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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第三章

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72 悪い奴ではないのは分かるよ

 校長を含め、講師達や感じの悪い男達が唖然とした顔でシーラを見ている。

 まるで彼女の存在をすっかり失念していたみたいだ。


「な、なんだその子供は! 大人の会話に口を出すんじゃない! 保護者はどこにいるんだ!! 後で抗議して社会的に抹殺してやるぞ!!」


 口髭中年男が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 もう本性を隠す気も無くなったか。


「こんな奴らが教育施設を運営しているのか? まったく世も末だな。今の時代の人間に期待したわらわが愚か者みたいじゃないか」


 シーラの目がスッと細められ、急に部屋の温度が下がった気がする。

 ……いや、気がするじゃなくて実際に下がっている。

 窓ガラスは凍り付き、吐く息は真っ白だ。

 凄いな。これが魔人の力とやらなのか?


「おい! 校長! これはなんの真似だ!? 我々に危害を加えるつもりか!?」


 男達が口々に喚き立ててるが、メディア校長も何が起きたのか分からないという顔をしている。

 そりゃそうだよ。シーラがやってるのだから。

 しかし、寒いな……。

 他のみんなも白い息を吐きながら震えている。


 気付くと、例の口髭男達の体が凍り付き始めていた。

 おいおい、ちょっとやり過ぎじゃないですかね?


「な、な、なんだこれは!?」


「おい、どうなってるんだ!!」


「我々を殺す気かーーー!!」


 って、流石にこれはマズい。


「おい、シーラ! やめろ! 殺しては駄目だ!!」


「大丈夫。ちょっとした挨拶ってやつだ」


 シーラがニッコリと微笑むと、今までの寒さが嘘の様に消えてなくなった。

 凍り付いていた窓は元通りになってるし、男達も氷漬けになっていない。


「全て幻覚だ。どうだ、驚いたか? これに懲りたら、真っ当な教育機関を作り上げるために尽力するのだな」


 今の全部が幻覚なのかよ……。

 凄いを通り越して怖いぐらいだな。

 その場の全員も黙り込んでしまっている。


 だけど、男達はそうでは無かった。

 瞬間湯沸かし器みたいに激怒して怒鳴り始める。


「ふ、ふざけるな!! 我々に危害を加えたな!!」


「子供だからって、容赦はせんぞ!!」


「警備兵!! あの者を捕らえよ!!」


 部屋の外に控えていたのか、厳つい男達がなだれ込んできた。

 これって乱闘必至の展開ですかね。

 ミっちゃん達が構えるが、シーラはつまらない顔をして呆れている。


「ここまで愚か過ぎると、笑えないな」


 シーラが一瞥すると警備兵の足元から炎が吹き上がった。

 これも幻覚なのだろうけど、熱を感じるので警備兵達がパニックに陥っている。


「そんなのはまやかしだ!! 早く捕らえろ!!」


「お前達にいくら払ってると思ってるんだ! この役立たずどもめ!!」


 あまりに酷い言い草に呆れ返るな。

 それはシーラも同じだったみたいで、再び大きく溜息を吐いた。


「下らない事ばかりを言っていると、この街の全てを火の海にしてやるぞ」


 シーラが窓の外に見える校庭に向かって一瞥する。

 直後、校庭から轟音と共に巨大な火柱が立ち昇った。

 窓ガラスが割れるのではないかと思うぐらいに部屋が振動し、壁に飾られていた絵画が落ちて派手な音を立てた。


 火柱の迫力に全員が度肝を抜かれ、その場から一歩も動けなくなってしまった。

 これも幻覚なのだろうか、それにしてはリアル過ぎる。


「断わっておくが、これは幻覚ではないからな」


 マジですかー。

 しばらくするとシーラが何かを見付けたのか、遠くを睨みつけて舌打ちをした。

 突如現れた火柱は、現れた時と同じ様に突然消えてしまった。


 俺は呼吸をするのを忘れていたみたいで、ようやく大きな息を吐いた。

 それはその場にいた全員が同じであった。


 しかし、今のはなんだったのだ?

 校庭の方を見ると、焼け焦げた巨大なクレーターみたいな穴の周囲に生徒達が集まって大騒ぎになっている。


「これでも、わらわの力の一端だぞ?」


 シーラが男達に背筋の凍る様な笑みを向けた。

 無論、笑顔を向けられた方は怯え上がっている。


「それでリョウヤ達の処分はどうするのだ? 返答次第では、うっかりお主達を消し炭にしてしまうかもな」


 人形みたいな可愛らしい外見とは不釣り合いな表情で、先程から喚いていた男達を恫喝する。


「黙っていては分からないぞ?」


 突如、口髭男の髭が燃え上がった。


「う、うわわわー!!」


 慌てて火を消すが、髭がチリヂリになって情けない顔になってしまう。


「ちなみに、お主達の顔は全員覚えたからな。仕返しを考えているのなら、相応の覚悟はしておけよ。わらわは記憶力が良いのでな」


 その脅しは地味に怖すぎるのですが……。


「い、いや……、生徒の処分や後の事は全て校長にお任せします……」


 口髭男の代わりに七三分けの男が、なんとか声を振り絞って答える。

 他の男達も、それに続いてひたすら頷いていた。


「だってさ?」


 そう言ってシーラは、首をかしげるようにメディア校長に問い掛ける。


「……お前達の処分は再度検討してから追って連絡する。そして、この場にいる物はここで見た事、聞いた事は一切口外せぬ様に。役員会議は解散だ」


 シーラに見つめられて緊張した面持ちの校長が解散を告げると、男達や講師達が我先にと部屋から転がる様に出て行ってしまった。



「お前たちは本当に何をしでかしてくれたのだ。これからが大変だぞ……」


 校長が緊張の糸が切れた様に大きく溜息を吐いて椅子に深く座った。


 一応、俺達の処分は保留になったのかな。

 勢いで退学すると言ってしまったけど、よく考えたら今後の事とかまったく決めてないし、絶対に後悔していたパターンだよな。

 俺は別の意味で冷や汗をかいていた。


 そして周囲を見ると、校長以外に予備校側で残ったのはベルゲル先生だけであった。

 しかし、空気が凄まじく重い。

 それもそのはず、全員がシーラに怯えている。

 あれだけの力を見せ付けられたのだから、仕方がない。

 シーラ本人も居心地が悪そうに俺の手を握って離さない。


 そんな事をされたら、俺が怖がれないんですけど。

 俺もみんなと一緒に怖がらせてくれよう。


「わらわは、また皆から怯えられてしまうのか……」


 シーラが寂しげに目を伏せてしまう。

 マズいな。このままだと、彼女が化け物扱いされてしまうパターンだ。

 ここはなんとかしないといけない。

 しかし、妙案は浮かばない。


 どのくらい沈黙が続いたのだろう。校庭の焼け焦げた穴に集まる野次馬の声がやけに大きく聞こえてくる。


「ええっと……」


 俺が何か言おうと口を開いた時だった。


「凄いよ!! あんな魔法なんて、初めて見たよ!!」


 ロワりんが目を輝かせてシーラの手を両手で握って、ぶんぶん振っている。


「……お主は、わらわの事が怖くないのか?」


 突然の事で戸惑いながらシーラがロワりんの顔を上目遣いで窺う。


「怖いと言えば怖いよ。でも、それ以上にこの現実を受け止めないでキミを排除しようとする自分が怖いんだよ。だからこうして私はキミを受け入れる……って、自分でも何を言ってるか分からないや」


 ロワりんが照れ笑いを浮かべながらシーラの手を握って離さない。

 やべえ、その思いやりで惚れそうになってしまうわ。


「そうだな。出会って間もないが、悪い奴ではないのは分かるよ。……私とも、仲良くしてくれないか?」


「ミっちゃんさん、抜け駆けはずるいですの。わたくしとも仲良くしてくださいませんか?」


 ミっちゃんとメルさまが俺を押し退けてシーラを取り囲む。

 なんて事だ。俺の事を全く眼中に無いみたいな自然な動きだったぞ!


「あ、あたしも! 危うくここを出て行かなくちゃいけないのをウヤムヤにしてくれたみたいだし、感謝しなくちゃね」


「方法はどうあれ、あのムカつく奴らの泡を食ったような顔は最高だったよな!」


 ノノミリアとレイズも、シーラを受け入れてくれたみたいだ。


「シーラ、良かったな」


 そのシーラだが、真っ青な顔をしている。


「少し魔力を使い過ぎたみたいだ……」


 無茶しやがって。

 先程の火柱に使った魔力は並大抵の量ではないだろう。

 頭を撫でて魔力供給をしてやる。


「わらわを子ども扱いするな。……でも感謝する」


 睨まれてしまったが、どこか嬉しそうだ。


 そんな俺達の様子を見て、校長とベルゲル先生が安堵の溜息を吐いていた。


「あの子達をその場の流れで退学処分にしなくて、本当に良かった……」


「そうですね。今後の事を考えると問題山積みだが、取り敢えずはこれで良しとしておきましょうか」


 二人が俺達の事を眩しそうに見つめている

 どうやら、俺達の味方になってくれそうな雰囲気だ。



「皆、話を聞いてくれ。今後の事を考えなくてはいけない。まずはその子の事を詳しく聞かせてくれ」


 幾分、険しさが消えた表情のメディア校長が俺達に呼び掛けた。

 確かにシーラの事を聞かないと何も始まらない。


 しかし、俺達がシーラから聞いた話は、胸くそが悪くなる話であった。


 要約すると、神代戦争終結から六百年後、古代魔法王国が滅びた世界で各国が覇権を争う時代に人族、獣人、魔族の王がそれぞれ和平協定を結んだそうだ。


 だが、それには一つ問題があり、それはシーラの存在である。

 既に魔人族の最後の生き残りとなっていたシーラは、各陣営からすれば脅威の対象でしかなかったらしい。

 確かにあの魔法の威力を見せ付けられたら納得するしかない。


 そこで各陣営は、互いにシーラを味方に引き入れる事を禁止すべく、地下に封印してしまう事にしたらしい。

 平和と言う大義名分の下で。


 どの様にして地下に閉じ込められたかまでは語ってくれなかったが、シーラはとても悔しそうで、それでいて悲しい顔をしていたので、俺達はそれ以上詳しい事を聞けなかった。


 いつか解放される日を夢見て、そのまま七百年という長い年月を眠り続けた少女に掛ける言葉は簡単には見付からない。


「そんなに暗い顔をしなくても良い。わらわはこの今の時代を色々と見て回りたい。そしてお腹が空いたので、何か食べさせてくれないか?」


 困った顔で、おどけた風にシーラが空腹を訴えた。

 校長達も、これ以上シーラを取り調べるのは不憫に思ったのだろう。


「ひとまず、これで一旦解散だ。後でリョウヤとシーラ嬢には個別に話があるからまた来てくれ。それと皆の処分は無くなった訳ではないから、本日は校外への外出を禁止する」


 校長が解散を告げた。しかし、個別の話って何だろうな。嫌な予感しかしない。

 そして、去り際にロワりんがとんでもない事を口走った。


「あ、そうだ。シーラはベルゲル先生の隠し子っていう設定にするから、よろしくね☆」


「え!? なんだって!?」


 いきなりでベルゲル先生が目を白黒させている。

 むちゃくちゃな展開に校長は呆れ顔だ。


「ちょ、ちょっと待ってくれい!!」


 先生の抗議を無視して俺達は校長室を後にした。

 さて、俺達はこれからどうなるんだろう。

 やらなきゃいけない事が山積みになりそうな気分だった。


 ちなみにシーラが起こした巨大な火柱は、魔法の実験中の事故とされた。

 事実を知る者には箝口令(かんこうれい)が敷かれたが、事実が漏れるのは時間の問題だろうな。

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― 新着の感想 ―
いやー見返してもこの時のシーラ最高ですな!
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