第二章 第八話 『次なる戦いの舞台』
俺が秘密の部屋から出ると、すでに外は夜になっていた。
スモーディアタウンに行くのは三日後、それまで俺は剣の鍛錬をするようにとアルダ様に命令されていた。
俺は足を右に動かし、彼女が待つ広い庭を目指して歩き始める。
近衛騎士団団長、アルダ様の命令でスモーディアタウンには俺とボルクス、近衛騎士団の一般兵数名が向かうことになった。
正直、不満はある。他の七剣士達は別の用事があるせいで、来るのはボルクスだけだということ。
もう一つは、相手がクリミナルの幹部だということ。恐らく、イデンと同じくらい強いのだろう。
一応ボルクスがいてくれるが、果たしてなんとかなるのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、俺は目的地に辿り着いていた。
暗い庭の椅子に座るタキシード姿の金髪美女エクリア。
彼女は俺が戻ってきたことに気づくと、こちらをみて笑ってくれた。
もしかしたら俺が戻ってくるまでずっと待っていてくれたのだろうか。
もしそうだったのなら、すごく嬉しい。
俺は目を瞑り、笑いながら彼女の元へ近づく。
俺が椅子の前に立ち、ボルクスから貰った鍵でアマガラスの足にある封魔の鎖を解いた。
俺が封魔の鎖の鍵を持っていることにエクリアは驚き、大きく目を開けながら俺に質問してきた。
「その鍵……ボルクスさんから貰ったんですか?」
「ん? あぁ、まぁいろいろあってな。俺のこと信用してくれるようになったんだよ」
消えていく封魔の鎖とその鍵を見ながらエクリアの質問に答えた。
ボルクスが作った鍵や鎖は使用した後は土となってどこかに消えてゆくらしい。
エクリアは言っていることがよくわからなかったようで首を傾けながらこちらを見ている。
そんな彼女の隣に俺は座り、星が輝く美しい夜空を見た。
「なぁ、ありがとうな。今日は本当に助かった」
今日の王室での出来事、エクリアとリエラがいなかったら俺は恐らく完全に首をはねられていた。
自分のピンチに駆けつけてくれた彼女達のことを思い出しながら、俺は感謝を述べた。
するとエクリアは俺の方を見つめ、口を手で隠しつつクスッと笑うと俺の言葉に返してきた。
「私達がグレンさんを助けたのは、グレンさんが私たちを助けてくれたからですよ。いい行いというのは必ず自分に返ってくるものですよ。こちらこそ、何度も助けてくれてありがとうございます」
俺は夜空を見ながら、彼女のことを横目で見ていた。
こちらを見てくるエクリアの顔はまるで女神のようだった。
頬を赤く染め、俺は顔を手で隠し悶え始める。
急に気持ち悪い動きをする俺を見て、真面目なエクリアは慌てながら心配してくれた。
「ど、どうしたんですか? 大丈夫ですか?!」
「大丈夫だ。まさかこんなところにまで俺を狙う悪魔がいるなんてな」
俺の言動に未だに納得を得ることができないエクリアは首を傾けながら不思議そうな顔をしている。
俺は手を顔から離し立ち上がる。そしてエクリアの膝の上で寝るアマガラスを持ち、腕に抱える。
「どこか、行くんですか?」
俺がどこかに移動しようとしてることを察したようで、エクリアは俺の方を上目遣いで見ながら質問してきた。
彼女の質問に答えるように、俺は腰を折りエクリアと同じ目線の高さまで来て笑顔で質問に答えた。
「もう今日は疲れたから寝るだけだぜ。俺三日後、スモーディアタウンに行くんだ。帰ってきたら、メイド服……見せてくれよ!」
俺が勇気を出して彼女に半ば無理やり約束する。そして、元の高さまで目線を戻す。
するとエクリアも椅子から立ち上がり、頬を赤く染めつつも俺に美しい笑顔を見せてくれた。
「はい……約束です! それとその格好、とても似合ってますよ」
目の前に迫る女神の笑顔に耐えきれず、俺も頬を赤く染めてしまい後ろを振り向き手を振りながら半ば逃げるかのように歩き始める。
歩き始める俺は心の中で、あることを決意する。
異世界に来て何もわからない俺を助けてくれたり、近衛騎士団に捕まらないために逃してくれたり、本当は俺の方が彼女達に助けてもらっているんだ。
エクリアとリエラ、二人に何かピンチが訪れた時は必ず助けてあげよう。あの二人が、俺のことを助けてくれたように。
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目を開くと、そこには何もなかった。
何もない、周りは真っ白で地面がなければ空もない。ただただ真っ白な空間がどこまでも続いていた。
ここはどこなのだろう、言葉を発想としても喋ることができなかった。
何か不思議な感じだ。俺は自分の体を見ようと下を向いた、だがそこには体はなかった。
この世界では俺はただの意識だけの存在だということなのだろうか?
いつものように顎に手を当てて考えようとしても手がないため、それすらできなかった。
いったいなんなのだろう、ここは。
俺が辺りを見渡しながら考えていると、突如目の前が光だし声が聞こえてきた。
「——ついにここまできたのね、グレン。でも、まだ意識だけの存在のような。あなたがここまで来たということは、『運命の日』が近づいているということね」
この声、聞いたことがある。
そうだ、夢に出てきた女の声だ。お前はいったい誰なのか、俺は声に出して聞こうとしても意識だけの存在のためそれはできない。
「グレン、必ず生き延びて。生き延びて……必ずあの男を——」
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「……覚めちまったのか」
俺はそう言いながら天井を見上げた。昨日と一昨日、一日中剣術の鍛錬に励んでいたためか体が筋肉痛で痛い。
毛布をどかし状態を起こす。両手を上に挙げて大きく伸びてから俺はベッドから降りてドアを開けた。
ドアの先には螺旋階段があり、俺はその螺旋階段を使い下に降りる。
さっきのはいったいなんだったのだろうか。
今までの夢とは全く違い、そもそも今のは夢なのだろうか。
明らかに自分の意識があった。
「『運命の日』……か」
つい言葉に出していた。
夢の声が言っていたことだ。正直、俺はこの言葉をかなり気に入っている。
俺のようなアニメや漫画を見てきた厨二病真っ只中の少年にはこれほど唆られる言葉ない。
というか、今何時なのだろう。俺は壁にかけてある時計を見た。時間は八時四十五分。俺は急いで階段を降りた。
昨日気づいたことなのだが、この世界の時間は現実世界とほぼほぼ同じなのだ。
俺は階段を降り終わると、昨日のうちに用意しておいた近衛騎士団の制服を見た。
テーブルの上に畳んで置いてあり、そして何故かその制服の上にアマガラスが寝ている。
「おい、起きろー。もう朝だぞー、早く起きろよ」
俺が顔を近づけて大きな声でアマガラスを起こそうとする。
だが、起きる気配がなく。一向に眠ったままだ。
俺は顔を離し、全く起きないこいつの睡眠欲に呆れつつも一度ため息をついて再び顔を近づける。
「できれば、この手は使いたくなかったが……おい! 起きろよアホガラス!!」
俺がわざと名前を間違えてアマガラスの名前を呼ぶ。すると狙い通り、アマガラスは大きく目を開いた。
狙い通りに起きたアマガラスは立ち上がり、翼をはためかせ俺の頭に飛んできた。
「ワシは……アマガラスジャァァァァ!!!」
アマガラスは自分の自慢の嘴を使い、俺の頭を突いてくる。
想像以上の鋭さに驚き、俺は思わず声に出して痛がってしまう。
「いてぇいてぇ!! 悪かったって! 起こすためには仕方なかったんだよ。許してくれよ」
俺が頭を押さえながら必死に弁解すると、アマガラスは最後におもいっきり二回つついた。
するとアマガラスは俺の頭から飛んで、再びテーブルまで飛び、端っこの方に座り不機嫌そうにしている。
俺が「はぁ」と目を瞑りため息をこぼす。
だが、そんな余裕している時間もなく。俺は急いで制服に着替えた。
鏡の前に立ち、今日も自分の姿を見る。
相変わらずの嫌な目つきに、綺麗な赤い髪。この髪だけが自分の外見で一番好きな部分だ。
赤い横線の入った白いハーフコートを羽織って完全に準備万端だ。
「あっ」
大変なことを忘れていることを思い出し、俺は急いでキッチンに駆け込んだ。
そして、袋に入れておいた牛乳とフランスパンを二つほど食べた。
俺は食べ終わるとドアまで急いで走る。アマガラスもテーブルから飛び立ち、俺の肩に乗る。
扉を開け、急いで俺は集合場所の王城一階の扉前を目指す。
俺が出来る限りのショートカットをして、一階に辿り着く。
集合場所はとても広い部屋で、大きなシャンデリアに照らされた場所だった。
俺は今日まで、庭と自分の部屋と剣術部屋しか行かなかったため初めてくる場所だったのだ。
床には赤いカーペットが敷いてあり、白い衣装に身を包んだ近衛兵が沢山いた。
俺は息を切らしながらたどり着いた。どうやら、ギリギリ間に合ったみたいだ。
俺は腰を折り、何度も深呼吸していると背後から誰かが話しかけてきた。
「ギリギリ間に合ってよかったな」
俺が振り返ると、そこにいたのはポケットに手を入れながらこちらを見るボルクスの姿だった。
「うるせぇ……俺は三十分前からいましたから」
俺が「ゼェゼェ」と息を吐きながら見栄を張ると、ボルクスは目を瞑り少し笑い後ろを振り向いた。
「さて、では行くとしようか」
ボルクスがそう言うと、俺は折っていた腰を元に戻しボルクスの隣に立つ。
「あぁ行こうぜ。スモーディアタウンへ」
恐らく次もきっと、一筋縄ではいかない戦いが待っている。
でもそれでも俺は諦めない。
絶望上等、俺は生きてみんなを守る。
今回も誤字が多いかもしれませんが、後々修正していきます!
次回は明日四時に投稿予定です!
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