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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第五章

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183 番外編 新年色々

※旧版で正月に書いた季節ネタです。

時系列や多少の設定の違い等は気にしないでくださいませ。

 結局こたつの魔力に抗えないまま寝てしまい、新年の朝を迎えてしまった。


「あーくそ! 初日の出を見に行き損ねた!」


 理想としては、高台に位置するアンこ先輩の家の露天風呂から初日の出を見られたら最高だったのだが。


「初日の出? リョウ君、それなあに?」


「あれ? リリナさん知らないんですか? 年明け最初の日の出を見ると縁起が良いとか、良い一年間になるとかと言われてるのだけど……」


 リリナさんが不思議そうにしてるので初日の出を説明すると、ピアリとメルさま、先輩にシーラまでも首をかしげている。


「何それ? ボクも初耳だよ」


「面白い事をセッキーさんはご存知ですの」


「それはセッキー君のご実家の風習ですか?」


「わらわの時代でも、そのような事をしている者はいなかったぞ」


 やっぱり、この世界には無い風習なのだろうか?

 確かに実家の村でも、やっているのは俺だけだったな。

 そのうちみんなが真似するようになっていったけど。


「ところで、みんなはもう着替えてるけど、年始のお祈りにでも行くの?」


 年明けに大聖堂で、大々的に女神エルファルドへの祈りが執り行われるらしい。

 早い話が初詣みたいなものだ。



「違うよ。ボク達は初売りの福袋を買いに行くんだよ。リョウヤ君も一緒に来る?」


「福袋? 何が入っているか分からないけど、お得な詰め合わせの奴か?」


 初日の出を見に行く風習は無いのに、福袋はあるのかよ……。


「そうですの。わたくし達はブランド物の服が狙いですの!」


 メルさまが鼻息荒く拳を握りしめている。

 珍しく気合いが入ってるな。


「実験都市区域の商業地区で売り出されるみたいだから、リョウ君も一緒に行きましょうよ」


「わたしも福袋は初めてなので気になります。ぜひ、セッキー君もお付き合いしてくれると嬉しいです」


 リリナさんとアンこ先輩からも誘われてしまったら行かない訳にはいかないな。

 ふとシーラを見ると、既に着替え終えていた。

 あんなに朝が弱い奴だったのに……。恐るべし福袋。


「なあピアリ、鏡子さん達は? 留守番を頼もうかと思うんだけど……」


「それなら、ナギさんだっけ? その人のお店の初売りを手伝うって、朝早くに鏡に戻って行ったよ」


 あの人の店も年明けから大変そうだけど、繁盛してるのはいい事なのだろう。

 そういえば、ロワりんが帰省ついでに店に顔を出していくとも言っていたな。


 簡単に朝食を済ませ、異世界の文化を感じられる実験都市区域に足を踏み入れた。

 相変わらずどこかで見た事のあるような店が立ち並んでいて、各店舗には既に行列ができている。


「ボク達、出遅れちゃったかな……」


「早く来ても、あまり変わらないみたいよ。昨日から並んでる人がいたらしいし」


「リリナさん、それは本当ですの? それでは、いくら早く来ても不利ではないですか……」


 まあ、こういうのはドン引きするほど早くから並ぶ人もいるイベントだから仕方ないよな。


「でも、残り物には福があるっていうじゃないですか。初めからあきらめてしまってはよくないですよ」


「アンの言う通りだ。わらわもそう思うぞ。それにしても、服の福袋って……ふふ」


 シーラが一人笑いしてる。意外に笑いの沸点が低いのだろうか。


「……何を見てるのだ!」


 生暖かい目で見守っていたら、ポカスカと叩かれてしまった。

 まったく、ひどい奴だな。



「服関係だったら、この店ですかね」


 ブランド物の服があるのかは分からないが、安くてそこそこお洒落な服が多い店のはずだ。

 既に相当な行列になっている。

 列の最後尾に並んでから程なくして福袋の売り出しが始まった。


「おひとり様一袋でお願いしまーーーす!!」


 店員の声がかき消されんばかりの盛況で、なんとか戦利品を獲得する事ができた。

 俺の方は男物だったので多少は余裕があったが、それでも凄い人込みで一気に疲れた。

 女物売り場は、まさに戦場だ。


 店を出て、少し離れた広場で腰を下ろした。

 周囲を見渡すと、客の女の子達が早速戦利品の交換を始めている。

 ああやって、見知らぬ誰かと交換するのも楽しそうだな。


「ああ! それ絶対にセキこちゃんに似合いそう!! 私のと交換してくれませんか!?」


 交換会の人混みの中にテルノの姿を見た気がするのだが、多分気のせいだろう。



「リョウ君、ここにいたのね」


 疲れ切った表情のリリナさんが俺の隣に座る。


「どうでした? いいものありましたか?」


「どうかなぁ。まだ中身を見てないから、なんとも言えないかな……」


 二人で他の客の様子を見ていると、みんなが戻ってきた。


「これはちょっとボク達甘く見ていたね」


「まさかこれ程までとは、わたくし想像もつきませんでしたの」


「私とシーぽんは人込みに埋まって窒息するかと思いましたよ!」


「ああ、人の欲望がここまで凄まじい物だとは思わなかったぞ……」


 みんな満身創痍だ。恐るべし福袋の初売り。


「せっかくだし、みんなで交換してみたら? 俺は男物なので、ちょっと無理そうだけどさ」


「リョウヤ君、それいい考えだね」


 ピアリがそう言うと、それぞれが袋の中身を取り出し始めた。



「……これ、なんなの?」


 リリナさんが手に持って広げるのは、『脳殺ボディ』とプリントされたクソダサいTシャツだ。


「ボクのはこんなのだよ」


 ピアリのは『立ち往生』とプリントされている。

 これを企画した人のセンスを本気で疑うぞ……。

 先輩のは『毛羽立ち』でシーラのは『枝毛』だった。

 二人とも複雑な表情だ。


「これは人をバカにしていますの! わたくし許せません!」


 メルさまのは『腹黒』だった。

 まあ、これはいいだろう。


「ちょっと、セッキーさん!? 何を納得した顔をしていますの!!」


 思わず考えが顔に出てしまっていたようだ。


「俺のはなんだろうな……」


 自分の福袋の中身を確認する。

 出てきたのは『熟女キラー』とプリントされた紫のラメ入りのすげえダサいシャツだ。


「これどうするんだよ……。こんなの着てる奴いたら、そいつの神経疑うぞ」


 流石に他のみんなも同情してくれた。

 いきなり福袋の洗礼を受けてしまったが、ある意味これも風物詩だろう。

 他の中身はダサいシャツ以外、割と実用的な服だったので損はしなかったと思いたい。



「おや、少年じゃないか! 新年早々こんな場所で会うなんて運命の出会いだな! ついでにリリナも! ロワは実家に帰省か?」


 あんまり会いたくない人の声である。

 声の主を見ると、案の定テルアイラさんだった。

 他にレンファやメグさん達も一緒で、それぞれが福袋を持っていた。


「えっと、今年もよろしくお願いします……」


「お姉さんはいつでもよろしくしてやるぞ〜」


 いきなりハグされる。まさか酔ってないよなぁ。


「ちょっとテル姉さん!? リョウ君に何をするのよ!!」


「何を言ってるのだリリナ。私は少年に色々されたんだぞ。もう彼とは知らない仲ではないからな」


 それを聞いてリリナさんがジト目で俺を見てくる。

 新年早々、勘弁してくれよ。


「いきなり何を言うんですか!? 俺は酔っぱらってたテルアイラさんを介抱しただけじゃないですか!!」


「え〜? 介抱する振りして私の身体をまさぐるだけじゃ飽き足らず、私の唇も奪ったじゃないのよぉ」


 テルアイラさんが人差し指で俺の胸をつついてくる。

 めちゃくちゃイラっとするんですけど……。


「リョウ君……まさか」


「違いますって! 何もしてませんって!」


 必死に否定する横でテルアイラさんが俺にしなだれかかってくる。


「責任取ってよね〜」


 ゲラゲラ笑っている彼女を見ると『むちむちボディ』とプリントされた、これまた激しくダサいシャツを着ていた。


「……そのくそダサいシャツ、よく着られますね。俺は正直無理です」


「ええ。私もテル姉さんの神経を疑うわ……」


 俺達の言葉に彼女の表情が固まった。


「は? 何を言ってるんだ? このシャツ格好いいだろ!? 私のセンスをバカにしてるのか!? ああん!?」


 めちゃくちゃ睨んできて面倒くさいんだけど。

 いつもだったら、すぐに助けに入ってくれるレンファ達は、ピアリ達と福袋の中身の交換会を始めてしまっている。


「このジャケットはメグさんの方が似合いそうだね」


「んじゃ、こっちをピアリちゃんにね」


「あのキツネの子は今日はいないのですか? 彼女とは種族を超えて、もう少しゆっくりお話をしてみたかったのですけど」


「ミっちゃんさんはご実家に帰省されましたの。ところで、そのスカートが素敵ですの。わたくしのと交換してくれませんか?」


 すっかり打ち解けて、和気あいあいとやっている。

 先輩とシーラもレンファとミラとあれこれ交換していて微笑ましい光景である。



「何をよそ見してるのだ。私のシャツをダサいと言ってくれた罰として、少年は今日一日私と一緒に過ごすのだ。それで許してやろう」


「……え? なんで俺が……」


 いきなり何を言い出すんだこの人は!?

 助けを求めてリリナさんの方を窺うと、既に彼女は福袋交換会に参加していた。

 なんて薄情な!!


「さあ、私と一緒にくるのだ!!」


 テルアイラさんが俺の腕を掴んで、ぐいぐいと引っ張って歩いていく。

 一体どこに連れて行かれるのかと恐怖を覚える。


「ところで、少年も福袋を買ったのか? 何かいい物が入っていたか?」


「……どうでしょうかね。くそダサ……変なシャツは入ってましたけど」


「ほほう。そのシャツを見せてみろ」


 彼女に言われて『熟女キラー』とプリントされたシャツを見せる。


「これは……いいじゃないか!! よし少年、ここで着替えろ!!」


 彼女は瞳を輝かして俺に迫る。


「ちょっ、こんな場所でやめて下さいよ!」


「いいじゃないか、いいじゃないか。さあ、そこの木陰で着替えるのだ」


 俺は木陰に連れ込まれた途端に手際よく服を脱がされ、くそダサいシャツを着させられてしまった。

 なんか手慣れてませんかね?


「ほうら似合うじゃないか! これでお揃いだな」


 物凄く嬉しそうにテルアイラさんが微笑んだ。

 こうして見ると綺麗な人なんだけど、本当に色々残念で仕方がない。


 彼女は『むちむちボディ』シャツ、俺は『熟女キラー』シャツだ。

 どんな罰ゲームだよこれ。


 それからテルアイラさんに街中をあちこち連れまわされた。

 入城許可証を持っていないと入れない、王城での国王陛下の新年の挨拶式を観覧しに行ったりもした。

 何故に入城許可証を彼女が持っていたのかは謎だが。

 挨拶式では前列に並べたのだが、国民への挨拶中に国王のサイラントさんが俺達を見て、一瞬目を剥いていたのは気のせいだろう。

 そんでもって、ユユフィアナ姫こと、ユーに失笑されたのも全て気のせいだろう。

 ちなみに、他の王妃様や王女様らしき人達も俺をガン見していた。



「リョウヤ……お前、その格好はなんなのだ」


 国王陛下の挨拶が終わったので、帰ろう思ったらメディア校長に声を掛けられた。

 どうやら、貴賓としてアーヴィルさんと一緒に来城していたみたいだ。


「あ……本年もよろしくお願いします」


 取り敢えず、誤魔化すために新年の挨拶をする。それで流してくれれば良いのだが。


「こちらこそよろしく、リョウヤ君。それでこちらの女性は……?」


 校長の隣にいるアーヴィルさんがためらいがちに聞いてきた。

 テルアイラさんは目立っているのか、さっきから周囲の視線を受けている。

 黙っていれば美人だしな。

 だけど、着ているシャツは『むちむちボディ』で一緒にいる俺は『熟女キラー』だ。

 これは悪目立ちしかしない。


「私か? この少年が世話になっているリリナの親戚のお姉さんだ。今日はこの少年がどうしても私と一緒に過ごしたいと言ってな。仕方ないからこうして一緒にいるのだ」


 テルアイラさんがあんまり無い胸を張ってドヤ顔で答えた。


「ちょっと! 何を適当な事を言ってるんですか!? 俺は無理やりに連れ回されてるんですけど!?」


 これ以上誤解されても困る。

 特にこの二人からの信用を落としたくない。


「ああ、そうなのか。……邪魔して悪かったな」


「では二人ともごゆっくり……」


 校長達は色々と誤解したままなのか、生暖かい目で俺達を見送ってくれた。


 結局それから色々な店を見て回ったり食事をしたりで、意外にも普通のデートのようにすごした。

 だけど、くそダサいシャツのおかげであちこちで失笑されてしまい、色々と雰囲気ぶち壊しである。


 そんなこんなで日が沈みかけた頃、テルアイラさんが王都の夜景を見たいと言うので、高台にある公園に向かう。

 公園内の街灯がともり始め、王都の街もきらびやかな光に染まっていく。

 ここは夜景スポットと聞いていたが、本当に綺麗だな。


「少年、今日は一日付き合ってくれてありがとうな。お姉さんは嬉しかったぞ」


 突然抱きしめられた。

 彼女は俺より少し身長が高いので、なんとなく頭を抱えられる形になってしまっているが。

 この人も本当のところは、ただ寂しかっただけなのかな……。


「また暇な時があればお付き合いしますよ。今度からいきなりじゃなくて、前もって声をかけてくださいね」


「少年……」


 大人の女性に甘えられるのも悪くはないかな。

 そんな事をぼんやりと考えていると、不意を突くように唇にやわらかい感触が。


「これはお姉さんからのお年玉だぞ。他の奴らには内緒だからな!」


 顔を真っ赤にしながら彼女は走り去るのだが、途中で盛大にコケてしまう。

 余韻も何も台無しじゃないか。


「ほら大丈夫ですか? 店まで送って行きますから」


「うぅ……すまない」


 俺は溜息を吐きながら彼女の手を握って立ち上がらせる。


 年明け早々から色々あったけど、今年はいい年になるんじゃないかな。

 そう思う正月であった。

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