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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第四章

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128 その汚い手を離せ!!

「セキこちゃん、次はあっちのお店に行きましょう!」


 テルノが子供みたいにはしゃいで駆け出していく。

 彼女が向かう先の店は、王都でもあまり治安のよろしくないと言われる場所にある。

 もっとも、それは夜の話であるが。


「あ、テルノ、ちゃんと前を見て」


「きゃっ」


 俺が注意するのと同時にテルノが通行人とぶつかってしまった。

 だけど、それは向こうがわざとぶつかってきた様に見えた。


「ご、ごめんなさい!」


「ああん? お前、どこに目をつけとるんじゃ!!」


「アニキ、いてえよ! 骨が折れたっス!!」


「おいこら! 俺の可愛い舎弟が大ケガしたじゃねえか!! どう落とし前をつけてくれるんだ!? ああ!?」


 いかにもな風体の二人組の男だった。

 まさか、この世界でこんな使い古された様な恐喝行為を目にするとは思わなかった。

 男が大声で喚くので、他の通行人達が遠巻きにこちらを見ている。


「あ、あの……その……」


 凄まれたテルノはすっかり怯えてしまっていた。


 周囲の人達は不安げに見ているだけで、誰も助けに来てくれないか。

 俺も同じ立場だったら、正直関わり合いになりたくないと思うので、文句は言えない。

 せめて衛兵を呼んでくれればと思うも、武器を使ったケンカとかじゃないとすぐに駆け付けてくれないとも聞く。

 一応、こちらはか弱い女子なんだけどな。


「テルノ、気にしないで。こんな奴らに構わなくていいよ。早く行こう」


「あ……うん」


 こんな奴らに構ってるだけ時間の無駄だ。

 どうせこちらがビビッて泣き出すと思ってるのだろう。

 待ってても来ない衛兵の詰所まで行けば、こいつらもそれ以上は手を出してこないはずだ。


 テルノの手を引いて立ち去ろうとしたところで、男達が立ち塞がった。


「おい、どこへ行くっていうんだ? 舎弟が大ケガしたんだぞ!! ああ!?」


「いてえよ! いてえよ!! アニキ、助けてくれ!! 開放骨折だ!!」


 舎弟の男がゴロゴロと転がりまくって喚いている。

 というか、開放骨折って骨が皮膚を突き破って飛び出すぐらいの骨折ですがな。

 一体、どこを骨折したのやら。


「よく見りゃ、二人とも中々の上玉じゃねえかよ。詫びに俺達にちょっと付き合ってくれたら、許してやらねえ事もないぜ?」


 男がいやらしい目で俺達をなめ回す様に見てきた。

 思わず鳥肌が立ってしまった。

 テルノも恐怖と嫌悪感からか、顔が引きつっている。


「アニキ、俺そっちの猫耳がいいっス!! 泣かしてイジメたいっス!!」


「まあ、待てよ。俺が最初にどっちも味見させてもらうからな。どんな声で泣くか今から楽しみだぜ」


「アニキずるいっスよ~。いつも俺の前に壊しちゃうんだから~」


 ……こいつらゲス過ぎて吐き気がする。

 そもそも、こんな奴らが昼間から普通に出歩いているなんて信じられない。

 富裕層の高級住宅街の治安と比較してはいけないのだろうけど。


「おい、こっちへ来い」


「痛い!」


 男がテルノの腕を乱暴に掴むと、テルノが悲鳴を上げた。

 俺はそれを見た瞬間、勝手に体が動いていた。


「その汚い手を離せ!!」


 肉体を魔力強化して男を突き飛ばす。

 不意打ちだったので、男は吹っ飛んで転がっていった。


「アニキぃ!? このガキ! なめやがって!! 二度と見られない様な顔にしてやる!!」


 舎弟の男がいきなりナイフを抜いて切りつけてきた。

 街中でナチュラルに刃物を使うなんて、やっぱり頭のネジが何本か飛んでる証拠なのだろう。


 セキこの小柄な体格を生かし、身をかがめてナイフを避ける。

 今の身体は力は弱いが俊敏さが増しているのだ。

 そのまま、すれ違いざまに舎弟の顎に掌底打ちを叩き込む。

 上手くタイミングが合い、クリーンヒットすると、もろに食らった舎弟は白目を剥いて倒れた。


「てめえ、よくもやりやがったな!!」


 転がっていた男が起き上がり、テルノを人質にしようと乱暴に抱え込もうとする。

 だが、それよりも早く男の顔面に飛び膝蹴りを食らわせてやった。

 うずくまる男の後頭部に肘打ちして地面に叩き付けた。


「テルノ、大丈夫?」


「あ……は、はい」


 呆然としているテルノの手を引いて駆け出す。

 こんなところに長居なんて無用だ。

 野次馬をかき分けてひたすら走る。


 後ろの方で衛兵が吹くの警笛の音が聞こえたが、そのまま無視して走った。

 今更駆け付けたって遅いんだよ。



  ◆◆◆



「ここまで来れば大丈夫かな……」


 池に面した静かな公園まで逃げ、ベンチに座り込んだ。

 俺の隣でテルノが息を切らせてしまっている。

 少し無理をさせてしまったな。申し訳ない。


「わ、私は大丈夫だから……」


 俺を気遣ってくれるのか、彼女は気丈にもそう答える。


「怪我は無かったか?」


 俺が問うと、テルノは首を横に振った。


「それよりも、セキこちゃんの方ですよ。膝に怪我をしているじゃない!」


 言われてみると、男に膝蹴りした所から出血している。

 返り血かと思ったが、急に痛くなってきた。

 どうやら男の歯が当たったのか、傷を負った様だ。


「ちょっと待ってて!」


 テルノが駆けて行くと、すぐに戻ってきた。


「少し、染みるかもだけど……」


 そう言って彼女は、水場から汲んできた水で俺の傷を綺麗に洗い流す。

 傷を洗浄した後は消毒薬を塗り、新品の布で傷を縛って手当てしてくれた。


「その布って、さっき買った……」


 布地を取り扱う店で、テルノは上質の布を奮発して買ったのだ。

 そんな大切な布を俺の手当てに使ってしまうなんて、勿体ない。


「そんな事はいいんです。それよりも後でちゃんと治療してね。あくまでも応急処置だから」


「ありがとう……」


「それは私のセリフです。助けてくれてありがとうございます。私、あのまま連れて行かれていたら、どうなっていたのだろう……。あはは、今更になって怖くなってきました……」


 段々と怯えた表情になり、両肩を抱く様に縮こまってしまう。

 テルノは冒険者とは違うんだ。争いには慣れていない。

 怯える彼女をそっと抱き寄せた。


「せ、セキこちゃん!?」


「大丈夫。俺が守ってあげるから」


「……うん」


 しかし、セキこの姿なのでイマイチ格好がつかないな。

 彼女が落ち着くまで、しばらくこうしていようと思ったのだが、無情にも腹の虫が鳴いてしまった。


「ゴメン、朝あんまり食べてないんだ……」


「あはは。セキこちゃんらしいね。せっかくだからお弁当食べる?」


「ぜひ!」


 少しだけ笑顔を取り戻してくれたテルノが、芝生に敷物を敷いて弁当の容器を並べる。

 まさにピクニック気分ですな。


「えっと、お口に合うか分からないけど……」


 そう言って、テルノが弁当の蓋を開けたのだが、中身が寄ってぐちゃぐちゃになってしまっていた。

 さっきのトラブルで、逃げる際に人混みの中を走ったのが原因だろう。



「……ごめんさない! また今度作るね!」


「ちょっと、なんで片付けちゃうんだよ!?」


「だって、こんな酷いのを食べさせられないよ!」


「酷くない! 俺は普通に食べたい!」


「で、でも……」


「いいから、ちょうだい」


 テルノから強引に弁当箱を奪う。

 中身は卵焼きや唐揚げ、ポテトサラダ等だったのだろうか。

 それらが入り混じってしまっていた。


「じゃあ、いただきます!」


 エルファルド神への祈りも無しに弁当にがっつく。

 お行儀が悪いだろうけど、本当に腹が空いているのだ。

 そんな俺の姿をテルノは不安げに見ている。


「いや、これすごく美味しいよ!」


 正直、店のプロの味とかメディア校長の味と比べれば劣ってしまうが、普通に美味しい。

 俺に作れるかと問われれば、否である。


 ふと、テルノの様子を見ると彼女は泣いていた。


「え? なんで泣くの!?」


「うう、だって、ちゃんとした物を食べてほしかったのに……でも、美味しいと言ってくれて嬉しくて……うう……」


 顔を覆って泣き出してしまったテルノを思わず抱きしめる。


「大丈夫だよ。ちゃんと気持ちは伝わってるから」


「うぅ……ぐすっ……」


 泣きながら頷くテルノの背中をポンポンと叩くと、彼女も俺の背中に手を回して抱きしめてきた。

 これが男の俺だったら、もっと気の利いた事をできたのだろうけど、今はこれが精一杯だ。



  ◆◆◆



「今日はありがとうございました」


「そんなにお礼を言わなくてもいいって。俺も美味しい弁当を食べさせてもらったし」


「あれじゃ私が納得できません! お弁当はリベンジするから!」


「そこまでしなくてもいいのにー」


 帰り道、手を繋ぎながら歩いた。

 特に意識してなかったのだけど、気づくと指を絡ませた恋人繋ぎになってるんだよな。

 一応は女同士なんだけど、これでいいのかな?


「おっと、そろそろ冒険者予備校だな」


 流石に手を繋いだまま戻るのは色々と気まずい。

 絡めた指を離すと、テルノが残念そうな表情を浮かべる。

 すっかり懐かれてしまったみたいだな。


 すると、テルノが意を決したかのように突然抱きついてきた。

 いきなり大胆でございますな。


 今はセキこの姿なので、誰かに見られたら色んな意味で誤解されてしまうのでは……。


 そんな事を考えていると、頬に柔らかい感触が。

 テルノが俺にキスをしたのだ。


「セキこちゃん、またね!」


 ……そのまま走って行ってしまった。


 今のはどういう意味だったんでしょうかね。

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