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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第四章

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113 話は聞かせてもらったぞ!!

 その日の夜、シーラの家探しと遺跡探索の事をリリナさんに相談するため、彼女の部屋に伺った。


「──と、こんな感じの予定を立ててるんですけど、どうですか?」


「うーん……それはちょっと難しいかなぁ」


 俺の話を聞いたリリナさんが頬に手を当てて考え込んでしまう。

 どうやら反応が芳しくない。


「あのね、リョウ君。あなた一人ならただの帰省で済むのだけど、今の話だとパーティー活動としてという事になるよね?」


「はい。だから、一応顧問でもあるリリナさんに相談しているのですが……」


「そうね。パーティーとしての活動なら、申請して許可を取れば目的地までの旅も構わないのだけど、最近街道筋で盗賊が出没している話は知っている?」


「はい。その話はロワりん達から聞きました」


 獣人の女の子を狙った人さらいの話も出ていて、この街の冒険者達が護衛として雇われて出払っているとか。


「聞いているのなら話は早いわね。予備校側としても私個人としても、そんな状況の場所へ学生だけで行動させたくないの。その盗賊は、獣人の子を狙ってるとも言うじゃない? だから余計に許可は出せないのよ」


 リリナさんが申し訳なさそうに俺の顔を見つめる。

 考えてみると、うちのパーティーにはミっちゃんとアンこ先輩がいる。

 二人が狙われないとも限らない。リリナさんが心配するのはもっともだ。


「でもほら、うちのメンバーってみんな強いじゃないですか? いざとなればシーラもいるし……」


 俺は隣で読書に没頭しているシーラに目を向けるが、俺の視線に気づいていないようだ。


「そういう問題じゃないの。それにリョウ君って、盗賊の類の本当の怖さって知らないでしょ? 彼らは目的のためなら手段をいとわないから平気で卑怯な手も使うし、躊躇ちゅうちょなく人の命を奪うのよ。だから甘く考えては駄目。それにシーラさんがいくら強くても、敵味方が分からなくなる混戦にでもなったりしたら、きっと思うように戦えなくなるわ。……万が一の話だけど、誰かが連れ去られてしまっても見捨てる事はできる? 一人を助けるために全員が犠牲になる事もあり得るの」


 元冒険者でもある、リリナさんに突き付けられた厳しい言葉に俺は反論できなかった。

 やっぱり遺跡探索は無理なのだろうか……。

 そんな俺の様子を見て、リリナさんは大きく溜息を吐いた。


「あのね。きつい事を言ったけれど、学生だけで行かせたくないって事なの。それでも、護衛の冒険者とかを同行させれば許可も出しやすいのだけど……これもかなりギリギリの線の話なのよ?」


「護衛がいれば許可を出してくれるんですね!?」


 希望の光は消えてなかった。まだ手はあるって事だな。


「一応はね。でも護衛を雇うお金なんてあるの? そもそも交通費はどうするの? 乗合馬車で何日も掛かる距離を盗賊の襲撃を恐れながら、みんなで歩いて往復するつもり?」


 一番痛いところを突かれてしまい、ぐうの音も出なかった。

 バイト代は多少貯めてあるが、護衛を雇って馬車を借りてとなると、いくら掛かるのか怖くて計算も出来ない。

 俺のへそくり程度では間違いなく足らないだろう。


 こんな時にチート技で金を稼げる主人公ってうらやましい。



「リョウヤ、もういいよ。元はと言えば、わらわのワガママなのだ。これ以上迷惑は掛けたくない」


 そう言って、本から顔を上げたシーラが悲しそうに目を伏せる。

 そんな顔をしないでくれよ。

 見ているこっちが悲しくなるじゃないか。


「いや、諦めない。他に何か手があるはずだ。前に言ったよな? 俺はお前の居場所を作ってやるって。今回の件はシーラにとって、大事な事なのだろう? ならば俺は約束を守りたい」


 半ば強引な理由づけだけど、シーラのあんな悲しそうな顔は見たくない。

 なんとかしてやりたいと思う。


「……ありがとう、リョウヤ。その気持ちだけでわらわは嬉しい」


 ふてぶてしさが薄れてしまったシーラは、なんだか調子狂うな。

 アンこ先輩の家で何があったのだろう。


「シーラさんって、少し変わったね……」


 リリナさんもシーラの変化に気づいているみたいだった。

 とにかく今後の方針を考えないといけないな。

 どうにかなるのか分からないけど、なんとかするしかない。


 改めてみんなと話し合ったのだが、お金の件については先輩が全てを負担すると言ってくれた。

 だけど、それは丁重にお断りする。


 先輩が単なる依頼主なら問題はないが、これはパーティーとしての活動だ。

 これはみんなでどうにかしなくてはいけないと思う。

 お金の事で誰かに一度でも甘えてしまうと、次もその次もとズルズルになってしまう。

 そんな状況は絶対に避けたい。

 先日の高級店の食事だって、贅沢過ぎると思ってしまう俺は貧乏性なのかもしれないけど。


 幸いにも他のみんなも、この辺りの考え方は俺に賛同してくれていた。

 ここで先輩のお金に頼ろうとするメンバーがいたら、どうしようかと思っていたが、杞憂で済んでよかった。


 それでもと食い下がる先輩には、妥協案としてシーラに関する費用全般及び、メンバーの旅支度の雑費を負担してもらう事でなんとか納得してもらった。

 それでもかなり譲歩したぐらいだ。


 だけど、護衛の件や交通費の問題もまだまだ山積みである。

 みんなは冒険者ギルドの依頼で稼ぐと言ってるし、俺もバイトを増やしてもらおうかな……。




  ◆◆◆




 翌日、午前の講義の後に食堂で珍しく一人で昼食を食べているとレイズに声を掛けられた。


「リョウヤ、しけた面してどうしたんだ?」


「まあ、俺にも色々あるんだよ」


「何か悩みがあるって顔だな。女関係か? 欲求不満だったら、とっておきの店を紹介するぞ?」


 こいつも悪友とつるんでいる影響なのか、いけないお店に通っているのだろうか。

 ノノミリアにチクってやろうかな。


「違うよ。真面目な話で悩んでるんだよ」


「そうなのか? それでどんな悩みだ? 聞くだけ聞いてやるよ」


 レイズが俺の向かいに座り昼食を食べ始めた。

 いつも女子に囲まれているせいか、野郎と向き合って食事するのはなんだか新鮮である。


 ふと、急に悪寒がして背後を見たら、柱の影からミっちゃんが笑顔で俺達を見つめていた。

 ……見なかった事にしておこう。


「ん? どうしたリョウヤ。何かあったのか?」


「いや、なんでもない。悩みと言うか、護衛を雇うといくらぐらい掛かるのかなぁと考えていたんだよ」


「護衛? お前どこか行くのか?」


 余程意外な話だったらしく、食べる手を止めたレイズが目を丸くする。

 俺は実家の方面の遺跡を探索をする話をして、道中に盗賊が出るかもしれないので護衛無しでは出発の許可が下りない事を話した。


「そんな訳で、先立つものがないと何も始まらなくてな……」


 俺は頬杖を突いて溜息を吐いた。

 みんなで稼いだとしても、馬車を借りて護衛を雇う金額に足りるのだろうか。


 その時だった。


「話は聞かせてもらったぞ!!」


 この妙に自信に満ち溢れた声の主は……。


「その護衛、僕達が無償で引き受けよう!」


 振り返るとケフィンが立っていた。相変わらずのイケメンオーラである。

 フ〇チン野郎だけど。


 お付きのゲンゲツさんとレイメイさんも一緒みたいだ。



「いやいやいや、いきなり何を言い出すんですかね! ありがたい話なんですけど……」


 護衛を無償で引き受けるだなんて、何を考えているのやら。


「簡単な事だよ。前に君達のパーティーに迷惑を掛けた時に言ったじゃないか。その埋め合わせをするってね」


 前にレイズとノノミリアに校内の地下ダンジョンに誘われてトラブルに遭い、色々と大変な事になった件での埋め合わせをしてくれると言っていた。

 まさか、あれを本気で言っていたのか?

 俺としては、社交辞令のつもりで受け取っていたのだが。


「これは埋め合わせ云々のレベルじゃないですよ? ガチの盗賊とか出るみたいだし……」


「水臭いぞリョウヤ君。僕と君の仲じゃないか!」


 そう言いながら俺の肩に腕をまわしてくる。

 俺とあなたは、そこまでの仲にはなっていないと思うのだが……。


 そんでもって、ミっちゃんが柱の影からニッコニコの笑顔で見ている。

 こっち見んな。


 ゲンゲツさんとレイメイさんも気にするなと言ってくれる。


「なあに盗賊なんぞ出てきたら、俺がぶった切ってやるよ」


「そうですね。盗賊相手なら遠慮は要らないので、手加減しなくて済むだけ楽です」


 不穏な事をおっしゃいますが、二人ならその辺の盗賊相手でも引けを取らないだろう。


「先輩達がそう言うなら、俺もやるぜ? 後でノノミリアにも声を掛けておくから」


 先日のダンジョンの事で、俺に対して負い目を感じていたっぽいレイズも汚名返上とばかりにやる気だ。

 ここは彼らの厚意をありがたく受け取りたい。


「みんな、ありがとうございます。でも学生達だけでは許可が出せないとも言われてるんですよね……」


 流石に護衛も学生だなんて、ちょっと無理があるだろう。


「そんなのは簡単だよ。冒険者ギルドを通して僕達を『冒険者』として、護衛に雇った事にすればいいよ」


 しれっとケフィンが恐ろしい事を言う。

 確かに学生とバレなければ、いけそうな話だよな……?


「まあ、詳細が決まったら声を掛けてくれ。護衛関係の件は僕達の方で上手くやっておくから。……それに、僕もそろそろ本当の実戦を経験しなくてはいけないんだ」


 ケフィンの発言に不穏な空気を感じた。

 俺達への埋め合わせと言うより、盗賊相手に合法的に対人戦をする方が目的だったりして。


 ……そんな訳は無いよね?


 動機はともかく彼らが護衛を務めてくれるのなら、後は交通手段だけだ。

 色々と考えた結果、神様のアドバイス通りに俺は手に入れた伝手つてを最大限利用する事にした。

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