのだ。
「その学校の栄えある初代生徒会長がこの私ってわけ!」
ティセリアさんが自慢げに胸を張っている。
きっと、前世の記憶で生徒会ネタをやりたかったのだろうなあ。
「具体的にどんな活動してるんですかね?」
「ええとねー。みんなが楽しく笑顔になる活動かな?」
生徒会役員のロワりんとミっちゃんとサっちんにも尋ねてみる。
「別に何もやってないよ☆」
「ああ、生徒会室を休憩室にしているだけだ」
「みなさんでお菓子を持ち寄って、お茶を楽しんでいるのですわ」
さもありなん。
「……ティセリアさん?」
「えへへへ……細かい事を気にしちゃ駄目だからね、セキこちゃん!!」
俺の肩をバシバシ叩いて誤魔化す気らしい。
「そんな事より、校長先生に『にゃんにゃん☆キュート体操』の許可を取りましょう!」
誤魔化したまま、ズンズンと先に進んで行ってしまった。
俺達は肩を竦めながら、彼女の後を追う。
しかし、卒業してそんなに経ってないのになんか懐かしいなあ。
通り掛かる生徒の顔を見ても、知らない生徒ばかりなので少し寂しくなった。
「まあ、セッキーが卒業してから、貴族の子達も大勢転入してきたから仕方ないよ☆」
「そのおかげで、私達にトラブルの対処の仕事が回ってくるのだがな。私は人見知りだから、嫌がらせにしか思えないぞ」
貴族と冒険者・生産職志望の平民が一緒になったら、そりゃトラブルも起きるか。
「貴族関連の揉め事は、わたくしとメルエルザさんとで対処しているのですわ」
そういえば、メルさまも一応貴族の令嬢だったんだよな。
実家では隠れジャージ愛好家だったけど。
「そんな感じで、生徒会は生徒みんなのために身を粉にして働いているのだよ!」
ティセリアさんがドヤ顔で決めてるけど、あなたは何もしてないでしょうよ。
聞けば、彼女の側仕えのリューミアとルーミの姉妹も役員らしいが、フォローしている彼女達の姿が目に浮かぶ。
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、入学した当初にリリナさんとすれ違ってドキドキした事を思い出してしまった。
そんな憧れだった彼女と男女の関係となれたと思うと感慨深い。
「……なんか、セッキーがいやらしい顔してる」
相変わらずロワりんは鋭いな。
戦々恐々としていたら、前方からリリナさんの姿が。
今日は色々な人に会うな。もっとも、リリナさんなら大歓迎だ。
「ん? リリナさんの隣の女性は誰だろう?」
彼女の隣に気の強そうな女性がいた。
歳はアラサーといった感じだろうか。大人の色気が凄い。
「あんな女性にヒールで踏まれたらゾクゾクしそうだぜ」
「セキこ、心の声が駄々洩れ以前にドン引きだからな?」
ミっちゃん、そんなジト目で見ないでくれよう。
「というか、よくこの距離で誰だか分かるね☆」
「わたくしも、リリナさんだとは気づかなかったのですわ……」
「私なんて、人かどうかも分からなかったんだけどー」
ふふん、セキこアイは興味がある対象には抜群の効果を発揮するのだ!!
「あら? リョウ君……じゃなくてセキこちゃん? みんなと一緒にどうしたの?」
こちらに気づいたリリナさんが、俺の来校に首をかしげている。
「無事に『にゃんにゃん☆キュート体操』が完成したので、学校でも普及させようと思いまして。それはそうと、そちらの素敵なお姉さんはどなたですかね?」
俺が素敵なお姉さんと言ったら、当の女性は複雑な表情を浮かべた。
おっさんが言ったならセクハラになるだろうが、今の俺は可愛らしい猫耳少女だぞ。
解せぬ。
「ああ、ええっと……」
何やらリリナさんが、しどろもどろである。
説明しづらい事なのだろうか。
まさかとは思うが、やんごとなき身分の方だとか!?
確かに気品らしさと同時に人妻っぽさも感じる。もしかしたら、隣国のお妃様だとか?
国と国が争う禁断の恋が始まってしまうのか!?
その女性が呆れたように溜息を吐いた。
「……私だ。まだ気づかないのか?」
むむ?
何やら聞き覚えのある声のような気がするのだが……。
ロワりん達の方を見ると、笑い出すのを堪えている。
「あのね、この人はメディア校長なの……」
「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーー!?」
ここ最近で一番大声を出した気がする。
「え? ちょっと待って!? だって、物凄い俺好みのお姉さんなんだけど!? というか、校長が俺好みとか凄く嫌なんだけど!? いくら人妻好きだからって、俺だって選ぶぞ!? というか、なんで若いの!? 意味分かんないんだけど!!」
「ええい! 少しは落ち着け!!」
「うぎゃああああ!! いきなりアイアンクローは卑怯だぁぁ!!」
校長(仮)の握力が凄くて悶絶する。
この遠慮の無さと傍若無人さは校長に間違いない。
「まったくもう。お前は姿が変っても中身は全然変わらんな」
「その言葉は、そっくりそのままお返ししますよ。それで、なんで若返ってるんですか?」
「分からん。リリナからもらった栄養ドリンクとやらを飲んで気づいたら、こうなっていたのだ」
メルさまが放置していたアレか。
こんな凄い効果があるなら、ひと儲けできそうだよな……。
しかし、そうは問屋が卸さない。
たまたまの偶然で出来上がった薬らしいので、同じ効果の物は作れないらしい。
そんな訳で、校長が若返ったのは偶然が重なった奇跡だそうな。
みんなはこの事を知っていたそうだが、面白いから知らないふりをしていたとか。
まったく、みんな人が悪いよ。
「しかし、校長がフリーだったらなと思うと残念で仕方ない……」
「お前に口説かれるなんて想像したら、寒気がするぞ」
違う世界線なら可能性もあるかも?
「セキこちゃん。私も一応恋人なのよ? よく目の前でそんな事が言えるわね」
リリナさんに頬っぺたをつねられたので、ありもしない可能性を考えるのはやめよう。
反省反省。
「セッキーの最低☆」
「本当に見境が無いやつだな」
「踏まれたいのなら、喜んで踏んで差し上げるのですわ」
うむ、サっちんだけは分かってくれる子だと信じていたぞ。
「あのう、盛り上がってるところ悪いのだけど、生徒会の活動を始めてもいいかなー?」
ティセリアさんの一言で、当初の目的を思い出した。
校長に『にゃんにゃん☆キュート体操』の許可を得るために、学校へ来たんだったよ。
早速、体操の概要を説明する。
「ふむ……そんな体操で脱力状態が解消するのか?」
「はい。既に城でも行って、国王のサイラントさんから直々に効果が認められました」
「サイラントが認めたのなら、私からは何も言う事はないな。後は生徒会の方で取り仕切ってくれ」
流石は国王のお墨付き。
とんとん拍子で話が進み、生徒会主導で『にゃんにゃん☆キュート体操』を行う事になった。
なんだかんだ言って、ティセリアさんの能力は高い。
あっという間に段取りを整えて、その日の内にほぼ全員の生徒を校庭に集めてしまった。
初等部、中等部、高等部が集まると壮観だな。その中には孤児院の子達も含まれている。
主に貴族連中だろうか。体操なんてバカらしくてやってられるかという、ダルそうな声もチラホラ聞こてきた。
だが、そこは腐ってもにゃんにゃん☆キュートである。
「みんなー元気ー? 私と一緒に体操をしましょー!!」
役に成りきって朝礼台に上がると、あちこちから歓声が上がる。
にゃんにゃん☆キュート人気、恐るべし。
特に初等部からの声援が凄いと思ったら、フィルが絶叫していた。
あの子、あんなにアグレッシブだったかなあ……。
「今日は特別に、こんこん☆キュートもみんなと一緒に体操をしてくれるよー!!」
嫌がるミっちゃんも強引に壇上に上げてやる。
もちろん、魔法少女衣装に着替え済みだ。
「……くっ、よ、よろしく頼む」
くっころみたいな表情が受けたのか、男子生徒からの声援が上がった。
性癖を歪めたらいけませんよ。
一応ティセリアさんは生徒会長なので、今回は漆黒姫はお休み。
本人は、残念がっていたけど身バレ防止のためだ。
そんな訳で、学校内での『にゃんにゃん☆キュート体操』は好評のうちに終わった。
それから程なくして、ショッピングモールにて大々的に『にゃんにゃん☆キュート体操』のお披露目が行われたのである。
通常のショーが行われた後、ちびっこを中心に体操を始めると、軽快なリズムが癖になるのか徐々に保護者にも広まり、当初の目論み通りに王都中……いや、王国中に『にゃんにゃん☆キュート体操』が広まった。
こうして俺達は無事に『むにょーん☆』騒動を解決し、イリーダさんは大森林へ赴く事が可能になったのであった。
登場人物紹介の後、おまけ編新章開始の予定です。
ベルガの器の素材を探しに、レイズとノノミリアが暮らす集落に向かうリョウヤに降りかかる試練()とは……




