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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第一章

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16 では今日からリョウ君のお姉ちゃんになります!

 あの事件の後、事情聴取を受けたりして数日は大変だった。


 今回の件は校内で起きた事件なので、内々で処理するそうだが、この事件を知る者は当事者の他に、ごく一部の関係者のみとなった。


 呪いの原因がDV元彼の嫉妬だったなんて公表されたら、リリナさんが可哀想だ。

 煙男の言っていた反魂の術式については、改めて調査する事になったそうだ。


 ただ、ベルゲル先生曰く、怪しい魔道具等は闇のマーケットに出回る事が多々あるので、アイツはそこで入手したのではないかとの事だ。

 命を代償にする魔道具等は探せばいくらでもあるそうなので、調査しても詳しい事は分からないだろうとも言っていた。


 あの男はもしかすると、呪いの代償で命を落とした後に復活するのを見込んで計画を立てていたのかも知れない。

 そんな恐ろしい考えに至るなんて、行き過ぎた愛情は人を歪ませてしまうものなのだろうか。

 それとも、あの男が元からおかしいだけだったのかは、俺には分からなかった。


 ……不謹慎だけど、そこまで恋人に執着できるのは羨ましいとも思えてしまった。


 俺を助けてくれた銀髪の女の子については、姿を見ていたのは俺だけだったという事で、そこまで詳しく聞かれなかった。

 俺の見た幻覚だったんじゃないかと思われてる節もあったり。


 むしろ、煙男よりこっちの方が大事な気がするんですけど……。


 危険行為についての処分だが、俺はまだ正式に生徒ではなかったので、処罰は見送られるそうだ。

 だが、間違いなく問題児だと目を付けられただろうな。


 ピアリは処罰として、何故か俺と同室になる処分を受けていた。

 本人は大喜びしていたが、あくまでも俺が変な事をやらかさないかの監視役との事。

 処分が厳しいのか甘いのか、分からんな……。


 そしてリリナさんは、強制的に休暇を取らされる事になったみたいだった。

 俺としても、落ち着くまで彼女にはゆっくり休んでいてほしいと思う。





 それから少し経った頃、俺の部屋に引っ越してくるピアリの手伝いで彼の部屋に二人で向かったのだが、驚いてしまった。



「こんな狭いところに一人でいたのか……」


 想像以上に狭い部屋で驚いた。

 小さな窓が一つあるだけで、ベッドとわずかな家具しか無かったのだ。


「うん。ちょっと寮でゴタゴタがあってね」


 そう言いながらピアリの表情が少し曇る。


 俺が広い一人部屋だった事を怒ってたり、同じ部屋に住みたいと言っていた事を思い出し、もっと早くに同室に誘ってあげれば良かったと後悔した。


「今まで気付いてあげられなくて、ごめんな」


「キミが気にする事はないよ。こうして新しい部屋に移れるんだから」


 謝る俺にピアリは笑顔を向けてくれた。


 ……危ない。これで女の子だったら、一瞬でときめいてしまっていたな。



 そんなこんなで、少ない荷物を運び出して俺の部屋に配置が終わった頃、ベルゲル先生とリリナさんが部屋を訪ねてきた。


「引っ越しも終わった頃だと思って、差し入れを持ってきたぞ。見ろ、珍しい豆大福だ」


 豆大福ですとな!

 こっちの世界にもあるなんて驚きだぜ。

 そもそもだが、この世界って妙に元の世界の文化がチラホラと混じってる気がするんだよな。


 それはそうと、実は豆大福にはちょっとうるさい。

 一般的な黒豆でなく、大豆の豆大福が好みだ。

 豆大福以外だとヨモギの大福も好みである。


 しかし、ベルゲル先生の持ってきてくれた豆大福は黒豆タイプだった。

 そんな簡単に好物が手に入る訳ないか。



「私、お茶を用意しますね」


「ボクも手伝うよ」


 リリナさんとピアリが部屋に備え付けのミニキッチンへ向かった。

 そんな二人の後姿を見て、あの事件は終わったのだとようやく実感する。



「先生。リリナさんは、もう大丈夫みたいですね」


「お前のおかげで、アイツも生まれ変われたんだと思うぞ。俺は後輩が苦しんでいたのを知っても、今まで何もしてやれなかった。だから、お前には本当に感謝している」


 リリナさんは煙男に操られていた時の事を事をあまり覚えていなかったみたいだが、操られていたとはいえ、俺を殺そうとした。

 その事実を知った後、彼女は見ていられない程に狼狽してしまった。


 ……ちなみにあまりにも取り乱すもので、彼女をなだめようと勢いでキスしてしまったら、途端に大人しくなってしまったのは秘密である。


 お茶を持って戻って来る二人のためにテーブルと椅子を人数分用意して、事件後のちょっとしたお疲れ会を開いた。


「まさか、こんな結果になるとは夢にも思わんかったなぁ……。リョウヤ、お前本当にいいのか?」


 先生がお茶をすすりながら俺を見つめる。

 好奇心ダダ漏れって感じがして、少し居心地が悪い。


「いいって、何がですか?」


「リリナの事だよ。こいつって、エルフのクォーターだから見た目より年齢――ゴボォ!!」


 突然リリナさんの手刀がベルゲル先生の脇腹に入り、先生がお茶を吹き出した。

 汚いなぁ。後でちゃんと床を拭いてくださいよ。



「女性の年齢を話題にするなんて最低ですよ。ベルゲル先輩?」


 リリナさんは笑顔だけど、目が笑ってない。


 あれれ? この人って、こんなキャラだったっけ……?



「リョウヤ君も色々大変な事になりそうだね。ちゃんと責任を取りなよ?」


 ピアリが苦笑して先生のこぼしたお茶を雑巾で拭いていた。


「それなら私は、リョウヤさんがもう少し大人になるまで、あなたのお姉ちゃんでいさせてもらえませんか?」


 彼女は微笑みながら、俺の手を両手で包み込む様に優しく握る。


 ……多分、今はそれが俺と彼女にとってのベストな関係なのかも知れない。


 俺がもっと大人になって、改めて彼女に本格的な交際を申し込もうと思った。



「はい。お願いします」


「では今日からリョウ君のお姉ちゃんになります! 私の事は、お姉ちゃんって呼んでもいいからね」


 吹っ切れた女性は強いなぁ。

 もしかしたら、これが彼女の本来の性格だったのだろうか。

 きっとこれからも彼女の色々な素顔を見る事になるはずだ。



「ほほう、リョウ君ときたかぁ!」


「リョウ君、ねえ……」


 やめて二人とも! そんな生暖かい目で俺を見ないで!

 いたたまれなくなってくる。


 そして、ピアリがとんでもない事を言い放つ。


「ところでリリナさん。今後リョウヤ君の事が好きな女の子が他に現れたら、どうするんですか?」


 なんて恐ろしい事を聞きやがるんだ!

 俺は恐る恐るリリナさんの顔を窺う。


「そうね。いつも私の事を想ってくれていれば、それでいいかな。もし、もてあそばれていたらどうするか分からないけど。……私の事を守ると言ったよね?」


 地味に怖い事を言ってる気がするが、素敵な笑顔を向けられたら、こちらもきちんと応えなければいけない。



「俺はリリナさんの事をいつだって想ってますよ」


 ……その後、この発言を揺るがせる様な事が続々と起きていくのだが、この時の俺は知る由も無かった。



「お前ら恥ずかしいセリフは禁止だぞ! 俺はもう耐えられん。リア充爆発しろ!」


 ベルゲル先生が全身をかきむしっている。

 そういえば先生って、独身なのかな?


 そんな時、メディア校長が部屋を訪ねて来た。



「お邪魔するぞ」


 リリナさんが、お茶の用意をしようと席を立とうとするのを校長が制した。


「構わん。ベルゲルを迎えに来ただけだ。ところで、お前達二人はどうなったんだ?」


 メディア校長が俺とリリナさんを見て言った。

 この人も聞いてくるのかよ……。


「私、リョウ君のお姉ちゃんになりました」


 リリナさん、校長にまでそんな事を言わないで!

 案の定、校長が目を丸くしている。


「あははは! お姉ちゃんか。こりゃいい。なぁベルゲルよ。お前も子供の頃は、私の後をお姉ちゃん、お姉ちゃんって言いながら着いて回ってたよな?」


「なっ!? ……そんな昔の話を!」


「お姉ちゃんに久々に甘えてもいいんだぞ?」


「ぐぬぬぬぅ」


 ベルゲル先生が顔を真っ赤にして呻いている様子を見て、その場にいる全員が笑っていた。


 ……ああ、そうか。


 俺が求めていたのは、こういう日常だったのかもしれないな。

 転生してようやく自分が本当に欲しいものが見つかった気がした。

第一部終了です。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。


冒頭の0話ですが、修正前の旧版を読んでいない方は気にしないで下さいませ。

旧版は色々マズい描写があって怒られてしまいまして、修正するにも既に500話超えていたので、あきらめて最初から修正する事にしました。

なので、冒頭の0話は旧版の続きでタイムリープのシーンです。

これ以降はタイムリープ要素はありません。


第二部は、加筆修正しながら投稿していきますので、投稿が不定期になると思いますが、お付き合い頂けると嬉しいです。

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