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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第六章

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201 随分なご活躍だったみたいじゃないか

いきなり誤字だらけだったので修正しました。

 王都への帰路は随分と静かな物だ。

 疲れがどっと出たのだろうか、俺が運転する魔導力車の後部席ではみんな寝てしまっている。

 隣に座るディナントさんも何かずっと考え事をしているみたいで、目を閉じて一言も発さない。

 寝てるのかと思ったら、『何か用かい?』と目を開けるので寝てはいないらしい。

 それはそれで、すごく居心地が悪い。


 ……しかし暇である。

 運転しておいて暇というのもアレだが、話し相手が欲しい。

 馬で並走するケフィン達に話しかけるのもちょっとなぁ。

 そういえば、鏡子さんに託した手紙は無事に届けてもらえたのだろうか。

 本日王都に帰還する旨や、改めてディナントさんに関しての事を手紙に書いておいたのだ。

 その手紙をベルゲル先生経由でメディア校長に渡してもらうように頼んでおいた。


 それからしばらく経った頃、休憩中に携帯用のコンパクトミラー経由で鏡子さんから連絡があった。


「手紙は無事にお渡ししました。リョウヤさんには冒険者予備校に戻り次第、ディナント氏を連れて校長室に来てほしいとの事です」


「ありがとう鏡子さん。了解した旨を伝えておいて下さい」


「承りました」


 ところで、鏡子さんはメイド服着るのはもうやめちゃったのかな。

 あれ結構好きだったのにな。

 本人曰く、作品作りの為の雰囲気作りと資料集めの一環だったらしいけど。


 しかし、帰ったら早々に呼び出しかー。

 気が重い。セイランさんやフィルエンネ達の事も気になるけど、サヤイリスやディナントさんの件がメインなんだろうな。

 特にサヤイリスの場合は政治的な事だから、俺にはどうしようもないけどさ。

 ……でも、ここで彼女に恩を売っておけば竜牙の谷に行けるのだ。

 ちょっとずるいけど、利用できる物は利用しておかないと。




 結局、王都へ戻ったのは夕暮れ過ぎであった。


 ケフィン達は馬の返却と冒険者ギルドへ護衛依頼の達成報告の為、ここでお別れだ。


「僕達はこれで失礼するよ。ではまた」


「俺も結構楽しかったぞ」


「また機会がありましたら、ご一緒しましょう」


 手を振るケフィン、ゲンゲツさん、レイメイさん達を見送る。

 ノノミリアとレイズとも彼らと一緒に去って行く。


「みんなもまたねー!」


「リョウヤー! 明日ヒマだったら先輩達と何か食いに行こうぜー」


 レイズが手をブンブンと振っている。元気が有り余ってるなぁ。

 俺はそれに手を上げて応えた。



「ずっと一緒にいたので、お別れすると急に寂しくなりますね……」


 アンこ先輩が俺の服の袖をギュッと掴んでいる。


「そうですね。また明日会えるのに、なんだか変ですよね」


 まるで合宿のように、みんなで一緒に過ごした短くとも濃密な時間は、俺達の中で大切な思い出になるだろう。


 今度はその足で先輩の家に向かう。

 高台の高級住宅街までなら、魔導力車であっという間だ。


「あの、せっかくなので、私の家で夕飯を食べていきませんか?」


 先輩から嬉しい申し出があったのだが、俺はまだやる事があるのだ。


「先輩、ごめん。俺はディナントさんと一緒に校長の所へ行かないといけないので……」


「あ、ごめんなさい……。無神経な事を言ってしまいましたね」


 気にしないでください、と言おうとした時だった。


「あー、ずっと座りっぱなしだったから腰が痛いよ!! という事で、セッキーお疲れ☆」


 ロワりんが豪快に伸びをしながら魔導力車から降りていく。

 くそう、いきなり裏切者が現れやがった! 俺も先輩の家で夕飯をご馳走になりたいのに!


「セッキー、お疲れさん。後は任せてくれ」


「お疲れ様でしたの。セッキーさん」


 ミっちゃんとメルさままで!?

 一時は険悪になり掛けた二人が息の合った動きで降りた。


「リョウヤ、お主の分までご馳走になってくるからな」


 シーラのやつめ、さも当たり前の顔しやがって……。

 まあ、すっかり元気になったからいいか。


「なんかゴメンね、リョウヤ君」


 ピアリも悪いと思うなら残ってくれてもいいんだぞ?

 まさかとは思うけど、リリナさんも?


「私は今回の報告書の提出があるんだった……。面倒くさいよう。でも今日中にやらないと……」


 お疲れ様です。一緒に校長に叱られましょう。


「セッキー君、本当にごめんなさい……」


「先輩、気にしないでくださいって。ご両親も心配してるでしょうから、早く元気な顔を見せてあげてください」


「はい。そうさせてもらいますね」


「……あれ? 先輩、その膝どうしたんですか?」


「これですか? 休憩の時に少し転んでしまって……」


 擦りむいたのか、先輩の膝が少し赤くなっている。

 えっと、まだ回復薬ってあったかな?


「大丈夫ですってば! こんな傷で回復薬なんて使ったらもったいないですよ!」


「そうですか? なら、いいんですけど……」


「セッキー君は心配性ですよ」


 俺が余程不安そうな顔をしていたのか、先輩が努めて明るく振る舞いながら、ふにゃっと笑って大丈夫だと頷いた。

 少し心配し過ぎだったかな。


「じゃあ、気をつけてくださいね……って、もう家の前ですけど」


「はい。ありがとうございました」


 先輩達と別れ、冒険者予備校へ向かう。

 みんなの荷物は一旦鏡子さんの部屋に置かせてもらい、後で各自回収する事にした。


 そして、導力車を冒険者予備校の裏手に停めて今回の旅は幕を閉じる。

 このまま部屋に戻ってさっさと横になりたいが、まだまだやる事はあるのだ。


「学生パーティーの顧問なんて、引き受けなければ良かったよう……」


 リリナさんが身も蓋も無い事を言いながら、重い足取りで部屋に帰って行く。

 頑張ってください。

 そう心の中で応援して見送る。


「私が最後だね。これから紹介してくれる人の所へ向かうのだろう?」


 最後にディナントさんだ。

 この人を連れてメディア校長の所へ行かねばなるまい。




  ◆◆◆




「失礼します――」


 俺が校長室のドアを開けた途端である。


「おにいちゃん!!」


 突然抱きついてきたのは、フィルエンネだった。

 まったく訳が分からない。


「……え? あれ? どうしてここに?」


「私達も一緒ですよ」


 そこにはセイランさん、アストリーシャにレイナさんも揃っていた。

 それにサヤイリスまで。

 盗賊団に捕らえられていた彼女達全員が集まっている。


「随分なご活躍だったみたいじゃないか。リョウヤよ」


 校長が笑みを浮かべながら皮肉った言い方をする。

 うむ。これは微妙に反応が読めないぞ……。

 いきなり罵倒された方がまだ分かりやすい。


「いやぁ、今回のリョウヤ君の無茶振りには本当に参ったね」


 アーヴィルさんが困った表情で肩をすくめる。

 この度は、大変ご迷惑をお掛けしましたでございます。


「リョウヤ、お前には言いたい事が山ほどある。だが、それは後回しだ。……それで、そちらが例の講師にしたいという学者だな?」


 校長がディナントさんに目を向ける。

 手紙にはディナントさんが古代魔法王国の生き残りだと正直に記しておいた。

 最初は単なる学者としておこうと思ったけど、下手に隠し立てしても後でバレそうだし、面倒事は最初に片づけておいた方が良さそうだ。


 だが、肝心のディナントさんが固まってしまっている。どうしたんだ?

 サヤイリスの事を見ているのか?

 確かに真っ赤な髪は目立つし、竜牙族自体が珍しい種族なので、驚くのも分からなくはない。


「……私の顔に何か?」


 流石にサヤイリスも怪訝な表情を浮かべている。


「君は、ティアリリス……なのか?」


「いいえ。私はサヤイリスと申します。残念ながら人違いでしょう」


「……そうか。すまない」


 何か事情とかありそうな感じだな?


「いえ、構いません。ところで、御仁はティアリリス様をご存知なのですか? 彼女は私達、竜牙族の始祖様と言い伝えられている方です。彼女は燃えるような赤い髪だったそうで、赤い髪の私は彼女の名前にちなんで名付けられました」


「……遠い昔、その名の知り合いがいたんだ。君は良い名前を付けてもらったんだね」


 それだけ言うと、彼は学者に変装する時の丸眼鏡を外し、メディア校長とアーヴィルさんの方へ向き直った。


「私はディルガント・ウラル・アムナウォートと申します。訳あってこちらでご厄介になりたく、リョウヤ君にお二人のご紹介をお願いした次第です」


 彼はそう言って、深々とお辞儀をした。

 ……なんだろう。妙に品があるというか、もの凄く様になっている。

 それにディナントは偽名だったのか。まったく、彼については謎だらけだ。


「私達だけで彼と話がしたい。リョウヤは向こうで、お嬢さん達の相手をしていてくれ」


 早々に校長から追い払われてしまった。

 俺の立場って一体……。





「リョウヤさん。あなたのお陰で、私も王都で新たな仕事を見つける事ができました」


「おにいちゃん、ありがとう」


 フィルエンネと手を繋いだセイランさんがお礼を言う。

 無事に彼女に仕事が見つかって良かった。


「私はお城で働く事になったっスよ! リョウヤ君のお陰だよ!!」


 アストリーシャは城勤めとな。

 アーヴィルさんは、一体どういうコネで城に送り込んだんだろう。


「私も無事に挨拶回りを終え、ルーデンの街の神社に向かえそうです。これもあなたのおかげですよ」


 レイナさんも巫女さんとして、あの神社で神様に奉仕できるみたいで安心したよ。

 シラオイさんとマキさんによろしくお伝えくださいと、お願いしておく。

 ミっちゃんの件もあったし、俺の名前を出したら雑な扱いはされないだろう。

 もっとも、あの人達がレイナさんにそんな扱いはしないと思うけど。


「リョウヤ殿。私も無事に国王との謁見が叶い、竜牙の谷に調査の為の兵を送ってもらえる手はずとなりました。これも全てあなたのお陰です。感謝します」


 サヤイリスも無事に目的が果たせたのか。良かった。


「俺なんか大した事してないよ。みんなが上手くいって良かった。本当にただそれだけだよ」


 そうして俺達は改めて再会を喜んだ。


 セイランさんは料理のスキルを活かし、冒険者予備校の食堂で働く事になったそうだ。

 これから食堂に行くのが楽しみになるな。

 住居は職員寮にフィルエンネと一緒に住めるとの事だ。


 フィルエンネだが、冒険者予備校に今度試験的に併設される初等部に特例で入学する話があるそうだ。

 頑張って勉学に励むのだぞ、と上から目線で思ってみる。


 アストリーシャは探知スキルが重宝され、城でメイドとして働くらしい。

 でも、なんでメイドに探知スキルが必要なんだろう?

 城の警備でもするのかな?


 レイナさんはミっちゃんの妖狐化についての報告をそれとなく誤魔化してくれるみたいだ。

 なんだかんだ言って、優しい人だな。見た目はミステリアスで謎っぽかったけど。


 サヤイリスは王国から派兵される兵達と共に、近いうちに竜牙の里へ向かうそうだ。

 兵達はしばらく現地に駐留して、越境してくるリザードマン達の様子を見て対処するらしい。

 ゴタゴタが早く片付くといいな。


 そんな事を考えていると、神妙な顔のセイランさんが俺に何か伝えたそうにしている。

 よく見ると、他のみんなも真面目な顔だ。



「どうしたんですか?」


「あの、この子の事なのですが……」


 セイランさんがフィルエンネの頭を優しく撫でるように触れる。


「フィルエンネに何か問題が?」


 まさか、魔物化してしまった事から、色々と調べさせろと言われたのだろうか。

 こんな小さな子に、それは酷すぎる。


「いえ、なんと言ったらいいのでしょうか。私達が王都に向かう途中、突然この子に光が降り注いだのですよ」


「光……ですか?」


「綺麗だったっスよ! こうキラキラして!」


 何やらアストリーシャが興奮して身振り手振りで表現しているが、さっぱり分からん。


「あれは恐らく、神の祝福かと思います」


「確かに神々しかったですね」


 レイナさんとサヤイリスが頷く。

 しかし、神の祝福とな?


「えっと、何故それを俺に……?」


「はい。この子は寝ていたのですが、寝言でリョウヤさんが祈ってくれたからと言っていまして。何かご存知ではないかと……」


「私、よく覚えてないけど、夢の中ですっごく綺麗な女の人に会ったんだよ!」


 これは確実に女神エルファルドの仕業だろうな。

 まさか、本当に祝福を与えるとは。正直に話したら大騒ぎになるかもしれない。

 そうそう簡単に神の祝福を得られる訳でも無さそうだし。

 ありがたいけど、もう少し目立たないように自制してほしかったよ。


「えっと、俺にもよく分かりませんねー。あはははー」


 取り敢えず、笑って誤魔化しておいた。




「リョウヤ、こちらの件は全て済んだ。ディルガント氏をこの冒険者予備校の臨時講師として受け入れる方向で話を進めよう。そして、お前は明日私達と一緒に城へ行ってもらう」


 丁度良いタイミングで校長から呼びかけられた。

 ディナントさんの件は上手く話がまとまったみたいだが、城に行くって……。


「流石に今回は、私の権限ではどうにもならなかったからね。サイラントにも結構無理を言ってお願いしているから、君も一度直接話をした方がいいと思う」


 アーヴィルさんが申し訳ないという感じでお願いしてくる。

 お願いされるよりは、最初から命令だと言ってくれる方が気が楽なんだけどね。


 明日はレイズと約束した飯食いに行く話は駄目になりそうだな……。

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