228 それはご想像にお任せします☆
疲れた。激しく疲れた。
それもこれも、あの子供の姿になる薬の副作用である。
マリアンヌ先生との模擬戦やら色々と頑張ってしまったのだが、それも薬の影響だったみたいだ。
自分でも、なんであそこまで戦いにこだわったのかが不思議だったんだよな。
行動的になる代わりに、薬の効果が切れた時は反動でこんな風になるとか聞いてないよー。
昼食後に食堂のテーブルに突っ伏していると、声を掛けられた。
「リョウヤ、何をやってるんだ?」
「ああ、レイズか。今日は疲れて動けないんだよ」
「なんだそりゃ」
そんなこんなで、当たり障りのない世間話を交わしていると、レイズの背後から何やら不満そうな狼耳の獣人の男子が顔を出した。
えっと、確かレイズのルームメイトのラスって奴だったはず。
そいつが俺に話しかけてきた。
「あのさ、前に俺が頼んだ事って覚えてるよな?」
「頼み……?」
なんだろう。こいつとは殆ど話した記憶もないんだけど。
本気で悩んでいると、レイズがこっそりと耳打ちしてくる。
「ほら、前に頼んだじゃないか。合コンのセッティングを頼むって……」
「ああ、合コンの話ね! 思い出したよ!」
図書館でテスト勉強してる時、レイズにそんな事を言われた記憶が甦った。
あれから色んな事があり過ぎて、完璧に忘れてたわ。
「あ、バカ! デカい声で言うな! それと合コンじゃなくて交流会な。交流会」
ラスが慌てて訂正する。
よく分からないが、合コンという名目だと色々と都合が悪いらしく、交流会という形で予備校側に多目的スペース使用の申請をしてるそうな。
「それでさ、女の子は集められるのか? いつもお前がつるんでる女子とかレベル高いんで、紹介してもらいたいんだけどさ」
あー。そんな話だったよなぁ。
ロワりんやアンこ先輩達を紹介するのは普通に嫌なんだけど、他に女子の知り合いなんていないしなぁ。
被服学科のテルノやアイシャさん達にお願いなんて論外だし。
特にテルノなんて、こういう出会い系のイベントは絶対に嫌がりそう。
まあ、あくまでも『交流会』なんだし、部屋に戻ってみんなに聞いてみるかな……。
◆◆◆
「そんな訳なんだけどさ、交流会ってどうかな?」
その日の夕方、メンバールームに集まったみんなに先程のいきさつを説明した。
「ふむ、交流会か……正直、私は人見知りだから不安だな。だが、セッキーの頼みなら吝かではないぞ」
おお、ミっちゃんがやる気だぞ!
「私はミっちゃんと違って、人見知りはしないから全然OKだよ☆」
安定のコミュ強ロワりんさんでございます。
「交流会なら、普段は話す事の無いような方達とお話するのが目的でしょうから、わたくしも参加で構いません」
今日のメルさまは素直で逆に怖い……。
それにしても、三人はあっさりと承諾してくれたな。
意外と人との交流に飢えているのだろうか?
「ボクも構わないよ。でも交流会って、どんな話をするんだろうね?」
ピアリは女として参加するんだよな……?
「セッキー君が参加するなら、私も参加しますよ。古代史の話が好きな方は来るのでしょうか?」
「わらわはアンが心配なので参加してやろう」
アンこ先輩はシーラがついているので大丈夫そうだ。
問題は精霊二人組である。
「その交流会に私達は参加できるのでしょうか?」
「人間じゃないからって、アタシ達を仲間外れにしないでよねー?」
ぬう、困ったぞ。
流石に鏡子さんとエリカはどうなのだろうか。
もの凄く期待した目で見てくるし……。
ここで断ったら可哀想だよな。
「構いませんよ。人数が多いほど賑やかになるだろうし」
思わずOKしちゃったけど大丈夫だよね? 知らないけど。
呆気ない程、簡単にみんなの参加が決まってしまった。
他に参加するのは、レイズが連れてくるノノミリアぐらいだろうか。
ちなみに、リリナさんは職員なので今回の件は伝えてない。
あくまでも、学生同士の交流会だからね。
鏡子さんとエリカは学生なのかって? そんなの知らんがな。
そんなこんなで、みんなが参加する事をラスに伝えると、それはそれはもの凄く喜んでいた。
既に結果が分かっているだけに、なんだか申し訳ない気になってしまった。
それから数日後の休日。
予備校内の多目的スペースに俺達は集まっていた。
ここは主に会議や発表会に使うような、そこそこ広い部屋だ。
部屋にはちょっとした料理や飲み物等も用意されていて、さながら立食パーティー会場だった。
この費用って、主に誰が出してるんですかね?
怖いから考えるのはやめておこう。
「お、流石にミっちゃんも制服で来てたか。うん、やっぱ似合うよ」
「なんだよ。褒めたって何も出ないからな、セッキー」
そう言って、彼女は恥じらいながら蹴ってきた。
照れ隠しで暴力を振るうのは、今時流行りませんぜ。
「おやおや、早速セッキーとミっちゃんが見せつけてくれるじゃないか〜☆」
「とても初々しくて、見ているわたくしまで気恥ずかしくなってきますの」
ロワりんとメルさまは煽らないでください。
ミっちゃんが余計に暴力的になります。
とか思ってたら、隣のレイズとノノミリアも似たような事をしてる。
こちらは照れ隠しとかじゃなくて、付き合わされたノノミリアが怒ってる感じだ。
「あたし達を呼び出しておいて、自分らは遅れるってあり得なくない? どうなってるのよ、レイズ!」
「いってえな、本気で蹴るなよ!!」
ノノミリアもまた随分と腰の入ったローキックだなぁ。
あいつ、魔法無しでも冒険者としてやっていけるんじゃないか?
そんな事を思いながら、他のメンバーを見てみる。
ピアリは女子として参加で、早速シーラと一緒に勝手に飲み食いを始めている。
アンこ先輩は……なんかすごい量の資料を持ってきてるのだけど。
もしかして、本気で古代史を語るつもりなのだろうか。
鏡子さんとエリカはメイド姿で、給仕として潜り込んでいるつもりらしい。
それから程なくして、ラスと数人の男子達がやってきた。
「遅れて悪い!! ちょっと支度に手間取って……」
彼らの姿を見て、思わず仰け反ってしまった。
ラスを含め、男子達が何故か全員タキシード姿なのだ。
しかも、まったく似合っていない。
あれだ。気合いを入れすぎて、空回り全開しちゃってるパターンだ。
女子達もその姿を見て呆れている。
一方、男子達はテンション上がりまくりである。
「おー!! 全員レベルたけーなー!!」
「メイドさんもいるぞ!!」
「今日は気合いが入るぜ!!」
盛り上がる彼らが不憫に思えてきた。
「えー、本日はお忙しい中、お集まりいただきまして……えっと面倒くさいんで、取り敢えず、かんぱーい!!」
ラスがよく分からん挨拶を始めて、そのまま乾杯の流れになった。
瞬時に男共が肉食系の顔つきに変わる。
ラスが連れて来た男子達は冒険者を目指す奴らだ。早い話が体育会系で、無謀にも女子達にグイグイ攻めていく。
「キツネのお姉さん、美人っすねー! その眼鏡もお洒落ですね。どこで買ったんですか?」
開始早々、ブレザー姿が似合うミっちゃんが話し掛けられている。
いざとなったら助けに入るつもりだが、頑張って人見知りを克服してほしい。
「えっと、あの……その……もう無理!!」
いきなり半泣きで部屋の隅に行ってしまった。
残された男子はポカンとしている。
「キミ、よく見ると品があって綺麗だね。どこかのご令嬢だったりするの? なんなら俺がプライベートでも護衛役になっちゃうぜ?」
お次はメルさま狙いか。
内輪以外に対しての外面はいい彼女が、どう反応するのか見物である。
「ええそうですの。ですから、庶民の方がわたくしと会話するのなら三十秒につき銀貨一枚をいただけないかしら? それに護衛役を申し出るなら、せめてBランク以上の冒険者になってからお願いします」
「…………」
メルさまも容赦ねえなぁ。最初から相手する気ないだろ。
それと会話三十秒につき銀貨一枚って、どんな阿漕な店なんだよ。
「その銀髪、可愛いね。見掛けない顔だと思うんだけど、どこの学科に所属してるんですか?」
次はピアリ狙いか。
大丈夫だと思うけど、基本優しいから強く迫られたら断れないタイプなんだよな。
「それは秘密かなぁ」
「そんな事言わないで教えてくださいっすよー」
「それは秘密。ボクは謎の多い女なんだ」
「それなら──」
「秘密」
取り付く島もございません。
ピアリは俺が入学する前の事件の影響で、グイグイ迫ってくる系の奴には良い印象が無いらしい。
見事な塩対応である。俺がされたら本気で泣くかも。
「二人は小さくて可愛いね。俺、妹がいるんで、なんだか親近感が湧くな〜。抱っこしてあげようか?」
今度は先輩とシーラ狙いだと!?
あいつ、色んな意味で勇気のある奴だなぁ。
「妹って……」
「無性に腹が立つが、ここはリョウヤの顔を立てて我慢してやる」
「何か言った? お二人ちゃん」
「……いえ、何も言ってませんよ。ところで、あなたは古代魔法王国よりも古い時代の遺跡で発掘された、この土器をご存知ですか? これは焔を模した物らしいのですよ。大昔の人達の想像力はロマンに溢れていますよね」
「…………」
「お主、アンがせっかく解説してるんだ。真面目に聞かないと許さないからな」
先輩が資料片手に何か熱く語り始めてしまったので、そっとしておこう。
「メイドさん達って、普段はどこの店で働いてるんですか? 今度その店に行きますよ!」
「俺も俺も! 裏オプションとかあるんすかね!?」
これまた強者達の登場である。
よりによって、鏡子さんとエリカ狙いとか無謀にも程がある。
「働いてもいませんし、そのようなサービスもありません。それよりも、お二人は肉体関係を結んでいるのですか? どちらが攻めで受けなのですか? 男性同士でも避妊具は使うのですか? その辺りをぜひとも詳しくお聞きしたいのです」
「「…………」」
「キョウコ、この二人固まっちゃったよ?」
もう何も言うまい。
一方、レイズとノノミリアは我関せずといった感じで、食事を楽しんでいる。
なんだかんだで、やっぱり二人は仲が良いじゃないかよ。
他のみんながこんな感じなので、必然的にコミュ強であるロワりんのところへ男共が群がっていた。
なんとなく、サークルの姫って思ってしまったのは秘密である。。
「えー? 彼氏がいるかって? それはご想像にお任せします☆」
「教えてくださいっすよ〜」
「んーと、そういう事を教えるのは、もう少し仲良くなってからでいいかな?」
「え〜、そんなこと言わずにさ〜」
「俺達、もう仲良しじゃーん」
あれはチヤホヤされて満更でもない顔だな……。
ちょっとムカついてしまった。
そんな俺の視線に気づいたのか、ロワりんが軽く手を振ってきた。
……ロワりんって、確実にサークルクラッシャーの素質があるよな。




