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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第八章

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383 せめて地上に出るまでは隠し通してくれ。お願いだ

本日、二話投稿予定です。

 その場の全員が呆然としてしまっていた。

 アヤムナーリさんを復活させたのだけど、どうにもおかしいと言うか……。


「あのう、わたくしは今まで何を……それに、この方達はどなたでしょう……にゃん」


 自分の身に何が起きたのかを理解できていない様子なのだが、語尾に『にゃん』が付くので、こちらの調子も狂ってしまう。

 いくら猫耳が生えたからって、それはあざとくない?


 ……いや、俺も初めて猫耳が生えた時は語尾に『にゃ』が付いたな。これは一種のお約束みたいな物だろうか。



「ねえねえ、メルさま。なんで彼女に猫耳が生えてるのかな?」


「ロワりんさん、わたくしに聞かれても分かりません。きっとミっちゃんさんなら答えてくれますの」


「なんで私に振るんだよ!? こういうのは復活させたピアっちが専門だろう!」


「えっと、ボクもよく分からないよ。髪が黒くなったのは身体が魔物化してしまった影響なんだろうけど……」


 ピアリまで分からないとなると、お手上げだろう。

 アンこ先輩とリリナさんも首をかしげながら、興味津々って感じで見つめている。


「それにしても不思議ですね。フィルたちゃんの時は元々が犬耳の獣人だったので、そのまま犬耳が残りましたけど、アヤムナーリさんは猫耳の獣人じゃないのですよね?」


「もしかしたら、ウィオリアさんの魔石が関係してるんじゃないのかしら?」


 二人のやり取りを聞いて、サヤイリスがウィオリアさんに尋ねる。


「姉上、あの魔石は一体どのような由来の物なのですか?」


「あれは私が成人した時に、お母様からお守りとして頂いた物です。確か、猫系の魔獣の魔石だったとか……」


 それだ。

 みんなが妙に納得した顔で頷いている。



「アヤムナーリ、俺が分かるか? どこも痛い所とか無いか?」


「ええ、ディルガント様の事は片時も忘れませんにゃ。それによく分かりませんが、体の調子も凄く良い感じですにゃん」


 これはあざと過ぎる。首をかしげての『にゃん』は反則過ぎる。

 そんなアヤムナーリさんの姿を見たディナントさんが固まってしまい、肩をわなわなと震わせている。

 もしかしたら、別の意味で変わり果ててしまった姿のアヤムナーリさんを見て、相当ショックを受けてしまっているのかもしれない。


「もう辛抱堪らん!! アヤムナーリ! 猫耳の君は最高だーーーー!!」


「ええ!? 突然どうされたのですかにゃん!」


 あ、これは心配しなくていい奴だ。


 いきなり叫び出したディナントさんに抱きしめられて、アヤムナーリさんが目を白黒させている。

 まあ、なるようになったという事だろうか。


 それはそうと、さっきから大人しいシーラはどうしたんだろう?

 普段なら皮肉の一言もありそうなのだが。

 周囲を探してみると、みんなから少し離れた場所にシーラが座り込んでいた。

 アヤムナーリさんの復活騒ぎで、みんなは気づいてないみたいだ。


「大丈夫か? まだ体が本調子ではないんだろう?」


「リョウヤか……。情けない事に自力で立てぬ。すまないが、帰りはおぶってくれないか?」


 シーラは視線が定まらない目で俺を見つめる。

 何か凄く嫌な予感がした。


「お前、目が見えてないのか!?」


「静かにしろ。皆に聞こえる」


「だからって……」


「今はアヤムナーリの事で目出度い雰囲気なのだろう? わらわの事で場の空気に水を差したくない」


「……分かった。今はゆっくり休んでくれ」


「助かる」


 抱き上げようとしたのだが、シーラはおんぶが良いと言って、俺の背中にしがみつくように抱きついた。


「じゃあ、このままおぶっていくから」


「迷惑を掛けるな」


「まったくだ。いつもは年上ぶってるのにな」


 軽口を言って気を紛らわそうとしたのだが、背中のシーラの呼吸が段々弱くなっているのを感じる。


「やっぱり、さっきので無理したんじゃないか?」


「魔人としての力を全て注いだからな……」


「全てって……!?」


「もう、わらわは十分に生きた。アンの事が心残りだが、後はお主に任せたぞ」


「え!? 待てよ! それじゃシーラ、お前まさか……」


「頼むから静かにしてくれ。せめて地上に出るまでは隠し通してくれ。お願いだ」


 そこまでして、アヤムナーリさんの復活を祝福する空気を壊したくないって、空気を読み過ぎだろ!!


「分かったよ。言う通りにする。でも、アンこ先輩には教えていいだろう?」


「駄目だ。アンに教えたら大騒ぎになる。……アンには申し訳なかったと伝えてくれ」


「そんな……」


「お願いだ。それにリョウヤは言ってくれただろう? わらわを一人にしないって。最期はお主と一緒にいたいのだ……」


「……それがシーラの望みなら分かったよ」


「ありがとう。……リョウヤの背中はあったかいなぁ」


 それっきりシーラは一言も喋らなくなった。

 思わず涙が零れそうになるが、なんとか堪える。鼻の奥がツンと痛い。

 それから俺は何事も無かった振りをして、みんなの元へ戻った。




「あ、丁度良い所に戻ってきたな。彼がリョウヤ君だ。俺も大変世話になっている」


「そうだったのですね。初めまして、わたくしアヤムナーリと申しますにゃん」


「えっと、リョウヤです。色々やってますが、ただの学生ですよ。それと、後ろのシーラはちょっと疲れちゃったみたいで、寝ちゃってますけど気にしないでくださいね……」


 この嘘は凄くつらかった。アンこ先輩は『仕方ないですねえ』と笑っている。

 探知魔法を使われたら気づかれてしまうが、俺の言う事を信じて疑っていないはずだ。

 きっと地上に戻ったら、俺は全員から恨まれるに違いない。でもシーラの望んだ事は叶えてあげたかった。


 そんな中、サヤイリスが怪訝な顔をしながら近づいてきた。


「リョウヤ殿、まさかシーぽん殿は……」


「サヤイリス、頼むからみんなには黙ってて。それが彼女の希望だから」


「……分かりました。私も協力致します」


 流石にサヤイリスには気づかれてしまったが、彼女は率先してシーラから注意を逸らすように行動してくれていた。


 それからディナントさんは、この場所の技術が世に出回らないようにと、内部の施設を破壊していった。

 これなら、ノスダイオみたいな者が再び現れても、悪用する事ができないはずだ。





  ◆◆◆





「しかし、この昇降機というのは上る時も気分が悪くなるな……」


「ミっちゃんさん、吐きたくなったら言ってくださいね」


「いや、なんとか耐えられそうだ。メルさま」


「そうですの? だったら、これはどうですか?」


「おい、やめろ! なんで揺さぶるんだよ!? ちょ、本当にやめて!! 吐くぞ、本当に吐いちゃうから!!」



 相変わらずメルさまは鬼だ。みんなも呆れて見ている。

 きっと、いつものシーラだったら『馬鹿だなあ』といった感じで鼻で笑っていたに違いない。

 だけど、俺の背中の彼女は既に身動き一つしなかった。



「それにしても、サヤイリスさんは本当にティアちゃんにそっくりですにゃん」


「私も始祖様である、ティアリリス様に似ていると言われて誇らしいです!」


「まるで生き写しなので、わたくしの妹みたいな感じがしてしまいますにゃん」


「あら、駄目ですよ。アヤムナーリさん。サヤイリスは私の妹ですからね」


「たまに貸してくださいにゃん」


「どうしようかしら?」


 こちらはこちらで微笑ましいやり取りが行われていた。

 ディナントさんの幸せそうな顔を見ると、シーラが場の空気を壊したくないと言った気持ちも分かる。


 そうしている間に、エレベーターは地上に着いた。



「ここを封印したら、俺の役目もようやく終わりだな……」


 そう言って、ディナントさんはエレベーターへと続く部屋の扉を閉め、操作盤を破壊した。


「お疲れさまでした」


 誰が言うともなく、みんなでディナントさんをねぎらった。

 そして、聖域から出ると大勢の人達が俺達を出迎えてくれた。

 既にスグラさんが里の人達に説明していてくれたみたいだ。

 いきなり大勢の人達に取り囲まれて、アヤムナーリさんが目を丸くして驚いている。


 俺はそんな騒ぎから少し離れた木陰に移動して、シーラを木の根元に優しく座らせた。


「ようやく戻ってきたぞ。……それと、シーラもご苦労さま」


 声を掛けるが返事は無い。肌も真っ白で本当に人形みたいだ。

 もう、あのふてぶてしい表情を見られないのかと思うと、急に涙が溢れてきた。


 なんだよ、一人で勝手に逝きやがって。

 一緒に食べ歩きとかする約束してたじゃないか。約束をちゃんと守れよ……。



「リョウヤ殿……」


 気づくと、サヤイリスが隣に立っていた。

 俺を心配して様子を見にきてくれたみたいだ。


「なんだか、格好悪いところを見せたな……」


「いいえ。つらい時は素直に泣いた方がいいですよ」


 そう言って、サヤイリスは俺の頭を抱えるように抱きしめる。

 いつだったか、フィルエンネの事でシーラに叱られて泣いた夜の事を思い出した。

 色々な思いで胸が一杯になり、とうとう我慢できずにサヤイリスの胸で泣いてしまった。

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