地雷踏んだ件
ご覧いただきありがとうございます!
今回は前回に比べて長いですが、最後まで見て頂けると嬉しいです。
あれから一週間がたって、また私は事務所の前に立っていた。
「はあ・・・」一週間前のことを思い出して、憂鬱になってくる。
「私、どうすればいいんだろう・・・」
~一週間前~
「デビューしてもらいます!」「はあ・・・?」
予想外すぎる展開に、私は思わず「ちょっ、谷川さん、どういうことですか?」と問い詰める。
「いやだから、2人でデビューですよ。あっ、これから私、お2人のプロデューサーやらせて頂くんですよ!
私初めてプロデューサーとか任せてもらえたんで、めっちゃ嬉しくて・・・」「そ、そういうことじゃなくて!」私は谷川さんの言葉をさえぎる。「その・・・聞いてないんですけど。2人でデビューとか。」
それを聞いた谷川さんは、あははと高い声で笑って、「やー、ごめんなさい。ちょっとびっくりさせ
たくて。」と、気楽そうに言った。「えー・・・」谷川さんは優しくてフレンドリーで私の中で好印象だったが、今ので、この人大丈夫だろうか、と心配になった。しかし、私とコンビ組むとかいう女の子は何も
言わないな、と思ってその子のほうをちらっと見ると、きらきらと目を輝かせてこちらを向いていた。
目が合うと、「あのっ」と向こうから近づいてくる。「は、はい?」近いな、と思いつつ返事をする。
「井上さんでしたっけ。」「そうですけど。」彼女の目が更に顔に近づく。
「井上さんってめっちゃ可愛いですね!」「は?」突如発せられた言葉に戸惑う余裕もなく、
「頬から顎までのシャープなフェイスライン、キュッと上がった口角、鼻筋はそこまで通っていないけど、
決してだんごっ鼻とは思わせないきれいな鼻、比較的長くて多いまつ毛、クリっとした目、太すぎず細すぎずのいい感じの眉毛!ザっと見ただけでも、80点の顔です!」と彼女は、息しているのだろうか、という勢いで喋りだした。「もう私井上さんが入ってきた瞬間から、井上さん可愛いから固まっちゃって。でも嬉しいです!井上さんみたいな可愛いお方とコンビ組めるなんて!」すっかりテンションが上がってしまった彼女を呆然と見ていると、「一条さんは、とてもアイドルが好きな方なんですよ。」と後ろから谷川さんが言う。「休日はアイドルのライブに行ったり、アイドルグッズ巡り、一人でアイドルのDVDの鑑賞会なんかをしてる程で、今井上さんにされたように、可愛い人を見かけるとすぐあんな感じになっちゃうんですよね。」谷川さんは、何でもないように言っているが、かなりやばい人だな、と思った。
私が不審がっているのが、顔に出ていたのか、一条さんは我に返ったようにこちらを見て申し訳なさそうに、「あ、あのごめんなさい、いきなりこんなこと言っちゃって。癖なんですよ、私。可愛い人見るとつい・・・」「いや、別に・・・」それを聞いて少しはまともな人なのかな、と思うと同時に、「可愛い人」と言われて、まんざらでもない気持ちになった。「あっ、じゃあ早速なんですけど、お2人とも来週また来てもらっていいですか?」谷川さんの透き通った声が狭い部屋に響く。「わかりました。井上さんは?」一条さんが呼びかけに反応する。「あ、私も大丈夫です。じゃあ、私これからバイトがあるので・・・」と帰ろうとすると、「あ」と、谷川さんが何かを思い出したかのように声を出す。「お2人、これからコンビで活動する訳だし、お互いタメ口にしません?名前も下の名前呼びで」と陽気に言う。私は内心大したことないことで呼び止められたことに少し腹が立ったが、早く終わらせたかったため、「えっと、一条さん下の名前何ですか?私は井上さくらです。」と自分から会話をリードする。「もう井上さん、タメ口だって言ったじゃないですか~」この人、結構めんどくさいな、と思いながら会話に割り込んでくる谷川さんを無視する。「私は一条ゆりです。じゃあ、さくらって呼ぶね。」「あ、じゃあこっちもゆりで。」そのやり取りを見ていた谷川さんは微笑ましそうだった。
会話も終了し、私とゆりは、事務所を出た。「ではまた来週お待ちしています!」
谷川さんの見送りの声が聞こえる。一体どこからあんな元気が出るのだろう。
それにしても、今日は疲れた。もうバイトに行くのが嫌になる。思ったよりバイトまで時間があったので、そこまで急がなくていいだけ有難かった。「さくらもこっち?」事務所をすぐ出たところの曲がり角で、
ゆりに声を掛けられ、「いや、私は駅のほうにいくから、こっち。」「そうなんだ。」「うん。じゃあ・・・」私が別れを告げようとすると、「あ、ちょっと待って。」とゆりに呼び止められる。
このやりとり、さっきもやったなと思いながら、「なに?」と答える。「ちょっと話聞いてほしいんだ。」
私は今何をやっているのだろう。
いくらバイトまで時間があるからって、事務所の近くの公園のブランコに乗りながら、まだ知り合って一時間程しか経っていない相手の話を聞くなんて、時間の無駄ではないか。
「あの、ごめんね。ちょっと誰かに聞いてもらいたくて。」「うん、別にいいけど・・・」けど、早く終わらせてほしいな、と心の中でつぶやいた。「私ずっとアイドルになりたかったんだ。」ゆりは少し合間を置いて話し出す。「うん。」と私は相槌を打つ。「でも、まあ私、さくらみたいに特別可愛いっていうわけでもないからさ、歌とダンスで勝負するしかなくて。」確かにそうだな、と思った。ゆりは、まあ不細工というほどでもないが、どこにでもいるような見た目の女の子だ。「だから、ずっと歌とダンス頑張って頑張って、研究して・・・やっとこうしてオーディションに合格して、デビューできることになって」そしてゆりは満面の笑みで言った。「ほんっとーに嬉しいんだよね。」そんな彼女の姿は私には眩しすぎて、直視できなかった。直視したら、私という存在を否定されるようで怖かった。「どうして、そんなにアイドルになりたいの?」言おうと思っていなかったことが、思わず口から出て、少し驚いた。ゆりは先ほどよりも笑顔でこう言った。「見てくれてる人を、ファンの人を、笑顔にしたいから!」自分でもわかった。きっと、この時私は、彼女のことを見下した。そんな純粋でいれていいね、その顔でよくそんなこと言えるな、って。
「さくらは、どうしてアイドルを目指したの?」ゆりは私に問いかけた。「それは・・・」儲かりたいから、なんて言えない。そんなこと絶対言えない。言えない、言えない・・・「儲かりたいからかなぁ」
え?私は何を言ってるんだ。なんだか今日は口がすべる。「いやいや、今のはうそ。全然うそ。」慌てて誤魔化そうとすると、「私あんたとコンビ組むのやめるわ。」と先ほどまでと打って変わった冷ややかなゆりの声が私に浴びせられた。あまりにも驚きすぎて、言葉も出なかった。「私はアイドルが大好きで、アイドルになりたくて、頑張ってきたの。」ゆりの声はさらに重く大きくなっていく。「どうせあんた馬鹿にしてんでしょ。こいつこんな顔でって。」図星すぎて、何も言えなかった。「あんたに、アイドルやる資格なんかない。」ゆりはそれだけ言って、公園から去っていった。
これがよく言うあれか。
地雷踏んだってやつ。
~現在~
「もう私実家帰るしかなくね・・・?」
最後までご覧頂きありがとうございました!
かなり急展開です。次回も良かったら見て下さい!