133 これは大事な事だよ? ちゃんと答えて
最近、他の事でバタバタしていて忘れがちになっているが、シーラの家探しとアンこ先輩の遺跡探索の準備が思う様に進んでいない。
一番の原因は交通手段だ。
乗り物に関しては、王立魔導機関にお願いしているので、先方の連絡待ちなのである。
こればかりは急かしても、どうにかなる物じゃないしなぁ。
先輩も慌てないで待ちましょうと言ってくれるけど、ただ待つだけってのも性に合わないんだよな。
なので、できる準備は今のうちに整えている。
そんな日常であるが、最近少し困ったというか、戸惑っている事がある。
先日の一件以来、テルノが妙によそよそしいのだ。
食堂で見掛けたので挨拶しようとしたら、逃げられたり。
廊下ですれ違った時も、うつむいて走って行ってしまうし。
だからと言って、嫌われてる訳でも無さそうなのだ。
この前なんて、『お弁当リベンジです!』と言って、わざわざ俺の部屋まで手作りの弁当を届けてくれたのだ。
せっかくなので、お茶を出そうと思ったら猛ダッシュで帰ってしまった。
まったく訳が分からない。
こんな状況が続けば、エリオ先生に何を言われるか分かったもんじゃないな。
女心に疎いと定評のある俺だが、流石に今回はお手上げであった。
◆◆◆
「──という訳で、今回は皆さんのお知恵を拝借したいと思います。忌憚なく意見を言ってもらえると嬉しいです」
みんなに鏡子さんの部屋に集まってもらい、意見を募る事にした。
ここは女子からの視点が重要だろう。
早速ロワりんが挙手してくれた。
「はい、ロワりん」
「……あのさあ、そういう事って普通私達に聞く? これはセッキー自身がなんとかするべき事だと思うよ」
いきなりの正論攻撃により、速攻で心が挫けそうになる。
だが、それも想定内。
「俺はみんなを凄く頼りにしてるんだ。だからこそ、敢えて恥をしのんで、みんなの意見を聞きたいと思うんだよ」
そう。決しておふざけではない。
謙虚な姿勢で女子目線の意見を聞くのだ。
ミっちゃんが手を挙げる。
「普通に考えるとさ、この前の時に何かやらかしたんじゃないか?」
やらかした事は否定できないが、絡んできた男達をブチのめしただけだ。
ただ面倒な事になりそうなので、彼女達にも話していない
続いてメルさまが手を挙げた。
「セキこさんの身体だからって、調子に乗って痴漢行為をはたらいたのでは?」
いきなり犯罪者扱いですかね。ひどくない?
ショックを受ける俺を気にせずに、ピアリも続ける。
「でもさ、デートはいい感じだったんでしょ? やっぱり途中でトラブルがあったんじゃない? そういう事で嫌な思いをしたら、影響はあるよ」
なんでそんなに鋭いんだよ。確かにトラブルはあった。
そして、その事でテルノに怖い思いをさせてしまったのも事実である。
俺の眉が寄ってしまっているのを見たシーラが小さく溜息を吐いた。
「その顔はやはり何かあったのだろう。リョウヤ、わらわに話してみろ。力になるぞ……多分」
うーん、こいつのは単なる好奇心が透けて見えるんだよなぁ。
ただ面白がっているだけにしか思えない。
「セッキー君は優しいですから、女の子にひどい事はしませんよね。きっと何か理由あるのですよ」
ああ、俺を信じてくれる先輩は本当に優しいなぁ。
マジ天使だ。
「私はセッキーにズボンを脱がされたぞ。それに生肉を食べさせられて大変な目に遭った。酷い事をされまくりだ」
ミっちゃん、話の腰を折らないで。
ズボン脱がしの実行犯はロワりんだから。それと生肉は自己責任で食べたじゃないか。
まったくの濡れ衣である。
「リョウ君、ミサキさんにそんな酷い事をしたの!? ちゃんと謝った? 駄目よ。めっ!」
リリナさん、そんな怒られ方をしたら悶えちゃいますよ……。
密かにニヤニヤしていると、鏡子さんが冷たい視線を飛ばしてくる。
「リョウヤさんが逢引から帰宅した後、しばらくニヤけていましたよね。気持ち悪かったので、それが原因では?」
鏡子さんも失礼な事を言いますな。
それはそうと、逢引なんて言葉は今どき使わないだろ。
「結局さ、セッキーはテルノに何をしたの? 私達の意見を聞きたいのなら、本当の事を話してよ。でなきゃ私達もセッキーの力になれないよ?」
いつになく正論をぶつけてくるロワりんには敵わない。
他のみんなも真面目な顔で頷いている。
……そう、だよな。
こんな俺にでも、みんな心配してくれているのだ。
俺は正直に男に絡まれた事や、撃退した経緯をみんなに話した。
その結果、みんな呆れ顔になってしまった。
「セッキー、何やってるんだよ。そういうのは目立たない様に路地裏で片付けるんだぞ」
「そうですの。公衆の面前で暴れたのは悪手です」
ミっちゃんとメルさまも無茶を言うなよ。
あの状況じゃ仕方なかったんだよ。
「でもさ、ちゃんとテルノを守ったのはボクは偉いと思うよ」
流石は心の友のピアリ。
分かってくれている。
「それにしても、王都のど真ん中で真昼間に刃物を振り回す輩がいるとはな。わらわは信じられないぞ」
「そうですよね。私の家の近くで、そんな事件があったら怖いです……」
シーラと先輩の言う事はもっともだ。
本来なら起きてはいけない事件だ。王都の治安の根幹に関わる問題である。
今度、メディア校長を通してアーヴィルさんに報告してみるべきか。
リリナさんに相談しようと思ったら、彼女は思案顔で何か考えている。
「思い出したのだけど、二人組の男を捕縛するのに協力した猫耳の女の子を探しているって、張り紙があったわよね? まさか、あれってリョウ君……」
リリナさん、そこは深く考えないでスルーしてください。
面倒ごとにしたくないのです。
「普通に考えれば、セキこさんの事ですよね。何故名乗り出ないのですか?」
鏡子さんもストレートに言わないで
そこは分かってても言わないのがマナーなんです。
「そんな事はどうでもいいですって! それより、なんでテルノに避けられてるかが知りたいんですよ。自惚れじゃないけど、別れ際までは仲良くしてたんだけど……」
せっかく友達になれたのに、このまま微妙な感じになってしまうのは残念だ。
そして、ずっと静かだったロワりんが真面目な顔で俺に尋ねる。
「あのさ、その暴漢から助けた事に関しては、テルノも感謝してると思うよ。ギクシャクしてるのは、もっと別な事が原因じゃないのかな? ねえ、セッキー。彼女と別れ際に何かあった?」
その問いには非常に答えづらいでございます。
思い出すだけで、恥ずかしくなってくる。
だってさ、お互いに抱きしめたり手を繋いだり、最後には……。
俺が答えに窮していると、ロワりんを始め、他のみんなが迫ってくる。
「答えなきゃ駄目ですかね……」
「ねえ、これは大事な事だよ? ちゃんと答えて」
ロワりんがいつになく真面目な顔で俺に訴える。
やっぱ、話さなきゃ駄目だよねぇ……。
観念して洗いざらい話した。
案の定というか、微妙な空気になってしまう。
その上、みんなから妙に生暖かい目で見られている気がする。
「そっかー、最後にキスかー。そっかー」
ロワりんさん、何を妙に納得してるんですかね。
みんなの反応に居たたまれなくなっていると、メルさまが真面目な顔で小瓶を手渡してきた。
「これ、なんですか?」
「セキこさんになる薬ですの」
「ここで意味ありますかね?」
「大ありですの! いいから早く飲んで、テルノさんのところへ行ってきてください!!」
「は、はい!」
いつになく凄い剣幕のメルさまに圧倒され、セキこになった俺はテルノの弁当箱を持って彼女の元へ走った。
この時間だと、もう寮にいるかな?
女子寮って初めてだけど、妙に緊張する。
取り合えず玄関ホールにいた子にお願いして、テルノを呼び出してもらう。
程なくして、テルノが姿を現した。
「セキこちゃん!?」
最初は訝しんでいた彼女だが、俺の姿を見るや否や、飛びついてきた。
「急にどうしたの? 言ってくれれば、私から部屋に行ったのに」
よく分からないけど、ニッコニコの笑顔でございます。
これまで避けられていたのは、一体なんだったのだろう……。
「あ、いや、弁当箱を返しに来たんだけど。あと、すごく美味しかったよ」
洗って綺麗にした弁当箱をテルノに返す。
素朴だけど、本当に美味しかった。
「本当に? じゃあ、また作ってあげるね」
なんだろう、物凄く人懐っこい笑顔だ。
俺から逃げ出していた彼女とは別人である。
そこで聞いてみた。
「あのさ、男の姿の時になんで避けられてたのかなぁって……」
そう尋ねると、彼女は気まずそうな表情を浮かべる。
そうだよな。やっぱり何か問題があったんだよな。
「あのね、怒らないで聞いてね。私、リョウヤ君より、セキこちゃんの事が好きになっちゃったんだと思う」
「……そ、そうなんだ。別に怒ってないから気にしないでいいよ」
なんだか否定された様な感じで複雑な気分である。
「ありがとう、セキこちゃん」
そのままテルノと別れたのだが、セキこが好きってどういう意味なのだろうな。
きっと、友達として好きなんだよな。うん、そうに違いないよな。
何故かこれ以上は深く考えてはいけない気がしたのだった。




