646 そうやってまた逃げるのですか?
ようやく帰宅でございますよ。
まあ、今日は色々大変だったわー。アンこ先輩を学府に送り届けたら、変な貴族に絡まれるわ、よく分からんスポーツで勝負するわ、先輩の母親のファルさんと力を合わせて巨漢の執事を倒したり。
そんでもって、ファルさんを家に送り届けたら、妙齢メイドのレラさんと一緒にサービスしてくれるわと、盛りだくさんな一日でしたよ。
って、まだ夕刻前なんだけど。
「あ、セッキー君お帰りなさい」
玄関ドアを開けたら、先輩がとたたたたって駆け寄ってくれた。
ああもう! 可愛いなあ!
「お、お邪魔……しております」
続いて姿を見せたのは、先輩の先輩であるフィオさんだ。
ファルさんが先輩に化けていた種明かしをしたら、驚いて卒倒してしまったので、取り敢えず先輩と一緒に家に運び込んだのだが、心なしか緊張気味のご様子。
「なんか色々と驚かせてしまって、すみませんね」
「こちらこそすみません! まさか、アンにあんな可愛らしいお母様がいらっしゃったなんて思わなくて」
「ですよねー。俺も最初は驚きましたよ」
あんな可愛らしいお母様に色々サービスされてきましたとは、口が裂けても言えません。
「ああ良かった。リョウヤ君もそう思ったのですね」
「あははは……」
「うふふふ……」
なんて感じで笑い合ってたら、先輩がぷうっと頬を膨らませている。
「セッキー君って、いつからフィオさんとそんなに仲良くなったのですか?」
「いやいや、普通ですよ!」
「あら? アンは私にやきもちを焼いてるの?」
「え? そ、そ、そういう訳ではありませんけど……」
先輩、思いっきり挙動不審になっておりますよ。
ウソが吐けない先輩は可愛いなあ。
「大丈夫よ。流石にリョウヤ君のハーレムには恐れ多くて入れないから」
フィオさん、身も蓋も無い事を言わないでもらえませんかねえ。
「それにしても、本当に驚いたわ。アンの彼氏だと思ったら、あんなに彼女がいただなんて」
「あのう、他のみんなに会ったんですかね……?」
「立派なガラス張りのサンルームでのお茶会に誘われましてね。それはもう、色々な事を聞きましたよ~」
一体どんな事を聞いたのか凄い気になるところだけど、下手に尋ねない方が良さそうである。
「先の機械人達との戦いの英雄ですものね。それくらいの甲斐性があって、当たり前だと思いますよ」
あれ? 一応、俺が活躍したのは伏せられてるはずなんだけど……。
「先の戦いでの英雄って、俺じゃなくて銀髪の猫耳の女の子じゃないですかね?」
「隠さないでいいですよ。普通に皆さんが教えてくれましたので」
こんちくしょう!
あっさり機密を漏らすなよ!
……って、フィオさんを立たせたままだった。貴族のご令嬢に失礼な対応をしてしまったよ。
「こんなところに立たせたままで、すみませんでした。ささ、お茶の準備をしますので、あちらへ」
「いえいえ、お構いなく。そろそろ迎えが来る頃ですので」
フィオさんがそう言ったのとほぼ同時に、迎えの馬車が家の前に到着した。
なんというベストタイミング。
「それでは、本日はどうもありがとうございました。今後とも、どうぞよしなにお願い致しますね。アンも、また明日ね」
「こちらこそ、よろしくお願いします。どうぞ、お気をつけて」
「フィオさん、また明日お会いましょう」
「では、皆様もまた」
馬車に乗車したフィオさんが、いつの間にか見送りに来ていたみんなに手を振りながら去って行った。
また明日か……いい言葉だよな。
そんな事を考えてると、みんなにサンルームへと連行された。
お茶会第二ラウンドが始まり、フィオさんとの関係や学府での出来事を根掘り葉掘り聞かれたのである。
流石にフィオさんとの関係を疑われるのは呆れたよ。
「セッキーは油断できないからね。なので、私達がいかにセッキーと関係が深いんだってアピールしておいたから☆」
ロワりんさんよう、そんな胸張って言う事じゃないよね。
「いや、セッキーの事だから外で隠れて関係を持つ可能性もあるぞ」
ミっちゃんの指摘が鋭すぎて、思わず反応してしまった。
「あら? 今セッキーさんの表情が一瞬変わりましたの」
メルさまの観察力が怖い。
「リョウヤ君、ファルさんを送り届けに先輩の家に行ってきたんだよね?」
ピアリも細かいところを気にしないでよろしい。
「ほほう、リョウヤの事だから、何もしないで帰ってくるとは思えないな」
シーラも勘ぐるんじゃありませんよ。
「セッキー君、まさかお母さんと……」
先輩、ファルさんとだけじゃなくてレラさんともですよ……なんて、言える訳がない!!
「リョウ君ってば、年上だったら誰でもいいのね……」
リリナさん、誰でもいい訳なんてないですよって、向こうで鏡子さんとエリカもジト目で見てくるのですが。
うむ、ここは取り敢えず謝っておくか。それがいい。
そんなこんなが俺の日常である……って、こんな日常が続いて堪るか!!
みんなで手分けして夕飯の支度して、みんなで食べる。後片付けもみんなでやる。
これが本当の最近の日常である。
それにしても、妹のルインが城へ行く事が増えてきたので、家事も必要に迫られてやるようになったなあ。
人間、やればなんでもできるのだ。
そんな事を考えながら、夕飯後にお茶を一服。
これが俺の最近のお気に入りだったりする。
「セッキーさん、ご休憩中のところ、少しよろしいでしょうか?」
「急に改まってどうしたんだ? メルさま」
いつもなら問答無用で無理難題を押し付けてくるメルさまが礼儀正しいなんて!?
明日は雪か槍が降りそうだ。
「後ほど、わたくしの部屋にご足労願いたいのですが……」
いつになく真面目な顔だ。もしかしたら、また実家関係で問題が起きたのかもしれない。
「分かった。後で行くよ」
「ありがとうございます」
あんな思い詰めた顔をされたら放っておけない。
寝る準備を済まし、メルさまの部屋を訪ねた。
「どうぞ、入ってください」
「お邪魔します……」
同じ屋根の下に暮らしてるけど、メルさまの部屋は初めて入った。
彼女は薬屋にも住居があるので、こちらの部屋は最低限の物しか置いてなくスッキリと片づけられている。
新居なのにGが出たロワりんとは大違いだな。
「それで、俺に何か用があるのかな?」
椅子を勧められ、出してくれたお茶に口を付ける。
少し変わった味のお茶だ。宮廷薬師のミスティさん経由で外国から仕入れたのかな?
「はい。セッキーさんがいい加減わたくし達に手を出してくれないので、少し憤っております」
思わずお茶を噴き出しそうになりながらも、なんとか耐える。
「ええっと、そういうのは堂々と言うべきじゃないというか……」
「じゃあなんです? 今日なんて、アンこさんのお母様とお楽しみになられてきたのですよね? セッキーさんは熟女マニアですの?」
メルさま、言い方!!
ファルさんは見た目も若いから!!
「ええっと、メルさまに手を出さないのは魅力が無いって訳じゃなくて……」
「そうやってまた逃げるのですか? 以前も、わたくしに恥をかかせましたよね?」
うぐぐぐぐ……。
あれは忘れもしない、ミスティさんが呪いで老婆だった頃の薬屋に泊まった時、メルさまに迫られた。
その時は、男女の関係になったら、みんなとの関係も壊れるかもしれないから怖いと断ってしまったのである。
「ぶっちゃけると、メルさまやロワりん達は家族みたいに思えて、そういう気が起きないというか……」
「ほほう。では、リリナさんとピアっちさんは家族じゃないとおっしゃるのですね。サーやんさんにも手を出してましたよね? テルアイラさんとも関係を持ちましたよね?」
「い、いや、あれはたまたまそういう雰囲気になって……」
「わたくしとでは、そういう雰囲気にすらなれないと」
距離を詰めてくるメルさまの圧が怖いよう。
でも、実際家族みたいなんだよなあ。俺の中でメルさまが恋人ってのは既に通り越してしまっているのだ。
「ですので、わたくしも正直に申しますね。セッキーさんに興味が無いと思われるのが怖いのです。もしかしたら、単なる友人その他として扱われているのかと不安に思ったりする事もあります。リリナさんやピアっちさん達と区別されているのではと」
「そんな事……!!」
「ですので、実力行使に移らせていただきますの。先程のお茶ですが──」
ドクン!!
急激に心臓が脈打ち始めた。
なんだこれ……体の中が熱い……。
呼吸も乱れてきて冷静でいられない。
「わたくしが特別にブレンドした精力剤で、媚薬も混じっていますの」
なんですと。
「さあ、我慢できますか? これはわたくしとセッキーさんの精神力との戦いですの。ついでに避妊具も沢山用意しましたので、必要とあらばどうぞご活用ください」
「く、くそう!! 俺をなめるなよ……!!」
「そうですか。……えい」
簡単にベッドに押し倒されてしまいました。
考えてみたら、メルさまはハーフのアンデッド。多分、色々ぶっ飛んでて普通の人間ではないのである。
その後の展開はご想像くださいませ。




