表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/22

4.

 (※ローマン視点)


 僕は玄関の扉を開け、家の中に入った。


 いったい、どっちなんだ?

 クリスタは、気付いたのか?

 それとも、気付いていないのか?


 リビングを目指して、廊下を歩いた。


「ただいま」


 ちょうどリビングにいたクリスタと目があったので、僕は彼女に声を掛けた。


「あら、お帰りなさい。……どうしたの? あなた、すごい汗よ。そんなに走ってまで急がなくても、よかったのに」


「はは……、そうだね。忘れていたのがなんだか申し訳なくて、急いで買ってきたんだ……」


 なんだ?

 彼女の様子に、特に変化は見られない。

 気付かれていないのか?


「ありがとう」


 彼女は、僕が買ってきた物を笑顔で受け取った。

 それを彼女がキッチンへ持って行ったので、僕はソファへ向かった。

 僕が脱いだジャケットは……、そんな……、ない!


 ということは、クリスタがハンガーにかけたのか……。

 しかし、彼女の態度に変化は見られない。

 つまり、気付かれなかったというわけか……。

 僕は、安堵のため息をついた。


 ポケットから煙草を一本取り出し、ソファに座った。

 そして、いつも机の上に置いてあるマッチで、その煙草に火をつけた。

 それを、ゆっくりと口へ持って行った。


「ふぅ……」


 ああ、なんてうまい煙草なんだ……。

 本当に、よかった。

 彼女には、何も気づかれていない。

 机の上にある灰皿に、煙草の灰を落とした。


 明日も同じジャケットを着て、その時に、ポケットの中にあるマッチの箱は、処分しよう。

 それで、浮気の証拠はなくなる。

 タバコを吸い終わったので、机の上にあった新聞を広げた。

 新聞を読みたかったわけではなかったが、心の底から安堵しているせいか、ソファから立ち上がるのも億劫だったから、とりあえず、適当に目を通しているだけだ。


「あら、なにか、面白い記事でもあるの?」


 隣に座ったクリスタが、僕の広げている新聞を覗き込みながら言った。

 僕は、特に何かの記事を見ていたわけではなかった。


「へぇ……、浮気をめぐっての言い争いが、殺傷事件にまで発展したのねぇ」


 彼女は新聞を覗き込みながら呟いた。

 僕は、ごくりとつばを飲み込んだ。

 浮気とは……、なかなかタイムリーな話題である。

 しかし、落ち着け……、浮気のことは、バレていないんだ。

 普通に接すればいいだけ……、これは、単なる世間話なのだから。


「なかなか恐ろしい事件だな。浮気なんてするから、こんな目に遭うんだ」


「ふうん、この女性、浮気をされたことも悲しかったけれど、そのことをずっと黙っていたことの方が、もっと悲しいって言ってるのね」


「クリスタも、そう思う?」


 僕は彼女に聞いてみた。

 これはあくまでも、世間話である。


「そうねぇ、私はもう、昔のことは、許しているわ。でも、もしあなたがまた浮気をしていて、そのことをずっと黙っていたら、とても悲しいわ……」


「へえ、そういうものか……。具体的には、どれくらいの期間なら、秘密を抱えていても、許せるのかな。あ、いや、僕がそういうことをしているというわけではなくて、単に、君がどう思うのか、気になったから」


「そうねぇ……、浮気をした翌日に打ち明けてくれたら、いいかな……。もちろん、それで許すというわけではないけれど、少しは考えてみようかという気には、なるわね」


「へえ、そう……」


 僕は何の気もないように装っていたが、内心では動揺していた。

 つまり、明日、彼女に浮気していたことを打ち明ければ、まだ、許すか許さないか、検討くらいはしてくれるというわけか……。

 まあ、それでも、絶対に許してくれるというわけではないのだから、打ち明けても何の得もない。

 僕の浮気は、彼女にはバレていないのだから、わざわざ話す必要もないだろう。

 このまま隠し通して、時々マリーと密会するのが、賢い選択だ。


 あぁ、クリスタが鈍感な馬鹿でよかった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ