40 俺なんか十年冒険者やってるけど、Fランクだぜ!!
「去年までは、私の先輩達が上手くクエストの依頼を選んでくれていたのですが、今年はリーダーの私が選ばなくてはいけないので、不安ですよう……」
先輩が泣きそうになっているが、依頼を受注するのはパーティーの代表者のみ可能なのだそうだ。
そんな先輩を元気付けるように、ミっちゃんとメルさまが声をかける。
「アンこ先輩。あまり気にせずに気楽に受注してくるといいぞ」
「そうですの。わたくし達なら、難しい依頼でも簡単にこなしてみせますの」
まあ、彼女達ならどんな案件でも涼しい顔で達成しそうだな。
気になったのだが、ロワりん達は非公式パーティーだった頃はどうしていたのだろうな?
貴重な収入源なので、受けていないって事は無いだろうけど、気になったので聞いてみた。
すると、ミっちゃんが胸を張って答えた。
「勿論、私達も受けていたぞ。ただし、非公式パーティーであるが故に選択権は無かったけどな!」
そして、ピアリが遠い目をして答える。
「結構ひどい依頼もあったよね。臭いが中々落ちないやつとか……」
そこまで苦労するなら、素直に普通のパーティーを組めば良かったのに。
まったく、何をしているのやら。
「それでは皆さん、依頼を受けに行ってきますね」
先輩が部屋から出て行くのをみんなで見送る。
よく分からないけど、頑張って下さいね。
リリナさんが何かを思い出したかのように、手をポンと叩いた。
「そうそう。リョウ君って、冒険者登録は済ましているの? 登録を済ましていないと冒険者向けの依頼は受けられないわよ?」
なんですと。
そんな話は一切、聞いた事がありませんでしてよ?
「登録してませんけど、どこで登録すればいいのですかね?」
「王都の冒険者ギルドで登録するの。後で一緒に行ってあげるから、登録しちゃいましょう」
リリナさんが色々と教えてくれるみたいなので、冒険者登録は問題無さそうだな。
「ここにいるみんなは、もう登録してるのですかね?」
「私はCランクだぞ」
「私もだよ☆」
ミっちゃんとロワりんはCランクらしい。これは高ランクなのかな?
比較対象がいないから、よく分からない。
「わたくしはEランクですの。お二人の身体能力には及びませんので……」
「ボクもEだよ」
メルさまとピアリもEランクとの事。
ちなみにリリナさんは、Dランク止まりだったと恥ずかしそうに答えた。
一人前の冒険者と呼べるのは、Cランクからだそうだ。
そうするとあの二人は、既に冒険者としてそれなりの実力があるのか。
そんなこんなで、冒険者登録の説明をリリナさんから受けていると、アンこ先輩が依頼の受注から帰ってきたのだが──
「うわぁーん! ごめんなさい! 大変な依頼を受けてしまいましたよう!!」
部屋に入るなり、アンこ先輩が泣きだしてしまった。
一体何ごとだ!?
「ごめんなさい……。私が不甲斐無いばかりに……」
「ほら、泣かないでくださいな。どんな依頼でも、わたくし達でこなして見せると申しましたですの」
先輩の涙を拭きながらメルさまが慰めると、先輩も少し落ち着いてきたようだった。
「ありがとうございます……。あのですね、今回受注した依頼なのですが、魔狼の討伐になってしまいました」
先輩の言葉を聞いた途端、ミっちゃんとロワりんが立ち上がる。
「魔狼か! 相手に取って不足無しだな!!」
「これは腕が鳴るね!」
よく分からないが、俄然やる気になっていた。
そして二人が『心配しないでいいから』と先輩の頭をワシワシ撫でまわしている。
一応は先輩なんだから、もう少し敬意を持って接してあげてね。
しかし、魔狼って文字通り狼の魔獣だよな。
狼がそんなに危険な相手なんだろうか。
丸腰なら俺も戦いたくは無いけど、装備を整えた冒険者なら恐ろしい相手ではないだろう。
「なあピアリ、魔狼討伐ってどのくらいの難易度なんだ? 単なる狼だろ?」
「知らないの? ……大きいよ」
「……大きいのか」
大きいと言われてもイマイチ想像できないが、先輩が泣くぐらいだから、ヤバいみたいだな。
「それに討伐推奨の冒険者ランクはC以上だね。そもそも、学生向けの依頼で魔狼討伐なんて普通は無いよ。誰も受けないネタ枠の依頼だったんじゃないの?」
ピアリの言葉にリリナさんは、嫌そうな顔をする。
「私だったら、正直遠慮したい相手だな……」
リリナさんがそう言うなら、厄介な魔獣なのだろう。
「あの、お話にまだ続きがありまして、今回の依頼は他のパーティーと合同で討伐なのです」
先輩の説明によれば、魔狼討伐は危険な依頼という事で、ふたつのパーティーで請ける事になっていたそうだ。
先輩がどの依頼を請けるか、わたわたしているうちに、次々と他のパーティーに依頼を取られてしまって、残っていたのが魔狼の討伐だけだったとか。
……うん、先輩は頑張ったよ。
みんなが先輩を温かい目で見つめる。
「それにしても、他のパーティーと合同か……面倒くさいな」
ミっちゃんがそう言うと、ロワりんもメルさまも頷いていた。
確かに彼女達が他のパーティーと協力する場面が、どうしても想像できない。
依頼の詳細や日程はピアリ達に聞いてもらう事にして、俺とリリナさんは冒険者登録のために冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに向かう道すがら、以前から気になっていた事をリリナさんに質問してみた。
「リリナさんって、どんな魔法が使えるのですか?」
呪われた指輪のせいで魔法が使えなくなっていたと、記憶している。
彼女も冒険者をやっていたのだから、それなりに使えていたのだろうか。
「私のは風魔法ね。ちょっとした風の刃で相手を攻撃する程度だけど」
「相手に攻撃できるなら、十分凄いじゃないですか!」
いわゆる、カマイタチみたいなのだろうか。
考えてみると、風の刃で切り裂くって結構えげつない魔法だよな……。
「でも風魔法なら、ロワリンダの方が数段上よ。彼女と比べたら、私のは子供のお遊び程度かも」
リリナさんがこういうのだから、ロワりんはああ見えて本当は凄いのか。
伊達にCランクじゃないって事なのだろう。
そんな話をしていると、冒険者ギルドに到着した。
正面扉を開けると、内部は食事と酒を出す店を兼ねているみたいで、集まっている冒険者で活気があった。
よくある冒険者ギルドそのままって感じで、テンションが上がる。
それに討伐依頼の掲示板もあるじゃないか!
どんな依頼が貼り出されているのだろう。
見てみると、色々な依頼がある中で賞金首の手配書が目に付いた。
「遺跡の破壊者? 古代魔法王国の叡智を破壊する男につき、注意されたし……」
三十前後ぐらいの長髪で丸眼鏡の男の似顔絵が描かれていて、トレジャーハンターギルドからの手配書だった。
しかし、遺跡の破壊とか何を考えているのだろう。
アンこ先輩が知ったら、激怒するんじゃないかなぁ。
そんな事を考えていると、リリナさんに受付まで引っ張られてしまった。
リリナさんが受付の女性に『お久しぶり』なんて挨拶をしているので、顔見知りなのかな。
「それで今日は、この子に冒険者登録をさせようと思ってね」
「そうだったんだ。リリナが冒険者に復帰するのかと思っちゃったよ。でも、元気そうで安心した」
リリナさんに『この子』って紹介されてしまった。
頼れる男への道は、まだまだ遠い。
「私はギルド職員のサラ。今日はよろしくね」
「えっと、俺はリョウヤです。よろしくお願いします」
サラと名乗ったショートヘアーの快活そうな受付のお姉さんと挨拶を交わし、そのまま奥の部屋に案内される。
まずは魔力強化をしないでの身体能力測定だった。
特別鍛えている訳ではないので、平凡な結果だったと思う。
お次は筆記テストだ。
こちらは座学の講座を受けていたので、そんなに悪くなかったと思うけど自信は無い。
最後に魔力測定だったが、測定器の精度があまり良くないのか『魔力値は基準を超えているね』で済まされてしまった。
個人的には『な、なんなの、この魔力値は……!?』みたいな展開を期待していたのに、肩透かしである。
あっさりと登録検査が終わり、リリナさんとギルドの隅でお茶しながら結果を待っていると、受付のサラさんがやってきた。
「今回の君の冒険者ランクだけど……Gだね。残念ながら特筆する能力が無かったの。でも、まだ学生さんだし、頑張り次第でランクアップも可能だから、これから頑張ってね!」
申し訳なさそうに手渡された冒険者カードには、最低ランクのGが表示されていた。
流石にこれは悲しい。
そういえば、神様も俺の活躍は期待してないって言ってたしなぁ。
リリナさんも、どう言葉を掛けていいか分からないような困った顔をしていた。
「坊主、気にすんなよ。最初はGランクだっていいじゃないか!」
「そうだそうだ、これから頑張ればいいんだよ」
近くにいた冒険者達に慰められてしまった。
冒険者って、荒くれもののイメージがあったけど、結構気のいい人達なんだな。
「俺なんか十年冒険者やってるけど、Fランクだぜ!!」
……流石にそれは見切りを付けて転職した方がいいと思いますよ?
冒険者ギルドからの帰り道。
気を使ってくれるリリナさんに悪いからと、明るく振舞う。
「見ててくださいよ。俺だってすぐにCランクぐらいになって見せますから!」
俺のそんな空元気が見透かされていたのか、帰り道リリナさんがずっと手を繋いでいてくれた。
これじゃ本当に姉と弟だな。
急に思い出したけど、前世での俺の姉はこんな事をしてくれなかったな……。
そんな事を考えながら帰路についた。
メンバールームに戻り、ランクの報告をするとロワりんが爆笑して床をゴロゴロ転がりまくった。
「あはははは! セッキーってば、Gランクってあり得ないでしょ!!!」
流石にそこまで笑ってくれると、怒る気も悲しむ気も失せますわ。
そんなロワりんの頬っぺたをリリナさんがつねっていたけど。
「そう気に病むな、セッキー。私達が鍛えてやるぞ」
そう言って、ミっちゃんとメルさまにピアリも協力を申し出てくれた。
これだけ俺の事を気にかけてくれる人達がいるのだから、頑張らないといけないな。
「ところで、アンこ先輩も冒険者の登録はしてるんですよね? 先輩のランクはどんな感じですか?」
俺は気になっていた事を先輩に聞いてみた。
きっと俺と同じGランクなのだろうな。
「ええっと、私はEランクでして……」
非常に言いにくそうに先輩が教えてくれた。
探知魔法を隠しての登録だったけど、筆記試験で優秀な結果だったそうだ。
……俺の存在価値ってなんだろう。ちょっと落ち込んだ。




