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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第七章

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267 自分を探しているの

「皆さん、リョウヤさんを放してあげてください」


「そうだよー。リョウヤはアタシ達の物でもあるんだからさー!」


 ただでさえ面倒な状況で、鏡子さんとエリカまで参戦してきてしまった。

 これでは、テルアイラさんの怒りに余計に油を注いでしまうぞ。


「ほほーう。鏡の精霊とやらが、少年を狙うと言うのか。ならば問おう。お前らはこの少年にとって、どんな存在なのだ?」


 何やら偉そうに言ってるけど、あなたも何者なんですかね。



「私は……将来リョウヤさんの子供を産むつもりです」


 珍しく鏡子さんが恥ずかしそうに目を伏せている。

 そんな顔をされたら、ときめいちゃうじゃないかよ。


「アタシもリョウヤの子供を産むよー!」


 こっちは堂々とし過ぎだよ。もっと謹んで!!

 そんな二人の答えを聞いたテルアイラさんの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。


「お、おい! 子供とかまだ早すぎるぞ少年!! お姉さんは許しませんからね!! どのくらい許さないかと言うと、恋人だらけのテーマパークに独りぼっちで行って満喫してたとしても許さん!!」


 落ち着いて。もう支離滅裂になってますよ。

 その隣で、シーラもこの世の終わりみたいな顔をしている。


「ま、まさか、お主はアンに対して、もうそんな事を……!?」


「シーぽん、恥ずかしいですよう。みんなの前でそんな事を言わないでくださいよう」


 なんで、アンこ先輩はそこで否定しないの!?

 それだと普通に肯定してるって、思われちゃうからね!?


「ぐぬぬ……。性の喜びを知りやがって! お姉さんが教育してやる。みっちり性教育だ!!」


「許さぬ! わらわを差し置いて、アンにそんな事をするだなんてズルい!!」


 なんだかよく分からないけど、余計にヒートアップしてしまった二人に揺さぶられ、されるがままになっている。

 もうこれ、どうやって収拾をつけるんだろうな……。



「あの、何をしてるの?」


 胸倉を掴まれて揺さぶられる中で話し掛けられた気がした。

 頭をシェイクされてるので幻聴でも聞こえてきたのかなー。


「ねえ、何をしてるの?」


 やっぱり話し掛けられてる。これは鏡子さんか?


「今ちょっと取り込み中だから、後にして!」


 この状況が見えないかな。まともに返事が返せる訳がない。

 それよりも空気を読んで、この二人を止めて!


「そうですか。騒がしいから、みんな何をしているのかなって……」


「見て分からない? 揺さぶられてて、まともに返事できないんですけど、俺!!」


 もう調子狂うなー。

 鏡子さんがマイペースなのはいつも通りなんだけどさ。


「おい、少年……」


「リョウヤ、あれ……」


 俺を揺さぶっていた二人が目を剥いて何かに驚愕している。

 一体なんなんだよ。鏡子さんが変顔でもしてるのか?


「なんですか? 鏡子さんも変な事しないでくださいよ」


「私は何もしていませんが……」


 鏡子さんが普通に返事を返してくる。

 だけど、若干緊張した声音だ。


「リョウヤ! それどころじゃないよ!!」


「大変ですよ! セッキー君!!」


「エリカと先輩も、どうしたって言うんですか……」


 彼女らが指し示す方向を見ると、そこに知らない女の子が佇んでいた。



「何をしているの?」


 女の子は首をかしげている。

 第一印象は白だった。髪の色も服も白だ。まるでシーラと正反対だ。

 だけど、その紅い瞳には感情の光が無かった。


「ねえ、何をしているの?」


 女の子が再び尋ねてきた。


 ……これ、どうするの?

 周囲を見ると、全員の視線が俺に集中している。書架の裏に隠れている神様ですらだ。

 面倒な事は全部俺に丸投げかよ……。

 観念した俺は溜息を吐きつつ、大袈裟に頭をかきながら答える。


「うるさくしてごめんね。俺達はここに不思議な鏡があると聞いて調べに来たんだ。俺はリョウヤっていうんだけど、君は誰だい?」


 女の子は人差し指を顎に当てて、少し考える素振りを見せた。

 正体は聞かなくても分かりそうな物だが、ただの迷子って可能性もあるよな。


 ……確率は相当低そうだけど。


「ううん。賑やかなのは久しぶりだったから気にしない。私は、そこの鏡の……精霊? 的な物かな」


 やはりそうか。

 それにしても、鏡子さんとエリカの仲間がまだいたんだな。

 彼女の鏡は見た感じ、鏡子さんとエリカの鏡よりも随分と古そうな感じがする。


「そうなると、貴女は私とエリカさんの親戚みたいな物でしょうか」


「アタシがエリカで、こっちはキョウコだよ。それで、アンタの名前は?」


 白い女の子は、鏡子さんとエリカを物珍しそうに見つめた後にこう答えた。



「わたしはメア。自分を探しているの」



 その名前を聞いた途端、エリカの表情が強張った。

 メア……確かディナントさんが言っていたな。エリカの元になったオリジナルの鏡の精霊だと。


「アンタ、本当にメアなの……!?」


「そうよ。あなた、よく見たらわたしの妹ね。そちらのあなたは……わたしの同類って感じかしら?」


 メアと名乗った女の子の話について行けないテルアイラさん達は、怪訝な表情を浮かべている。


「少年、なんの事か分かるか?」


「リョウヤ、お主はまた何か隠してるのだろう?」


「もったいぶらずに教えてくださいよう」


 そんな彼女達に、ディナントさんやエリカから聞いた話をかいつまんで説明した。

 俺だって実際に見てきた訳じゃないから、あくまでも伝え聞いた話でしか教えられない。



「ほほう。だとすると、あのメアって少女は古い鏡の精霊なのか」


「それにしても、古代魔法王国の時代の物だというと、あのディナントと同じくして時を超えた存在なのだろうか……」


「気になるのですけど、あのメアさんは、キョウコさんやエリカさんと違って、感情が無いように思えませんか?」


 アンこ先輩は鋭いな。さっきから感じていた違和感はそれだ。

 彼女は一体どうしてしまったのだろう。

 鏡子さんはともかく、エリカが感情豊かなので、余計にそう感じる。

 ディナントさんは、メアの事を物凄く褒めていた気がする。

 こんな感情が無さそうな子が、そんなに褒められる程の存在だったのだろうか。



「ねえ、君はメアだっけ? どうしてここにいるんだ?」


 鏡子さん達と話し込んでいたメアに声を掛けてみる。

 気のせいか、エリカは沈んだ顔をしているみたいだが……。


「自分を探しているうちに、ここに迷い込んでしまったの」


「さっきも言っていたけど、自分探しって?」


 まさか就職したくない学生や早々に仕事を辞めた人が、自分探しと称して旅に出てるとかじゃないよな。


「わたしね、心と身体をいじられてバラバラにされてしまったの。バラバラにされた身体は、どうにか元に戻ったけど、心だけはどうにもならなかったの」


 一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。

 言葉通りに受け取ると、文字通り本当にバラバラにされてしまったのか……!?


「バラバラって……一体誰にそんなひどい事をされたのですか?」


 先輩が悲痛な表情でメアに尋ねる。

 その問いに、メアが再び人差し指を顎に当てて首をかしげる。

 これが普通の女の子だったら、可愛らしいと思える仕草なんだけど。


「学者の先生かな? その人達が、わたしを研究して解析したいって言ったから協力してあげたの」


 まるで他人事のように淡々と答える。本当に感情が無いのだろうか。


「協力してあげただって!? それでそんな事をされて、お前は悔しくないのか?」


「わらわだったら、恨んで恨んで恨みまくる。末代まで呪ってやるぞ」


 テルアイラさんとシーラが自分の事のように怒っている。

 ただの実験体みたいに扱われただなんて、そんな話を聞いたら俺だって腹が立ってくるよ。

 この事は、ディナントさんは知っていたのだろうか……。


「心がバラバラになってしまったから、もう何も思わなくなっちゃった。それでね、やっと見つけた。このエリカはわたしの心の一部から作られた妹なの」


 メアの言葉にエリカの体に緊張が走ったように見えた。

 その隣でエリカの肩を抱き寄せる鏡子さんは、険しい顔のままだ。


 ……何か嫌な予感がする。そんなのは気のせいであってほしい。


「まさかとは思うけどさ、エリカから心を取り戻す気なのか?」


 その答えを知りたくは無いが、俺は聞かずにはいられなかった。

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