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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第九章

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401 何が次期当主だよ。私には関係ない事なのに……

 イヅナ国への出発の朝がやってきた。

 昨晩、レイナさんには特別棟の空き部屋に泊まってもらった。

 これなら合流する手間も省けるし、合流時になってゴタゴタする心配も無い。

 という事で、昨日は盗賊団に捕まっていたメンバーが集まって、近況報告会みたいな事をしていた。


「リョウヤさんのおかげで、懐かしい方達と楽しくお話ができました」


「レイナさん、懐かしいって……そんなに時間は経ってないでしょうに」


「そうですか? 随分と前の事のように感じてしまいました。それにしても、普通に生活していたら、恐らく知り合わない方々でしたので、私にとっては、とても有意義なひと時でしたよ」


 昨日はアストリーシャも顔を出してくれて、フィルやセイランさん、サヤイリスも交えての食事会もしたらしい。ちょっとした同窓会気分なのかな?


 ……そういえば、俺に同窓会なんてイベントはあったのかなぁ。

 前世の世界の事を思い出そうとしたが、都合が悪い記憶なのかサッパリ思い出せなかった。



「ミっちゃん、忘れ物は無い? 寝る前はちゃんと歯をみがきなよ☆」


「ロワりん、私は子供じゃないぞ!」


「いいえ、ミっちゃんさんの事だから、油断はでませんの」


「メルさまも私を子ども扱いするのか!?」


 まったく、朝からあの三人は騒がしいな。いつも通りと言えば、いつも通りだけど。


「リョウヤ君、いくらレイナさんが美人だからって、手を出しちゃ駄目だからね?」


 ピアリ、俺ってそんなに節操無く見えるのか? かなり心外だぞ。


「ピアっち君、そんな事を言ったらセッキー君が可哀想ですよう。私のお母さんも言っていましたよ。一緒のベッドで寝たのに、セッキー君が手を出してこなくて驚いたって。もしかしたら、不能なのではないかと心配したらしいですよ。……ところで、不能ってどういう意味なのですか?」


 アンこ先輩、朝からヘビーなネタはやめてください。本当にお願いします。


「いいなあ。わらわもイヅナ国へ行ってみたかったな……。なので、現地の甘味等の土産を期待しているぞ」


 シーラは人間になってから、より一層甘い物が好きになったみたいだ。

 今後、王国とイヅナ国との国交が公式に結ばれたら、気軽に旅行もできるかもしれない。その時は、シーラやみんなを連れて旅をするのもいいかもな。


「リョウ君、途中で何か珍しい本があったら買ってきてね。後でお金は払うから」


 リリナさんの本好きは相変わらずだけど、旅先の珍しい物って、ついつい買いたくなるのはどうしてだろうな。

 それで帰ってきてから、なんでこんなのを買ったのだろうと軽く後悔するのがお約束だ。


「私はイヅナ国の妖狐と呼ばれる方達と、手合わせをしてみたいです。リョウヤ殿、強そうな方がいたら紹介してくださいね」


 サヤイリスはバトル物の主人公ですかね。案外、武闘会とか実現したら楽しそうなイベントではあるよな。俺は参加しないけど。


「リョウヤさん、東方の国には『御神鏡』なる鏡があるそうじゃないですか。きっと私達と同類だと思いますので、見掛けたら教えてください」


 鏡子さん、それはちょっと違う気もするけど、中に本当に神様がいたら洒落にならないぞ。

 ……って、鏡子さんも付喪神つくもがみみたいな存在なんだっけ。

 その鏡子さんの隣で、エリカが何か思い出したのか、手をポンと叩いた。


「そうそう、ダンジョン精霊のズィーエメルツィアがね、『最近ヒマだから顔を出してくれ』って言ってたよ」


 それはこれから出発する俺達に必要な情報なんですかね?

 困惑していると、メディア校長とアーヴィルさんがやってきた。


「リョウヤ。サイラントは見送りに来られないが、くれぐれも頼んだと言っていたぞ。それと失敗は許さんとも言っていたな」


「英雄の立場となったリョウヤ君は、非公式であるが立派な使節だ。君には、ある程度の権限が与えられている。交渉時にはその立場を上手く使うんだよ」


 二人とも地味にプレッシャー掛けてくるのをやめてくれませんかね。

 そもそも、サイラントさんは俺に成り行きを見届けてきてくれって言ってたよね?


 そんなこんなで、旅立ちの挨拶もそこそこにして王都を出発する。

 初めは観光気分だったのに、そんな気もすっかり失せてしまったよ。




  ◆◆◆




 王都を出発してしばらく街道を走るが、今のところ何も問題は無い。

 魔力の多くを魔力剣のオーちゃんとムラサメさんに吸い取られてしまったので、長時間の連続運転もできなくなってしまっている。適宜、途中で休憩を入れないとな。


 そんな事を考えていると、何やら助手席のミっちゃんに元気が無さそうだ。

 車酔いでもしたのかな?


「体調が悪かったら言ってね。休憩取るから」


「あ、いや、そうじゃないのだが……」


「それとも、お腹空いた? 朝早かったから、朝食は軽く済ましただけなんだよな」


「それも違う」


「じゃあ、どうしたっていうんだ?」


「ミサキ様は、次期当主の事で悩んでおられるのですよ」


 後部席からレイナさんが声を掛けてきた。それを聞いて、ミっちゃんが余計に落ち込んだ感じになっている。


「まったく、意味が分からない。何が次期当主だよ。私には関係ない事なのに……」


「ミっちゃんは、他に兄弟はいないの?」


「一人っ子ってやつだよ」


 彼女の人見知りは、それのせいでもあるのかなぁ。


「ミサキ様。関係ないとおっしゃっては駄目ですよ。あなたは玉聖タマヒジリ本家の跡継ぎなのですから」


「そうは言うが、他に分家から養子でもとればいいじゃないか。私より、よっぽど家柄にこだわる物好きもいるだろう」


「そうはいきません。守護九家の当主は、血筋と妖力の強さが求められます。そのどちらもミサキ様が兼ね備えておられるのですよ」


 なんだか立派な家柄も、それはそれで大変みたいだな。


「でも、なんだって今になって、ミっちゃんを次期当主として、お披露目するんだろうな?」


 前にルーデンの街の神社でシラオイさん達に、政争からミっちゃんを遠ざけるために玉聖家がイヅナ国と距離を置いたみたいな話を聞いた気がする。


「それは、ミサキ様の力をお認めになったのでしょう。恐らく、ご当主様に何か思惑があるのかもしれませんが」


 何か含みのある言い方だけど、もしかしたら、ミっちゃんの力で守護九家の覇権を取ろうとか画策してたりしてな。

 って、そんな漫画とかアニメみたいな展開は無いか。

 当のミっちゃんは、迷惑そうな顔をしている。


「ところで今更なんだけど、守護九家ってどんな存在なの? みかどを守るってのは、なんとなく分かるけど……」


「セッキー、本当に今更だな。まあ、私も直接目にした事が無いから、概要ぐらいしか分からないけど」


「それでは、お昼ご飯を食べるついでに説明しましょうか」


 レイナさんの提案で、街道沿いの大型休憩施設で一息入れる事にした。




  ◆◆◆




「なんでミっちゃんは、そこでカレーライスにするんだよ。レイナさんみたいに、きつねうどんにしないのかよ」


「は? 別にいいだろう、私が何を食べたって。セッキーこそ普通のラーメンじゃないか。にんにくと野菜マシマシのラーメンぐらいにしろよ!」


「そんなの食べたら胸焼けして運転どころじゃなくなるよ! って、勝手におろしにんにくを入れるな!」


「お二人とも、食事中に騒ぐのはマナー違反ですし、周囲の迷惑にもなりますよ」


「あ……すみません」


「悪かった……」


「分かればよろしいのです」


 レイナさんに注意された俺達は、途端に恥ずかしくなって大人しく昼食を済ませた。

 どうも旅先とかだと、妙にテンションが上がるんだよな。反省反省。


 それから食事後、フードコートの片隅で俺達はレイナさんから守護九家について、あれこれと説明を受けた。


「それで現在、ミサキ様のお母様が当主である玉聖家は、王都への特使派遣に賛成の意思を示しています。それに同調しているのが、私が仕える玉葵タマアオイ家に玉蟲タマムシ家と玉闇タマヤミ家です」


 なんだか、玉葵以外は悪役みたいな字面だなぁ。


「そして、反対の意見を唱えているのが、玉蛟タマミズチ家、玉鋼タマハガネ家、玉酒タマサカ家、玉紫タマユカリ家の四家です」


「あれ? そうすると一つ足りなくないですか?」


「そうです、リョウヤさん。残る一家が意思を保留して様子見の状態なのです」


 レイナさんが、守護九家の名前が書いてある紙を示して色々説明してくれるのだが、肝心な残り一家の名前が読めない。漢字で『玉金』と書いてあるのだが……。


 ちなみに、この漢字に見える文字はイヅナ国の古い文字らしいが、漢字に見えるように俺の頭の中で脳内変換されてるのか、本当にこういう文字なのかは知らない。


「これは……タマキンですか?」


「タマカナです! 本人の前で言ったら怒られますよ!」


 そんな事言ったって、読めない物は読めないよ。そもそも他の守護家の名前も覚えられそうにもない。


「ふん、様子見とはいい身分じゃないか。大方、有利な方に付いて保身を図ろうとしているのだろう?」


「ミサキ様、滅多な事をおっしゃらないでくださいな。守護九家それぞれが独自の考えを持って動いておられるのですよ」


 レイナさんの口振りからすると、どちらの陣営も一枚岩じゃないって感じなのかな?


「それでレイナさん。実際どちらが有利なのですか?」


「拮抗していると言いたいのですが、玉蛟家が帝のそばに仕えている状況なので、玉蛟側の発言力が強いですね」


 これは、あんまり良くない状況に思えるな……。

 側近みたいな存在が、主人を裏から操ってる感じのよくある展開だったりしたら最悪だ。

 それに、玉聖家がイヅナ国と距離を置いてしまってるのが痛い。


「でも、なんで玉聖家はイヅナ国から出てしまったんですか? ミっちゃんを政争から遠ざけたみたいな話をチラッと聞いたのですが」


「その事について、私も母上から直接聞いた事は無いな」


 ミっちゃんも首をかしげている。恐らく何も聞かされていないのだろう。


「ミサキ様のお母様は、帝にとても気に入られていたと聞きます。ですが、そこはお互い立場もありますし、他の守護家に示しがつかないという事で、イヅナ国から距離を置いたのです」


 そうするとあれか、身分の高い者に仕える人が主人に気に入られてしまい、周囲からやっかみを受けてしまうって展開だ。

 そういう意味では、ミっちゃんのお母さんって高潔な人なのかな?


 こうして、レイナさんから一通り説明を受けた俺達は、ミっちゃんの実家へと進むのだった。

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