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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第十章

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486 精神的に、まだちょっと不安定でね……

 困っていたら力になるとは言った手前、物凄く深刻そうな顔をしているフェルティアさんを見ていると、心配になってきた。

 ちょっと安請け合いし過ぎたかな?

 そんな事を考えていると、覚悟を決めたのかフェルティアさんが口を開いた。


「その……迷惑でなければ、ルリに会ってやってくれないか?」


「入院してる子に……ですか?」


 なんとまあ、拍子抜けだ。

 俺が飛空艇から助け出した子のお見舞いなんて、別に悩む事でも無いだろう。

 俺が学祭準備で忙しそうにしているから、悪いと思ったのだろうか。


 構わないですよ、と言おうとしたところで、セーマルミさんが申し訳なさそうに続けた。


「あのさ、リョウヤ君が助けてくれたルリちゃんだけど、なんだか君の事を想い人だと信じ込んじゃってるみたいなんだ……」


 なんですと。

 となると、魔岩竜と刺し違えたというって人と、俺が勘違いされちゃってるって事?


「あいつは、死んでもういないぞって、あの状態のルリの嬢ちゃんに言える訳がねえんだよなぁー」


 ロベルトさんが顎ヒゲをいじくりながら、苦々しく言った。


 ちょっと待って。

 もしかして、俺は修羅場になりそうな場所へ行かされそうになってるって事ですかね?


「救助された時は、ルリも意識が朦朧としていたからな。意識が戻った後も、あの男が死んだ事を頑なに認めないのだ」


 フェルティアさん、わざわざ追い打ちを掛けないでくださいよう。



「そうでしたか……。俺とその人って、そんなに似てるんですかね?」


 俺の疑問にセーマルミさんが答える。


「ん~どうかな? レンジ君とはあんまり似てないと思うけどなぁ? 艇長はどう思う?」


「外見というよりは、雰囲気が似てたのかもな。レンジ・アンドウに」


 その名前、思いっきり異世界の人間っぽいですなー。


 暴れ回っていた魔岩竜を討伐って事は、そのレンジ氏とやらも世界の歪みに対処していたのかもしれない。

 あれから神様達に会えていないので、単なる俺の憶測だけど。



「図々しい頼みだと承知している。残酷だが、ルリにレンジはもうこの世にいないと自覚させてやらないといけない」


「リョウヤ君に嫌な思いをさせてしまうかもしれないけど、ルリちゃんには早く前を向いてもらいたいんだよ……」


 さて、どうしたものですかね。

 心身に傷を負った女の子に、現実を突きつける役回りですか。

 どう考えても修羅場になりそうだよなぁ……。


「もう兄ちゃんにしか頼めない事なんだ。男なら引き受けてくれるよな?」


 そういうのって、最近ではジェンダーハラスメントって言うんですよ、ロベルトさん。


 ……それはそうと、校長。

 その無言の圧力はやめてもらえませんかね。

 そうやってプレッシャーを掛ければ、なんでも言う事を聞くと思わないでくださいよ。

 まあ、中途半端に関わってしまった責任は俺にある。

 レンジ氏とやらに間違われたままでいるのも、なんだかモヤモヤするし、ここは一肌脱ぐとしますか。


「分かりました。俺が皆さんの力になれるのならば、お手伝いします」


 俺の返事に、三人は安堵しながらも、申し訳なさそうに笑顔を浮かべた。

 校長、ちゃんと俺を評価してくださいよ?




 その日の夜、夕飯後にいつものメンバールームでフェルティアさん達に頼まれた事をみんなに話した。


「ふーん。それでセッキーは引き受けたの?」


 ロワりんがジト目で見てくる。

 怪我人の女の子を見舞いに行くだけで、別にやましい事はございませんよ?


「リョウ君。それは責任重大よ? もしかしたら、凄く嫌な思いをするかも……」


「それは分かってますよ、リリナさん」


 傷心中の子に対して、『君の好きだった人は、もう死んでるから現実を見ろ』的な展開になるのだから……。

 俺が苦笑していると、ミっちゃんが呆れた顔で嘆息する。


「私なら、正直そんな面倒な事はごめんだな」


「ミっちゃんさん、覚悟を決めたセッキーさんの前で、その言い方はどうかと思いますの」


「じゃあ、メルさまは頼まれたらやるのかよ?」


「メリットが無ければ、やりません」


 メルさまもシビアだ。まあ、それが普通なのかもな。

 ほぼ初対面みたいな人に、そこまでしてあげる義理も本来は無いのだし。

 簡単に引き受けた俺が、単にお人好しなのだろう。



「だけどさ、ボクはリョウヤ君のそういう優しいところが好きだよ」


「ピアっち君の言う通りですよ。私もセッキー君は優しくて素敵だと思いますからね」


「わらわもリョウヤには随分と世話になってるしな。いい事だと思うぞ」


「竜牙の里もリョウヤ殿に救われましたからね。私はリョウヤ殿の意思を尊重します」


 ピアリにアンこ先輩、シーラとサヤイリスも嬉しい事を言ってくれるじゃないか。

 やはり、持つべきものは友だな。

 続けて鏡子さんとエリカも賛同してくれる。


「私とエリカさんは、リョウヤさんに救われました。ここはリョウヤさんを後押ししてあげるのも優しさなのでは?」


「そうだよ。ミサキとメルエルザも、リョウヤに助けられたでしょ? 素直に応援してあげられないの?」


 精霊の二人も俺の味方に回ってしまったので、ミっちゃんとメルさまがバツが悪そうな顔をしている。


「ミっちゃんとメルさまも、あんまり気にしないでくれよ。みんながこれだけ集まれば、考え方は人それぞれだし、二人の現実的な視点は間違っていないと思うぞ」


「セッキー……」


「セッキーさん……」


 二人が感動したように俺を見つめる。


「それにさ、上手く行けば鉱山都市に行った時、色々と便宜を図ってもらえるかもしれないじゃん?」


 全員が呆れ顔になる。

 俺だってボランティアで動いてる訳じゃないんだから、少しぐらい見返りを求めたって罰は当たらないよな。


 呆れ顔のまま、ロワりんが尋ねてきた。


「結局セッキーは、その子になんて言うつもりなの?」


「いや、何も考えて無いぞ!」


「なんで、そこで偉そうに胸を張るかなぁ……。セッキーらしいけど」


 まあ、ここで難しく考えても仕方ない。

 なんとかなるでしょ。





 二日後、改めて迎えに来たフェルティアさんとセーマルミさんと共に王立診療所へ向かう事になった。


 学祭の準備は大丈夫なのかって?

 そんなもん、俺がいなくてもどうにかなる物だよ。


 ……すみません。他の子達に丸投げしました。

 後でケーキを買って帰ります。



「忙しいところを度々申し訳ない」


「いえ、いいんですよ。こういうのは早い方がいいでしょうし」


「ふーん? リョウヤ君って優しいんだねぇ。そりゃモテモテになるよねー」


「あはは、からかわないでくださいよー。それはそうと、ロベルトさんはどうしたんですか?」


 まさか、ロワりんのご両親からの借金の取り立てで、身ぐるみはがされたんじゃないよな。


「ああ、ロベルトは知人に会いに行くとか言っていたな。なんでも古い知り合いだとか……」


「なんか、相手は鍛冶職人のドワーフだとか言ってたかなー? まあ、あのオジサンって、デリカシーが無いから、いなくて丁度良かったんじゃない?」


「まったくだ」


 ロベルトさんの扱いって、そんなんでいいのか……。

 それにしても、鍛冶職人のドワーフねえ。

 案外、ガンテツのオヤジさんだったりして。


 フェルティアさんとセーマルミさんと世間話をしながら歩くのだが、改めて見ると二人ともかっちりとした軍服っぽい服装である。

 王都では、あまり見掛けない服のデザインだな。ちょっとコスプレっぽくもある。

 服職人のナナミさんが見たら、喜びそうだ。


 フェルティアさんは、サヤイリス程では無いけど、赤く長い髪でキリっとした目つきの褐色肌の美女って感じだ。

 セーマルミさんは、銀髪のショートボブで大きく、クリっとした瞳の少女のダークエルフだ。

 ……実際、少女なのかは知らないけど。



「ところで、ルリさんでしたっけ? 体の傷は大丈夫なのですか?」


「ああ、回復薬を使ってくれた時点で、傷はほとんど治ったのだけどな……」


「精神的に、まだちょっと不安定でね……」


 二人とも歯切れが悪い。

 嫌だよ、面会していきなり修羅場とか。


 そうこうしているうちに、王立診療所に到着してしまった。

 今更だけど、ここって普通に病院なんだな。

 怪我は回復薬でどうにかなるので、今まで病院のお世話になる事は無かったから、なんだか新鮮だ。


 受付窓口で面会手続きを済まし、消毒を兼ねた洗浄魔法を職員に掛けてもらってから病室へ向かう。


 王国側の配慮なのだろうか、病室は個室だった。

 二人に続いて病室にお邪魔すると、獣人の女の子がベッドから身を起こして窓から外の景色を見ていた。



「ルリ、調子はどうだ?」


「ルリちゃん。今日はお客さんを連れて来たよー」


 二人が呼び掛けると、女の子がゆっくりとこちらに振り返った。

 そして、俺を見て一瞬驚いた表情を浮かべる。



「彼が私達を助けてくれたのだ」


「ちゃんとお礼を言いなよー?」


「えっと、俺はリョウヤです。怪我は大丈夫かな?」


 取り敢えず俺から挨拶すると、ルリと呼ばれた子は少し落胆したような表情を浮かべるが、すぐに無理して作った風な笑顔になり、頭を下げた。


「私はルリと申します。その節は助けて頂いて、ありがとうございました。なんとお礼を言って良い物か……」


「いいよ、いいよ。気にしないで。俺も冒険者なので、あれが仕事みたいな物だからさ」


 ベッドから降りようとしたルリさんをそのまま押し留める。

 一応、怪我人だしな。


 しかし、思ったより彼女は落ち着いているな。

 特に取り乱すような事もない。

 自己紹介を交えながら、世間話に花を咲かせる。



「……ところでさ、ルリちゃん。あたい達を助けてくれたのは、リョウヤ君だったんだよ。分かってるよね? レンジ君じゃないんだよ?」


 突然、セーマルミさんが直球をぶちかました。

 ここでいきなり切り出しちゃうのかよ!?

 これには、流石にフェルティアさんもドン引きだ。


「分かってます。……レンジさんは、もういないのですよね」


 寂しげに微笑む彼女の大きな瞳から涙が溢れ、次から次へと零れ落ちる。


 おいおいおい、どうするんだよこの状況!!

 とうとうルリさんが顔を覆って泣き出してしまった。


「セーマルミ! もう少し考えろ!!」


「だって、艇長。遅かれ早かれ現実を直視しないと、ルリちゃんが前に進めないよ」


「だからって! 物事には順序があるだろう!!」


「じゃあ、どうすれば良かったんだよう!」


 二人が言い争いを始めてしまい、こっちの方が修羅場になってしまったのだった。

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