1 一生付き合える友人や仲間を作りたい
俺の名はセキ・リョウヤ。広告関連の会社に入社して3年目だ。
広告関連と言うと聞こえはいいが、広告代理店の下請け会社の製作部で働いている。
新聞紙面や雑誌誌面の掲載広告、電車の中吊り広告に駅構内とかの大型ポスターとか自分が関わった仕事を見掛ける機会はよくあるが、あくまでも下請け。
代理店のデザイナーが作ってきた広告の大まかな版下のデータを印刷所に渡せる状態にまでするのが俺の仕事だ。
これが実際、面倒な作業だったりするのだが……。
印刷所には完成データを送信すればいいだけなので、無茶な納期で仕事が回って来て、帰宅は連日日付が変わる頃。
繁忙期は会社に泊まり込みもあったりする。
職場の先輩に聞いたら、昔はMOディスクやCD−Rといった記録媒体に納品データを入れてバイク便とかで送ってたそうな。もっと上の世代だとアナログの状態で納品していたとか言われても想像もつかない。
そんな感じの仕事を終え、今日もスーパーで買った半額の総菜を夕飯のおかずにして録画が溜まっているアニメとかを消化していたはずだったのだが、その辺りから記憶がプッツリと無い。
◆◆◆
「リョウヤ君って、見事に何の特徴もないよねぇ…。いや、駄目って事じゃないよ? でも、もうちょっとこうなんて言うか——」
目が覚めると周囲は何も無い真っ白な空間で、妙にラフな服装の神様を名乗る男にいきなりこんな事を言われた。
会って秒でダメだしとか、ひどくないか?
わざわざ言われなくても自覚してるけどさ、面と向かって言われるのは案外へこむもんだよ?
なんでいきなりこんな事を言われてるのかと言うと、早い話が俺は死んでしまったので転生させてもらえる事になったらしい。
散々使い古された異世界転生だけど、異世界と聞くとやっぱりテンション上がるよな!
それはそうと、なんだかこのやり取りに既視感があるんだよな……。
気のせいかな?
それはさておき。
目の前の自称神様が言うには、俺の死因は過労が重なって倒れてそのまま……って感じらしい。
にわかには信じられないが、死んでいる自分の姿の映像を見せられた。
見事にテーブルに突っ伏してるなぁと感心していると、会社の同僚がマンションの管理人と共に俺の部屋に入って来た。
そして、俺が死んでいる事に気づいて腰を抜かすシーンで思わず笑ってしまった。
不謹慎な話だが、それだけ現実味が感じられない。
でも本当に死んだとなると、仕事の引継ぎや他人に見せられないコレクション、PCの中身とかどうしようと急に不安になる。
部屋に呼ぶような友人もいなかったし。
家族が上手く処理してくれればと思うも、両親とは疎遠だったので絶縁状態。
唯一、たまにメールでやり取りしている遠方の姉に迷惑を掛ける事になるなぁ。
ま、悩んでも仕方ないか……。
気持ちを切り替えるために、ふと思った疑問を目の前の神様にぶつけてみる。
「こういう転生する場面って、綺麗な女神様が定番じゃないの?」
やっぱ絵面的にも女神様がいいよな。
神々しくて、優しく気遣ってくれるお姉さんみたいな女神様を希望したい。
むしろ所望したい。
「あー、転生や転移モノは君の世界でも結構メジャーなジャンルなんだっけ。確かに僕以外にも担当の女神はいるよ。でも、綺麗どころの女神が出張ってくるのは主役級の活躍が見込める人だけなんだよね。S級の冒険者にもなれるぐらいの有望株なら、女神が異世界に同行してサポートするなんてケースも聞いた事あるし」
いきなり身も蓋も無い話ですがな……。
「だからさ、君の場合はちょっと言いにくいのだけど、あんまり活躍が期待されてなさそうなので僕が担当になった……って、自分で言ってて僕も悲しくなって来たよ! 僕は落ちこぼれじゃないからね!」
落ちこぼれとかそんな事どうでもいいですがな。そもそも興味が無いし。
このいまいちパッとしないチャラい神様が出て来たって事は、俺はどうやら主役にもなれないモブ扱いになる運命なのか。
転生先でも何とか適当に生きられるといいなー。
「ま、まぁ、そんなに悲観的にならなくていいよ。ちゃんとお楽しみのチートスキルや便利アイテムは用意してるからさ。色々なのがあるよ〜」
え! 本当に!?
一気にテンションが上がって楽しみになって来たぞ。
チート武器で無双したり、チート魔法を駆使してマジックアイテムを作ったりとか一度やってみたかったんだよな。
「ところで、ちょっとしたアンケートなんだけど、君は転生したら何かやりたいことってあるかな? 例えばドラゴンや魔王を倒して世界を救う勇者になるとか、成り上がって男の夢のハーレムを目指すとか。まぁ、今回はそういうのは難しいかもだけど」
難しいのだったら最初から言わないでくれよ。一瞬期待してしまったわ。
でも考えてみると、俺は何がやりたいんだろう。
特に英雄願望もあるわけでもないし、ハーレムは憧れるけど恋愛経験が少ない俺にはハードルが高そうだ。
それならば彼女を作る……? 過去に手ひどく振られたトラウマを思い出しそうだ。
しばらく考え込んでみるが、ふと昔の記憶がよみがえる。
学生時代にみんなで下らない事で毎日盛り上がってた頃が妙に懐かしくなって来た。
もう離れ離れになって音信不通になってしまったが、みんな元気かなぁ……。
「……一生付き合える友人や仲間を作りたい」
思わず本音がぽろりと出た。
「そんな地味な事でいいのかい? 欲が無いんだね。それじゃ取り敢えず、君の転生先を決めて、と。……元からある知識やスキルに特筆事項も無いのでここは空白でと、異世界言語対応もチェックと。レベルやステータスはと——」
何やら神様が忙しなくタブレット端末みたいなのに触れて何かやってる。
なんだか夢のない転生の作業だな。
「よし、これで必要事項も登録完了っと。それじゃ、新しい世界でも頑張ってね!」
あれ? チートスキルとかアイテムは選ばせてくれないのかな?
「えっと神様、スキルやアイテムってどんなのもらえるんですか?」
気付くと自分の体が光り始めてきたので、不安になって聞いてみた。
「!? しまった! 入力し忘れたよ! えーっとスキルは……あぁっ! もう時間が無いから自分で何とかして——」
言ってるそばからこれかよ。
だから俺の担当になったのかなぁと思いつつ、周囲が光に包まれた直後に意識が飛んだ。