19 キミのあだ名をつけてあげるよ☆
気付いたら、何もない真っ白な空間にいた。
俺は夢でも見ているのだろうか。
困惑しつつ周囲を見渡していると、どこからともなく声が聞こえる。
「やっと繋がったよー。どうだい? 上手くやってるかい、リョウヤ君」
聞き覚えのある声だった。
どこで聞いた声かなぁと考えを巡らせていると、ようやく思い出せた。
「神様なのか!? 今までどこにいたんですかね! こっちは危うく殺されかけたりとか大変だったんですからね!! 早くスキルとか便利アイテムとかお願いしますよ!!」
思わず文句も言いたくなる。
神様がうっかりしてなければ、今頃はチート能力で冒険の日々だったはずだ。
……だけど、それだとピアリやリリナさんにも出会わなかったかもしれないので、神様のうっかりに感謝するべきなのだろうか。
「ああ、その事なんだけどさ。もう手遅れで駄目みたいなんだよね。ホントごめんよ」
姿は見えないが、神様が申し訳なさそうな声で謝っている姿が容易に思い浮かぶ。 だからって、ごめんで済まさないでくれよう。
「でもさ、魔力の方は結構いい感じになってるみたいだし、まずは一人を助けたじゃないか。もうちょっと頑張ってみてよ。見守っててあげるからさ――っと、そろそろ交信も限界みたいだ。それじゃ!」
あ、おい! 待ってくれ……!!
唇に柔らかい物が触れた感触がして目が覚める。
寝ぼけ眼で辺りを見回したら、頬をほんのり染めたリリナさんがすぐそばにいた。
「おはよう、リョウ君。今日は入校式でしょ? お姉ちゃんが寝坊しないように起こしに来ましたよ」
「そうか! 今日は入校式だった! 起こしてくれてありがとうございます!!」
慌てて飛び起きる。
つい先日までのバタバタで、今日の事をすっかり忘れてたよ。
「それじゃ、これに着替えてね」
洗面台で顔を洗い終えた俺に手渡されたのは、腕と足の部分に白のラインが二本入っている臙脂色のクソダサいジャージだった。
……なんだろう、このじわじわ来るダサさは。
デザインはともかく、色もどうにかならなかったのだろうか。
「これ、なんですか?」
思わず聞いてしまった。
「冒険者予備校の制服よ。新入生の着用は義務だからね」
なんてこった。こんなの着たくないんですけど……。
ピアリは私服だったから、上級生になったら着なくていいルールなのかなぁ。
軽く絶望していたら、リリナさんが着替えまで手伝おうとしてきた。
「そこまでは甘やかし過ぎですってば! 後で他の事で甘えさせて下さい!」
このままでは異性として扱ってもらえなく、本当に弟にされてしまいそうで恐ろしい。
俺もしっかりしなくてはいけないな。
「後でちゃんと甘えてよね」
可愛らしく口を尖らせて残念そうに部屋から出ていくリリナさんを見送り、身支度を素早く済ませて食堂に向かう。
しかし、とんでもなくダサいジャージだな。
だけど、無駄に着心地がいいのが余計に腹が立つ。
食堂に着いて周囲を見渡すと、ほとんどが在校生なのか私服の生徒ばかりだった。
王都内の自宅から通う生徒は、わざわざここで食事をしないだろうから、単純に寮で暮らす新入生が少ないのだろうな。
「おーい、リョウヤ君~」
そんな事を考えていると、俺を呼ぶ声が聞こえる。
声がする方を見たらピアリが手を振っていたので、カウンターで朝定食を受け取ってピアリの方に向かう。
忙しい時間帯で厨房が戦場みたいだったので、あのおばちゃんの姿は見付けられなかった。
リリナさんの件で、お礼を言いたかったのだけどな。
ピアリがいるテーブル席に向かうと、他に女子が三人座っていた。
それぞれ美人というか、美少女だ。
その彼女達に向けて、ピアリが俺の事を紹介する。
「みんなに紹介するね。こちらがボクのルームメイトのリョウヤ君」
ピアリの友達かな?
三人とも会釈してくれたので俺も会釈する。
「えっと、新入生のリョウヤ・セキです。ピアリには大変お世話になっております。皆さん、よろしくお願いします」
最初の挨拶は大事だよな。三人とも先輩っぽいし。
「それで、彼女達が同期のミっちゃん、ロワりん、メルさまだよ」
ピアリが彼女達を紹介してくれるが変な名前だな。あだ名とかかな?
「ふむ、中々礼儀正しい少年だな」
キツネ耳の獣人で、ミっちゃんと呼ばれた眼鏡の女の子が感心している。
彼女も俺と同じジャージを着用していた。
それにしても少年って、俺とそんなに年齢は変わらないんじゃないのかなぁ。
「普通にマトモだったね。これじゃボコボコにできないや……」
ツインテールで、どことなく地雷系を思わせるロワりんと呼ばれたエルフの女の子が、何か物騒な事を言っている。
「そうですね。これなら安心してピアっちさんの事をお任せできそうですの」
メルさまと呼ばれた、ゆるふわ巻き髪でいい所のお嬢様っぽい女の子にピアリを任されてしまった。
と言うか、『ピアっち』はピアリの事なのだろうか。
その当の本人は、自分が褒められたみたいに満足気な顔をしている。
そんなピアリを見て、ちゃんと仲が良さそうな友人達がいた事で俺はちょっと安心した。
そして、安堵する俺をロワりんと呼ばれたエルフの子が興味深そうに観察している。
なんだろう?
「ところでさ、キミのあだ名を付けてあげるよ☆」
いきなりニックネームかよ。
昨今ではいじめの対象になるから、学校であだ名禁止とか無茶苦茶な決まりが作られようとする時代だぞ……って、ここは異世界か。
「リョウヤ君。ロワりんは、とても素敵なあだ名を付けてくれるんだよ」
ピアリが嬉しそうに言う。
そっか。お互いが愛称で呼び合うぐらいに仲の良い間柄なんだな。
あだ名を付けてくれるって事は、俺も早速彼女達に認められたってことだろうか?
「う~ん。リョウヤ・セキかぁ。わざわざ苗字まで名乗るんだから、思い入れがある苗字なのかな?」
「いえ、普通にフルネームで名乗っただけなんですけど……」
「よし! キミは今日からセッキーだ☆」
……ちょっと待って。それはなんか凄く嫌だ。
もう少しひねって命名してくれませんかね。
しかし、自分の中でその名が妙に馴染む気がしているが、断じて認めたくない。
「ふむ、セッキーか。良い名だな」
「素敵ですわね。セッキーさん。親しみやすく、妙にしっくり来る名前ですの」
既に彼女らの中で俺はセッキーで確定してしまった。
「私達のこともあだ名で呼んでいいからね☆」
ロワりんがウインクしてくる。
まぁ、悪い人では無いのだろうけど……。
「だから言ったでしょ。ロワりんは、素敵なあだ名をつけてくれるって」
ピアリが何故か自分の事の様に胸を張っている。
申し訳ないけど、まったく素敵だとは思わないんですけどね。
その後は、彼女達から色々な事を根掘り葉掘り聞かれてしまった。
俺としては、予備校生活での注意事項とかそういうのを聞きたかったのだけどな。
……あ、彼女達の本名を聞きそびれてしまった。




