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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第十章

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471 我の聖域を取り戻してくれい!!

本日二話目投稿です

「さて。話も一通り済んだので、冒険者ランクの話もしておくかのう」


 ギルマスがそう言うのと同時に、サラさんが部屋に入って来た。

 手に持っているのは……豆大福!!


「サラさんや。リョウヤ少年のランクを変更してやってくだされ」


「承知しました。それで、ランクは如何ほどに?」


「そうさのう……高ランク対象のクエスト達成に、超重要機密クエスト達成の他、王国とイヅナ国の交流も成功させた事も考慮すると、Bランクでよいかのう。流石にAランクは、昇進試験を受けなければならないからのう」


 まさかのFからBランク!!

 何階級特進ですかね!?


「ギルマス。学生はBランクにはなれない決まりがありますが……」


「そうだったかのう? それじゃCでよいかな」


 なんか随分と適当だな。

 サラさんも、ちょっと呆れ顔だ。



「少年。Cランク以降は色々と面倒になるぞー。座学の講習が一定時間必要だし、定期的にクエストも受けなくてはいけなくなるからな。早い話が責任が重くなるという訳だ」


「え? そうなんですか?」


 テルアイラさんが怖い事を言ってきた。

 そういえば、ロワりんとミっちゃんも定期的に何かしらのクエストを受けていた気がする。単に生活費の為って事じゃなかったのか。


「冒険者としての心構えが定まっていないのに、いきなりランクアップして重圧で潰れてしまう者もいるからな。覚悟しとけよ、少年」


「それはちょっと嫌だなあ……。サラさん、今回のランク更新は少し考えさせてもらっていいですかね?」


「テルアイラさん! せっかくのランク更新なのに、リョウヤ君を脅かしてどうするんですか!?」


「ああん? 私は本当の事を言ってるだけだぞ。どうせ所属冒険者のランクで見栄を張りたいだけだろう? まあ私はフリーなので、どこにも所属してないけどなー」


「ぐぬぬぬ……。そうですよ! 何が悪いんですか!? ウチのギルドだって、高ランクの冒険者がもっといてもいいじゃないですか! ギルド職員の懇親会で、いつも他の支部からバカにされるウチの事を考えてくださいよ!!」


 なんだか、どこの業界も大変みたいだなぁ。


 それはそうと、突然FランクからCランクになったら、周囲から妬まれたり、色々面倒くさい事を言われそうなので、やっぱり遠慮しておこうかな。

 今回の功績は、運が良かったのも大きかったのだし。


「えっと、それじゃあDランクってのはダメですかね……?」


「少年、向上心が低いのも考え物だぞ。もしかして、冒険者にそれほど興味が無いのか?」


「そういう訳じゃないんですけど、急に色々と有り過ぎて、心の準備ができてないというか……」


「少年がそう思うのなら、私からは何も言わん」


「そうですよね……。大人の勝手な期待で、学生さんにプレッシャーを掛けてしまうのもいけませんね……。分かりました。今回リョウヤ君はDランクに昇格という事で手続きをさせていただきますので」


「お手数ですが、よろしくお願いします」


「ほっほっほ。一件落着だのう」


 サラさんには悪い事をしてしまった気もするが、冒険者としての心構えというか、覚悟が決まっていない事に改めて気づかされた。

 やっぱり将来の事を色々真面目に考えないと駄目だな……。

 それはともかく、今は学際の事に集中しないといけない。


 そんなこんなで、無事に豆大福を受け取りつつDランク冒険者になった俺は、冒険者ギルドを後にした。

 闘技大会の件はまた後程に打ち合わせをする事になり、テルアイラさんとも別れて自室に戻って休む事にする。





 うむ、やっぱり自分の部屋は落ち着くなー。


 もらった豆大福を頬張りながら渋いお茶を飲んでいると、姿見からメイド姿の鏡子さんとエリカに伴われて、ダンジョン精霊のズィーエメルツィアことズンこさんが現れた。


「久しぶりだな。随分と放置されていたので、我は寂しかったぞ!」


 いきなりそんな事を言われても、こっちは忙しかったんですけど……。

 でも以前から、あんまり相手してあげてなかった後ろめたさもあるので、邪険には扱えない。


「リョウヤさんが計画している学祭の事をズンこさんに話したら、大変に興味を持たれまして」


「学祭にズンこも参加したいと言うから連れて来たんだけどさ、アタシ達の顔を立てるつもりで、どうにかならない?」


「さあ、早く我も仲間に入れるのだ!!」


 鏡子さんとエリカが気を利かしてくれたのだろうけど、何故にあなたはそんなに偉そうなんですかね。



「いきなり参加させろと言われても……」


「むむ。駄目なのか? 例えばだが、我のダンジョンを使ったお試し体験ツアーとかはどうだ? 楽しんでもらえるように、低階層は接待フロアにするぞ」


「それって、お客さんにダンジョンの雰囲気を味わってもらおうみたいな感じですか?」


「今、我がそう言ったであろう。冒険者を夢見る子供達にも大変オススメだぞ」


 こんな提案をしてくれるなんて、ちょっと意外だ。

 確かにそれは面白そうだな。


「分かりました。まずはダンジョンの現状を見たいので、今から校庭地下ダンジョンに行っていいですかね?」


「い、今からか!?」


 急にズンこさんが慌てだした。

 怪しいな。何かを隠しているのだろうか。


「何かやましい事でもあるんですかね?」


「そ、そういう訳では無いが……」


 口ごもるズンこさんを無視し、姿見を経由して校庭の地下にあるダンジョン一階層に入ってみたのだが……。





「なんじゃこりゃあーーー!?」


 ダンジョン一階層は、テント小屋みたいなのが並んでいた。

 モンスターどころの話じゃない。明らかに生活感が溢れているんですが。


「これは、誰かが住んでいるのでしょうか?」


「これみんな、ここの生徒達だよねー?」


 鏡子さんとエリカが物珍しそうに周囲を見渡している横で、ズンこさんが気まずそうにしている。


「……説明してもらえるかな? ズンこさん」


「あ、あのな。我も寂しかったのだ。それで学生達を呼んで話し相手になったりしてもらっているうちに、居心地が良かったのか、段々と増えてきた学生達が勝手に住み着きだしてしまって……」


 ズンこさんの話に呆れていると、テント小屋から寝起きの生徒らしき男達数人が出てくるのが見えた。

 そいつらは手慣れた感じで火をおこし、水場から汲んできた水でお湯を沸かしたり、食事を作り始めている。

 ここは、お手軽キャンプ場ですかね。


「もしかしてさ、さっきの話を俺に持ちかけたのって、これをどうにかしてほしかったんじゃないですかね?」


「うむ。我としても大変広い心を持っているので、こやつらの事は大目に見ておるのだ。だが、ゴミ捨てのマナーが目に余る。それ以上に、その辺で好き勝手に排泄行為をするのは許せん! ちゃんとかわやも作ってあると言うのに!!」


 ……知らんがな。

 そのまま帰ろうとしたら、涙目のズンこさんが俺の袖を引っ張って放してくれない。


「リョウヤ、頼む~! 我の聖域を取り戻してくれい!!」


「えー……面倒だなぁ」


「リョウヤさん。私からもお願いします」


「ズンこはアタシ達にとっても大事な友達だから、助けてあげてよー」


 鏡子さんとエリカにも頼まれてしまったら断れない。

 学祭のお試しダンジョンの話も面白そうなので、ここは一肌脱ぎましょうかね。


 それにしても、どうしたものだろうか。

 彼らみたいなのを排除するのはいいけど、また集まってくる可能性は高そうだ。

 だったら、むしろ利用してやるのもいいかもしれない。


 そこを踏まえた上で、ダンジョンに向かう前には事前準備が大切だ。それには最低限の装備を取り扱う店とかが必要だよな。

 他にも食事をする場所や、休憩施設も欲しいな……。



「ズンこさん。俺はここをちょっとした商業区域にしてみようと思うのですよ」


「ここに店を出すのか?」


「ええ。地下ダンジョンに挑戦する前の準備エリアというんですかね? 飲食店とかも作って、ダンジョンに挑まなくても雰囲気が楽しめる場所って感じで」


「ま、まあ、よくは分からぬが、ここをなんとかしてくれるのなら、お主に任せるぞ……」


 そうと決まれば、集まって酒盛りまで始めてしまっている生徒達に声を掛ける。



「すみませーん。ここで何してるんですか?」


「ああん? オメーには関係ないだろ」


「俺達の仲間に入れて欲しければ、酒持って来いよ!」


「なんなら、そこのメイド達を寄越せよ。色々サービスしてくれそうだからさ」


 あー、これは完全に関わりたくないタイプの人達だわー。

 こんな場所に住み着いてる時点で、まともな生徒では無いのだが。

 エロい目で見られて、鏡子さん達も嫌そうな顔をしている。


「ところで、ここでテント張ってるのって不法占拠になりません?」


「さっきからなんだよオメー。俺達にケンカ売ってるのか?」


「つまんねえ事抜かしてるとやっちまうぞ!」


「ついでにメイドももらってやるよ」


 うーむ。お約束過ぎて、むしろ安心できるレベルですな。

 こういう手合いは、一発ガツンとやっておくのが肝要かと。

 前髪をかき上げつつ面倒くさそうに吐き捨ててやる。


「あー面倒くせえな。どうでもいいから、お前達さっさと掛かって来いよ」


 まったくもって俺のキャラじゃないが、彼らを挑発すると、面白いぐらいに顔を真っ赤にして叫んでいる。


「ぜってーに許さねえ!!」


「どいつもこいつも俺達を馬鹿にしやがって!!」


「者ども、出会えー! 出会えー!! くせ者だーーーー!!」


 なんかワラワラと、十数人ぐらい周囲のテントから出てきて集まってきたんですけど……。

 そして、全員が殺気立っている。



「リョウヤさん。私達もお手伝いしましょうか?」


「アタシ達なら秒殺も可能だよ?」


「いや、鏡子さんとエリカは手出ししないで見てて」


 流石に精霊の二人の力を不用意に見せる訳にはいかない。


「分かりました」


「りょーかい」


「ふふん。ならば、我は高見の見物と洒落込もうか。後は頼んだぞ、リョウヤ」


「ズンこさん、アンタ何様なんですかね。俺、このまま帰りますよ?」


「ああ、待ってくれ!! 後生だから、我の聖域を取り戻してくれ~~~!!」


「ちょっと泣きつくのやめてくださいって!!」


「我の聖域を取り戻してくれるまで放さぬぞ~~~!!」


 もう本気で勘弁してください。



「この野郎……俺達を馬鹿にするのもいい加減にしろよ……」


「女と仲良くしてるのを見せつけやがって!!」


「うらやまけしからん!!」


 これが仲良くしてるように見えるのかなあ。

 それはそうと、皆さん完全に殺気立っておりますな。


 そんな感じで囲まれた俺だったが、襲ってきた生徒を速攻で返り討ちにしてしまった。

 俺だって、伊達に修羅場を潜り抜けてる訳じゃないからな。

 それにしても弱すぎる。こいつら冒険者志望じゃなくて、生産職系の生徒ばかりなのか?



 そんなこんなで、俺の前には十数人の男子生徒達が縛られて座り込んでいる。

 それを少し離れた場所から、不安げに見つめている数人の女子生徒の姿もあった。

 彼女達もここで生活してるみたいだが、男子みたいに襲ってくる様子はないので、放置しておく。


「ええっと、いきなり襲い掛かってきた事はどうでもいいけどさ、ここに住み着いてるのはメディア校長にも話が伝わってると思うよ? これがバレたら、一体どんな処分を受けるんだろうな。公共のダンジョンを不法占拠とか洒落にならないレベルだろうよ」


 校長云々は単なるハッタリだ。

 ちょっと大袈裟に脅すだけで十分に効果があるはず。


「な、なんだとう!?」


「あのババア、怒ると怖いぞ……」


「くそう、誰かチクりやがったな!!」


 若干一名、ババアとか言ってる命知らずがおりますな。

 流石の俺も、そのような暴言は怖くて言えませんよ。


「そこで物は相談なんだけどさ。俺が校長に取り成すから、皆さんにはちょっとばかり手伝いを頼みたいんだけど」


「俺達は負けたから、断る選択肢は無いんだよな……」


「俺がババアって言ったのは黙っててくれよな!」


「それで、俺達に何をしろって言うんだよ?」


「理解が早くて助かります。お願いしたい事なんだけど――」




 彼らに一通り説明を済ませた後、ズンこさんにはダンジョンの低階層でゲストを迎えるエントランスエリアを作ってもらうのをお願いした。

 イメージ的にはテーマパークの商業施設っぽいやつだ。

 なので、飲食店やら土産物店等もダンジョン管理能力で作ってもらう。


 そこの店員として、住み着いていた彼らに働いてもらおうって算段だ。

 普通に料理とかも手慣れていたみたいだし、ファストフードやアウトドア飯的な料理ならいけるだろう。

 これなら彼らも学祭に貢献できるので、ここに住み着いていた事に関して、お咎めなしになるだろう。


 そうだ。どうせテーマパークっぽくするなら、詳しそうな人にお願いしてみるか。




 余談であるが、俺のDランク昇格の件は、後日みんなから『なんで素直にCランクにならなかったの!』と呆れられてしまった。

 ついでにどこで聞き付けてきたのか、メディア校長からも叱られた。

 Cランクになりたくてもなれない者の気持ちを考えろ、だそうだ。


 ……ごもっともです。

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