プロローグ
天井が吹き飛び、何もなくなった上方から、黒ずんだ雨が降り注いでいる。
「………………さすがに、疲れたな」
煤けた床、なぎ倒された石柱、うず高く積まれた死体の山。
不落、そう謳われた魔王の居城は見る影もなく、廃墟同然の有様だった。
「………………しばらく、休憩してくか」
そして、壁に寄りかかりながら、声を発する人影。
その横にはこの場所の主だったものが苦悶の表情を浮かべて事切れている。
「………………でも、やっとだ。ステラ、フェルナ」
既にこの世にいない男女の名は、もはやその男しか知るものはいない。
親すらいない孤児達は、たった三人、それだけで世界は完結していたのだ。
二つの灯火が消える、その時までは。
「叶えるよ。ちっぽけで、壮大な俺達の夢を」
温かい飯と綺麗な水、それを片手にバカ騒ぎして。
雨に濡れない場所で、柔らかい布団に包まれて眠る。
たったそれだけのことを、飽きもせず語り続けていた。
毎晩毎晩、何度も何度も。
まるで、目の前の現実から目を逸らすかのように。
「………………だから、見ててくれよ?ちゃんとさ」
激しく振る雨が、おびただしい量の血を洗い流し、消し去ってゆく。
髪と瞳、それと同じ深い深い黒色へと。
男の名は、ノクス。
『夜の勇者』と呼ばれる、世界最強の英雄だった。




