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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第十章

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496 これは基礎の技術よ

 急ピッチで作業が進められていた闘技場の改修もほぼ終り、近々実際に観客を入れて予選会みたいな事をするらしい。

 どんな施設も実際に使用してみないと、不具合とか分からないしな。


 そんな状況の中、学祭実行委員としての仕事はもう無くなっていたりする。

 後は、各々の動きに任せるだけだ。

 校舎内では、既に展示発表で使う教室の片付けや準備が始められている。

 アンこ先輩も研究発表の仕上げの清書をしてるみたいだ。


 後は高みの見物といきたいが、個人的にやらないといけない事が多い。

 取り敢えず、被服学科のファッションショーのモデルとしての練習。

 エリオ先生の伝手つてで、本業のモデルさんを紹介してもらい、立ち振る舞いやら歩き方を習ったり。


 ぶっちゃけ、素人がやるよりは普通にモデルさんに出演を頼めばいいんじゃないかと思った。

 だけど、あくまでも学祭なので、学生が主体になるのが大事なのだそうだ。

 ミっちゃんママとアヤメさん達が学生じゃないのは、ツッコんではいけないのだろうか。


 そんなイヅナ国の彼女達は、流石と言うべきか、飲み込みが早く本業のモデルさん達も舌を巻いていた。

 ミっちゃんママとアヤメさんとレイにゃんの三人には、もう教える事は無いそうだ。

 ぐぬぬ、妖狐の基本能力の高さに嫉妬してしまうぜ。


 ちなみにだが、ロワりん達はもちろん、レイズとノノミリアもそつなくこなしていた。

 俺は歩き方の姿勢が悪いとの事で、居残り練習である。

 言っちゃ悪いのだが、アンこ先輩とか『こんな難しい事は無理ですよう』って泣きついてくると思ったのだが、あっさりとこなしていた。

 むしろ、俺が泣きついたぐらいだ。



「セッキー。とうとう居残り組は、私達だけになってしまったな……」


「まさか、ミっちゃんまで居残りになるとは思わなかったけどな」


 妖狐組の中では、ミっちゃんだけが居残りだ。

 見た目もスタイルもいい彼女だが、恥を捨てきれないみたいで、講師のモデルさんから駄目だしをされている。

 そんな俺達を見て、サっちんは高笑いをしながら憐みの目で俺達を見てきやがった。


「そんなに難しい事なのかしら? ミっちゃんはともかく、リョウヤ様には付きっ切りで指導して差し上げてもよろしくってよ?」


 おのれ。普段はポンコツお嬢様のくせして、こんな時だけ有能ぶりやがって!

 俺とミっちゃんは、打倒サっちんを合言葉に妙な連帯感を高めていると、エリオ先生から声を掛けられた。


「リョウヤ君。この後ちょっといいかしら?」


「はい、なんでしょうかね」


 先生は至って真面目な顔なので、何か問題があったのかもしれない。

 なので、練習を終えたミっちゃんには先に帰ってもらった。




「最近ヘルプで武具製作科の生徒を受け持っていたのだけど、ちょっと気になる事があってね……」


 エリオ先生が難しい顔で切り出した。


「気になる事、ですか?」


「ええ。何人か講義に出席しない生徒がいてね。最初は私の事を嫌って出てこないだけと思っていたのだけど、なんだか違うみたいで……」


 俺の脳裏に、作成した武具が魔道具扱いとされてしまうドワーフの少女のイーゼル達の顔が浮かんだ。


「風の噂では、校庭の地下ダンジョンに閉じこもってるそうじゃないの。余計なお世話かもしれないけど、ちゃんと講義に出ないと退学になるし、進路先も決まらなくなってしまうから、一度会ってちゃんと話がしてみたいのよね」


「……その橋渡しを俺に頼みたいと?」


「そう。リョウヤ君って、色々と裏で動いてるそうじゃないの」


「人聞きの悪い事を言わないでくださいよ……。分かりました。彼女らのところへ案内しますよ」


 とは言うものの、イーゼル達は既に進路も諦めていたみたいなんだよな。

 本当に余計なお世話になって、文句を言われるかもしれないけど……。





  ◆◆◆





「なんなのよ、ここ!?」


 通称ズンこランドのエントランスホールに着いた途端に、エリオ先生が仰け反ってしまった。

 俺もビビるわ。


 ネオン管みたいに、きらびやかな看板やらが掲げられた店が立ち並んでいるし、その向こうには城みたいなのも建っている。

 そんでもって、大勢の生徒達で賑わっていた。

 ロワりんやサっちん達がいたのは、気のせいだろう。


 今更だけど、この状況って校長にバレてなかったのだろうか。

 すると、ここにエリオ先生を連れてきたのは、少々マズかったかな?


 そのエリオ先生だが、ネズミの耳みたいなカチューシャを着け、ポップコーンが入った容器を抱えていた。

 筋骨隆々の先生が浮かれているのは、なんだか凄い絵面だな。


「ここって楽しいわね!」


 既に満喫していらっしゃる。

 これでチュロスも食べてたら完璧だな。


「えっと、お楽しみのところ申し訳ないんですが、そろそろ行きますよ」


「ああん、待ってよう!」


 名残惜しそうにしている先生を連れ、賑やかな場所から離れたテント村の方に向かう。


 そのテント村の方から、何か金属を打ち付けている音が聞こえてくる。

 それを耳にした途端、先生の表情が真剣な物に変わった。


 テント村に到着すると、丁度イーゼルが剣を鍛えていた。

 他にも鉄板を打ち付けて鎧らしき物を作っていたり、腕輪に何やら複雑な模様を彫っている生徒の姿もある。


 その彼等がエリオ先生の姿を見ると、動きを止めた。

 やっぱり、連れてくるのはマズかったかな……。


「そのまま続けなさい」


 先生はそれだけ言うと、一人一人の作業を見て回った。

 見られている方は居心地が悪そうだが、作業の手は休めていない。

 そして、一通り見て回った先生がみんなを集める。



「あなた達、我流でやっているの? 何故、講義に出席しないの?」


 みんな押し黙ってしまっているが、イーゼルが恐る恐る口を開いた。


「私は全身全霊を込めた魔剣を作っているので、講義の方はもういいんです……」


「そ、そうだ! 俺達は技術的に劣っているし、基礎ばかりの講義を受けても仕方ないんだ」


「だから、付与効果で勝負するんです!」


 イーゼルに続いて、生徒達から次々と声が上がった。

 こりゃあ、エリオ先生がブチ切れるな。

 そう思ったのだが……。


「もったいない! なんて、もったいないのかしら……」


 先生は首を左右に振って、大きな溜息を吐いた。


「あなた達、基礎は本当に大事なのよ?」


「で、でも、私達より武具作りが上手い人はいるし、とてもじゃないけど、出来栄えで敵わないから……」


「ちょっと見ててご覧なさい」


 エリオ先生はイーゼルの言葉を遮り、彼女達の作品に手を入れ始めた。

 その技は素人の俺が見ていても惚れ惚れする程だ。

 無論、イーゼル達も見入っている。


 先生が少し手を入れただけでも、全く別物と言っていい程の物に仕上がった。



「これが基礎の技よ」


「そ、そんなの無理ですよ!」


「基礎どころじゃない! 匠の技じゃないか!!」


「先生は才能があるのを自慢してるだけじゃないですか!!」


 生徒達が口々に文句を言い出した。

 確かにあんなプロ級の技を見せられて基礎だと言われても、文句の一つも言いたくなるわな。


「いいえ、これは基礎の技術よ。あなた達も真面目に学べば、このくらいは出来るようになるわ」


「で、でも……」


「あのね、一つ断わっておくけど、私には魔力を扱う才能が無くて、あなた達みたいに特殊効果を付与できないの」


 先生の言葉に、その場の全員が息を飲んだ。


「だから、あなた達はこの時点で才能があるのよ。お願いだから基礎をないがしろにしないで、きちんと学んで。確かに技術的に上手い人は他にもいるわ。でも、あなた達の特殊効果を付与するスキルは基礎を学んでこそ光るの。そこを履き違えない事」


 黙り込んでいたイーゼルが遠慮がちに尋ねる。


「先生、私達の付与効果のスキルは基礎をきちんと学んだら伸びるのですか?」


「今、そう言ったでしょ? 私が言いたい事はそれだけ。後はあなた達自身で考えなさい」


「ですが、私達の作る物は魔道具扱いされてしまうので、魔道具協会の許可を得ないと売る事ができないのです……」


「あら、それは盲点だったわ。そうねえ……こういう事は、そこのリョウヤ君に任せちゃいましょう」


「……は?」


 ちょっと待てい!

 なんで俺が任されなくちゃいけないんだよ。

 いや、イーゼル達の力にはなりたいよ。

 だけど、それとこれとは話が違うんじゃないかなあ。


「ええっと、リョウヤ君には地下即売会の件でお世話になるけど、魔道具協会の方はどうにかなるのかな……? いえ、疑っている訳では無いのだけど……」


 その割には、全員が疑わしい目で見つめてくる。


「彼、こう見えても名誉騎士の称号を持っているし、王族の方々ともお付き合いがあるので、きっとどうにかしてくれるわよ」


 出た! 必殺丸投げ!!

 ていうか、名誉騎士の話が既に知られてるし!

 便利な肩書みたいな扱いっぽいよ!


 それはともかく、頼られるのは嬉しいけど、やっぱりそれとこれとは話が違う。

 どうしようかと思っているうちに、周囲を囲まれてしまった。



「噂に聞いていたけど、王女殿下と仲が良いって本当だったんだ!?」


「うお、セレブじゃん!」


「これは勝ったも同然だな!」


「パトロンになって!!」


 現金なやつらって、こういう事を言うのかなあ。

 しかし、やられっぱなしの俺ではない。


「俺に頼る前に、みんなも基礎の技術を学んだ方がいいと思うぞ。せっかくだし、エリオ先生の元でちゃんと勉強したらどうかな?」


 俺を囲んでいた生徒達が、一斉にエリオ先生の方に振り向いた。

 流石の先生も、その異様な視線に後ずさる。



「な、何かしら……?」


「先生、私達決めました!」


「先生に弟子入りさせてください!!」


「是非とも、先生の工房で働かせてください!!」


「無給でもいいです! なんでもやりますから!!」


「ちょ、ちょっと! 私は弟子なんて取らないわよ!? それに本業は服作りなんだから!!」


「私達を助けると思って!」


「そこを曲げてどうにか!」


「一生、先生について行きます!!」


「親方と呼ばせてくださいっス!!」


「誰が親方じゃい!! ……って、いやあん!! 私は可愛い服が作りたいだけなのよう!!」


 エリオ先生がイーゼル達に追い掛けられている。いい気味だ。

 まあ、これで一件落着なのかな……?



 その後、イーゼル達は講義に真面目に出ているらしい。

 それでも、地下のテント村でオリジナル作品の制作は続けているとの事だそうだ。

 魔道具としての効果を高めるとかなんとか……。


 そんな彼女達に感化されたのか、他に地下で潜伏していた生徒達も学業に復帰した事によって、珍しくメディア校長が俺を褒めてくれた。

 上機嫌の校長が地下ダンジョンの視察に行ったが、その直後に何故か呼び出されて地下空間を私物化しているとして、思いっきり叱られた。


 まったく理不尽極まりない。

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