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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第五章

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181 番外編 メリーなんとか・後編

※旧版でクリスマス時期に書いた季節ネタです。

時系列や多少の設定の違い等は気にしないでくださいませ。

「やあ少年。難しい顔をしてどうしたのだ?」


 何度かお世話になっている店先のオープンテラス席でサンタの格好をしているテルアイラさんが俺に手を振っていた。

 顔が赤いので昼間から酒を飲んでいるのだろうか。

 よく分からないんだけど、会う度に絡んでくるから、正直この人苦手なんだよなぁ。

 ロワりんの親戚のお姉さんだから、無視はできないし……。


「えっと、明日のパーティーはどの料理がお勧めなんだろうかなぁって……」


「なんだ。おススメが知りたいのか。お姉さんが教えてやろう」


 テルアイラさんが立ち上がり、テラス席からフラフラと足取りがおぼつかない様子でこちらに歩み寄ってくる。

 かなり酔っぱらってるみたいだな。



「おススメは、この私だにゃー!!」


 そう叫びながら、いきなり抱きついてきた。


「もうこの際、少年でいいから私に愛をくれ! こう見えても金はあるんだ。だけど、私は愛が欲しいんだよーーー!!」


 俺に抱きついて頬ずりしながら喚きだした。

 これ相当酔ってるな。

 黙っていれば、かなりの美人なのに色々と台無しだ。

 それにサンタの服はロングスカートだけど、サイドのスリットが深いので目のやり場に困る。


「ちょっと! 離れてくださいよ!!」


「なんだよけちー。けちんぼー。け! ちんぼー!!」


「変な所で区切らないでくださいってば! もう分かりましたから! 色々と辛い事が多いんですよね。俺で良かったら話を聞きますから」


 こういう手合いは下手に突き放すと益々面倒になりそうだ。

 適当に話を聞いて落ち着いたところで、隙を見て逃げることにする。


「しょうねん~。君はなんていい奴なんだ。うんそうなの。私ってばさ、いつも頑張ってるのに誰も認めてくれないんだよう」


 今度はおいおいと泣き始めた。

 周囲の通行人からは奇異な目で見られているので、本当に勘弁してほしい。



「騒がしいと思ったら、何をやってるんですか!?」


 この店の看板娘であるレンファが店から出てきた。

 彼女はワンピースタイプの可愛らしいサンタ衣装だ。予想以上にサンタ服は流行ってるのだろうか。


「まったく、今日は店が忙しいんですから、せめて大人しくしていてくださいよ!」


 続いて小柄で狸耳のユズリさんが店から出てくる。

 こちらもワンピースのサンタ服だけど……意外と胸が大きいなこの人。

 そんな事を考えていると、猫耳のメグさんと、そのメグさんを慕う従業員のミラも続いて姿を見せた。


「そうだよー。私達も手伝わないといけないぐらいに忙しいんだからねー」


「本当にメグ姉さまの言う通りです。邪魔にしかならないのなら、土にでも埋まっていればいいのに」


 メグさんはホットパンツ姿のサンタ服で、すらりと伸びた脚の絶対領域に思わず目を奪われてしまう。

 ミラはロングスカートの清楚な感じなサンタ服だった。

 確かにこれは彼女達目当ての客で店が混雑するのは当たり前だ。



「いやだ~! 私は少年から離れたくないの~!!」


 テルアイラさんが駄々っ子みたいにイヤイヤをしながら俺にしがみつく。

 みんな困り切った表情で、どうしたら良いか考えあぐねているようだ。

 俺は悪くないのに、なんだか申し訳なくなってくる。


「ええっと、テルアイラさんが落ち着くまで俺が面倒を見ましょうか……?」


「そうしてくれますか!? 本当にご迷惑をお掛けしますが、お願いします!!」


 レンファに頭を下げられ、俺はテルアイラさんに抱きつかれながら店の奥の従業員休憩室に案内される。

 店内では客の男共から冷やかされるより、心配される声を多くかけられた。


「坊主、その姉ちゃん狙いとは渋い趣味してるな!」


「もっと自分の体を大切にしろよ!」


「母ちゃんが泣くぞ! 考え直せ!!」


 まったく、ひどい言われようだ。

 と思っていたら、テルアイラさんが男達に向かって喧嘩を売り出してるし。


「おら! 愚民ども~! 私と少年の関係に嫉妬するんじゃないぞ~。これからラブラブになるんだからな~!」


「ちょっと、誤解を招く言い方しないでくださいよ!!」


 ……くそ、さっさと突き放して逃げれば良かった。




「これは酔い醒ましの薬です。お手数をお掛けしますが、テルアイラさんの事お願いしますね」


 レンファが再度頭を下げて仕事に戻って行った。

 俺は床に敷かれた布団にテルアイラさんを寝かせようとするも、抱きついたままで離れてくれない。

 仕方がないので腰を下ろしたが、抱きついてくるテルアイラさんのスカートのスリットから下着が見えてしまっていて非情に目の毒である。

 取り敢えず、彼女に布団を掛けておいた。


「さあこれを飲んでください。酔いが醒めるそうですよ」


 妹にするように、頭を撫でながら優しく声を掛けてみる。


「いやだ~」


 プイ、とそっぽを向いてしまう。

 あんたは子供かっての。


「……飲んだらご褒美でチューしてくれる?」


「なんでそうなるんですかね?」


 上目遣いでキスをせがむテルアイラさんに少し動揺してしまった。

 こうして見ると綺麗な人なんだけどなぁ。残念美人というやつだ。


「やだやだー。飲むからチューしてー!!」


 子供みたいに暴れだして、手に負えなくなってきた。

 一刻も早くこの場から逃げたい。


「分かりました、分かりましたよ! でもなんで俺なんですか?」


 テルアイラさんなら黙ってさえいれば、もっとイケメンのハイスペック男子とか狙えるだろう。


「だってさー、少年はこうやって私を優しく介抱してくれてるじゃん。他の奴らなんて、酔っ払いうぜえとか消えろとか言ってくるしー」


 いや、俺だって好き好んで介抱してる訳じゃないんだけど……。


「こうやって優しくされたら、思わず嬉しくて漏らしちゃうかも!!」


「こんなところで漏らすのマジ勘弁してくださいよ!! ご褒美あげますから早く薬を飲んでください!!」


 俺はケラケラ笑う彼女の頭をぺチペチと叩く。

 この状況でうれションなんてされたら、大参事である。

 後はさっさと酔い醒ましの薬を飲ませ、適当に寝かせてここから脱出すればミッションクリアだ。


「本当に? じゃあ飲む~~」


 なんとか大人しく薬を飲んでくれたみたいだ。




「……それで少年よ、ご褒美はまだか?」


 効き目早っ!! いきなり素面しらふに戻ってるし!!

 でも俺に抱きついたままなんですね。


「さあ早くしろ。お姉さんはご褒美があるから、わざわざほろ酔い気分を捨ててやったのだぞ」


「ほろ酔い気分って……泥酔一歩手前だったじゃないですか」


 それにしても、俺をからかっているのだろうか。

 テルアイラさんが目を閉じて顔を寄せてくる。

 冗談なのか本気なのか分からなくて、戸惑った。

 だけど、ここで応えなかったら女性に恥をかかせてしまう。


 覚悟を決めて彼女に顔を近づけた時だった。


「あ、やっぱり今のは冗談! ご褒美の事は気にしないでくれ!! さーて、店の手伝いでもしてくるかなー!!」


 心なしか、長い耳まで赤くなってるテルアイラさんが慌てて俺から離れると、そのまま何事も無かったかのように店の手伝いに行ってしまった。


 ……なんだよ。からかってただけなのか。


 手に残る彼女の温もりと共に少し残念な気持ちも残った。

 その後はレンファがお詫びだと言って、翌日の料理を格安で用意してくれる事になったので結果オーライとしよう。


 そして、明日の生誕祭用のプレゼントを見繕って帰途についたのだった。





 翌日、みんなで集まる生誕祭は夕方からなので、事前にレンファのお店へ頼んでおいた料理を受け取りに向かった。


「これはまた大量の揚げ物料理ですね……」


 テルアイラさんから受け取った料理は、見事に揚げ物ばかりで胃がもたれそうである。

 これだけあれば足りないって事はないだろうけど、誰かと被ったら目も当てられないぞ。


「私の特製愛情入りだと思ってくれい」


 気のせいか、少し顔が赤いテルアイラさんが胸を張る。


「変な物は入れてないですよね?」


「失礼な!! 食品衛生法に抵触しない物だぞ!!」


 入れたのかよ……。


「何が愛情ですか。年末年始の稼ぎ時に保健所から営業停止なんて受けたら、テルアイラさんに責任取ってもらいますからね!!」


 レンファが口を尖らせて文句を言っている。昨日は散々だったのだろう。


「ねえ君、リョウヤさんでしたっけ? テルアイラさんに何もされませんでした? セクハラされたら、すぐに私達に言ってくださいね」


 ユズリさんが心配してくれる。ミっちゃんと対立してた時はちょっと怖い人だと思ったけど、意外と優しい人だなぁ。


「そうだよ。何かあってからじゃ遅いからね……私みたいに」


「もう、メグ姉さまったら意地悪なんですからぁ」


 若干表情が沈んでいるメグさんとミラの間に何があったのかは少し気になるが、聞くのはやめておこう。


「少年には色々世話になったから、これは私からのプレゼントだ」


 テルアイラさんがそう言って、俺の頬に軽くキスをした。


「あーーーーっ!!」


 それを見ていたレンファ達が大声を上げて呆気に取られているうちに、俺はテルアイラさんに背中を押されてその場を後にした。



 それにしても、テルアイラさんの自由奔放さって、なんとなくロワりんに似ていたな。

 血筋は争えないのだろうか。

 帰る途中、キスされた頬を撫でながらそんな事を思った。


 自室に戻ってみると、ピアリの姿が見えない。もうみんなの所へ行ったのかな。

 俺も準備を済ませ、メンバールームのドアを開くと既にみんなが集まっていた。

 そして全員がサンタの衣装だ。


「遅いよセッキー! どこに行ってたのさ」


 早々にロワりんから文句を言われてしまう。


「ささ、駆け付け一杯ですの」


 メルさまが俺にコップを手渡してくる。


「もう乾杯しちゃったのか?」


 少しぐらい待っててくれても良かったのに。

 俺は手渡されたコップの中身を一気に飲み干した。


 ……だが、すぐに後悔した。

 メルさまから手渡される物に、まともな物は無かったのだ。




  ◆◆◆




「──ほら、やっぱりリョウヤ君に似合うじゃないか」


 セキこの姿になった俺にピアリが可愛らしいサンタ衣装を着させる。

 部屋の姿見に映る自分は我ながら可愛いと思うけど、この姿になる時は大抵ロクでもない事ばかり起きるので、あまりいい思い出が無い。


 そんでもって、各自が持ち寄った料理をテーブルに並べるのだが……。


「なんでカレーばかりなんですかね?」


 テーブルには見事にカレーが並んでいる。


「私はセーフよね」


 リリナさんのみがサラダの盛り合わせを持ち込んでいて、ケーキ担当のアンこ先輩とシーラ以外の全員がカレーを持ち寄っていたのだ。


「えっと、意外性を狙ってカレーにしてみたんだけどな」


 ミっちゃんの方を見るとバツが悪そうに頭をかいている。


「うん。私もみんなが定番を持って来るだろうと思って、カレーにしてみたんだけど……」


 ロワりんに視線を移すと彼女は目を泳がせている。


「みなさんの行動を予想したのが見事に裏目に出ましたの」


 メルさまがやれやれといった感じで肩をすくめた。


「という訳なんだ」


 てへぺろしながらピアリも他人事のように言うが、とんでもない大惨事だぞこれ。

 もはや、カレーパーティーっていうレベルではない。


「しかし流石はリョウヤだ。定番のフライドチキンや唐揚げを用意してくるとはな。わらわが見込んだ者だけの事はある」


 なんでシーラはそんな上から目線なんですかね。

 大方、ケーキを用意したのはアンこ先輩と自分だけという優越感からだろうけど。



「よし、救世主セキこを称えて胴上げだ!!」


「セッキー万歳!!」


 その場を誤魔化そうとするミっちゃんの音頭でみんなに胴上げされた。

 まったく意味が分からねえ。

 そんな騒ぎの中、姿見から鏡子さんとエリカが現れた。

 鏡子さんはサンタ風のメイド服で、エリカはサンタ仕様のバニーガール姿だった。

 そのエリカが瞳を輝かせながら俺に詰め寄ってきた。


「なになにこの子!? 超カワイイんだけど!!」


 いきなり抱き上げられてしまう。早速ロクでもない展開だ。

 すると、興奮してるエリカの前にアンこ先輩が立ちはだかる。


「ちょっと、そこの邪道なウサギさん! セッキー君を放してくださいよ!」


 先輩がプンスカしてエリカに文句を言う。

 どうやらウサギの獣人として、バニーガール姿に納得いかないらしい。


「え、この子リョウヤなの!? 超ウケるんだけどーーー!!」


 テンションだだ上がりのエリカをよそに思案顔の鏡子さんがつぶやいた。


「私としては、この可愛らしいセキこさんをモデルに新たな物語を書いてみたくなりました」


 ……本当に騒ぎには事欠かない面々だよなぁ。





「それでは改めまして、かんぱーい」


 リリナさんがその場をまとめてくれて乾杯の音頭を取ってくれた。

 俺達はノンアルコールのシャンパンで、鏡子さんとエリカはメルさまのクソ不味い魔力回復薬で乾杯した。

 彼女達は俺達と味覚が違うのか魔力回復薬を美味しそうに飲んでいる。

 そしてプレゼント交換を交え、朝まで地獄のカレーパーティーが続くのであった。


 ……来年もみんなで楽しく過ごせるといいな。心からそう思った。

年末年始ネタの後に第六章を開始です。

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