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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第五章

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167 ひどい! 児童虐待だ!!

 地下の監禁部屋から助け出されて緊張の糸が切れたのか、アストリーシャのお腹の音が派手に鳴り響いた。


「あのう、お腹が空いたのだけど、何か食べ物をもらえないっスかね?」


 空腹と恥ずかしさのあまりか、アストリーシャの狼耳がぺたんと寝てしまい、口調もラフになっている。


「アストリーシャ、少し遠慮してください。あの、お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません……」


 セイランさんが謝るのだが、今度はその彼女のお腹が鳴ってしまった。

 必死に誤魔化そうとしていて、頬を赤く染めているのがなんとも可愛らしい。


「わたしもお腹すいたー」


 続いてフィルエンネが訴えてくる。


「実は私もです……」


「右に同じく」


 サヤイリスとレイナさんもだ。

 どのくらい閉じ込められていたのか分からないけど、ろくに食事も与えられていなかったみたいだし、仕方ないよな。



「こちらこそ失礼しました。すぐに何か用意を致しますね」


 ケフィンがそう言うと、俺に手招きをする。


「なんです?」


「今夜はこの屋敷で野営しよう。それでリョウヤ君には待機しているメンバーをここに連れてきてほしいのだが、頼めるかい?」


「了解!」


 ケフィンの馬も連れてくる必要もあるので、レイメイさんに同行してもらう事にした。

 それと、地味に分かりづらい場所にある廃屋敷まで迷わず戻れるか心配だったので、道中のナビ係にアンこ先輩も一緒にきてもらう。

 ミっちゃんと残るのが気まずいのか、メルさまもくっついてきた。

 ちなみに、鏡子さんとエリカはリンクしている鏡からは遠く離れられないので、ここで留守番だ。


「行ってらっしゃいませ。ご主人様」


「いってらっしゃーい」


 エリカはともかく、鏡子さんはまだメイドさんごっこを続けていた。

 やっぱり気に入ってるのだろうか。






「……あのさ、メルさまはミっちゃんと残りたくなかった?」


 待機組の元へ向かう途中、メルさまに少し意地悪な質問をしてみた。

 案の定、メルさまは口をつぐんでしまう。


「セッキー君、そういう意地悪な事を言うのはどうかと思いますよ」


 アンこ先輩にたしなめられてしまった。


「いいのですよ、アンこさん。その様な事を言われても、文句が言えない事をしましたし」


「そう思っているのなら、今回は自分が悪いと思っているんだよね?」


 珍しく殊勝な態度の彼女に、また意地悪な質問を重ねた。

 今回、ミっちゃんの忠告を無視して盗賊と戦おうとして、逆に襲われかけた事だ。

 先輩が何か言いたげに見つめてくるが、ここは心を鬼にして無視する。


「はい……。ですが、彼女の言い方もあんまりだったと思いますの。あんな頭ごなしに言わなくても……」


 確かにミっちゃんの言い方もきつかった気がするが、それはメルさまの事を思っての事だったのだろうと思う。

 ミっちゃんって不器用なところがあるから、誤解されやすいと思うのですよ。


「まあ、確かに友達から命令口調で言われたら、イラっとするよね」


「そうですの! もう少し懇切丁寧に言ってくれていたら、わたくしも思い留まったのかもしれません」


 無茶言うなよ……。あの状況でそんな気を使える訳がない。

 思わず呆れてしまった。

 だけど、ミっちゃんの事を憎んだり恨んだりはしていなさそうなので、切っ掛けさえあればすぐに元の関係に戻るんじゃないかな。


「私も強く命令されたら、怖くて泣いてしまうかもしれません」


「そうですよね! そうですよね!」


 先輩が同意すると、メルさまは思いっきり頷いている。

 その様子を見ながら、俺は黙って会話に耳を傾けていたレイメイさんに尋ねてみた。


「レイメイさんって、仲のいい友人とケンカをした事あります?」


「そうですね。私の場合、ゲンゲツとは子供の頃からの腐れ縁といった感じですが、やっぱりそういう事はありましたよ」


「そうなのですか!? どうやって仲直りしましたの?」


 メルさまがレイメイさんの話に食いついてきた。


「あまり参考にはならないですが、それこそ殴り合いのケンカでしたね。その後、お互いを認め合うといった感じです。流石に女性には勧められませんね」


 そう言って、レイメイさんは苦笑した。

 俺も、ミっちゃんとメルさまが取っ組み合いのケンカするところなんて見たくない。


「だったら、お互いきちんと話し合った方がいいかもね」


 言いたい事を我慢しないで相手にぶつける。

 これは、お互いの信頼がないと大惨事になる両刃の剣だ。


「じゃあ、その機会をセッキー君が作ってくれるのですね」


「なんでそんな話になるんですかね、先輩」


「だって、言い出したのはセッキー君じゃないですか?」


 ぐぬぬぬ、正論過ぎて言い返せないや。


「セッキーさんがお膳立てしてくれるのなら、わたくしも前向きに生きていけそうな気がしますの」


 メルさまめ、俺に丸投げする気満々ですがな。


「リョウヤ君、ここまで言われてしまったら、一肌脱ぐしかないですね」


 いつの間にか外堀を埋められてしまっていたみたいだ。

 仕方が無い。元々どうにかしようと思っていたし、頑張ってみますか。


 それから程なくして、待機組の元へ到着した。





「うへぇ、これ全部火葬したのかよ……」


 盗賊団のならず者達の骨が並んでいる。もう身元も分からなくなってしまったが、彼らのやった事を考えると、骨が残って埋葬される可能性があるだけでも幸せなのだろう。

 普通なら、野犬や魔獣に食い荒らされて野ざらしになるところだ。


「あたし達だってさ、どうにかしようと思ったよ? でも、周囲を獣やら魔獣に囲まれたら仕方ないじゃん」


 ノノミリアが火葬した事を弁解するが、別に責めてる訳じゃないんだけどね。


「死体を食い散らかされても気持ちの良いものでは無いので、わらわが火葬した。おかげで魔力が足りないのだ。リョウヤ、魔力の供給を頼む〜」


 シーラがふらふらしながら俺に抱きついてくるので、メルさまのクソ不味い魔力回復薬を飲ませてみた。

 そのあまりの不味さに咳き込んで涙目で訴えてきた。


「ひどい! 児童虐待だ!!」


 人聞きの悪い事を言わないでもらえませんかね。そもそもお前は児童じゃないだろう。

 回復薬を作ったメルさまも複雑な表情をしているぞ。



「それでさ、あいつらの所持品からこんなのが出てきたんだぜ」


 レイズが俺に銀貨を見せてきた。見た事のない貨幣だ。


「それ、西方の銀貨なの。憶測で語ってはいけないのだろうけど、もしかしたら、彼らは国境を越えてきた可能性があるのかも……」


 難しい顔のリリナさんが説明してくれた。


「国境を越えるのって、何か問題があるんですかね?」


 俺の質問にゲンゲツさんが鼻を鳴らした。


「知らないのか? 今この王国と西方諸国とはあまり関係が良くないんだ。こんな奴らが正規の手続きで入国したとは考えにくい。恐らく何者かの手引きがあったに違いない。魔法防御の魔道具や化け物の件といい、こいつらの後ろ盾がどこかの国だとしたら……な」


「まさか、他国からの侵攻なんですか!?」


 王都は平和だったので、他国とそんな事になってるとは、まったく想像もしてなかった。


「早急な思い込みは危険ですよ、リョウヤ君。まだそうとは決まっていないし、盗賊達は食い詰めて移動してきただけかも知れませんから。ゲンゲツも滅多な事を言うものではありません」


 慌てる俺の肩をレイメイさんが優しく叩く。

 そんな俺の様子を見て、ピアリも冷静になれと言ってきた。


「ここから先はボク達の仕事じゃないよ。それはともかく、向こうで何があったの? いきなり可愛いメイド服姿のキョウコさんが鍵を探してくれって言ってくるし……」


 俺は移動の準備をしながら、廃屋敷での出来事を待機組に説明した。




「竜牙族なんて、本当にいたの!?」


 荷物を魔動力車に積み込みながら、リリナさんが目を丸くして驚いている。

 他のみんなも同様の反応だ。

 シーラだけはピンとこない様子だけど。


「そんなに珍しい種族なんですかね?」


 さっきも地下の監禁室で竜牙族のサヤイリスを見た時は、その場にいた全員が驚いていた。

 俺としては、獣人やエルフみたいな亜人の存在だけでも普通に驚きなんだけどね。



「俺はおとぎ話の存在だと思っていたけどなー」


「あたしも同じ。まさか本当に実在していたなんてね……」


 レイズとノノミリアはイマイチ信じられないって顔をしている。


「俺は一度だけ、王国の公式行事の際に遠くから見掛けた事があったぞ」


 ゲンゲツさんはケフィンの家の仕事絡みで見た事があるそうだ。


「確か、古竜の末裔とも言われる種族なんだっけ? 妖精の記憶でもその辺の事はよく分からないんだよね」


 ピアリも分からないみたいで首をかしげている。

 やっぱり本当に珍しい種族なんだな。

 みんなの様子を見ていたシーラが、何かを思い出すかの様にボソっとつぶやいた。


「魔法王国時代末期、竜の血を受け入れた者達が西の谷に移り住んだと聞くので、もしかしたら、その者達が竜族の末裔と呼ばれているのかもな……」


「へー。そうなのか」


 歴史学者が聞いたら喜びそうな証言なのだろうけど、今の俺にとってはミっちゃんとメルさまの関係修復の方がよっぽど大事な事であった。

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