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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第五章

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174 校長の憂鬱

 私はメディア。祖父の残した冒険者予備校の名ばかりの校長であったが、今では正式な最高責任者になってしまった。

 年々低下していく冒険者の質に危機感を抱いた祖父が、宰相の職を退いた後に立ち上げた冒険者養成所が始まりではあったが、庶民にも幅広い教育の場を提供したいと規模を徐々に拡大していき、今では王国有数の教育機関の一つとなっている。


 その祖父が私塾としての教育の場を広げようと現役時代の伝手を頼り、あちこちから援助や融資を受けたりしていたのだが、志半ばで帰らぬ人となってしまった。

 聞くところによれば、祖父は夜の接待の付き合いと称して高級娼館で亡くなったらしい。

 当時は私もまだ若い娘だったし、そんな詳しい死因は知りたくもなかった。


 それはさておき。

 悪い事は重なる物で、両親も相次いで事故と病で亡くなってしまい、祖父の残した負債のため、借金の取り立てが一気に押し寄せてきたのだ。

 結局、私に残されたのは、名ばかりの爵位と冒険者予備校の校長の椅子だけであった。


 それは途方に暮れたものだ。

 唯一の肉親である弟のベルゲルは、しっかりしてるのか、してないのかよく分からないし、祖父の残した教育の場を私がなんとしても守っていかねばと思った。


 サイラントからは何度か援助の話もあったのだが、祖父は国が関わると自由が狭まると言っていたので、若かった私も頑なにその話を断っていた。

 もっとも、サイラントは王権を安定させるために本来は私に援助している余裕は無かったらしいが。

 アーヴィルの方も、その頃には体調を崩し、『いない者』として表舞台から姿を消してしまっていたので頼る事はできなかった。


 それから私は、援助を申し出てくれる者達を自力で集めて冒険者予備校を運営していたのだが、結局は名ばかりの校長となって理事会の面々の言いなりになっていたのは苦い事実である。

 それから紆余曲折あって、ついには冒険者予備校も正式に王立となり、私は正真正銘の校長となった。


 そんな私だが、一人の生徒に頭を悩ます事になるとは思わなかった。

 ある時、将来の見込みがあると言ってベルゲルが連れてきたリョウヤである。

 魔力量の数値だけは規格外であったが、それ以外はパッとしない凡庸な少年であった。

 だが、職員のリリナを呪いから守るために身の危険を顧みなかったり、入学式の挨拶の最中に堂々と落書きをしていたりと初めから頭が痛くなる存在だった。


 もっとも、そのおかげで私はリリナという優秀な秘書を手に入れたし、生徒から評判の悪かった制服も随分と垢抜けた物になった。

 私も若かったら、あの制服を着てみたいとか思っていないからな。本当だぞ。


 それからもリョウヤは色々と頭痛の種であるが、それ以上に利益をもたらせてくれた。

 私利私欲の集まりと化していた理事会の連中を一掃したり、こうしてアーヴィルと一緒に暮らせているのも悔しいがリョウヤのおかげである。


 そのリョウヤだが、遺跡探索をすると言って王都を出立したのだが、どうも胸騒ぎしかしない。



「姉さん、心配しすぎだっての。あいつだって一応冒険者だし、仲間もいるわけだし」


 こうして悩む私の前に、ベルゲルが暇だからと茶を飲みにきている。

 暇なら働け。

 ちなみに、ベルゲルの婚約者のルシェリーザだが、リリナがいない間の秘書の代わりをしてもらっている。元々は文官の経験があるので、すぐに仕事に覚えて対応してくれている。ベルゲルには勿体ない程の女性だな。


「メディア、ベルゲルの言う通りだよ。リョウヤ君だって、わざわざ危険な事に首を突っ込む事はしないと思うよ」


 アーヴィルまでリョウヤを信じるのか。

 リョウヤはそんな甘っちょろい奴では無いぞ。絶対にトラブルを引き寄せるタイプだ。

 今までだって、校庭の地下ダンジョンで魔人族のシーラ嬢を見つけてきたり、封印された鏡の精霊を呼び覚ましたりしてるぐらいだ。

 それに、先日街中で暴れた暴漢二人を殴り飛ばしたという猫耳の少女の話は、聞けば聞くほどリョウヤが少女化した姿にしか思えない。

 これがどうして安心していられるだろうか。


「まったく、兄貴とベルゲルは考えが保守的だな。敢えて困難や危険に立ち向かうのが男らしさって物だろう?」


 ここにサイラントがいるのも解せぬ。国王陛下の仕事は暇なのか?

 どうでもいいが、私の生徒に危険な思想を植えこまないで欲しい。



「私は心配なのだ。ただでさえ、獣人の少女を狙う盗賊団が現れる話があるじゃないか。リョウヤ達のパーティーが狙われないとも限らない」


「ああ、それだけどさ、俺が王命で調査に向かわせた高ランク冒険者達が盗賊団の一味を壊滅させたと報告があったぞ」


 私はそんな報告は受けていないのだが。


「考え過ぎだって、姉さん。護衛に近衛騎士団長の御令息がついてるんだろ。そんな簡単にやられたりしないさ」


 近衛騎士団長の息子といっても、強いかどうかは別である。


「近衛騎士団長ってガインハルト卿だよね? 前から不思議に思ってたけど、どうして彼の息子が貴族の学院でなく冒険者予備校に通っているのだろうね?」


 アーヴィルの疑問はもっともである。

 私も近衛騎士団長から直々にケフィンの入学を打診された時は困惑したものだ。


「あー、それなんだけどな。騎士団長が言うには、『貴族の御令息』として教育したくないそうだ。幅広い視野を持った上で騎士としての教育を受けさせたいとか。まあ、分からなくはない。俺だって、頭でっかちのエリート意識を持った近衛兵達に囲まれるのはウンザリするからな」


 良くも悪くもサイラントがこんな感じだから、仕える者も柔軟な考えになるのだろう。


「しかし、騎士団長の息子が娘だったら俺が欲しかったのになぁ……」


「サイラント! お前まだ妃や愛人を増やす気なのか!?」


「人聞きの悪い事を言うなよ、メディア。娘のユユフィアナの護衛に欲しいだけだ。贅沢言うと、武力は無くても構わないが貴族の常識にとらわれず、娘と同じ年頃で身の回りの世話もできて、探知魔法が使えたりすると最高なのだが……」


 流石にそんな都合のいい年頃の娘なんている訳がない。

 しかし、どこも人材不足なのだろうか。実際、冒険者予備校でも講師以外の人手が足りていない。


「それを言ったら、私は冒険者予備校の食堂の調理人が欲しいぞ。前にどこからかリョウヤが持ってきたレシピノートがあるのだが、それに記された料理を完全に再現できる腕前の料理人がいないのだ。私が挑戦してもいいのだが、そんな暇がある訳がない……」


 思わずサイラントと二人して溜息を吐いてしまう。

 そんな時だった。

 突然、校長室のドアがノックされ、私が返事をする前に一人の兵士が飛び込んできてひざまずく。


「ご歓談中に失礼します!!」


「何ごとだ?」


 サイラントが瞬時に国王としての顔に変わり、その緊張感で部屋の空気が一変する。


「はっ! ただいま、冒険者ギルドからの緊急の連絡がありまして、リョウヤと名乗る学生が代表の冒険者パーティーが正体不明の集団と交戦、これを撃退して獣人の女性数名を救出したとの事です」


 頭を抱えたくなった。

 私、出発前に口を酸っぱくして言ったよな。危険な事に首を突っ込むなと。



「それと同時に例の薬も入手したとの事であります!」


「分かった。すぐに城に戻る」


 サイラントはそう言って兵士と供に部屋を出て行った。

 例の薬が何かは分からないが、不穏なものを感じる。



「ははは、姉さんの勘はよく当たるな」


「リョウヤ君の事だから、何か起きるとは思っていたけど、ここまでとはね」


 ベルゲルにアーヴィルめ、他人事みたいな顔をして……。

 二人ともリョウヤに迷惑を掛けられてしまえ!

校長も色々と苦労してるのです。

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