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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第十章

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498 私の顔をお忘れになりましたか、陛下?

「何十年かすれば、自然に戻るんじゃないかしら」


 ミスティの返事を聞いて、目の前が真っ暗になった気がした。

 幼女の姿になってしまった母上は、そのまま年を重ねるしか元の姿に戻る方法が無いらしい。

 冗談抜きで、どうするんだよ……。


「陛下。それよりも、先程サデリーナ様がおっしゃった企ての件の方が、優先ではないでしょうか?」


 おっと、母上の事にかまけている場合では無かった。

 取り敢えずは命に別状は無さそうだし、阿呆な甥の企みの方が大事だな。

 ミスティの腕の中で寝ている母上を起こして、問いただしてみる。


「母上、アーザルドの計画を教えてください」


「む~、おねむなの~。や~ななの~」


 母上は眠そうに目をこすっている。

 正直、期待はしていなかったが本当に中身まで幼児になってしまったみたいだ。

 それはそうと、母上にもこんな可愛らしかった時があったのだな。

 思わず頬が緩んでしまう。


「陛下?」


 ……おっと、いかん、いかん。

 ミスティの冷めた視線で現実に引き戻される。



「よし、今すぐにでもアーザルドを捕らえて尋問するか」


「陛下、それは危険過ぎませんか?」


「どうしてそう思う?」


「サデリーナ様が率いてきた怪しげな兵達は、恐らく何かの術か薬で操られている感じがしました」


「とすると、何かの合図で一斉に行動を始める可能性があるか……」


 険しい表情でミスティが頷く。

 おいおい、母上は本当にあの阿呆に王位を譲らせる気だったのか?

 王国の権力を全て我が物にした後、堂々と霊薬を探すつもりだったのだろうか……。


「今の王都には、他国の要人や商人等が大勢滞在している。そこへ、あの妙な黒ずくめの兵士達が襲い掛かったらと思うと……」


「王国の権威は失墜し、下手をすると外交問題に発展するでしょうね」


 なんて事だ。せっかく国を安定させてきたのに、逆戻りになってしまうじゃないか!

 死んだ姉さんには申し訳ないが、今すぐあの阿呆な甥を斬り捨ててやりたい!

 あまりに不用心だった自分に、思わず頭を抱えてしまった。




「あらあら、大変な事になりましたね。サイラント陛下」


 そう言いながら、先程まで控えていたキツネの獣人のメイドが歩み出た。

 それにしても、随分と馴れ馴れしいメイドだな。


「お困りでしたら、私達の方でも手助けをしますよ?」


「……お前、何者だ? 城の者では無いな」


 音もなくエルダイが俺とミスティを守るようにメイドとの間に立った。

 こいつ、今までどこに隠れていたんだよ。


「陛下、面目ありません。この女の気配にまったく気づきませんでした」


 エルダイ程の手練れが言うのだから、このメイドは只者ではないのだろう。

 ミスティも母上を守るように抱きしめ、俺の背後に回る。

 それを見て、メイドはクスクスと笑った。


「あらあら、本当に気づかないのですか? 私の顔をお忘れになりましたか、陛下?」


 己の目を疑った。

 想像していなかったと言えば嘘になるだろうが、目の前に立つ女はよく知った者である。


「……まさか、ミユキ殿か? 何故、イヅナ国の帝の側近である貴女がこんな場所でメイドの恰好をしているのだ?」


「うふふ。やっと気づいてくれたのね。私、こう見えても諜報のプロなのよ。メイドになりきるのだって、朝飯前よ?」


 エルダイとミスティも驚きで目を剥いている。

 二人とも言われるまで気づかなかった様子だ。


「いや、馬鹿な!? 俺は相手の正体を見破るスキルを持っている。その俺が気づかないなんて……」


「それは、何かしらの手を使って姿を変えている場合でしょう? 私は単にメイドの恰好をしていただけよ? 幻術など使っていませんよ」


 あり得ない。

 単にメイドの恰好をしていただけだから、正体を見破る以前の話だと……。


「だから言ったでしょう。私は諜報のプロだって。それで、先程のお母さまの話を一部始終聞かせてもらって腑に落ちたわ。王都に漂う嫌な雰囲気は、あの兵士達が原因だったのね。よかったら、私達の方でも力を貸しますよ?」


 城内に他国の諜報員が易々と侵入している問題はさておいてだ。

 今は助けが欲しい。クーデターなんぞ起こされたら困る。


「イヅナ国の力が借りられるなら心強い。しかし、見返りは何を求める? まさか、善意で手助けをしてくれる訳ではあるまい」


 イヅナ国の妖狐は油断ならない。リョウヤがそう警告してくれた。

 今こうして堂々と諜報活動をしているのだ。下手すると、国を乗っ取られかねないぞ。


 ミユキ殿は小首をかしげて、少し考えている。

 その姿が一瞬可愛らしいと思ってしまった自分を殴りたい。



「……そうね。リョウヤくんの計画している学祭をバックアップしてくれないかしら? それが見返りよ」


「は?」


 一瞬、我が耳を疑った。

 あのリョウヤがやろうとしている、学祭とやらに力を貸せだと?

 思わず、エルダイとミスティと三人で顔を見合わせてしまった。


「ほら、私もリョウヤくんをお手伝いしたいのよ。でも、ミサキちゃんが『母上はあっち行っててください』と言って、手伝わせてくれないの。いくらなんでも、ひどくない?」


 ……どうしよう。

 アヤメ殿とは話が通じていたつもりだが、ミユキ殿の考えている事が全然分からん。

 混乱していると、ミスティが俺の袖を軽く引っ張った。


「陛下、ミユキさんの事を信じましょう。彼女のリョウヤさんに対しての想いは本物ですよ」


「どうしてそう言い切れる?」


「女性同士にしか分からないものがあるのですよ」


「あら、ミスティさんも話が分かるじゃない?」


「ふふふ。私も伊達に長生きしてませんからね」


 何やら女同士、にこやかに頷き合っているのが微妙に怖い。

 こちらは男同士、エルダイと強張った表情で頷き合ってしまった。



「さて、話がまとまったところで簡単に作戦会議ね!」


「作戦って、何か名案でもあるのか? 現状は王都が爆弾を抱えている状態なのだぞ」


「そうね。今ここで甥っ子さんを無理矢理捕らえたら、あちこちに散らばっている兵士達を動かすかもしれない。その可能性はかなり高いと思われるわね」


「だったらどうする? その兵を一人一人捕まえるのも相当に困難だぞ」


「ある程度集めて、まとめて取り押さえちゃえばいいのよ」


「簡単に言ってくれる」


「まあ、こちらにはミサキちゃん達もいるし、遅れは取らないでしょ」


「実の娘も巻き込むのか!?」


「あら? 使える物は、なんでも使わないと勿体ないわよ?」


 妖狐という種族がより恐ろしくなった。

 しかし、エルダイは我関せずで壁際で控えているし、ミスティは目を覚ました母上をあやしている。

 誰か俺の味方になってくれ。



「それはそうと、妖術……というのか? それで母上を元の姿に戻したりはできないか?」


 妖狐は魔法と違った体系の不思議な術を使うと聞く。

 それで母上を元に戻せないかと思ったのだが……。


「うーん、そうねえ。帝なら可能かもしれないけど、それはやめておいた方がいいかもね」


「どうしてだ? やはり、何か大きな見返りが必要なのか?」


「失礼ね。妖狐をそんなガメツイ種族と思わないでよ!」


「す、すまん。しかし、何故駄目なのだ?」


「あなたのお母さまは、相当苦労した生き方をしていたとお見受けするわ。貴族間の権力争いや政略結婚、正室なので男子を産まなければならないプレッシャーも相当にあったのでしょうね」


 ……確かにそうだ。

 最初の子は女だったし、父上の側室がアーヴィル兄貴を生んでしまったので、相当追い詰められていたのかもしれない。

 それからも、我が子可愛さに王妃同士の暗殺計画やらで精神を病んでいったのだろう。

 さらに追い打ちを掛けるように、娘夫婦の事故死があった。

 憔悴しきっていた母上を静養させるため、実家に帰らせたのは俺だ。

 自分は用済みだと思ってしまったのだろうか……。


「だったら、このまま何もかも忘れて、人生をやり直しさせてあげるのも優しさじゃない? 幸いな事に、公爵家は間も無く代替わりするのでしょう?」


 何故、そこまでこちらの事情を知っているのだろうな。

 不気味過ぎて背筋が寒くなってきた。

 リョウヤは、いつもこんな手合いとやり合っていたのか?

 あいつ頭がおかしいだろ。



「……そうだな。ミユキ殿の言われる通りだと思う」


「うふふ。これから親孝行をたくさんしてあげるのよ?」


「差し当たって、王妃達や娘達にどう説明するのかが問題だけどな」


「そこは気合よ。リョウヤくんだって、どんな困難にも立ち向かっていったわよ?」


「あいつがか……。見かけによらないんだな」


「そうよ。アヤメちゃんと娘のサツキちゃんに、皆の前で言い寄られた時のあの顔は素敵だったわ」


 やっぱ、あいつ頭がおかしいだろ。


「さて、ここから本題よ。甥っ子さんは国際交流会議を狙うと思うわ」


「確かにそうだな。会議期間中なら、他国の要人が一ヶ所に集まるはずだ。そこを襲って人質にするつもりか。母上が情報を漏らしてくれなかったら、かなり危なかったな……」


「それを逆手に取るのよ。甥っ子さんには、偽の情報を伝えて誘き出せばイチコロよ」


「簡単に言ってくれるな」


「簡単よ。甥っ子さんの護衛に痩せた背の高い男がいたでしょ? 彼を利用させてもらうわ」


 そういえば、母上とアーザルドに付き従っていた長身痩躯の男がいたな。



「待ってください! それは危険です!」


 突然、エルダイが大声を上げた。

 こいつがこんなにも感情を露わにするなんて相当の事だ。


「あの男は、私の兄弟子だった男です。殺人技に魅入られた結果、仲間を何人も殺めて一族から追放された過去があり、純粋な戦闘技術では私でも敵わない男なのです……」


 そんなに強い男なのか。

 確かに、只者ではない雰囲気をまとっていたが……。


「あらそうなの? 既に幻術で色々化かして、仕込み終えてるわよ?」


「…………」


 エルダイが押し黙ってしまった。

 気にするな。

 妖狐はヤバい奴と思った方が気が楽だ。


「ちょっと陛下、今私の事をヤバいって思わなかった? 失礼よ?」


 ……こんなのと平気な顔して付き合えるリョウヤは本物の化け物だな。

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