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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第十章

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492 えー、あの人おじさんだよ?

 俺はディナントだ。

 本名はディルガント・ウラル・アムナウォートという仰々しい名前だが、今は訳あって、身分を隠して講師をやっている。


 ……まあ、本当に色々あった。

 まさか、俺が古代の魔法王国の王族で、時間を超えてこの時代にやって来たなんて、普通の人間だったら誰も信じないだろう。


 そんな俺も、今では愛する人と細やかな幸せを噛みしめながら生活をしている。

 これも全てリョウヤ君という少年達のおかげなのだが、それはさておき。

 最近、少し困っている。


 俺は元々、別次元から神を名乗って侵略してきた者達と戦っていた時代の人間なので、今の平和な時代は少々物足りなく感じるのだ。

 そんな事を言うと、愛するアヤムナーリから叱られてしまうのだが、喉元過ぎればなんとやらだ。


 宿敵ノスダイオもいなくなった今、俺にとって敵らしい敵がいなくなってしまった。

 まったく、我ながら嫌になるよな。

 平和な世界を渇望していたのに、いざ平和な環境で暮らしていると、物足りないなんて。


 なので、時々はゴーレムを作り出して、冒険者予備校の生徒にけしかてストレス発散をしていたのだが、メディア校長から苦言を呈されてしまった。

 その現場を目撃していたリョウヤ君が満面の笑みで頷いていたが、君と一緒にしないでほしいな……。


 そんな事を考えながら、書斎の椅子に深く腰を掛け、机に並ぶフィギュアに目をやった。


「ディルガント様、『にゃんにゃんキュート』では心が満たされないのですかにゃ?」


 職員寮で一緒に暮らしている、最愛の妻のアヤムナーリが可愛らしく小首をかしげる。

 以前は珍しい萌黄色の髪の色だったのだが、今では漆黒の髪に猫耳まで生えて真紅の瞳だ。

 ……色々と性癖に突き刺さって困る。

 いや、困る事は無いか。

 自分で何を言っているのか分からなくなったが、そういう事だ。


 しかし、相変わらず俺の事を昔の名前で呼ぶのを改めてくれない。

 その名はもう捨てたのだ。


 そんな事を言うと、『ティアちゃんや、ナツメの事まで忘れ去るというのですかにゃ?』と返される。

 大切な妹と、ちょっと苦手な鏡の精霊の事を忘れる訳が無いだろうに……。


 それはそうと、頼むからにゃんにゃんキュートフィギュアを雑に持たないでくれ。

 それを落として壊されたら、しばらく立ち直れなくなるぞ。



「残念ながら、こればかりはな……。にゃんにゃんキュートは確かに素晴らしい。だが、何かが物足りないのだ」


「よく分かりませんが、昔は魔導工学を専攻されていましたよね? 王立魔導機関のお手伝いをしてきたらどうですにゃ?」


「実は既に訪ねてみたのだが、どうも技術レベルがいびつでな。リョウヤ君が乗っている魔導力車みたいな最先端な技術がある一方、飛空艇を作る技術は無いという」


「それは何か問題があるのですにゃ?」


「俺が持つ魔法王国時代の技術を下手に教えたら、ノスダイオの時みたいな事件が起きるかもしれない」


「確かにそれは問題ですにゃ……」


 アヤムナーリは、ノスダイオの実験の被害者でもある。

 奴の名前を聞いて彼女の顔が曇ってしまった。

 俺は彼女が笑顔でいてくれれば、それでいいのだ。

 ここでの暮らしに文句を言ったら罰が当たるな。


「まあ、深刻に考えても仕方ない。今度の学祭とやらを二人で見て回ろうな」


「はい。楽しみにしていますにゃ!」




 そんなやり取りがあってから数日後。

 王都の上空に満身創痍の飛行艇と護衛機の飛空艇が現れた。


 その護衛機の救助活動でリョウヤ君が活躍したと聞いたが、彼はなんでも首を突っ込むタイプだな。思わず感心してしまう。

 そんな事よりも、飛空艇が気になる。空を飛ぶ乗り物は、この時代にも残る魔法王国の技術だ。

 是非とも拝見したい。


 という事で、河川で停泊して修理待ちの飛行艇と飛空艇を見学させてもらう事にした。

 アヤムナーリも誘ったのだが、最近なんだか外出するのを嫌がるのだ。



「やはり、どこか体調が悪いのか? 無理はするなよ」


「そういう訳では無いのですが、王都で見掛ける黒い服の兵隊さんが怖いのですにゃ……」


 最近、街中でよく見掛ける黒ずくめの兵士か。

 公爵家が連れてきた私兵と聞いているが、確かに不気味な奴らである。


「そいつらに何かされたのか?」


「い、いえ、特に何も。ただ、あの人達が私の事を魔物を見るような目で見てくるので……」


「いや、それなら無理して外に出る必要もない。留守番を頼むぞ」


「お供できなくて、申し訳ありませんにゃ……」


「気にするな」


 アヤムナーリの体がああなってからは、妙に感受性が強くなった気がする。

 きっと、常人には分からない何かを感じ取っているのだろう。



 王都の外壁門を出て川に向かうと、そこには巨大な飛行艇と数人乗りの飛空艇が駐留されていた。

 こうやって、いざ目の当たりにすると圧倒されてしまうな。

 飛行艇は巨大な主翼が目立つ機体で、魔法王国でも無かったタイプだな。

 ……異次元からの侵略者達が操っていた機械人に通じる物を感じるのは、気のせいだろうか。


 一方、飛空艇の方は魔法王国時代から、あまり変わっていない気がする。

 北の鉱山都市とやらに魔法王国の技術が伝わっているのかもしれない。

 詳しい話を聞くために、近くの警備兵に声を掛けてみた。


「この機体は、まだ修理しないのかい? 随分と損傷が激しいみたいだが……」


「いやー、こいつの修理は王立魔導機関でもお手上げらしくて、鉱山都市からの技術者が来ないと、どうにもならんみたいだ」


「それだと、かなり時間も掛かるのでは?」


「まあ、そうなるだろうな。よく分からんが、向こうでゴタゴタがあって、こっちに向かわせる機体も技術者もすぐには用意できないそうだ」


 機体の応急処置はされているみたいだが、肝心の動力部分が修理できないのか。

 ふむ。最低限動かせるぐらいには、なんとかなるかな?



「……こっちの飛行艇は無理だが、飛空艇の方は多分修理できるぞ」


「アンタ、それは本当かい!?」


 突然背後から女の声がした。

 振り返ると、赤毛で褐色肌の妙齢の女性が立っている。

 ちょっとした仕草や雰囲気から察すると、冒険者……いや軍人だろうか?


「まあ、動力部を実際に見ない限りはなんとも言えないが、このタイプの魔導エンジンの構造は頭に入っている」


「頼む! 修理してくれないか!? この船で鉱山都市に戻って、技術者を直接連れて来たいのだ!」


「それはいいが、君は? 俺は講師をしているディナントだ」


「これは失礼した。私はこの飛空艇の艇長でフェルティアだ。ディナント殿は技術師でもあるのか?」


「まあ、そんなところかな」


「飛空艇の動力部の技術は、門外不出だと聞いていたが……」


「俺は鉱山都市の関係者じゃないよ」


「だとすると、他にも古代魔法王国の技術が残っているのか……?」


 やはり、この飛空艇は魔法王国の技術で作られているらしい。


 俺達のやり取りをポカンとして見ていた警備兵に責任者の元へ案内してもらう。

 まずは、偉い人に話を通さないとな。





  ◆◆◆





 サイラント王は俺の事情を知っているので、話が早かった。

 飛空艇の修理の許可をもらい、早速作業に取り掛かる。

 今回の件で、王立魔導機関の方でも動力部の修理を手伝いたいとの申し出があったのだが、技術の流出に不安を抱くフェルティアに配慮して、修理作業に携わるのは俺だけとなった。

 その辺りの事も、全てサイラント王が手配してくれた。

 話の分かる王様ってやつだな。



「……なんだか、人が増えたな」


 動力部の確認をしようと思ったら、フェルティアの他にダークエルフと獣人の少女にドワーフの男もいた。


「三人はこの船のクルーだ。気にしないでくれ」


「あたいはセーマルミだよー」


「私はルリです。頑張ってお手伝いします!」


「俺は機関長のロベルトだ。よろしくな、あんちゃん」


「俺はディナントだ。よろしく。じゃあ、早速取り掛かるか」


 船内に入ると、まあ色々と大変な事になってる。

 大方の話は聞いていたが、ドラゴン相手によく生き残ったな。

 魔法王国時代でも、ドラゴンと魔人族には手を出さないという暗黙の了解があったものだ。

 もっとも、当時でも既に双方とも伝承の存在となっていたがな。



「取り敢えずは、飛べるようになれば他は構わない。可能か?」


 やや疑うような目つきで、フェルティアが尋ねてくる。

 完全には信用されてないみたいだな。


「これは動力部を見ないと、なんとも言えないな」


「兄ちゃん、こっちだ。結構やられちまってな。酷いありさまだぜ」


 ドワーフの男が動力室の扉を開けると、内部はあちこち焼けただれている。

 随分と無茶をさせたらしい。

 だが、直せない程に致命的って訳では無さそうだ。


「えっと、ここの冷却部の接続ラインと過給機の管は全部取り替えないと駄目そうだな。……他は点火用の魔石の交換で最低限動かせるところまではいけそうだ」


「そんなもんでいけるのか!? 過給機の管は腕のいい鍛冶職人に伝手があるんで、そっちに頼んでくる!」


 ドワーフの男はそのまま出て行ってしまった。

 まったく、忙しい男だな。



「仕方ない。魔石の方は俺の方で用立てておくとするか」


「ホント!? おじさん凄いねー!」


「ちょっと、セーマルミちゃん! まだ若いみたいだから、おじさんなんて言っちゃ駄目だよ。お兄さんって言わないと……」


「えー、あの人おじさんだよ?」


 ……そこの二人、地味に失礼だよな。

 それに、何歳だか分からないダークエルフに、おじさんなんて言われたくない。

 そもそも、俺はまだおじさんじゃない……はず。

 地味にダメージを食らっていると、フェルティアが俺の肩を叩いた。


「すまない。あの二人には後できちんと言っておく」


「ははは……気にしてないよ」


 うん。気にしてないぞ。本当だからな。


 それから船体の補強やらを始める。

 フェルティアはともかく、ダークエルフと獣人の子も実に手際が良く、伊達に飛空艇に乗っている訳ではなさそうだった。


 そんなこんなで、気づけば夕方だ。

 愛する妻の元へ早く帰らなくてはな。


「えー、おじさんもう帰っちゃうのー?」


「だから、おじさんって言っちゃダメだよう」


 まったく、この二人は……。





「お帰りなさい。ディルガント様。随分と汚れてますにゃ?」


「ただいま、アヤムナーリ。狭い場所に入ったりとかで、結構大変だったよ」


「すぐに洗濯をしますから、着替えてくださいにゃ」


「ああ、頼む」


 アヤムナーリが俺の顔を見てニコニコしている。

 何かいい事でもあったのだろうか。


「どうした?」


「なんだか、楽しそうなお顔をしていますにゃ」


「……久々に機械いじりをしたからかな?」


「それは良かったですにゃ。ディルガント様の心から楽しそうな笑顔は、この時代になってから、初めて見たかもしれませんにゃ……」


「そうかなのか? 自分では分からないな」


「ええ。まるで少年みたいな笑顔ですにゃ」


 そんなに嬉しそうな顔をしていたのか。

 さっきは、おじさんとか言われ、今度は少年みたいか。

 なんだか複雑だな。



「ところで、北の鉱山都市は魔法王国の技術が受け継がれているみたいだぞ。そのうち王都との行き来が可能になったら、二人で行ってみないか?」


「それはとても素敵ですにゃ。是非ご一緒させてくださいにゃ」


 過去の時代では、こうして旅の話すらできなかった。

 今こうして愛する人と未来を語れる幸せを噛みしめながら、俺は心が満たされるのを感じていたのだった。

五月の連休前で忙しくなってきたので、投稿が不定期&遅れ気味になるかもしれません。

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