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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第十章

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477 気分転換に王女達を観察しに行こうか!

 この前は酷い目に遭ったよ。

 プリンセスメイド喫茶に視察に行ったら、いきなり入魂されるわ、殺人クッキーを食わされて臨死体験するわ、頭の中をかき回されるわ。俺が一体何をしたんですかね。

 ファルさんには悪いけど、学祭への出店を考え直そうかなあ。


 それはそうと、魔力剣の調子が戻らなくて、いい加減に不安になってきた今日この頃。

 イヅナ国で赤魔狼と戦った際に無理をさせてしまって、魔力剣が壊れてしまったのである。

 あれ以降、オーちゃんとムラサメさんに呼び掛けても返事が無いのだ。


 帝のマユカが調子を見てくれたのだが、復活するまでしばらく時間が掛かると言ってた。

 別に敵と戦う訳では無いが、やはり使い慣れた武器が無いってのは心許ない。

 二人とは精霊契約を交わしているので、このまま音沙汰が無いと不安にもなる。


 しかし、ズンこさんもいい加減だよな。

 精霊と契約するにはアクセサリーを手渡すのが決まりだって言ってたのに、そんなのお構いなしに魔力剣と契約完了していたし。

 もっとも、対価に血液と魔力を大量に持っていかれ、シーラが魔人の力を失って人間になった遠因であったりもする。


 そのシーラの血液と魔力が無かったら、俺の命まで持っていかれてたみたいなので、シーラには命を助けられたと言っても過言では無い。

 そんな訳で、大きな対価を支払って契約した魔力剣が復活してもらわないと困るのだ。


 オーちゃん、ムラサメさん。調子はどうですかね?

 魔力剣の柄を握って魔力を込めてみると、魔力の刃が発生した。

 武器として使えるまでは回復したみたいだ。

 だけど、彼女達の声は一向に聞こえてこない。気配は感じるから、消滅した訳では無さそうだ。

 取り敢えずは、一安心ってところだろうか。


 今更だけど、何故こんな事をしてるのかというと、学祭準備等やる事が多過ぎて現実逃避をしていたのである。

 なので、今日は王都の街へ繰り出す事にした。

 仕事なんてクソ食らえだ。


 ……後でみんなから怒られそうだけど、今は許して。




「たまにはこうして、一人で街をぶらつくのもいいなー」


 考えてみれば、いつも誰かと一緒にいるもんな。

 それはそれで、ボッチにならないで助かってるのだけど、たまには一人になりたい時もあるさ。

 そんな感じでアンニュイな気分に浸ってると、いきなり声を掛けられた。



「こんな場所で奇遇ですね、リョウヤ様」


「やっほー。元気してる?」


「黄昏れてカッコつける姿もイカしてると称賛します」


 なんとまあ、三つ子のメイドさんであった。

 それぞれイリーダさん達王女の側仕えである彼女達だが、私服なのでプライベートなのだろうか。


「ギリミアさん、センタリアさん、ダリアさん。こんにちは。今日はお休みですか?」


 ギリミアさんは膝上丈のスカートのお嬢様コーディネート、センタリアさんはホットパンツでスポーティーな感じ、ダリアさんはロングスカートでシックな装いである。三つ子でも服の好みや性格も違うみたいだ。


「ええ。今日は珍しく三人とも休みが重なりましてね」


「こうして街に遊びに出てきたところなんだよねー」


「偶然にもリョウヤ氏に遭遇した次第です」


 あの王女達のお世話係でもあるから、相当ハードな仕事だよな。

 こうして息抜きをしないと、やっていられないのだろう。


「それで、リョウヤ様はお暇でしょうか?」


「良かったら、私達と遊ぼうよ!」


「以前、お茶をすると約束したはず」


 三人がグイグイと迫ってくる。

 君達、どんだけ俺を誘いたいのですかね。

 とは言っても、可愛い女の子のお誘いを断る理由なんて無い。

 それに、以前から三人とはもっと話してみたいと思っていた。



「じゃあ、お言葉に甘えてご一緒させてもらってもいいかな?」


「もちろんです!」


「よーし、今日は思いっきり遊ぶぞー!」


「ダリアの期待値は限界です」


 そんな訳で、ショッピングモールでウインドウショッピングをしたり、ご飯食べたり、お茶をして普通に遊んだ。

 彼女達も普通の女の子で、流行りのスイーツなんかに興味津々で微笑ましい。

 なんというか、こういうのでいいんだよ。


 いつものみんなと出掛けたりすると、必ず何かしらのトラブルに巻き込まれたりする事が多い。

 こうやって、普通にお茶してお喋りしてるのが奇跡みたいだ。

 断っておくけど、他のみんなに不満がある訳じゃないぞ。

 俺はただ、何ごともなく平和に過ごしたいのだ。


 そんな事を考えていると、ギリミアさんが辺りを窺うようにして声を潜めた。



「リョウヤ様。ここだけの話ですけど、エルダーク公爵家に注意してくださいね」


 なんか急な話だな。

 エルダーク公爵家といえば、魔道具協会のトップで魔剣を作ったイーゼル達の未来を閉ざそうとする因縁の相手だ。

 とはいっても、まだ敵対してる訳じゃないけど。


「俺にそんな事を言うって、何かマズい動きでもあるの?」


「あのね、なんかリョウヤ君の企画してる学祭に興味を持ってるみたいなんだよね……」


「具体的な例を挙げると、闘技大会も狙っていると思われる」


 俺の疑問にセンタリアさんとダリアさんが答えてくれた。

 しかし、なんでまた学祭に興味を持ったんだ?

 そのまま田舎に引っ込んでればいいのに……。


「何も起きないと思いたいですけど、国王陛下の御母君であらせられる、サデリーア公爵がご自分の孫にユユフィアナ王女を嫁がせようとしていた事もありまして……」


「リョウヤ君って、ユユフィアナ王女と婚約してたじゃない?」


「その婚約が一旦保留となったので、再び動き出した可能性もある」


 おいおい。

 晩餐会の時、ミっちゃんママが暴走したおかげで、ユーとの婚約を白紙に近い保留にしたんだよな。

 それが今になって問題になろうとしているのか?


「ただ、あくまでもそういう動きがあるという事ですから」


「向こうがリョウヤ君を認識してるかすらも分からないんだよね」


「今すぐ、どうこうという話では無いと思いたい」


 そうは言うけど、なんか心配になってきたじゃないか。


 しかし、自分の孫にユーを嫁がせるか……。

 そこはイリーダさん達じゃないんだな。

 まあ、消去法で考えたら、ユー一択になるのは分かるけど。


 それにしても、なんか嫌な話を聞いちゃったなぁ。

 せっかく遊びに来たのに、暗い気持ちになってしまった。



「すみません。注意喚起のつもりだったのですが……」


「まったく、ギリミアは空気読まないんだからー。よし、気分転換に王女達を観察しに行こうか!」


「王女殿下のプライベートを覗き見するチャンス。これに乗らないリョウヤ氏ではないはず」


 何故、急にそんな話になるんですかね。この三人についていくのは疲れそうだ。

 それとは別に、イリーダさん達のプライベートは凄く気になりますな。



 そんなこんなで、少しばかり治安の悪い区域にやってきた。

 普通、女の子はこういうところには来ないと思うのだが、三つ子は護衛メイドでもあるので、まったく気にしていない様子。

 ここに何があるというのだろうか。



「ほら、リョウヤ様。あそこをご覧ください」


 ギリミアさんに言われた場所を見てみると、見回りの衛兵に交じってイリーダさんの姿があった。

 相変わらず、ボディラインがくっきりなチャイナドレス風の服装はどうなのかと思うけど、とても勇ましい雰囲気だ。

 そのイリーダさんが衛兵達と一緒に人相の悪い男を連行している。

 周囲の衛兵達はイリーダさんに尊敬の眼差しを向ける。


「イリーダ王女はね、ああやって衛兵と王都内の治安を守ってたりするんだよ」


「流石は武闘派王女殿下である」


 なんですと。

 真面目に王都の人達のためになる事をやっているとは……。

 感心したところで、次の場所に移動する。


 今度は養老施設にやってきた。

 この施設は家族に捨てられたりして、身寄りのない老人が暮らしている場所だ。

 ここにも王女がいるのか?



「この時間帯は庭の方にいるかなぁ? 見つからないように、そっと行ってみよっか」


 センタリアさんの案内で施設の中庭に向かうと、セルフィルナさんが老婆が座る車椅子を押しながら散歩をしていた。

 なにやらセンタリアさんが話し掛けると、老婆は嬉しそうに微笑んで頷いている。

 気のせいか、その空間が優しいオーラで包まれているように見えた。


「よく誤解されるのですが、セルフィルナ様は福祉にも興味があって、とてもお優しい方なのですよ」


「セルフィルナ王女マジ天使」


 確かにあれは天使に見える。

 初見だったら、絶対にセルフィルナさんだと思わなかったよ。

 またもや感心したところで、次の場所に移動する。


 しかし、こうやって覗き見するのは、なんだかいけない気持ちになりますな……。


 お次は青空市場にある、ちょっとした広場にやってきた。

 ここは屋台等が多く出ていて、とても賑わう場所である。



「あそこのアイスの移動販売の屋台で、ミヨリカ王女がバイト中」


 ダリアさんが指し示す方向を見ると、可愛らしい制服を着たミヨリカさんが働いていた。

 メイド喫茶もそうだけど、王女がこんな事をしていていいのだろうか。

 そう思いながら彼女の働きっぷりを観察していると、ミヨリカさんからアイスを受け取った小さな女の子が、食べる前にアイスを地面に落としてしまった。


 ああ、なんてこった!!

 思わず目を覆いたくなる光景に女の子は泣き出してしまう。

 一緒にいた母親が慰めるが、泣き止まなくて困ってしまっている。

 すると、ミヨリカさんがそっと女の子の頭を撫でて、新しいアイスを何も無い空間から取り出して手渡すと、女の子が驚いて泣き止んだ。


 くそう! なんて優しい気遣いなんだ!!

 俺だって、あんな事をされたら泣き止むぞ!!



「どうですか? リョウヤ様。こうやって見ると、王女殿下達も普通の女性なのですよ」


「王女だからって、色眼鏡で見るのはやめてあげてね?」


「リョウヤ氏なら、分かってくれるはず」


「……ああ、そうだね」


 多分、彼女達は特異な力を持つイリーダさん達が、俺達となんら変わらない人間だと伝えたかったのかもしれない。


 ただ、イリーダさんのアレは普通なのか?

 普通の女性は、犯罪者を連行しないと思うぞ。

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