48 まったく、キミって奴は大げさだなぁ
気付くと何もない空間にいた。
こんなことが前にもあった様な気がするな……。
頑張って思い出そうとしていると、突然声をかけられた。
「やあ、リョウヤ君。元気してた?」
ラフな格好をした兄ちゃん……ではなくて、神様だった。
「今日は姿が見えるんですね」
前回は声だけが聞こえていた気がする。
今回は普通に姿が見えるので、直接顔を合わせたやり取りが可能みたいだ。
「うん。今回も君が色々と動いてくれたから、僕の権限も少しばかり強化されてね」
「今回って、特別何かしましたかね?」
「したよう。あのエルフの子を助けたじゃないか」
「ロワりんですか? あれはみんなの力で魔狼から助けたんですよ」
「謙遜しなくていいよ。君の最初の一撃が無ければ、あのエルフの子は助からなった。それに本来は、あの子はここで命を落とす運命だったからね」
謙遜なんかしてないんだけどな。俺一人だったら、魔狼も倒せなかっただろうし。
……しかし、ロワりんが死ぬ運命だなんて、穏やかじゃない話だな。
「なんで彼女が本来ここで死ぬ運命だったと言い切れるんですか? そもそもが俺と出会ってなければ、この場所にも来ていなかったでしょうよ」
「君と出会っていなくても、あの子はいずれ依頼を受けてここで死ぬ運命だったんだよ」
まるで人の運命を見透かしているかのように語る。
すっかり失念していたけど、この人は神様なんだよな。
「……神様はそうやって、人の運命を操っているのか?」
人の運命を操り、俺を試しているのかと思うと腹が立って自然と睨んでしまった。
「そう怖い顔で見ないでくれよ。僕は運命を操るほどの力はない。あの子が死ぬ運命だったのは『世界の意思』だ。その存在から君が救ったんだよ」
なんだよそれ。神様は関係ないって言うのか?
「世界の意思ってなんですか? そもそも神様は俺に何をやらせたいんですか?」
話をするうちに余計に混乱してきて、次から次へと疑問が湧いてくる。
「君も見ただろう? 魔石が無い巨大な魔狼……おっと、お喋りが過ぎたようだね。この話はもうおしまいね。それじゃ本題に入るよ」
「ちょっと待って下さいよ! なんにも分からない事だらけじゃないですか!」
「分からなくて良いんだよ。君は自分の信じた事をすればいい。それで本題なんだけど、乗り物が欲しいって心の声をダダ洩れにしてたよね?」
分からなくて良いって、余計に分からないじゃないか……。
それにしても、乗り物が欲しいってのは一応伝わっていたんだな。
要望は伝えてみるものだ。
「乗り物をくれるのですか?」
「残念ながら僕から直接モノを与える事ができないので、上手く君にそう言う話が行くように仕向けるから、後は自分で頑張ってね! ちなみにアイテム袋は、どこかで売ってるから探してみてね」
「はあ……。よく分からないですけど頑張ってみます」
移動手段的な乗り物は本当に手に入るのだろうか。
アイテム袋は素直に探してみるとしよう。
「そうそう! 忘れるところだった。図書館の無限回廊にある僕のコレクションを持って行かないように、偉い人に言っておいてくれないかな?」
「無限回廊にあるコレクション? なんですかそれ?」
「僕がこっそり集めていたライトノベルやマンガだよ。時々この世界の人間がやってきて、勝手に持って行っちゃうから困ってるんだよね……」
前にメディア校長から見せられたアレか。
この神様も、また妙な物を集めていたんだな。
確かにコレクションを勝手に持って行かれたら、困ると言うか怒るよな普通。
「分かりました。一応伝えておきますけど、神様が言っていたなんて信じてくれるんでしょうかね」
「そこは君の会話スキル次第だよ。とにかく頼んだからね。それと、せっかくのハーレムルートを我慢しちゃう君の事は嫌いじゃないけど、面白くないからチャンスがあれば手を出しちゃいなよ。じゃあね!」
言いたい事だけ言って、神様は消えてしまった。
と言うか、面白くないから手を出しちゃいなよって無責任だろ!?
◆◆◆
目が覚めると既に夜が明けていた。あてがわれた男部屋の周囲を見渡すと、ゲンゲツさんのイビキが聞こえる他はまだみんな寝ているみたいだ。
俺は伸びをしてから起き上がり、部屋を出て洗面所で顔を洗ってから早朝散歩へ向かう事にした。
寝泊まりする村の集会所を出て、村内をブラブラしてみる。
昨晩は即席の宴で大騒ぎをしていたためか、まだ起きている村人はいなさそうだ。
家畜の世話はいいのかなぁ。まあ、俺が心配する事ではないか……。
そのまま歩き進めると、村の中心にある石造りの水場に腰を掛けている人影が見えた。
近付いていくとその人影はロワりんだった。
「おはよう、セッキー」
俺に気付いた彼女が挨拶してきた。
「……おはよう。もう歩けるんですか?」
なんとなく昨日の事があって気まずいけど、平然を装ってみる。
緊張しているのを見抜かれない様に彼女の隣に腰を掛けた。
「うん。まだ走ったりは無理そうだけどね。それにしても、メルさまの治療薬は凄いね。傷口もだけど骨折も治せるなんて、神殿とかで治癒魔法を頼んだらいくら掛かるのかを考えただけで恐ろしいや」
そう言って苦笑いをする彼女を見ていたら、ふと神様の言葉を思い出す。
『──あの子はここで命を落とす運命だったからね』
だけどロワりんは俺の前にいて、ちゃんと触れられる存在として生きている。
彼女を助けられたんだと思うと、それが嬉しくて自然と涙が出てきた。
「急にどうしたの!? いきなり泣き出すなんて!」
「……生きていてくれて嬉しいんですよ」
なんだろう。俺ってこんなに涙もろかったかなぁ……。
「まったく、キミって奴は大げさだなぁ」
ロワりんが俺の頭を抱える様に抱きしめた。
自然と彼女の胸の辺りに顔を埋める形になってしまう。
「セッキーが望めば、いつでもこうやって抱きしめてあげるから。……リリナに内緒でね☆」
いたずらっぽく囁く彼女に、俺はしばらく抱かれていた。
宿泊所を兼ねる集会所に戻ると既にみんなが起きていた。
挨拶を済ませ、沐浴して身支度を整えている間に朝食の準備ができたみたいだ。
村の人が用意してくれた朝食を食べるため食堂に向かうと、アンこ先輩とケフィンが神妙な顔で俺達を待っていた。
「えっと、皆さん全員集まりましたか? 朝食の前にお伝えしないといけない事があります」
「少し不味い状況になったかもしれない。これからすぐに王都に帰らなければならなくなった」
難しい顔をしながら水晶板のタブレットを持つ二人の話によれば、俺達の魔狼討伐の経緯は支給されたリストバンドから水晶板タブレットを通して予備校側に送信されていて、その中には巨大魔狼が出現した事やロワりんが重傷を負った事等も含まれていた。
その事故を重く見た予備校側が、すぐに戻れとタブレットを通して連絡してきたとの事だった。
まさかそんな危険な討伐だと思わなくて、向こうでも混乱しているのだろう。
その話を聞いたロワりんが自分のせいだと慌てるが、それをアンこ先輩が制する。
「これはロワりんだけの責任と言う訳じゃないですよ。誰もがあんな大きな魔狼が出てくるとは思わなかったですし、完全な事故です」
アンこ先輩がロワりんに気にしないようにとなだめる。
ここにいる全員が同じ事を思っているだろう。
そんな中、思案顔のレイメイさんが口を開く。
「しかし、我々がこのまま帰ってしまうと、村から魔狼が去ったかどうかの確認ができないのでは?」
その言葉にミっちゃんも頷いた。
「そうだな。私達が帰った後に再び村が魔狼に襲われたとなっては、目もあてられない」
確かに魔狼がまだ残っていて、村を襲ったら俺達の苦労が水の泡だよな。
本来なら数日残って様子を見るべきだと思うのだが……。
「それについては心配ないよ。冒険者ギルドの方で新たに冒険者を手配したそうで、既に王都を発っているとの事だ」
ケフィンが冒険者がこちらに向かっていると説明したので、一応の不安は取り除かれたと言う事だろうか。
そもそも最初から冒険者がこの依頼を受けていてくれれば、こんな状況にはならなかったんだよな。
でもそうなると、俺達の収入は無かっただろうし、ロワりんとも親密になれなかった……って、俺は一体何を考えているんだよ!?
妙な思考を頭の外へ追いやる。
「ですので、私達は朝食を頂いてすぐに王都へ戻る事になりますから、各自準備をお願いしますね」
アンこ先輩が話を締めくくって朝食となった。
……王都へ戻ったら、メディア校長からどんな事を言われるのやら。
せっかくの朝食の味が美味しく感じられなかったのだった。




