第6幕 大輝へ現実世界での説明 2
「どういう意味、ですか」
「これを見て」
美緒は自分のスマホを大輝君に見せる。
「なんですか、それ」
「スマートフォン、スマホと言う愛称で知られている機械……旧世代の人たちが使ってたものね。画面に映ってる絵を見て」
おそらく美緒はカーストスクールの少年漫画雑誌のアプリサイトを開いて、大輝君に彼の物語のページを見せているのだろう。
不審そうに大輝君はスマホの画面を見る。
「……? これ、なん、ですか。カースト、スクール……? なんで俺が映って……」
「ダーティレッドの貴方は知ってるかどうかはわからないけど、漫画っていう嗜好品の一つよ。要するに創作物ね。このスマホと言う機械にその漫画と言う物の絵を取り込んでいるの」
「……絵、ならわかる。まんがはわからないけど、ダチが書いてたことがあるから」
「貴方は、この漫画の主人公なの」
「…………は? 何言ってんだ、アンタら」
大輝君は下手ではあったが、敬語をするのをやめた。
ひどく動揺しているのが、目に見えてわかる。
「落ち着いて、アタシが今からこの作品を一ページ一ページ、捲っていくから」
大輝君は一つ一つ、捲られていく内容にだんだんと目を見開いて行った。
美緒がある一話の最終ページまでタップすると、大輝君に尋ねる。
「どう? この今の絵に出ていたものは、貴方がその時にそのまま思った感情と一緒?」
「………………ああ」
大輝君は、明らかに放心している。
当然だ、自分の世界は創作物だと突きつけられているのだから。
私も、私の人生が創作物だと言われたら部屋で泣きながら絶叫してる。そして「私の人生は創作物じゃない!!」って泣き叫びたくなるぐらい、困惑しているだろう。
「……まず、この世界は旧世代の時の日本そのものよ。魔女なんていない、人類は豚に変えられていないの」
「嘘、だろ。そんなの……」
大輝君は額を片手で抑える。
美緒は私の顔を見たので、私は静かに頷く。
「……疑いたくなる気持ちはわかるよ、私も、今の状況は受け入れきれてないから」
「志保?」
私は席から立ち上がり、中途半端に開けられていたカーテンをしっかりと開ける。
「…………ヴァーチェホワイトの居住区とかじゃないのか」
「そうなるよね、うん」
ああ、やっぱり美緒の言う通りだ。
私は主人公の彼の世界の風景がどんなものかわからない。
でも、彼女が言うには大輝君はヴァイスブラックとダーティレッドの居住区はそこまで都市ではないのは聞かされたから知っている。
だから、この情景だけでは足りないと思っている。だから――――
「ねえ、大輝君。外に行ってみようか。それなら、君も納得できるよね」
「…………外?」
「うん、そう外……車っていう乗り物があるんだ、それに乗って色々この世界のことについて知ろう? それからでも、きっと遅くはないよ。ね?」
「わかっ、わかり、ました」
「うん、じゃあ美緒。一旦、私の車で乗ろう?」
「いいよ」
「うん、それじゃいこっか。大輝君」
「…………はい」
私は二人の間に入って仲を取り持ちながら車の中に乗り込んだ。
静かな空気が流れる室内がやけに緊張感があると感じるのは車の運転免許を取る時に試験官と一緒に乗っている時と同じ感覚だ。ちなみに美緒の車に乗らなかったのは美緒の車にはオタクグッズが多様に置かれてあるからである。
他の作品のキャラたちのこととか説明するのは後々辛くなるだろうからという私なりの配慮だ。というか、今の大輝君に説明しようとしたら精神的にキャパオーバーしそうなのが目に見えている。
大輝君は食い入るように窓から外を見ている。
「…………っ」
美緒が私の隣の助手席で、終始大輝君が見てないことをいいことににやにやしている。
……いったいなんの妄想をしているのだろうか我が親友は。
美緒にとりあえず忠告することにした。
「美緒、後で言いたいこと聞くから今は言っちゃダメだよ」
「わ、わかってる」
ミラーから大輝君を見たが、特に今の会話のことなんて気にも留めてないようだ。
ほっとしてから、私は東京の街をある程度運転して回っていった。