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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第六章

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188 私が妹になってあげるから

「この乗り物は一体なんなのだ!?」


 魔導力車を見たディナントさんが目を剥いている。

 これは異世界の知識を基にして作られた物だから、彼にとっても初めて見る物で驚いたのだろう。

 聞けば、古代魔法王国にも魔力で動く乗り物はあったらしいが、それは魔力で動く機械仕掛けの馬に引かせる馬車だったとの事。

 自動車という概念が有るか無いかの違いなのだろうけど、俺としては機械仕掛けの馬の方が気になるのだが……。


 魔導力車に乗り込むなりテンションが上がったのか、ディナントさんが子供みたいにはしゃぎ出してしまった。

 後部席から苦情が出たので、仕方なしに俺の隣の助手席に座ってもらう。

 入れ違いにリリナさんとアンこ先輩は後部席に退避だ。



「いい大人なんですから、そんなにはしゃがないでくださいよ」


「少年よ、そんな事を言ったって、こんな乗り物に乗って喜ばない奴がどこにいる? いつまでも好奇心を持つのがいい大人なんだぞ!! 分かるか!?」


 このグイグイ来るクソ面倒くさい感じの大人を俺は他に知っている気がするが、今はどうでもいい。

 それにしても、彼は一体どちらの姿が素なのだろうな。

 今の興味津々の学者風の姿なのか、遺跡でシーラに問い詰められた時に見せた冷酷な表情の姿なのか。

 俺の隣ではしゃいでる姿は演技だとは思えないが……。


 結局、遺跡を探索する事ができなかったので、夜には村に戻ってきてしまった。


「俺の親父は考古学者だから、遺跡を破壊した事は絶対に言わないでくださいよ? バレたら確実にブチ切れるから本当にお願いしますよ?」


「心得た。私は旅の学者だ。それ以外の何者でもないぞ、少年よ」


 何やら不安だけど、彼を信用するしかない。

 村に入ると、日帰りで戻ってきた俺達をいぶかしんだ親父に出迎えられた。


「どうした? 遺跡の調査はできなかったのか?」


「それがさ、遺跡が崩落したみたいで……」


「なんだとう!? それはすぐに現状調査に向かわねば!!」


 遺跡が崩落したと聞いて、慌てふためく親父の前にディナントさんが立った。


「あなたが少年の父親ですか! どうも初めまして! 私は旅の学者のディナントです! あなたの立派な息子さんに間一髪の所で助けられましたよ! とても優秀な息子さんですね! 正に命の恩人です!!」


 やけにテンションが高いディナントさんが畳み掛けるように親父に挨拶を始める。

 親父の方も、いきなり現れたディナントさんに目を白黒させている。

 よく分からないが、崩落する遺跡で俺がディナントさんを助けた事になっているらしい。

 親父も自分の息子が人助けをしたと聞いて、悪い気はしないのか、段々とディナントさんのペースに乗せられてるので不安になってきた。



「なんだか凄い事になってるね☆」


 呆然としていたら、ロワりんにまた頭を撫でられた。

 今度は素直に慰められよう。


 それから親父とディナントさんで考古学談議で盛り上がったみたいで、一晩中飲み明かす勢いだ。

 流石に母さんも客人の手前、見守っているが後でどうなる事やら。

 俺は付き合いきれないので、みんなの宿泊所として借りている家の方にお邪魔しているのだが、一緒にくっついてきた妹のルインが眠そうに目をこすっている。

 そろそろ寝る時間だな。


「ルイン、もう眠いなら家に帰って寝なさい。兄ちゃんが家まで送ってやるから」


「やだよー。みんなと一緒にいるんだもん」


 妹はすっかりみんなと仲良くなったみたいで、こっちで寝たいと言い出した。


「駄目だって、母さんに叱られるぞ?」


 我が妹ながら可愛くて仕方がないが、母さんから他のみんなに迷惑を掛けないようにと言われてるのだ。


「やだよー。ミっちゃんの尻尾をモフモフしながら寝るんだもん」


 ……なんですと。


「おい、ミっちゃん。これはどういう事だ? その尻尾で俺の妹をたらし込んだのか!?」


「人聞きの悪い事を言うなよ。別にたらし込んでないからな。妹ちゃんが物欲しそうな顔してたから、少し触らせてあげただけだぞ」


「ズルいぞ! 前にその尻尾をモフらせてくれるって約束したよね!? 俺を差し置いて妹にはモフらせるのか!?」


「当たり前だ! 男のセッキーと妹ちゃんとでは大違いだ! セッキーにそんな簡単にモフらせる訳がないだろ!!」


「お兄ちゃん、ミっちゃんの尻尾、凄くモフモフだったよ~」


 くそう! 嬉しそうなルインの笑顔が胸に突き刺さる!!

 羨ましくて悔しくて頭がどうにかなりそうだ!!


 そんな俺の顔が相当ヤバかったらしい。


「うわぁ、セッキーがヤバすぎて、セキこ二号もドン引きレベルだよ☆」


 ロワりんが失礼な事を言ってくるが、それよりも可愛い妹をセキこ二号呼びするとはどういう了見だ。


「確かにひどいな。これでは妹ちゃんの人格形成に悪影響が出るぞ」


 ミっちゃん、言っていい事と悪い事があるぞ。

 それと尻尾をモフらせろ。


「ルインさん、今夜はわたくし達と寝ませんか? 色々楽しいお話をして差し上げますの」


 メルさま、兄の前で堂々と妹を誘惑するのをやめてくれませんかね。


「……どうしようかなぁ」


 ルインよ、そこは迷う所ではないぞ。寝るなら兄ちゃんと一緒に寝ような。


「ね、ルインちゃん。魔法とかに興味ない? あたしが教えてあげようか?」


 まさかここでノノミリアがしゃしゃり出てくるとは!!

 まったく、油断も隙もないやつだ!


「ボクはキミのお兄ちゃんの秘密を色々知ってるよ。聞きたくない?」


 ピアリこんちくしょうめ! 一体俺の何を暴露してくれるんだ!?


「ゴメンね、お兄ちゃん。やっぱり今夜はお姉ちゃん達と寝るね」


 そう言って、ルインは勝ち誇った顔の女子達に連れて行かれてしまった。

 兄の立場は一体……。

 今宵は枕を涙で濡らすしかないのか。


 ……いや、俺には妹の代わりになる存在がまだいる!!





「セッキー君、ごめんなさい。流石に今それはちょっと……」


「リョウヤはふざけているのか? それは笑えない冗談だぞ」


 救いを求めてアンこ先輩とシーラに今夜一緒に寝ようと誘ったら、あっさり断られてしまった。

 妹成分が足りなくて、きっと思考もおかしくなっているのだろう。



「リョウヤ君、浮かない顔をしてどうしたんだい? せっかくだから、男同士色々と語り明かそうじゃないか」


 意気消沈していると、ケフィンが爽やかな笑顔で語り掛けてきた。

 だけど、何故か服を脱ごうとしている。

 続いてゲンゲツさんとレイメイさんも妙に爽やかな笑顔で迫ってきた。


「眠れないなら相撲でも取るか? 俺が手取り足取り腰取り教えてやるぞ」


「それでしたら、私が快眠のマッサージでもしてあげましょうか? 色々な所を揉んであげますよ」


 この人達、お酒飲んでるな……。


「いえ、そういうのは結構ですので、今日は遠慮しときます」


 急に身の危険を感じた。

 この状況では何をされるか分かったものじゃない。早々に退散だ。

 と思ったら、レイズに捕まった。


「頼むからセキこになってくれ! 朝まで抱きしめてやるぞ!!」


「ふざけんな! お前はもう黙ってろよ!」


 男共はもう駄目だ。一刻も早くこの場から立ち去らないと。

 俺は逃げるように自宅へ向かったのだった。





「妹よ、兄ちゃんは悲しいぞ」


 途中、思わず夜空を見上げると星が綺麗なのに何故か悲しくなる。

 落胆する俺の肩を背後から誰かが叩いた。

 振り返ると、リリナさんが優しい微笑みを浮かべて立っている。


「リョウ君、今夜はお姉ちゃんと寝ようか?」


「……すみません。妹がいいんです」


 リリナさんには申し訳ないけど、今はそんな気分になれない。


「だったらほら、私が妹になってあげるから。ね、お兄ちゃん!」


 そう言って、リリナさんがリボンで髪型をツインテールにしようとする。

 やめて! 痛々しくて見ていられない!!


「それは本当に勘弁してください! 一体何を考えてるんですか!?」


「何が気に入らないって言うのよ! お兄ちゃん!!」


 掴み掛かってくるツインテールのリリナさんと必死に抵抗する俺。

 どんな絵面だよ、これは。

 リリナさんとの押し問答を続けていると、誰かが近づいてくる気配がした。



「ねー、明日の事で言い忘れてたんだけど……って、二人とも何やってるの?」


 そこへやって来たのはロワりんだった。

 そして、俺達を見て固まっている。

 掴み合う俺達も固まる。


「…………」


「ちょっと! ロワリンダ! なんで無言で立ち去ろうとするのよ!!」


 そこは何も言わないで立ち去ってくれるロワりんに感謝しましょうよ。


「……いや、お邪魔だったかなって。というか、何その髪型? 私の真似?」


「違うわよ! 今の私はリョウ君の妹なの!!」


 ロワりんが可哀想な人を見る目で俺を見つめる。

 悲しくなるから、そんな目で見ないで!


「違うって、これはリリナさんが勝手にやってるだけだってば!」


「リョウ君ひどい! 私の事を散々もてあそんだくせに!!」


「何を言ってるんですか!? 俺はそんな事してませんよね!?」


 もうこれ修羅場だろ。

 いい加減に頭を抱えたくなってきた。



「あー、なるほどね。分かった分かった」


 何やらロワりんが訳知り顔で頷いている。

 一体何が分かったのだろう。


「あのね、今のリリナはお酒に酔ってるだけだよ。飲んでも顔に出ないタイプだから、分かりにくいんだよね。凄い絡み酒だから頑張ってね☆」


 それだけ言うと、ロワりんはさっさと引き返してしまった。

 しかし、リリナさんもお酒を飲むんだな。

 飲んでるところを見た事が無いので、少し意外だった。


 ……ところで、言い忘れていた明日の事って何だったんだろう?



「お兄ちゃん、一緒に寝よう~?」


 油断していたら、リリナさんに抱きつかれた。

 こんな状態の彼女に抱きつかれても全然嬉しくないよう。

 それにしても、このクソ面倒くさい感じの女性を俺は他に知っている気がするが、今はどうでもいい。


 酔ったリリナさんをそのままにもしておけないので、自室に連れて行こうと考えたが、朝になって色々と噂が立ってしまったら彼女に迷惑が掛かってしまう。


 また鏡子さんとエリカのお世話になる事にした。



「今回はアリバイ作りですか。リョウヤさんは一体何をしているのですか?」


「もう襲っちゃえばいいじゃん。リリナも満更じゃないんでしょ?」


 流石の二人も呆れ顔だ。


「そんな事言わないでくださいよ。今度何か埋め合わせをするので……」


「そうやってすぐ甘えるのですから。もう、仕方ありませんね」


「貸しが溜まってるから、今度なんでも言う事を聞いてもらうね?」


「程々にお願いします……」


 結局、その晩は自室のベッドに腰掛けてリリナさんを膝枕させた状態で、鏡子さんとエリカに見守られながら朝を迎えるのだった。

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