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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第一章

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12 まったく、お前らは一体何をやってくれてるんだよ……

 ピアリから魔力操作を教えてもらっていると、いつの間にか夕方になっていた。


 すると、ピアリが図書館に一緒に行きたいと言うので、二人して図書館に向かう。

 図書館の入口に着くなり悪ふざけなのか、ピアリが俺の腕に抱き着いてきた。

 引きはがすのも面倒なので、そのまま入館する。

 昼間は色々と教えてもらったし、このくらいの悪ふざけは大目に見てあげよう。

 知らない人から見られて、恋人だとか思われたら少々複雑だけど。


 そして俺達が入るなり、リリナさんがこちらを見て一瞬強張った表情になった。

 でもすぐにほっとした顔になり、挨拶してくれた。

 当のピアリは、ニヤニヤしながら俺の顔を見ている。


 ……これが狙いだったか。こんちくしょうめ。

 俺は無言でピアリを押し退ける。



「リリナさん、お疲れ様です。今日もお手伝いする事があればと思いまして……」


 いつもみたいに彼女に話し掛ける。

 すると、リリナさんが少し困った表情を浮かべた。


「あの……昨日あんな事がありましたし、怪我をされたら困りますので、今日は結構です」


 彼女は本が俺の頭に落ちてきた事を言っているのだろうか。

 そんなの大した事が無かったのに。


「リリナさんは心配性ですよ。あんなのは盗難防止のトラップか何かの誤作動なんじゃないですか? 注意してたら簡単に避けられますし、冒険者を目指す身としてはいい訓練になります。それに今日はピアリにも手伝わせますから」


 一緒に来たのだから、ピアリにもきっちり働いてもらうぞ。


「……分かりました。それでは今日もお願いします。それにしても、ピアリ君がリョウヤさんと仲が良かったなんて意外ですね」


「そうなんだよ。リョウヤ君ってボクと初めて会うなり、いきなり壁ドンしてきてさ~」


「おい! 洒落にならないウソを言うのはやめろよな!」


 一体、何を言いやがるんだこいつは。まったく油断も隙も無い。

 そんなバカみたいなやり取りをしていたら、不安げな表情だったリリナさんが可笑しそうに笑っていた。


 ……やっぱり素敵だな。この人の笑顔。

 見ていると思わず心が温かくなった。


 それにしても、二人は面識があったのか。

 おかげで、リリナさんに変な誤解をされなくて良かったよ。


 早速書籍の片付けに取り掛かかるが、俺が一生懸命整理してるのにピアリは作業中のリリナさんとずっと喋っていた。

 邪魔するなら帰ってくれよなー。


 そんなこんなで、本日は本が頭上に落ちてくる事もなく無事にリリナさんのお茶をご馳走になれた。



「この紅茶、すっごく美味しいね!」


 ピアリが男の俺が見ても可愛いと思ってしまう笑顔で、リリナさんが淹れてくれた紅茶を味わっている。


「ありがとうございます。やっぱり褒められると嬉しいですね」


「ほらあ、リョウヤ君もちゃんと褒めなよ~」


 言われなくても分かってるよ。


「ほ、本当に美味しいです、よ」


 くそ、ピアリが急に変な事言うから、緊張して変な声になったじゃないか。。



「それでしたら、もう一杯いかがですか?」


 リリナさんが熱いお湯の入ったティーポットを持って、新しい紅茶を淹れる準備をしようとしていた。

 そんな中、意味ありげにニヤニヤしていたピアリが口を開く。


「リョウヤ君がね、リリナさんの笑顔が素敵だーって褒めてたんだよ」


 こいつ、いきなり何を言い出しやがるんだと思った直後、リリナさんの持っていたティーポットが急に俺に向かって飛び跳ねた。

 まるで、最初から俺を狙っていたかの様に。


 いきなりの事で咄嗟の判断が遅れた。


 ティーポットの中身のお湯をもろに被りそうになり身構えようとした瞬間、リリナさんがティーポットに飛びついて両手で掴んだのだ。

 だが、彼女の手はこぼれたお湯を浴びてしまった。


 一瞬の事で何もできなかったが、我に返った俺とピアリはリリナさんに駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


「……大丈夫です。私のせいでごめんなさい……ご迷惑をお掛けしました。お怪我はありませんか?」


 弱々しく彼女が答えるが、見ているだけで辛そうだ。


「俺は大丈夫です。それよりも火傷をしてませんか? ピアリ! 水と冷やす物頼む!」


「うん、分かった!」


 ピアリが席を立って駆け出すのを見送る。


「熱いお湯で濡れたままでは危ないですから、手袋をちょっと失礼しますね」


 そう言ってリリナさんの手袋を外そうとするが、彼女は一瞬抵抗する素振りを見せる。

 緊急事態なので無視して手袋を外すと、彼女の左手薬指には指輪がはめられていた。


 ……見えなかった振りをしたけど、その指輪に嫌な感じがしたのは俺の嫉妬心だろうか。


 ピアリが給湯室から氷水を持ってきたので、すぐに彼女の手を冷やす。

 その間もリリナさんは俯いたままで、俺達も無言のままだった。

 どうやら、ピアリもリリナさんの指輪に気付いたみたいだ。


 それから少し経ち、落ち着いたのかリリナさんが弱々しく口を開いた。



「後は私だけで大丈夫ですから、お二人は戻って下さい。……改めて後日お詫びに伺います」


「で、ですが……」


「大丈夫です。……お願いします」


 絞り出す様な声でリリナさんにそんな事を言われてしまったら、これ以上ここにはいられない。


「リョウヤ君、行こう?」


「……ああ」


 俺達は後ろ髪を引かれながら、図書館を後にした。


 幸いリリナさんの手の火傷は大した事が無く、薬草を複合した塗り薬を塗れば、すぐに回復する程度みたいだった。






 図書館からの帰り道で泣きそうな顔をしたピアリが謝ってきた。


「……その、ごめんね。余計な事をしたみたいで」


「気にするなよ。それにしても、俺の勝手な期待だったよなぁ。そりゃ、あんな綺麗な人に相手がいるなんて当たり前だろうし」


 浮かれていた自分が情けなくなって、ちょっと泣きたくなった。

 ティーポットが自分に飛んできたことよりも、指輪の事しか頭になかった。


「その事なんだけど……こんな風に言っていいのか分からないけど、あの指輪はあまり良い物じゃない気がするんだよね。祝福された物ではないというか……」


 ピアリが眉間にしわを寄せる。


「そうなのか? 俺も正直嫌な感じがしたが、単に嫉妬でそう感じたと思ってたんだけど。もしかしたら、さっきのティーポットが飛んで来たのも何か関係あるのかもな」


「ねぇ、事情を知ってそうなベルゲル先生に聞いてみようよ」


 ピアリの提案に俺も頷いた。



  ◆◆◆



「まったく、お前らは一体何をやってくれてるんだよ……」


 椅子に座って俺達の話を聞いていたベルゲル先生が頭を抱える。

 先生に先程起きた事を一通り話してみたのだけど、なんだか複雑な事情があるみたいだ。


「それでどうしたいんだ、お前ら」


「……俺は、あの人がもし何かに困っていたら助けになりたいんです。単純に俺の思い違いだったら、迷惑をかけたと謝ってきます」


「先生、ボクは彼女の指輪が気になります。あれは嫌な感じがして、とても愛する人に贈る物とは思えませんでした」


 先生は大袈裟に溜息を吐きながら、頭をグシャグシャとかきむしる。


「あー、青くさくてやってられんわ。お前ら若くていいな!」


 そう言いながらも話を続けてくれた。


「……リリナは俺の後輩でな。詳しくは言えんが、当時アイツに惚れ込んでいた冒険者仲間が贈ったのがあの指輪だ。それが外せない指輪で、呪いが付与されていた訳って事だ」


 やっぱり呪われた指輪だったのか。


「それでな、その呪いと言うのがリリナに好意を持った男がいたら、その相手に不幸が降りかかる厄介な物だ。もし、リリナがその好意を持ってくれた男に対して自分も好意を抱いてしまったら、不幸が次第にエスカレートするらしい。もっと厄介な事に呪いを発動させるために常に指輪の魔石から魔力を奪い続けられる。アイツが魔法を使えなくなったのはそういう事だ……」


 語り終えた先生は、やるせない表情で再び大きな溜息を吐いた。


「……その指輪を贈った冒険者の男は、今どうしてるんですか?」


 俺はたまらず聞いてしまった。


「呪いの代償で死んだと聞いたよ。奴は嫉妬深い男でな。死んでまでもリリナを束縛したかったんだろうよ……」


「そんな……ひどい……」


 涙を浮かべたピアリが呟く。



「その呪いは、どうにか解除できないんでしょうか?」


 解除できるのなら既にされているのだろうが、リリナさんの指にはまだ呪いの指輪がはめられている。

 少しでも解除の可能性があるのなら、その可能性に掛けたい。


「確実な事は俺も分からん。確かなのは、呪いの指輪の持ち主に聞き出せばいいのだが、当の本人がもういない。それに指や手を切断しようとしても、呪いで指輪に害をなす物を弾いてしまうみたいだ」


 とてもじゃないけど、リリナさんにそんな事はさせられない!


「ただ魔力を吸収する魔石にも限界がある。お前のアホみたいに有り余ってる魔力を魔石の限界値まで注ぎ込んだら、もしかするかもしれんな。だがこれは、あくまでも推測だ。俺の立場としては、お前らの身の安全を考えてアイツにはもう関わるなと言うしかない……」


 そう話してくれたベルゲル先生は、何か後悔の念にさいなまれているようだった。

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