第二章 第四話 『エクリアとタキシードとメイド服』
あったかい日差しに照らされながら、俺は椅子に寝転んでいた。
暑すぎず寒すぎず、この世界の太陽はとても暖かくちょうどいい温度だ。
俺がいるのは大きな城の緑が溢れる綺麗な庭だ。
この国の街並みがヨーロッパ風だったことからだいたい予想はしていたが、案の定城もヨーロッパ風だ。
リエラとエクリアのおかげで何とか解放された俺たちはただいま絶賛日向ぼっこ中だった。
「あったかいノォ……」
俺のお腹の上で俺と共に日向ぼっこしているのは禁忌の黒刀と呼ばれるアマガラスだ。
俺が必死に王様にお願いをして、アマガラスの封魔の鎖も一度解いてもらったのだ。
ただ、やはり禁忌の黒刀と呼ばれているためカラスの姿に変わったのちに右足に再び封魔の鎖を巻かれてしまったのだ。
俺が少し状態を上げてアマガラスの右足を見る。
「それ、大丈夫か? 痛くないか?」
「大丈夫ジャ。歩いてる時も飛んでいる時も特に何もない。日常生活においては何も支障はないとあの剣士も言っていただロゥ」
アマガラスが目を閉じながら俺の上で寝つつ答える。
あの剣士とはボルクスのことだ。
そしてそのボルクスは、今俺の近くにいる。銀色の高貴なテーブルと高貴な椅子に座りながら自分の手帳に目を通している。
まさかこいつが俺の監視役に選ばれるとは正直とても残念である。
ボルクスと最初にあった時は助けてもらったりと意外といい印象があったが、先程の王室の俺への威圧的な態度。
そして極めつけはイケメン、どうにもあいつとは仲良くなれそうにない。
「いつまで寝ているんですか? グレンさん」
俺が上を見ながら考え事をしていると、横から綺麗な声が聞こえてきた。
俺が声の方をした方を見ると、そこには椅子の前に立つタキシード姿のエクリアだった。
エクリアは俺用の近衛騎士団の制服を畳んで腕の上に持っていた。
俺は彼女の服装に少々思うことがあり、俺は大きな灰色の城をみながら彼女に質問する。
「てゆーかエクリアはこの城の使用人って立ち位置なのか?」
俺の質問に対してエクリアは、人差し指を顎に当てながら空を見つつ考え込む。
「んー……まぁそうですね。この城には多くの使用人がいますが、私もその一人で主にリエラ様の身の回りの掃除やお食事を担当しているのです」
確かにこれだけでかい城だ、何人も使用人がいても不思議ではない。
もしかしたら人一人に担当の使用人がいるのかもしれない。
俺が勝手に納得して首を上下に動かしたのち、状態を起こしてエクリアの方を見て右手の人差し指と中指を立てた。
「あと二つばかし聞きたいことがあるんだ。どうして君とリエラはウォースタウンにいたのか、そしてもう一つ……どうしてエクリアはタキシードを着てるんだ!? なんで、メイド服じゃないの!?」
エクリアが突然変態的なことを言う俺に対して一瞬驚き、「ふふっ」と笑うと俺の制服を椅子の上に置いて彼女自身も俺の隣に座ってきた。
「実はリエラ様の上には歳の離れたキエラ様と言うお姉様がいました。キエラ様はエイダ様に選ばれた相手と結婚することを嫌がり、半ば駆け落ちの形で一般人の家に嫁いでしまいます。王家としてのプライドを持つエイダ様は一般人と結婚されたキエラ様に激怒します」
エクリアは自分の膝の上に乗って来るアマガラスの頭を撫でながら少し浮かない表情で事情を話してくれた。
「エイダ様とキエラ様は話し合いで解決しようとしますが、結局魔法での戦いになり最終的にキエラ様が勝利し結婚相手と他国へ逃亡します。そのためエイダ様はリエラ様をキエラ様のようにしないために生まれてからずっとリエラ様をこの城の中に監禁しました」
説明を続けるエクリアの話を遮り、俺は新たに増えた疑問について質問してしまう。
「えぇ、まじかよひでぇな。でも、それじゃこの国の王位は誰が継承するんだ?」
話を遮りさらに新たに質問する俺に対して、彼女はちょっと不機嫌になりつつもちゃんと答えてくれた。
「大丈夫ですよ。もう一人のリエラ様の兄、アルダ様がいらっしゃるので。で、話を続けていいですか?」
徐に不機嫌になり、口を少し膨らませつつもちゃんと答えてくれたエクリアがこちらを見てくる。
エクリアは自分の話を遮られるのがどうやら嫌いなようだ。
俺は少しデジャブを感じつるも、彼女に両手の掌を差し出し「どうぞ」と頭を下げる。
エクリアは機嫌を戻し、再び笑顔を見せると話を続けてくれた。
「リエラ様が城に閉じ込められて十四年、リエラ様は外の世界を見に行きたくなりある日エイダ様に話を持ちかけました」
エクリアは横から垂れる髪を耳にかける。これだけでかいお城だけど、十四年もここに閉じ込められてたのか。
リエラの立場になって考えると相当辛かったんだろうなと思う。
エクリアは右手で自分の髪の横の髪に触り、左手でアマガラスを撫でていた。
「そして、リエラ様がごねてごねてごねた結果。三ヶ月間だけ自由に旅させる事を許可して、リエラ様と普段から仲のよかった私をリエラ様に同行させるように命令してきたのです。そしてその道中にグレンさんと出会ったというわけです」
なるほど、だから王女にも関わらずウォースタウンにいたということだったのか。リエラはいつも笑顔の絶えない女子だったけど、そんな辛い過去を持っていたんだな。
誰にでも辛い過去はあるものなのだな。と勝手に一人で納得して目を瞑りながら頷く。
そして俺がエクリアにもう一つの質問に対して答えてもらおうと彼女の方を見ると、エクリアは下を向きつつ浮かない顔で答えてくれた。
「メイド服に関してはですね。まぁ正直、そういう可愛らしい服は私には似合わないので……」
彼女がそう言った瞬間、俺は考えるよりも先に言葉に出していた。
「そんなことねぇだろ! お前無茶苦茶可愛いのに似合わないはずないだろ!」
俺が彼女の言葉に対してすぐさま反論すると、エクリアは俺の方をみながら驚いた顔をして頬を赤く染めた。
彼女と少しの間見つめあっていると、自分の言っていることがなかなかに恥ずかしい事に気づいて俺も顔を赤く染めてしまい、お互いに目を逸らしてしまう。
「そう言ってもらえてとても嬉しいです。グレンさんは、私のメイド姿……見たいんですか?」
俺から顔を逸らしたエクリアがそう聞いてきた。これはつまり、見たいと言えば来てくれるイベントなのだろうか。
きっとそうだ、そういう事なんだろう。
この異世界に来てやっと訪れたご褒美イベント。この時のために俺は頑張ってきたのかもしれない。
俺はエクリアの方に視線を動かして両手で彼女の肩を掴む。
そして掴まれた事に驚きながらも頬を赤くしたままのエクリアが俺の顔を見つめる。
「エクリア、俺は……お前の……」
言ってやる、今まで辛いことばっかりだったんだ。これくらいのご褒美もらって当然だ。
だが、いざ言おうとなると言葉が詰まる。それでも俺は諦めず言い切ろうと覚悟を決める。
「お前の……メイド姿がみ——」
「お取り込み中失礼するのだが」
俺が覚悟を決めてエクリアにお願いしようとした瞬間、とある男が横槍を入れてきた。
ずっとテーブルで手帳を見ていたボルクスが椅子の前に立ち話しかけてきたのだ。
エクリアは驚き、急いで俺と視線を逸らし体の向きをボルクスの方へ変える。
エクリアの肩にあった俺の両手は元の位置に戻っており、こちらに話しかけてきたボルクスに対して怒りの感情に溢れた笑顔で話しかける。
「なんだよボルクズ君、僕は今とーっても大事な話を彼女としているんだよ。後にしてもらえるかな?」
俺はわざと彼の名前を間違えた。だが、そんなことも意に返さずボルクスは自分の青色のメッシュに触りながら話返してくる。
「早くそこに置いてある制服に着替えろ。貴様と話すことがある」
「話?」
俺なんかといったい何を話すことがあるとするのだろうか。不審に思いつつもなんの話か聞き返そうとするが、ボルクスは後ろを振り返り歩き出す。
恐らくついて来いということなのだろう。
俺は「はぁ」と一つため息をこぼすと自分の制服を持って椅子から立ち上がり、そしてエクリアの膝の上で眠るアマガラスの頭を撫でる。
「ちょっと行ってくるわ、エクリア。さっきの話はまた今度……ってことで」
エクリアが頬を赤くしながらも、ニッコリ笑いながら俺の方を見つめて「はい」っと笑ってくれる。
できるならばエクリアの可愛い笑顔をもう少し見ていたいところだが、そういうわけにもいかず俺は歩いて行くボルクスの方を見る。
そしてエクリアとアマガラスを背に俺はボルクスの方に歩いて行く。
ボルクスが俺に話したいことというのは一体なんのことなのだろうか。
最近はあまり戦闘がなくてあまり動きがないですね。
ただ第二章でもグレンに立ち塞がる強敵は現れるので乞うご期待ということで!
次回は明日夕方四時に投稿します!
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