表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/22

18.

 私はリビングにあるソファに座って、紅茶を飲んでいた。


 すると、ローマンがやってきた。

 また、酷い顔色をしているのかと思った。

 しかし、彼は清々しいほど、スッキリとした様子だった。

 

 なにか、心境の変化でもあったのかしら……。


「クリスタ、お前に大事な話がある」


 そう言った彼は、ニヤニヤとしながら、私の方を見ていた。

 なんだか、嫌な予感がする。


「何ですか?」


「いいか? これからいうことは、誰にも言うなよ? 言えばどうなるか、わかっているよな?」


「……はい」


 ほかの人に、人生を狂わすほどの迷惑が及ぶのを、私は良しとしない。

 だから彼は、その弱みに付け込んで、私を言いなりの状態にしている。

 私は悔しくて、こぶしをぎゅっと握り締めた。


「僕が浮気をしていたのは、知っているだろう?」


「ええ、そうですね」


「実はその相手は、マリーなんだ」


「なんですって!?」


 私は驚いた。 

 彼は簡単に言ったが、私にとっては、それは許しがたいことだった。

 以前に交わした約束を、彼は破っていたのだ。

 しかもそれを、悪いとも思っていない。

 とても、まともな神経だとは思えない。


「それで……、ここからが本題なんだが……」


 本題ですって?

 マリーとの浮気のことだって、私にとっては充分本題ですよ?

 ローマンは、どんどん私の知っている彼とかけ離れていっている。

 どうして、初めから彼の本質を見抜けなかったのかしら……。


「実は、マリーが僕のことを強請ってきたんだ。彼女は自分が破滅することも恐れずに、浮気のことを告発すると言ってきた。それで、そうしてほしくないなら、金をよこせと……」


 そんなの、自業自得でしょう。

 どうしてそんな話を、私にするの?

 まさか、そのためのお金を、渡せというつもり?

 そんなこと……、いや、でも、今の私の立場では、そうするしかない……。


「しかも彼女は、一回金を払っただけでは満足しなかった。さらに僕にいろいろと要求すると言ってきた。だが、そんなのは、あまりに理不尽だ。それはつまり、僕は彼女の奴隷になるということを意味する。そんなの……、耐えられるはずがない。彼女がいい思いをして、僕だけが理不尽な目に遭う。そんなことがこれから一生続くと考えたら、気が狂いそうになった。だから僕は、彼女を殺したんだ……」


「……え?」


 何を……、言っているの?

 殺した?

 彼は確かに、そう言った……。


 どうして?

 どうして、そんなことをしたの?

 どうして、そのことを、私に軽く話すの?

 

 私は、彼のことを、とても恐ろしく感じた。

 体が、震えている。

 彼と同じ空間にいたくない。

 でも、私は一生彼の言いなりのまま……。


「それで、おそらく数日後には、憲兵の捜査が行われる。彼女の家にある頑丈な金庫には、僕と彼女が裸で写っている写真があるんだ。捜査の過程でそれが見つかれば、僕はお終いだ。もちろん、お前との関係もなくなってしまい、ほかの者も、被害を被ることになる。お前も誰かが路頭に迷うことは、嫌だろう? だから、僕の言いなりなんだろう? だから、そんなお前に頼みがあるんだ。憲兵を、買収しろ。最初はどうやって証拠を消すかばかり考えてばかりいたが、こうすればよかったんだ。まったく、自分の天才的な閃きに、身震いがしたほどだよ。……いいな? 金でも何でもいいから、とにかく憲兵を買収しろ。そして、金庫の中にある写真を、処分させるんだ。事件は、ほかの犯人をでっち上げるのもいいし、迷宮入りでもいい。僕が犯人にならなければ何でもいい、好きにしろ」


 もう、彼が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。

 言っている意味は分かるが、どうしてそんな思考になるのか、理解できなかった。

 どれだけ、自分のことしか考えていないの?

 ほかの人間は、あなたに都合がいい道具としか、思っていないの?


 私は、そんな彼の言うことを聞くしかないの?


 もし彼の言うことを聞かなければ、周りの関係ない人たちが、破滅してしまう……。

 でもこのままだと、私は一生彼の奴隷のままだ……。

 それで、本当にいいの?


「おい、さっさと憲兵の駐屯所へ行け。マリーの遺体が先に見つかってしまったら、終わりなんだぞ? 何をぼさっとしているんだ」


 こんな人の言うことを聞かなければならないなんて……。

 私の人生って、こんなものでいいの?

 一生こんなことが続いて、耐えられるの?

 

 いろいろな感情が混ざり合い、私は今までの自分と向き合った。

 周りの人が大きな被害に遭うことを良しとしない自分に……。

 その時、私はある発想をした。

 今までこんなこと、思いつきもしなかった。


 どうして、こんなこと……。


 体が、震えていることに気付いた。

 私は、自分の発想が恐ろしかった。


 否、その発想が恐ろしいと感じないことが、恐ろしかった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ