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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第五章

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143 こんな娘って、どういう意味ですか!?

 アンこ先輩の父親であるマルクさんが話を切り出してきた。

 気のせいだろうか、やけに機嫌が良さそうである。


「アン。リョウヤ君を連れて来たという事は、そういう事だと思っていいんだね?」


 そういう事って、なんの事だろう?

 先輩は、まだご両親に遺跡探索の話をしていないと言っていたが……。


「えっと、今日はお父さんとお母さんに大事なお話がありまして、セッキー君にも無理を言って同席してもらってるのですが……」


「それは分かっている。彼がこの場にいるという事は、二人の交際の報告なのだろう?」


 俺は思わずお茶を噴き出しそうになった。

 隣のシーラは一心不乱にお茶菓子を食べている。

 先輩の母親のファルさんは最初から変わらずニコニコしていた。



「……え?」


「……へ?」


 しばしの間が空き、先輩とマルクさんがお互いの顔を窺う。


「な、なんですかそれは!? 私がお話したいのは……というか、なんで私とセッキー君がそんな事になるんですか!!」


 先輩が頬を朱色に染めながら否定した。


「違うのか……? 彼を連れてくるものだから、てっきりそう思ったぞ……」


「違いますって!」


 先輩のあまりの剣幕にマルクさんがたじろいでしまう。

 そんな二人の様子をファルさんが、やっぱりにこやかに見守っていた。




  ◆◆◆




「あー、なんというか、誤解だったのは残念だ。すまないね、リョウヤ君。どうやら、私の早とちりだったみたいだ」


 マルクさんが俺に頭を下げる。


「いえ、なんだかまぎらわしくて、こちらこそすみません……」


 どうして俺も謝ってるんだろう?

 なんか謝らないといけない空気である。

 それはそうと、先輩の必死の説明で誤解は解けたみたいだが、なんとも居心地が悪くなってしまった。


「まったく残念ね。せっかく娘が彼氏を連れてきてくれたと思ったのに……」


 全然残念そうな顔をしていないファルさんが、わざとらしく溜息を吐く。


「だから違いますって、先程から言っているじゃないですか! 蒸し返さないでくださいよう!!」


 先輩がプンスカ状態になってしまっている。

 勘違いされる程、俺は先輩のご両親に誤解される様な事をしたっけかな?



「でも、どうしてまた俺の事を先輩の彼氏だと思ったのですか?」


「それは君、こんな娘だよ? 異性の噂がまったくない娘が男子を家に連れてくるなんて、一大事だ」


「こんな娘って、どういう意味ですか!?」


 先輩のプンスカがヒートアップしてきた。

 マルクさん。言いたい事は分かるけど、言い方って物があるでしょうに。


「そうねえ。この子ってば、ちょっと変わってるでしょ? そんな子と仲良くしてくれる男の子ってだけでも奇特……すごく変わってると思うの」


 ファルさん、言い直したけど全然フォローになってないですよ。


「セッキー君は変わった人じゃありません! とても素敵でかっこいい人なのですよ!!」


 先輩はプンスカ状態で地味に恥ずかしい事を口走らないでくださいね。


「ほう。お前はリョウヤ君の事を気に入ってるのだな? ならば早く付き合ってしまいなさい。彼はお前の事をちゃんと理解してくれているぞ」


「そうですよ。アンの趣味に真面目に付き合ってくれる男の子なんて、滅多にいませんよ。彼の事を大事にしなさいね」


 何やら話の雲行きがまた怪しくなってきたのだけど……。


「もう! お父さんもお母さんもいい加減にしてください!! その話はもう分かりましたから、私の話も聞いてくださいよう!!」


「ほう。やっと分かってくれたのか」


「あらあら。アンにも素敵な彼ができそうね」


 あ、これ駄目な展開だわ。


「……え? ち、ち違うんです!! これは誤解ですって!!」


 先輩が慌てて否定するも、後の祭りだった。

 俺は助けを求めようとシーラの方へ目を向けると、シーラとメイドのレラさんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。


 ……仕方がない。

 ここは取り敢えず誤魔化して、話を本来の方向に戻す努力をしてみるか。


「あのう、その件は後でゆっくりとお話するとして、今日は別件でお訪ねしました。ほら、先輩あの話を」


「そ、そうでした。お父さんとお母さんに許可をもらいたい事があるのです」


 俺の言葉に先輩が冷静さを取り戻し、ご両親に向き合う。

 マルクさんとファルさんも先輩の真面目な表情を見ると、居住まい正した。


「近いうちに本格的に遺跡の探索へ行きたいと思います。その許可をお願いします」


 そう言って、先輩はご両親の顔を窺う。

 それに対して、二人は難しい顔で何かを考え込んでいる。

 しばらくの沈黙の後、マルクさんが重々しく口を開いた。


「最近、街道筋に現れる盗賊団の話は知っているかい?」


「はい…」


「被害は頻繁に起きている訳じゃないが、獣人の娘が狙われるのも知っているね?」


「はい……」


 先輩の声が次第に小さくなって、ついにはうな垂れてしまった。


「ねぇ、アン。それが分かっているのに、どうしても行かないといけない理由があるの?」


 ファルさんが先輩に優しく声を掛ける。


「……私の夢なのです。どうしても叶えたい夢の一歩なのです」


 先輩がうつむいたまま答える。

 それでは駄目だ。ちゃんと両親の目を見て話さないと!


「現状では父親として、許可は出せないな……」


 マルクさんが腕組をしたまま大きく息を吐いた。

 それを聞いた先輩が委縮してしまった様に動けなくなってしまっている。


 ここで助け船を出すのは、先輩のためにならないのかも知れないけど、一緒に来てくださいと頼まれたのだ。

 もうお節介でもなんでもいい。彼女の力になりたい。

 そう思ったら、自然に口が開いていた。


「その件については、パーティーメンバー全員が理解しております。メンバーの中にはCランク冒険者もいますし、同クラスの冒険者を護衛として、既に数人確保しております」


 護衛の部分で少し盛ったけど、多少のハッタリもなければ交渉にもならない。

 これで話のとっかかりになればいいのだけど。


「Cランクのメンバーがいるのかい? それは凄いね」


 俺の話にマルクさんが興味を持ってくれたようだ。


「ちゃんと護衛も準備しているのなら、少しは安心ね。でも、移動手段はどうするの? 乗合馬車でも貸し切るつもり? 失礼ですけど、その費用は? まさか、アンが全てを負担するのですか?」


 にこやかだったファルさんの目が、お金の話になった途端に猛禽類みたいに鋭くなった。

 経営者の妻なので、周囲には金をあてにしてくる様な輩がいくらでも集まってくるのを目にしているに違いない。

 その上、資産目当てで先輩に縁談を申し込まれる事も多々あると容易に想像がつく。


 だけど、俺達は違う。

 そもそも先輩のお金に頼る気は元々ない。


「移動手段は王立魔導機関からのちょっとした伝手で用意してあります。費用の方も実質無料なので、ご心配なく」


 ここで王立魔導機関の名前を出せば、信憑性も増すという目論みだ。

 俺はニッコリと笑顔を返す。

 そんな俺の反応に、ファルさんが一瞬面食らったみたいだが、すぐにいつもの微笑みを浮かべる。


「まあ。ちゃんと移動手段も用意してあるのね。……リョウヤさん、あなた本当に面白い人ね」


 これは好反応……だな。

 よし、先輩もう一押しですよ!

 隣で俺の顔を見上げていた先輩に向けて頷いてみせた。

 それに対して、先輩も力強く頷き返した。


「準備はきちんとします! 安全にも気をつけます! ……それから、連絡も毎日しますからお願いします!!」


 今度はちゃんと両親の目を見て訴えた。


「連絡を毎日するって、どうやってするんだい? 大きな街なら公衆魔導通話機もあるだろうが、小さな村や野営する時は魔導通話機がないだろう?」


 それは盲点だった!!

 スマホもない世界では、簡単に連絡が取れない。まったく不便である。

 魔狼討伐の時に貸与された水晶版タブレットを使った魔導ネットワークでもあれば別だろうけど、まだ一般に普及はしていないみたいだし……。


「……連絡手段はあります」


「アン、苦し紛れに嘘を言っては駄目ですよ?」


 またもやうつむいてしまった先輩にファルさんが鋭い視線を向ける。


「キョウコさんにお願いします」


「「キョウコさん?」」


 マルクさんとファルさんが同時に首をかしげた。


 その手があったか!

 だけど、彼女の存在を見せたら驚かれるのでは……でも、そうも言っていられないか。




「彼女がキョウコさんです」


 先輩がコンパクトミラーを開いてマルクさん達に見せる。


「お初にお目に掛かります。鏡子と申します。アンさんにはいつもお世話になっております」


 鏡の中の鏡子さんがペコリとお辞儀をした。


「ああ……どうも」


「これは魔道具か何かなの?」


 案の定、二人は呆気に取られてしまっている。

 いきなり鏡の中から話し掛けられたら、誰だって驚くよな。


「少し待っていてください」


 そのまま先輩が客間を出て行く。

 ほどなくして、メイド姿の鏡子さんを伴って戻ってきた。

 廊下にあった大きな鏡とリンクさせて呼び出したのか……。

 先輩も思い切った事をするなぁ。


「こちらは鏡の精霊のキョウコさんです。鏡を介してどこにでも移動する事が可能です」


「改めまして、鏡子です」


 鏡子さんが行儀よくお辞儀をするのを見て、マルクさんとファルさん、その場に控えていたレラさんが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。



「……仕事で色々な事を見聞きしてきたが、世の中にはまだまだ不思議な事が多いなぁ」


 俺と先輩から鏡子さんの説明を受けたマルクさんが、こめかみに手を当てて唸っている。


「あらあら、あなたとても不思議なのね。鏡だったらどこへでも繋がれるのかしら?」


 ファルさんは早速鏡子さんから色々な事を聞き出そうとしている。

 タフというか、肝が据わってる人だなぁ。


「キョウコさんにお願いすれば、どこにいても連絡は取れます。だから、遺跡探索に行ってもいいですよね?」


 先輩、その意気です。一気に畳み掛けてしまいましょう!


「うーん。可愛い娘に危険な旅をさせたくないのだが……」


 マルクさんは、まだ納得できないみたいだ。

 何か安心材料があれば、もう一押しできるのだが。


 ……残るは俺の覚悟だ。


「先輩の事は最優先で守ります! そこにいるシーラも実は物凄く強力な魔力を持っていて、専属の護衛になってもらいます。それに先輩には俺が傷一つ負わせません。約束します! どうかお願いします!!」


 最後のダメ押しだ。これで駄目なら、もう諦めるしかない。

 いきなり話に巻き込まれたシーラは不満顔だが、少しは協力してくれ。

 頭を下げる俺に、マルクさんは面食らっている様子だ。


「リョウヤさん、本当にアンには傷一つ負わせないのですね?」


 ファルさんが真面目な表情で俺を見据える。

 思わず気圧されそうになるが、目を逸らさずに踏ん張る。

 それにしても、小さな体なのになんという眼力だ。


「……はい。お約束します」


 なんとか声を振り絞って答える。

 しばらくファルさんとの睨み合いが続いたが、彼女がふっと表情を和らげた。


「……ここまで言うのだから、許してあげてもいいんじゃないかしら? マルク」


「そうか。君がそう言うのなら、いいだろう。アン、気を付けて行くのだよ」


 ご両親の言葉に先輩の表情がパッと輝いた。


「お父さん、お母さん……ありがとうございます!!」


 ようやく、ご両親から遺跡探索への許可をもらう事ができた。

 まだ旅立ってもいないのに、一気に疲れた……。


「セッキー君もありがとうございます」


 先輩が笑顔で俺の手を小さな両手でギュッと握り締める。

 この笑顔を見たら、気疲れなんて一気に吹き飛んでしまう。


「リョウヤさん。先程言った事を忘れないでくださいね。アンには傷一つ負わせないって。……もし、約束を守れなかったら責任を取ってもらいますからね。これは『契約』です」


 ファルさんが笑顔で恐ろしい事を言ってきた。

 今になって、とんでもない事を言ってしまったと背筋が寒くなる。

 だけど、先輩の夢と笑顔のためだ。後悔はしないぞ……多分。


 窓の外を見ると、既に日が落ちていた。



「……そろそろ帰らなくてはいけないので、失礼させていただきます」


「なんだいリョウヤ君。もう少しゆっくりしていけばいいじゃないか」


「そうですよ。それこそ泊まって行っても構いませんよ?」


 あれ? いきなりそういう展開なの?

 先輩は頬を赤く染めて、何かを期待する様な目で俺を見ているし。

 ここは否定しないの?


「なあ、シーラ。これどうしよう……」


「わらわは、知らないからな」


 シーラは呆れ顔で俺の視線から顔を逸らした。

 ……どうやら、既に逃げ道はないらしい。



「鏡子さん。今日は帰れないかもとみんなに伝えておいて……」


「かしこまりました」


 鏡子さんは、ここ最近で一番いい笑顔で頷いていた。

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