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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第五章

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165 僕達は、あなた達を助けに来ました

 ケフィンが扉をそっと開いたが、中は暗くてよく分からない。

 俺の服の裾を掴んでるロワりんの手に力が入るが、伸びるのであんまり引っ張らないでくれ。

 魔力剣のオーちゃんに反応がないので、部屋の中は危険ではなさそうだ。


 レイメイさんとケフィンに続き、慎重に部屋の中へ一歩足を踏み入れて中を窺うと、奥から光るものが複数見えた。

 それは魔力ランプの光を反射した時の動物の目のようだ。


 俺達は一瞬身構えたが、すぐに奥から怯えた気配を感じる。



「……あなた達は誰ですか?」


 部屋の奥から聞こえてきたのは、弱々しい女性の声だった。


「失礼。明かりを点けさせていただきます」


 レイメイさんが魔力ランプをいくつか壁に掛けると、ようやく部屋の内部が照らされる。

 部屋の中には三人の獣人の女性が身を寄せ合う様に座り込んでいた。

 ずっと薄暗い環境だったのか、彼女達は魔力ランプの明かりに少し眩しそうにしている。


 部屋を見渡してみると、恐らく倉庫だったのを利用した監禁部屋で特に不衛生という印象は無い。

 一時的に彼女達を閉じ込めておく場所なのだろう。



「僕達は、あなた達を助けに来ました」


 ケフィンが彼女達にそう伝えると、三人が顔を見合わせた。


「私達を助けに……?」


「あの男達の仲間じゃないの?」


「私達、助かるのですか?」


 彼女達が色めき立つのと同時に、足枷あしかせから伸びる鎖が音を立てた。

 か細い足に繋がれた無骨な鎖が何とも痛々しい。


「そのために私達が来たんだからな」


「盗賊達はもういないから安心してね☆」


 ミっちゃんとロワりんが笑い掛けると、彼女達も安心した表情を浮かべた。



 オーちゃん、彼女達の足枷を外したいんだけど頼めるかな?


(お任せください。ご主人さま)


 こうやってお願いしておかないと、魔力剣の切れ味が良くならないのは学習済みだ。

 そのまま彼女達の足枷を魔力剣で断ち切っていく。

 まるでバターを切るみたいだったので、思わず変な笑いが出てしまった。

 周囲からヤバい奴だと思われなければいいのだけど。


 最初に解放したのは虎耳の獣人の女性だ。

 虎の獣人だと強そうに思えるが、線の細い感じで二十歳過ぎぐらいに見えるけど落ち着いた感じの女性だった。

 ちなみに、最初に俺達に声を掛けてきたのは彼女みたいだ。


 二人目は狼耳の獣人の女の子で、見た目の年齢は俺より少し年下ぐらい。ショートヘアの似合う大きな目とモフモフの尻尾が印象的な子である。


 三人目は銀髪の狐耳の獣人で、切れ長な瞳のミステリアスって言葉がピッタリな女性だ。

 俺達より少し年上ぐらいだろうか。その彼女が何か意味有りげにミっちゃんの事を見つめている。

 同種族って事で、親近感を持ったのだろう。



「助けていただいて、ありがとうございます。私はセイランと申します。 本当になんとお礼を申し上げればよいか……」


 虎耳の女性、セイランさんが俺達にお礼を言い掛けた時だ。


「お姉ちゃん!!」


 部屋の外で待機していた魔石の女の子が部屋の中に駆け込んで来るなり、彼女に抱きついた。


「あなた……フィルエンネなの!?」


 突然だったので、目を白黒させながらセイランさんが問い掛ける。


「え!? この子がフィルエンネ?」


「随分と印象が変わりましたが……」


 狼耳の女の子と狐耳の女性も驚いているのか、目を瞬かせている。


「うん、そうだよ。わたし……フィルエンネだよ!」


 魔石の女の子がフィルエンネと名乗った。恐らくそれが彼女の名前なのだろう。


「髪の色と瞳が変化していますが、フィルエンネそのものですね……。それにしても、よく無事に戻ってきてくれましたね」


 セイランさんがフィルエンネを優しく抱きしめた。


「本当だよ。連れて行かれた時には、もう駄目かと思ったし。あの坊主頭、絶対許さないんだから!」


「呪われて死ねばいいと思いますね」


 狼耳の女の子と銀狐の女性も盗賊団の頭目を罵っているが、フィルエンネが殺したなんて絶対に言えないよな。言う必要も無いけど。



「あのね、わたし助けてもらったの。おとうさんに」


 フィルエンネの言葉を聞いた途端、三人の表情が険しくなった。

 何か嫌な予感がするのは、気のせいだろうか。


「お父さんですか? 本当に?」


 セイランさんがいぶかしむ。


「うん。おとうさんの同級生の隣に住む従兄弟の知人の後輩に!」


 そのネタまだ覚えてやがったのかよ!

 三人が眉間にしわを寄せながら首をかしげている。


「ねえ、フィルエンネ。そのお父さんの同級生のなんちゃらって誰なの?」


 狼耳の子が尋ねると、フィルエンネが俺を見た。


「おとうさんの同級生の隣に住む従兄弟の知人の後輩だよ」


 三人が俺を『どういう事?』という表情で見つめてくる。


「すみません。これには深い理由わけがあるんです。後で説明します。ごめんさない」


 今のうちに謝っておく。

 適当な事を言って後悔するのはお約束だな。


「やっぱり、セッキーは馬鹿というかアホだな」


「うん。愛すべきアホなのだろうね……」


 ミっちゃんとロワりんが言いたい放題であるが、返す言葉もございません。


 その後はメルさまやアンこ先輩も含め、お互いが一通り自己紹介をする。

 狼耳の子はアストリーシャと名乗り、狐耳の女性はレイナと名乗った。



「それで、リューちゃんはどこにいるの?」


 突然フィルエンネが声を上げた。


「申し訳ありません。まだろくにお礼も申しておりませんが、もう一人助けていただけないでしょうか? この部屋の奥なのですが……」


 セイランさんが俺達に指し示した場所にはもう一つ扉があった。

 メルさまには三人の傷の手当てをしてもらい、先輩には新たな扉の中を探知してもらう。


「確かに女性が一人います……。ですが、動く反応がないです……」


 先輩が不安そうに訴える。

 まさか、もう死んでしまっているオチじゃないよな。


「じゃあ開けるよ」


 ケフィンが扉を解錠して開く。

 弱々しいランプの明かりに照らされていたのは、いかにも呪われていそうな首輪をつけられている赤髪の女の子が寝ている姿だった。


「……反応がありませんね」


 明かりを持って部屋に入ったレイメイさんが女の子の様子を窺う。

 死んではいなさそうだが、瞳に生気がなく反応が全くないみたいだ。

 それにしても、あの首輪に見覚えがあるような気がするんだけどなぁ。

 なんだったっけ?


「リューちゃん、どうしちゃったの?」


 フィルエンネが心配そうに聞いてくる。


「……彼女、その妙な首輪をつけられてから、動かなくなってしまったのです」


 レイナさんが心配そうに説明してくれた。


「とにかく、彼女をこの部屋から連れ出そう」


 ケフィンとレイメイさんが、赤髪の子を抱える様にして部屋から運び出した。

 部屋の明かりの下で見る女の子は、初めて見る種族だった。

 燃える様な赤髪に一対の角、そして爬虫類のような大きな尾が目立つ。


「この方……もしかして、竜牙族ですか!?」


 アンこ先輩の声が上ずっている。

 聞き馴染みのない種族だが、前に遺跡探索計画の話を先輩がした際の目的地の一つが竜牙の里だったはず。

 確か、そこに住む種族だったと聞いた様な。



「幻と呼ばれる竜牙族って、本当にいたんだな」


「私も初めて見たんだけど……」


 ミっちゃんとロワりんが目を丸くしていた。

 メルさまも遠目から、興味深そうに見つめている。



「僕もこうやって間近で見るのは初めてだけど、これは問題が起きそうだね……」


「あの『まつろわぬ一族』ですか。古竜の末裔とも言われる種族の少女が、何故こんな場所でとらわわれていたのでしょうか」


 ケフィンとレイメイさんの口ぶりからも、これは異常な事みたいだ。


「お察しの通り、彼女は竜牙族です。彼女も私達と同じ様に連れてこられたみたいなのですが……」


「この子、凄く強かったんだけど、フィルエンネを庇ってね……」


「その忌々しい首輪をつけられてしまったと言う訳です」


 三人が悔しそうな表情でうつむいてしまった。

 恐らく耐え難い事もあったのだろうな。


 しかし首輪か。やっぱりどこかで見たのは確かなのだが……。



「思い出した!!」


 いきなり大声を出してしまったので、アンこ先輩の耳を引っ張って遊んでいたフィルエンネが怯えてしまった。


「ああ、驚かせてごめん」


 怯えるフィルエンネの頭をなでて謝る。

 せっかくなので先輩もなでておいたら、なんか喜んでいるみたいだ。


「なんだよ、急に大声なんて出して。何を思い出したんだ?」


 ミっちゃんが訝しげに聞いてきた。

 他の全員も俺に視線を向けている。


「その首輪……相手の言いなりになる隷属の首輪だと思う」


 地下に閉じ込められていたシーラがつけていた首輪と似ている気がする。


「そんなおぞましい物があるのですか? 外せないものなのでしょうか……」


 メルさまが心配そうに竜牙族の子を見つめている。


「ここに鍵穴みたいなのがあるけど……ケフィンの持ってる鍵貸して」


 首輪を調べていたロワりんが鍵束を受け取り、解錠できる鍵を探すがどれも合わない。


「もしかしたら、あの坊主頭が鍵を持っているかも」


 苦々しい表情でアストリーシャがつぶやいた。


 だったら、すぐにでも探さないと!

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