第二章 第五話 『狂人の存命』
俺は自分の部屋にいた。俺が泊まるところがないと言ったら、リエラが使用人に頼んで用意してくれていたのだ。
この大きな城のことだから、たいそうでっかい部屋なのだろうとフラグを立てていたが。
想像以上の大きさだった。
白い床に赤いジュータンが引いてあり、綺麗に掃除してあった。
たくさんの個室があるだけではなく、小さな螺旋階段が置いてありなぜか二階までもある始末。
一通り部屋を回ってみたが、トイレやお風呂までも完備してあり寝室用に部屋まで分けてある。
ぶっちゃけ俺が住んでたアパートより広いし、キッチンやテーブルも置いてある。
この部屋だけで生活していけるレベルだ。
とまぁ元の世界での自分の生活を思い出しつつも、俺はエクリアが用意してくれた近衛騎士団の制服に着替えた。
着替え終わり部屋を出ようとする直前に、ドアの横に置いてある鏡の前にたった。
鏡に映る俺は、赤い横線が入った白のハーフコートをボタンを閉じずに全開にしてその下に黒いYシャツを着ている。黒いズボンに茶色のハーフブーツ。
そしていつもと変わらない悪人面に自慢の赤髪。
今日も綺麗な赤髪と自分の悪人面に腹が立ちながらも俺はドアノブを引いて、ドアを開けた。
俺がドアをあけて左を見る。そこにいたのは、夕焼けに照らされながらも壁にもたれるボルクスの姿だった。
ボルクスは、自分の青メッシュに触りながら手帳に目を通していた。
「おい、着替え終わったぞ。てゆーか、お前と俺の制服ちょっと違うくないか?」
俺がポケットに手を入れながらボルクスと自分の制服を見比べると、ボルクスは右手に持っていたボロボロの手帳をポケットに入れて俺に背を向けて歩き出した。
「アルクリア近衛騎士団の制服にはいくつか種類があるからな。エクリア殿が貴様にはその制服が一番似合うと思ってそれを選んだのだろう」
ボルクスが歩きながらそういうと、俺は再び自分のハーフコートを見る。
エクリアが俺のためを思ってこの服を選んでくれたと思うと、変に愛着が湧いてくる。
でも、俺白色あんまり好きじゃないんだよな。
俺が自分のハーフコートを見つめていると、前を歩くボルクスが振り向かずに話しかけてくる。
「おい、早くついて来い」
「わかってるよ!」
やっぱりどうにもムカつくやつだ。ヒラヒラ動くボルクスのマントを見ながら俺はあいつの背中を追いかけるように走り出した。
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ボルクスが綺麗な姿勢で歩き、その隣をコートのポケットに手を入れながら俺が少々猫背で歩く。
なんだがこう、いざ二人きりになると話す事が思いつかない。
こいつのことはあんまり好きじゃないが、一度嫌いになったやつ人をずっと嫌いになるのは俺の悪い癖だ。
他人を知り、己を知ってこそ人は強くなれる。ボルクスの中身を知ってから、それから嫌いになろう。
うん、なんか違う気がするけど……まぁいいか。俺は腕を組みつつ頷くと、ボルクスの肩を左手で叩く。
「ボルクス君、きみは好きな人とかいるのかな?」
俺は隣を歩くボルクスの方を見た。ボルクスの身長は俺と同じか少し高いくらいだ、俺が猫背のためイマイチどちらが高いのかはわからない。
俺が突然肩を叩いてきたというのに、ボルクスは動じることなくそのまま前を向いて歩き続ける。
「好きな人……愛する人物はいないが、大切な人ならいた」
大切な人がいた。渡り廊下を歩く彼の悲しげな表情とその言葉で俺は察した。
その言葉を過去形で言うということは、恐らくその人物は既に亡くなってしまったのだろう。
ボルクスの表情につられて俺の表情は少し浮かない顔になる。
「すまねぇ。多分、悪いこと聞いたよな」
「ふっ、意外と察しがいいな。気にするな、お前は大事な人を失わないよう精々頑張ることだな」
ボルクスが笑ってそう答えた、俺は驚いた。こいつは全く笑わないタイプの人間だと思っていたんだけどな、そんなこともないみたいだ。
明らかに地雷を踏んだと思ったのだがな、なんだか少し……ほんとにほんの少しだけボルクスとの距離が縮まった気がした。
俺が「ふっ」とため息混じりに笑うと、ボルクスは立ち止まり左を向いた。
「ここだ」
俺にはボルクスの体でどんな部屋か見えないため、少し横に移動する。
そこにはなんの変哲もないただの白い壁があるだけだった。
「なんだよ、なんもねーじゃねぇか」
ただの白い壁をずっと見つめるボルクスに対して俺はツッコミをいれた。
だが俺のツッコミを無視してボルクスは、ずっと壁を橙色の瞳で見つめる。そしていきなり左手を壁にかざした。
すると、突然壁から魔法陣が出てきた。
「!? なんだなんだ!?」
突然の魔法陣に俺は驚いて一歩後ろにひく。だが、ボルクスは平然と顔をしながらそのまま魔法陣に手を置き続ける。
ボルクスが三秒ほど手を置き続けると、魔法陣が消え壁が形を変え出した。
壁は人二人が並んで歩けるほどの通路の姿に変わり、ボルクスはその道を歩き始める。
きっとこれも何かの魔法の一種なのだろう、なんとも便利なものだ。俺は驚きながらも歩くボルクスの後ろをついて行った。
長くも短くもない綺麗な通路を通り抜けると、そこには沢山の剣や鎧が置いてある部屋があった。
その部屋の中には白髪の白い肌のイケメン兼、俺のもう一人の監視役レイアルド。
そしてもう一人、赤いYシャツに黒いズボンを着ている男性が正座で床に座っていた。
その水色の髪に金色の瞳。リエラと同じ綺麗な鼻筋。
俺はすぐにこの男がエクリアが言っていた、リエラの兄アルダだと気付いた。
ただ、リエラと違うところがあるとすれば少し目つきが悪く猫目なところだ。
「連れてきましたよ、アルダ様」
ボルクスが二人の方を見ながら自分の青メッシュを触りながら二人に話しかけた。
アルダ様は立ち上がり「ありがと、ありがと」とボルクスに軽く感謝すると俺の方を見て、フィンガースナップこと指パッチンをしてきた。
「よーくきたね、ナルセ・グレン君。きみを待っていたんだ」
「あんたがアルダ様だよな? 待ってたってどういうことだ?」
俺が名前を知っていた事にアルダ様は少し驚いたが、すぐさま笑顔に戻った。
「レイとボル、そして君と話そうと思っていた事があるんだ」
レイはレイアルド、ボルはボルクスのことだろう。この二人と俺を交えて一体何を話すというのだろうか。
少々疑問に思うところがあるが、レイアルドがこちらを見て笑顔で手招きしているのに気付いた。
「座りなよグレン君。ここには僕ら以外誰もいないから自由にしていいよ」
俺は笑顔で一息ため息をつくと、お言葉に甘えてレイアルドの隣にあぐらをかいて座った。
するとレイアルドは通路の近くの壁にもたれかかるボルクスに対してもこちらに座るように提案するが、ボルクスは首を振り拒否する。
「せっかくなんだから座ればいいのに」
「ボルはああいう正確だから、仕方ないよ」
俺がボルクスの方を見ながら呟くと、レイアルドは笑いながら快くボルクスの態度を受け入れていた。
ボルクスが性格ダメなイケメンだとすると、レイアルドは中身も見た目も超絶イケメンだ。
そして鎧についている剣を取り出し、アルダ様が小さな椅子に座りつつ話始めた。
「まずこの部屋と、このメンツについてグレン君はわからない事が多いだろう」
その通りだ。俺はまだこの人達とは出会ったばかりでわからないことだらけだ。
俺が頷きアルダ様の方を見ると、アルダ様は自分達について話始めた。
「僕はアルダ・アルクリア。この国の王子であり、近衛騎士団の団長でもある。そして『七剣士』の二人、レイとボル。僕達は昔からの仲良しでね、僕が一番信用してる二人なんだ」
薄々感づいてはいたが、やはりレイアルドも『七剣士』の一人だったか。
恐らく、あの王室にいたスティナという男と赤髪の老け顔の人も『七剣士』の一人だったのだろう。
俺が顎に右手を置きながら考えていると、アルダ様は足を組み剣の刃を見ながら話を続けた。
「そしてこの部屋は僕とレイとボルの三人だけの秘密基地なんだ。僕ら三人が壁に触れた場合のみ、この部屋に入るための道が開く魔法陣を仕組んであるんだ。まぁ、今日からは僕ら四人の秘密基地って事になるけどね」
確かにそうだ、もう俺がこの部屋を知ってしまったからな。
アルダ様がこちらを見ながら少し笑い、椅子から立ち剣を鎧の鞘にしまい始めた。
「それで本題なんだが、グレン君。君がサブレの村で謎の人物と戦闘していたとボルクスに聞いたんだが」
鞘に剣をしまい、こちらを向いて話すアルダ様。俺は目を大きく開き、アルダ様の話を無視して彼らに質問する。
「そうだ! 気になっていた事があるんだ。あの後、村はどうなったんだ? あの仮面の集団とイデンはいったいなんだったんだ?」
イデン。俺がウォースタウンで初めて出会い、サブレの村で戦った紫髪の少年のことだ。
いや戦ったというよりもボコられたに近いんだが。
あいつの事を思い出すと、嫌な記憶がフラッシュバックする。
俺は額を抑えて険しい顔をする。
すると、静かに話を聞いていた目元にホクロがある少年。
レイアルドが綺麗な正座を崩さずに、左手を俺の方に差し出して質問してきた。
「大丈夫かい?落ち着いてくれグレン君。イデン、それが君が戦っていた少年の名前なんだね?」
心配するレイアルドの顔を見ながら、少しずつ俺は心を落ち着かせる。
そして深く深呼吸をしたのち、レイアルドの顔を見てレイアルドの質問に答える。
「あぁ、そうだ……だが、イデンはボルクスに倒されたはずだ。いったいなんでそんな事を聞くんだ?」
俺がレイアルドの顔を見ながら答えると、レイアルドは少し深刻そうな顔で俺から目線を逸らした。
いったいなぜ視線をそらしたのだろうか。俺が不思議に思い首を傾けると、壁にもたれていたボルクスがポケットから手を出し青メッシュを触りながら口を開いた。
「あいつは……イデンは生きているぞ」
ボルクスからその言葉を聞いた瞬間、俺は驚愕する。あの狂人がまだどこかで生きて、また誰かを殺しているのかと思うと胸から不思議な感情が込み上げてくる。
なぜか俺はあいつが生きていると知ると拳が震え始めた。
果たしてこれは恐怖なのか、それともあいつを自分の手で殺せるかもしれない事を知って……喜んでいるのか。
最近は落ち着いたシーンが多いな〜
今回も誤字があるがしれませんが後々修正していきます!
次回は本日十九時投稿です!
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