725 森は私で、私は森なのです!
転移の鏡で砦にサクッと帰還。
俺達が留守の間に新たな襲撃は無かったが、砦の四の部族の戦士達と三の部族の戦士達の間で小競り合いみたいなのが発生していたらしい。
もっとも、三の部族の戦士達は一度敗北した身なので、捕虜の身に甘んじていたところ、一部の四の部族の戦士達がちょっかいを出したとか……。
揉め事になる前に、砦の責任者のドーザさんが収めてくれたそうだが、正直このままだと衝突するのも時間の問題だろうと。
「セキこ様、今日は抑えられましたが、明日以降はどうなるか分かりません。衛生環境や食糧事情もありますし、このまま三の部族を砦に置いておくのは、不可能でしょう」
帰還早々にドーザさんが訴えてくる。
「メグさん、どうしましょう……って、もういないし!?」
変なところは鋭いくせに、面倒事は俺に丸投げかよー。
こんな時にベルガがいてくれたらと思ってしまう。
ああもう、すっかり俺もあいつに頼り切りだな。
取り敢えずは、三の部族の捕虜の処遇である。
ミミちゃんが長達が集まって協議するとか言ってたけど、どれだけ時間がかかるか分かったものじゃない。
本当なら、さっさと捕虜を解放して帰ってもらった方が楽なんだけど。
多分というか、絶対に四の部族の戦士達はそれを許さないだろう。
下手したら、俺やメグさんに敵意すら向けてきそうだ。そうなったら、メグさんがキレて……最悪な結果になりそうだわ。
一人でウンウン唸ってると、オームラさん達が念話で話しかけてきた。
(マスター、精霊樹達を頼ったら如何でしょう?)
(彼女達は、ご主人様からの要請を断らないでしょう)
(よんちゃん達って、獣人に崇拝されてるんですよね。だったら、長も言う事を聞いてくれるのでは?)
おお! 流石は俺の懐刀。
頼りになるぜ。
(マスターの力になるのは当たり前の事です!)
(断じて、精霊同盟の結束を強固な物にするつもりではありませんよ!)
(精霊樹に活躍の機会を与えて、恩を売るわけではありませんからね!)
ムラサメさんとオーちゃんは、本音が駄々洩れですよ。
だけど、精霊樹達に協力を要請するのは悪い案じゃないな。
寝る準備等を終えた頃には、すっかり深夜になっていた。
同室で寝てるメグさんを起こさないようにして、部屋を出る。
それにしても、さっき長い昼寝してたのに寝られるって凄いよな。
俺は全然眠くないぞ。
砦の見張りに見つかると面倒なので、一気に窓を飛び越えて森の広場に移動。
そんじゃ、呼び掛けてみますか。
元の姿に戻って精霊樹に呼び掛ける。
「よんちゃん、いますかー?」
「お呼びですか?」
「うお!?」
いきなり近くの木から、よんちゃんが生えて出てきた。
めちゃくちゃ心臓に悪い。
「呼び出しておいて、驚かないでくださいよう」
「いや、だって木から生えてくるなんて思わないし……」
「森は私で、私は森なのです!」
えへんと胸を張る姿が可愛らしい。
「それはそうと、どうしたのですか? また生命の源を渡したくなっちゃいました?」
「そ、それはまたの機会にね。実はかくかくしかじかで──」
よんちゃんにこれまでの事と、砦で起こり掛けている問題を伝えた。
「ほうほう、なるほど。完全に理解しました」
本当に理解してるのかなあ……。
「私達の言葉を長は聞いてくれるでしょう。こういうのは早い方がいいですね。……みんなも聞いてたよね?」
よんちゃんが周囲に語り掛けると、周囲の木からいっちゃん、にこちゃん、ごっちゃんが生えてきた。
最早、ホラーである。
「ええ、全て聞かせてもらいました」
「オレ達に任せてくれ!」
「おにいさんの為だったら、わたし頑張っちゃうからね!」
おお、なんと心強い!!
「……それでですね、ちょっと強引な事をするので、リョウヤさんにお願いしたい事がありまして」
よんちゃんが遠慮がちに上目遣いで、こちらを窺ってくる。
「なんだ? 俺にできる事なら、なんでも言ってくれ」
その直後、よんちゃん達がニヤリとしたのを俺は見逃していた。
「じゃあ、私達と精霊契約をお願いします!」
なんですと。
「どうか、私のご主人様になってください」
「オレの主は、リョウヤしか認めないからな!」
「おにいさんをいーーーーっぱい可愛がっちゃうね!」
いっちゃん達まで詰め寄ってくる始末。
こうなったら、前言撤回などできるはずがない。
覚悟を決めよう。
「分かったよ。それで、どうしたらいいんだ?」
「それはもちろん──」
よんちゃん達の周囲から植物の蔓のような物が生えてきて、そのまま縛り上げられてしまった。
ちょっとやそっとじゃ千切れそうもない頑丈さである。
「あ、あの……俺はどうなってしまうんですかねえ」
「もう分かってるくせにぃ」
よんちゃん達の瞳にハートが浮かんでるんですけど……。
いやあ、搾り取られるって、ああいうのを言うんですね。
精霊樹の加護だかなんだか知らないけど、体力諸々が無尽蔵になるのは驚いたよ。
この力は、チ〇コマンじゃなくても欲しがるのは理解できる。
「それじゃ、リョウヤさん。行きましょう」
妙に肌艶の良い、よんちゃんが俺の腕を取った。
「行くってどこへ?」
「四の部族の長の元へですよ。他のみんなもそれぞれ移動しました」
気づけば、いっちゃん達の姿が見えない。
「ところで、ミミちゃんの元へ行くってこんな時間に?」
「当たり前じゃないですか。早い方がいいんですよね?」
こてんと首をかしげる姿は可愛いけど、常識が抜け落ちてるのが怖い。
まあ、こういうのを含めて精霊なんだろうけど……。
気づいたらミミちゃんの屋敷の前だった。
「あれ? いつの間に? というかどうやって?」
「言ったじゃないですか。森は私で、私は森なのですって」
「だけど、ここは一応街中だよ?」
「そこはほら、契約したからパワーアップですよ!」
なんとご都合主義な……。
「じゃあ、早速お邪魔しましょう!」
よんちゃんに引きずられながら、屋敷の門の前にやってきた。
「そこの二人、何者だ!?」
「こんな時間に何用だ!?」
門番達が立ち塞がった。
まあ、これが普通の反応だよな。
今は元の姿なので、セキこ顔パスも使えない。なので、完全な不審者である。
「そこを通しなさい」
よんちゃんの目が怪しく光る。
洗脳光線か!?
「違いますよ。精霊樹の力です」
そうは言うが、門番達がひれ伏してしまっている。
やっぱり洗脳じゃないのか。
「大変失礼いたしました! お通りください!」
「我らの精霊樹様! どうか永遠の恵みを!!」
本当に崇拝の対象なんだなあ……。
だけど、こうして見る限りは普通の女の子の姿である。
「私の顔に何か付いてますか?」
「いや、よんちゃんって凄いんだなあって」
「えへん。精霊樹は凄いのです! ……ですが、私達を救ってくださったリョウヤさんの方がもっと凄いのですよ」
そう言われても実感は無いけどな。
そんな事を考えてると、オフクさんがやってきた。この人も普通に気配無しで現れるので、只者じゃないんだろう。
「精霊樹様とリョウヤ様、ミミーナ様の寝室はこちらです」
まるで俺達が来るのを予想していたみたいな対応だ。
そのままミミちゃんの寝室の前に案内されてしまった。
「では、私はここで」
すっと闇に溶けるようにオフクさんが姿を消した。
マジであのババア何者だよ。
それにしても、このまま入っていいのかな?
夜這いとか思われない?
「こんばんわー!! ミミーナ元気ー?」
ちょ、よんちゃん!? 何してんのよ!?
ノックも無しに豪快にドアを開け放ってるし。
「うわあぁぁぁぁ!! 何者じゃぁ!? 夜這いかーーー!?」
この状況で、夜這いと判断するミミちゃんも大概だよな。
「寝てたところごめんなさい。ちょっと大事なお話があるの」
「なんじゃ、四の精霊樹様か。それに、婿殿まで一緒とは一体何事なのじゃ……」
叩き起こされて眠そうに目をこするミミちゃんが可愛いのですが。
それに、ベルガ袋を大事そうに抱きかかえてる姿が萌える。
「あのね、長が集まって協議とか時間かかりそうだから、さっさと決めちゃってもらおうかなあって」
よんちゃん、ざっくりし過ぎですがな。
「まあ、確かに長が集まるのは先触れを出したり、準備等時間が掛かるものじゃな」
「じゃあ、今から行くね」
有無を言わさず、ミミちゃんの腕と俺の腕を掴んできた。
そして、また気づいたら別の場所に転移している。
「ここは……三の精霊樹のあった場所か?」
枯れ果てていた精霊樹の姿はなく、一本の若木がすらりと生えていた。
「これが新生さんちゃんです。もう少ししたら、立派な精霊樹になりますよ」
よんちゃんが説明してくれるのだが、凄く嬉しそうだ。
それにしても、種を植えてからほとんど日も経ってないのに、もうここまで育っているのか。精霊樹、恐るべし。
「うむう、あまり年寄を驚かさんでくれ。既に儂の理解が及ばぬのじゃ……」
流石のミミちゃんも驚愕しっぱなしだ。
「それはそうと、なんでここに来たんだ?」
「それは……あ、丁度いいタイミングですね。他の長もやってきましたよ」
よんちゃんが指し示す方向に、いっちゃん、にこちゃん、ごっちゃんがそれぞれ獣人を伴って現れた。
全員が高齢のようである。きっとそれぞれの部族の長なのだろう。
ミミちゃんだけが美少女で浮いてるけど、ロリババアだから問題無し。
しかし、皆さん深夜に叩き起こされて大変だったろうな。
今にも死にそうな顔で気が気じゃない。




