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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第五章

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171 助けてくれ、一人じゃ不安なんだよ……

 廃屋敷へ戻る途中、腰に下げたままの魔力剣が小刻みに震えているのに気付いた。

 声は聞こえないけど、オーちゃんも俺を気にしてくれているのかな。

 持ち主の俺がしっかりしないと不安を与えてしまうだろう。

 改めて気持ちを切り替える事にした。


 そんなこんなで、色々とあったため、入浴は最後になってしまった。

 主に自分が原因なのだけど。

 気分的に一人で入りたかったので丁度良かったと思う。


 身も心もサッパリして風呂場から出ると、廊下の片隅にシーラがちょこんと座っていた。


「……何をやってるんだ?」


 俺が声を掛けるとパッと顔を上げるが、その表情は気まずそうだ。

 同じく俺も気まずい。

 さっきは取り乱した挙句、頬を引っ叩かれたんだからな。


「あ、えっと……その、少しわらわと話をしないか?」


 多分、気を使ってくれているのだろう。


「うん。いいよ」


 室内では話しにくいと思い、外に出てみると火照った体に丁度良い涼しさだった。


 それにしても、こうやってシーラと二人だけで歩くのは久々な気がするな。

 最近は誰かしらが一緒だったので、二人きりになる機会はあまり無かったと思う。

 だからなのか、お互いに黙ってしまって無言のままである。


 正直、話すとしたらフィルエンネの事だ。

 俺が取り乱した時にシーラは叱ってくれた。

 その事に関して俺は怒っていない。むしろ感謝したいぐらいだ。


 だけど、シーラはその事で俺を擁護してくれたサヤイリスと険悪になってしまった。

 リリナさん達は分かってくれたみたいだけど、今日出会ったばかりのサヤイリス達は、いい印象を受けなかっただろうな。


「……あのさ。叱ってくれてありがとな」


 俺の言葉にシーラが目を瞬いた。


「礼を言われる筋合いはないぞ。……だが、すまない。引っ叩いたりして」


「それは仕方ないよ。あの時、俺は冷静じゃなかったし、むしろ嫌な事を言わせてごめん」


「リョウヤ……お主……」


 シーラが俺に向き合うと、そっと抱きしめてきた。

 身長差があるので、抱きつかれている様にも見えなくもないけど。


「あまり生意気な事を言うんじゃない。わらわから見れば、お主なんてまだまだ子供だぞ」


「そんなもんですかね。じゃあ、ママーって甘えていいか?」


「調子に乗るな!」


 胸をボカスカと叩かれた。

 そして、どちらからともなく吹き出して笑いだす。



「皆にも言われたのだろう? もっと周囲を頼れ。お主だけが責任を抱え込む必要はない」


 月明りの下、俺を見上げるシーラの潤んだ瞳に少しドキッとしてしまう。

 普段あまり気にしてなかったけど、綺麗な目をしてるんだな……。


「うん……そうだね。今度からそうするよ」


 俺一人が騒いだところで、どうにもならない事が多いのだ。


「そうするといい。リョウヤがわらわの居場所を作ってくれると言ったのだ。だったら、わらわもリョウヤの事を守りたい」


 シーラはそう言うと、俺の手をぎゅっと握って微笑んでくれたのだった。




 廃屋敷に戻ると既に寝床が用意されていた。


 とは言っても、大広間にマットレスを敷いただけなのだが。

 襲撃に対応するため、みんなで固まって寝る事になったらしい。

 見張り役については、誰かしらが起きていて交代するという事だ。


 驚いた事にアストリーシャが簡易的な探知魔法が使えるそうで、アンこ先輩と交代で見張り番を担当してくれるみたいだ。


 俺はどこで寝ればいいのだろうと思っていると、リリナさんがやってきて俺を引っ張る。


「リョウ君はここで寝てね」


 リリナさんの隣を指定され、そのまま寝かされた。


「リリナずるい! セッキーの隣は私なんだから!」


 すると、俺の隣にロワりんが転がってきた。


「だったらボクも隣がいいな」


「私もセッキー君と一緒がいいです」


 ピアリとアンこ先輩まで参戦してきて、揉みくちゃにされる。

 みんな気を使ってくれてるのだろう。

 また少し目頭が熱くなってきた。



「しかし、セッキーは大人気だな……」


「そうですの。少し嫉妬してしまいますの」


 ミっちゃんとメルさまが呆れ顔で見ている。

 二人もすっかり仲直りして良かったよ。


「くそう! セキこだったら、俺が絶対に誰にも渡さないのに!!」


「あんた、いい加減にセキこちゃんの事をあきらめなさいよ……」


 レイズとノノミリアも平常運転みたいだ。

 ケフィン達や鏡子さんとエリカ、それにセイランさん達も見守ってくれている。


 うん。俺はもう大丈夫だ。

 少し離れた所から俺を見守るシーラに俺は力強く頷いたのだった。



  ◆◆◆



 ……しかし、寝ろと言われても色々な事があり過ぎて簡単には寝付けない。

 とんでもない寝相で足を乗っけてくるロワりんをそっと退かし、何故か隣で寝息を立てているシーラを起こさない様にこっそりと布団から抜け出す。


 見張りで起きている人達に話相手になってもらおうかと、周囲を窺うと小声で呼ばれた気がした。

 こんな夜更けに誰だろう?


「セッキー、助けてくれー」


 確かに俺を呼んでいる。

 しかも助けを求めているぞ。


「……誰だ?」


 部屋の隅でうずくまる人影があった。

 そっと近付いてみると、その人影はミっちゃんだった。


「そこで何してるの?」


「助けてくれ、一人じゃ不安なんだよ……」


 いきなりミっちゃんがしがみついてきた。


「一人って……あっちにセイランさん達がいるじゃないか」


 セイランさん、アストリーシャ、レイナさんにサヤイリスの四人は、世話になったからと最初の見張り番に名乗り出てくれたのだ。

 後はゲンゲツさんとレイメイさんも見張り番だったはずなのだが、姿がないので別の場所にいるのだろう。

 珍しくミっちゃんがジャンケンで負けて、見張り番になったはずだ。


「私は人見知りなんだよ。私一人で彼女達と一緒だと緊張するし、レイナって女がずっと私の事を見てくるんで気味が悪いんだよ……」


「はあ、そうですか」


 なんだか拍子抜けしてしまった。

 でも、こんなに取り乱しているミっちゃんも珍しい。


「じゃあ、俺も一緒にいてあげるから、それで大丈夫でしょ?」


「それなら大丈夫だと思う」


 俺の提案に彼女は渋々頷いた。




「こんばんは。異常はありませんか?」


 魔力ランプを囲んで座っているセイランさん達に声を掛ける。


「リョウヤさん、お休みしていなくていいのですか?」


 心配してくれるセイランさんの腕の中でフィルエンネが眠っていた。


「そうっスよ。私が探知魔法で周囲の様子を探ってるから、安心して寝てていいっスよ」


「盗賊の残党が襲ってきても、私が容赦なく叩き潰しますから」


 アストリーシャとサヤイリスも気遣ってくれる。


「先程はお見苦しいところをお見せてしまって、すみませんでした。俺はもう大丈夫ですから」


 そう答えると、一応は彼女達も安心してくれたみたいだ。

 俺もホッとしていると、俺の背後に隠れるミっちゃんが服の裾を引っ張ってきた。


「セッキー、気をつけろ。あのレイナがお前を見てニヤリと笑ったぞ」


「ミっちゃん、いくらなんでもそれはレイナさんに失礼だよ……」


 確かにミステリアスな感じのお姉さんだけど、そこまで怪しい人じゃないだろ。

 振り向いてミっちゃんをたしなめようとすると、再びミっちゃんが声を上げる。


「ほら! 今セッキーを見て舌なめずりしたぞ!」


 レイナさんの方を見ると、ニコリと微笑んでいるだけだ。

 魔力剣のオーちゃんも反応してないし、危険な人ではないだろう。


「ひっ!!」


 ミっちゃんが怯えている。なんなんだろうな、この状況。

 そんな事を考えていると、レイナさんが俺に尋ねてきた。


「寝付けないのですか?」


「ええ。気がたかぶっちゃって、中々寝付けないんですよね……」


「それはよくありませんね。私がよく眠れるお茶を淹れましょう」


 そう言って、レイナさんがお茶の準備を始めてくれた。

 その間に世間話でもしようと、セイランさん達に話題を振ってみる。


「ところで、皆さんはどうして王都へ? 観光か何かだったのですか? サヤイリスは竜牙の谷で起きているトラブルを城へ訴えに行く予定だったんだよね」


「私はとある貴族のお屋敷で働いていたのですが、お暇を出されてしまいまして。王都で新たに仕事を探そうと思っていました……」


 セイランさんが俯き加減で答えた。

 聞いてはいけない事だったのだろうか。また失敗しかもしれない。

 俺の馬鹿野郎め。


「私も似たような感じっスね。早い話が出稼ぎなんです。私の村は貧乏だったっスから」


 一方、アストリーシャは恥ずかしそうに頭をかいている。


「ちなみに、私は国王陛下の謁見を求める途中で騙されて路銀を失い、ここに連れてこられただけです!」


 サヤイリスさん、胸張って自慢げに言う事ではないと思いますよ。



「私の場合は、みなさんと違って人探しですね」


 レイナさんがお茶を持ってきてくれた。


「リョウヤさんにはよく眠れるようにこちら。他のみなさんはこちらを」


 俺達はレイナさんにお礼を言って、お茶のカップを受け取った。

 ミっちゃんも恐る恐る受け取っている。


「王都で人探しって、誰を探してるんですか?」


 淹れてもらったお茶に口をつけながら聞いてみる。

 あ、これ普通に美味しいな……。


「私は玉聖タマヒジリ家のご息女を探しています」


 その瞬間、ミっちゃんが飲んでいたお茶を噴き出した。


「うわ! 汚いなぁ……」


 俺はミっちゃんの噴き出したお茶をまともに浴びてしまった。

 人によってはご褒美なのだろうけど、俺は流石にそこまで上級者ではない。

 毒霧攻撃じゃないんだから、勘弁してよ。


「あ、悪い」


 ミっちゃんが慌てて俺の顔をタオルで雑に拭く。

 手加減して! 鼻がもげる!!


「やはり、あなたが玉聖家のミサキ様ですね? 助けて頂いた時に戦装束を着ていましたので、そうではないかと思っていたのですが……」


 レイナさんが切れ長の瞳を光らせる。

 ミっちゃんのあの巫女服は家柄を表すものだったのだろうか。


「うぅ……確かにそうだけど。だけど、なんで私を探していたのだ?」


 ミっちゃんが観念したかの様に耳を伏せて答えた。


「私は玉葵タマアオイ家に仕えていますが、玉聖家に出向中の身の者です。先日、王都で妖狐の気配が感知されまして、事情を調べてくる様に派遣されてきました。一体何があったのですか?」


 レイナさんが姿勢を正してミっちゃんに問い掛ける。

 妖狐の気配って、以前ミっちゃんとテルアイラさんの仲間の狸耳のユズリさんが戦った時の事じゃないかなぁ。

 ミっちゃんを見ると目を泳がせている。


「何か妖狐の力を使わないといけない状況があったのでしょうか? 教えてください。ミサキ様」


「あー、えっと……狸女にケンカを売られたので、ちょっと戦ったというか──」


「……は?」


 レイナさんの表情が冷たいものに変わった。


「違うって! 模擬戦みたいなものだから! 殺し合いとかじゃないよ!!」


 ミっちゃんが慌てて訂正をする。


「……まったく呆れました。私闘でなおかつ相手が狸の獣人ですか。私は本国にどう報告すればよいのでしょうか」


 レイナさんが額に手を当てて天井を仰いだ。


「その報告はしないでもらえると助かるのだけど……」


「駄目です。これは私の責務ですから」


「それは本当にやめてくれ! そんな事をされたら、私が母上に叱られてしまう!!」


「そんな事は知りませんよ。そもそも、ミサキ様が狸相手に本気を出すのが悪いのです」


「そんな事言ったって仕方ないだろ! あいつクソ強かったんだし!!」


 ……なんだか妙な展開になってきてしまったな。



「ところで、あのミサキという子は強いのですか?」


 サヤイリスがミっちゃんを見て興味深々みたいだ。


「うん。本気を出した時は凄かったよ。尻尾も五本になってたし」


「ほほう。それは是非とも手合わせをお願いしたいものですね」


「そこのお二人、ミサキ様を煽らないでくれませんか」


「あ、はい……」

「すみません」


 怖い顔のレイナさんに注意されてしまった。

 でもミっちゃんがレイナさんと普通(?)に話す事ができる様になって良かった。


 それにしても、少し眠くなってきた。そろそろ寝床に戻ろうかな。

 そう思っていると、再びサヤイリスが尋ねてきた。


「あの、もう一つよろしいでしょうか?」


「うん」


「シーラという子は何者ですか? 私の事を『竜の子供』と呼びました。今の時代、その呼び名を知る者は里の者以外にいないはずです」


 他のみんながサヤイリスに注目し、答えを探る様に俺に目を向けてくる。


「確かに普通の子とは違う気がしましたね。妙に大人びているというか……」


 セイランさんが戸惑いの表情を浮かべる。


「探知魔法で少し探ってみたけど、反応が普通ではない事までしか分からなかったっス」


 アストリーシャはあっけらかんとしている。


「少し変わった気配の子だとは思っていましたが……。確かに何者でしょうね」


 レイナさんも気になる様子みたいだ。

 どうしよう。シーラの正体は知られちゃいけないんだよね。


「えっと、ちょっと訳アリの子なのでして、あまり深く詮索しないでもらえると助かるなと……」


 他のみんなの事情を聞いた手前、こちらが教えないのはフェアじゃないと思うけど仕方が無い。


「そっか。それなら仕方ないっスよね」


 アストリーシャがあっさり引き下がってくれた。

 なんかごめんね。


「でしたら、リョウヤさんの事を教えてくださいよ。あの中で誰とお付き合いしているんですか?」


 サヤイリスがいきなり興味津々の乙女モードになっている。

 どうしてそんな展開になるんですかね。


「そうですね。私もミサキ様との関係が気になります」


「ちょっ! 私とセッキーは何も無いからな!」


「否定するのを見ると余計に怪しく感じますね」


「おお! モテる男は罪っスね!」


 セイランさんとアストリーシャも気になるのか、ノリノリである。

 結局、寝落ちするまで彼女達に今までの事を話す羽目になったのだった。

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