第二章 第三話 『リエラの提案』
ステンドグラスに囲まれた部屋。この部屋の空気は今、とても殺伐としていた。
突然部屋に入ってきたリエラとエクリア、彼女達はずっとタイミングを伺っていたようで、俺がこの国にとって無害なことを証明するために来てくれたらしい。
俺の目の前に立っていたボルクスと白髪の騎士はリエラに一礼しつつ左の壁に移動していった。
ミヴァのおっさんとアイリスも一応は話を聞いているが、会話に参加するつもりはなさそうだ。
というか、アイリスに限っては腕を組みながら目がどんどん閉じていっている気がする。話を聞いてるのかもわからない。
そして残りの二人。オールバックの老け顔さんはずっと笑顔でこちらを見ているが、こちらも会話に混ざる気配はない。
だが一人だけ、会話に混ざろうとしている男がいた。
ずっと壁に持たれていた金髪の男だ。男は一歩前に足を出して、リエラを鼻で笑った。
「ふっ、突然きたと思ったら……いったいなんの冗談ですか? リエラ嬢。 この男が怪しいのはあなた達が一番知っているのでしょう?」
悔しいが、確かにこいつの言う通りだ。俺は自分の足を見ながら思ったら。
リエラはさっき、王様のことをお父様と言った。つまりはリエラは王様の娘、王女様ってことになる。
ならどうしてリエラとエクリアは俺のことを騎士に差し出さなかったんだ?
王族に伝わる禁忌の黒刀とやらを所持している素性不明の俺を。
ウォースタウンにそのままいれば、王都の騎士達が来るのはわかっている。なぜわざわざ、逃げるかのようにサブレの村に行ったのだろうか。
俺が彼女達の行動に疑問を思っていると、リエラは顎を上げて少し見下しながら先程自分に話しかけてきた金髪の男性を見ていた。
「あら、いたのねスティナ。気づかなかったわ」
どうやらあの金髪の男性はスティナという名前らしい。見た目のいけすかなさとは違い、とても綺麗な名前だ。
名前を呼ばれたスティナは、まるで絵に書いたかのようなニヤケ面を顔に貼りながらリエラに一礼する。
「お久しぶりですリエラ様。お変わりないようご様子で、この騎士スティナ・ベルガハント。大変嬉しく思います」
自分に頭を下げるスティナに対して、リエラは真っ直ぐ右の人差し指を向けた。
「そっ。私はあなたに会えて、とーーーっても残っ念っよ!!」
リエラがキッパリとスティナに言い切った。恐らく、リエラも俺と同じでスティナのことが嫌いなのだろう。
ハッキリと自分の意見をいうリエラに対して、思わずグッドマークをあげたくなってしまうほど俺もスッキリしていた。
だが、彼女の嫌味にも全く動じずスティナは笑顔を消さずに一歩引いて再び壁にもたれかかる。
そしてリエラの後ろで二人の会話を聞いていた王様がリエラに対して口を開いた。
「スティナの言う通りだ。リエラ、この男が怪しいというは共に行動をしていた貴様達が一番知っているはずだ」
王様が自分の娘のリエラに対して大きな圧を放っていた。
だがリエラは、そんな王様に対しても先程までと全く変わらない堂々とした態度で後ろを振り返った。
「えぇ、その通りですわエイダお父様。正確には私と共に旅に出ていた私の付き人、エクリアの方が知っておりますわ」
エイダ。この国の名前が確か、アルクリア……だったはず。
ということはこいつの名前はエイダ・アルクリアか。そして、リエラはリエラ・アルクリアか。
俺が王様の髭を見ながら考えていると、当の本人は髭を触りながらリエラの隣に綺麗な姿勢で立ち続ける金髪の女性を見ていた。
王様が自分のことを見ていることに気づいたエクリアは横目で後ろに目線を移して一礼した。
そして再び目線を戻し、横から垂れる髪の毛を耳にかけつつ俺の方を一瞬見た。
「エイダ様の言っていた通りです。私達は一番、この方と一緒にいました。この方は魔法も知らないですし、出身地も頑なに話そうとしません。明らかに怪しいです。そんな方が禁忌の黒刀を引き抜いたのですから、皆さんが警戒するのもわかります」
一瞬こちらを見たのち、目線を真っ直ぐにしたエクリア。やはり彼女も俺のことを不審に思っていたのだ。
俺は不安をそのまま顔に出しつつ、彼女の方を見つめていた。
「どうしてだ? 俺のことをそんな警戒していたのなら、なんで王国騎士団に差し出さなかったんだ? どうして、逃げるかのようにサブレの村に行ったんだ?」
俺が彼女の顔をみて今自分が思っていることを素直に問いかけた。
するとエクリアは、話しかけてきた俺の方を見るといつもの笑顔で笑い再び周りの騎士達に話し始める。
「私はこの中で一番彼のことを知っています。彼がどんな人か知っています。自分が死ぬことを恐れているのに、それでも誰かを助けようとする方です。」
俺は大きく口を開いて驚いた、やはり俺がビビっていたことに彼女は気づいていたのか。
そう思うとビビりながらイキっていた自分が無茶苦茶恥ずかしいな。
俺が頬を少し赤くして下を向くが、彼女はそんな俺のことはお構いなしに話を続ける。
「彼は、臆病で弱い人間です。なのに彼は、私やリエラ様を……それこそ沢山の人を守ってくれました。彼は確かに怪しいですが、それでも誰かを守ったという事実があります。全てが謎の彼ですがたった一つだけわかること。それは、誰かのために命を捨てることのできる優しい人だということです」
俺のことをそう言ってくれるエクリアを見ていると涙が出てきそうだった。とても、俺はいい友達と持てて幸せものだ。
もしかしてサブレの村に逃げたのも、俺が良い人だと思ったから……騎士達に捕まらないようにするためだったってことなのか?
だとしたら、彼女達はとんだお人好しだ。
そして、エクリアの話を聞いていたリエラは両手を腰に当てながらこちらを振り向き口を大きく開けた。
「エクリアの言う通りですわ。彼がウォースタウンで魔獣を倒し、何人もの人を助けたことは動かぬ事実なのです! 彼が経歴などを言えのにもきっと何か事情があるのよ」
「リエラ……」
俺は思わず言葉をこぼした。そこまで話したこともないのにこんなに庇ってくれるなんて、ほんとにいいやつだ。
だがここで、ボルクスと共に部屋に入ってきたからずっと黙っていた白髪の青年がとうとう口を開いた。
「お言葉ですがリエラ様、我々も彼が魔獣を討伐したということはもちろん知っております。それでもやはり彼は怪しい。私としてもただの一般人を殺すのは心が痛むのですが……彼がこのまま素性を黙るのなら、やはりここで彼を斬るしかありません」
白髪の少年の遠回しの処刑宣言。こんなに優しそうな男に処刑宣言されると流石にビビってしまう。
するとリエラが、色白の男に金色の瞳を向けるとない胸を大きく張った。
「レイアルド……あなた達の誰かがそう言ってくるのはわかっていたわ。だから一つ、案を持ってきたの」
リエラの言葉から、左にいるボルクスの隣に立っている白髪の男がレイアルドという名前だと俺は把握する。
レイアルドは右手をリエラの方に向けて首を傾けて質問する。
「ほぅ……その案とは?」
レイアルドの質問に答えるようにリエラは自信満々の笑顔で大きく口を開く。
「彼を、ナルセ・グレンをアルクリア王国近衛騎士団に入隊させることを提案するわ」
「え?」
ついつい言葉をこぼしてしまった。
どういう意図があるのか俺には全くわからなかった。なぜ近衛騎士団に入れる必要があるのか、俺の頭の悪さを窺える。
俺が首を右に傾けて考えているとずっと黙って聞いていたミヴァのおっさんが顎に手を当てながらリエラを見ていた。
「なーるほどな、近衛騎士団においてグレン少年を監視するってとこだなリエラ嬢」
リエラの提案について返答してきたミヴァのおっさんに対してリエラは一度指を鳴らすと片目を閉じて、ミヴァのおっさんに右手の人差し指を指していた。
「そうその通りよ。近衛騎士団、そうね『七剣士』の一人にでも彼を常に監視させておくのはどうかしら? グレン君結構弱いから『七剣士』なら余裕で倒せるからね」
なんだか途中に俺をディスる言葉があった気がしたが、今は気にしないでおこう。
だがなるほど、これなら今はとりあいず生かしてもらえるし上手くいけば俺のことを彼らに信用してもらうこともできるかもしれない。
「どうかしらお父様。国の戦力を上げることができるし。それに、災いを招いたとしても『七剣士』がいれば何とかなるわよ」
リエラが玉座の方を向き、王様の顔をみながら俺を利用するように説得する。
そして王様が自分の娘を睨めつけるように圧をかけるが、全く怖気付かないリエラに「はぁ」と一度ため息をつくと両目を瞑りつつ髭を動かした。
「一つ条件をつける。彼につける『七剣士』は二人。そしてその二人はワシが選ぶ、それならばギリギリ許容範囲だ」
「えぇ、それで構いませんわ。ありがとうございます父上」
エイダ王様の返事にすぐさま返すリエラ。彼女の顔は蔓延の笑みだった。
そして王様がボルクスの方へ目線を移すと、ボルクスが目を瞑り右手の指を鳴らす。すると、俺を縛っていた縄が消えてゆく。
俺は両手を前に出し拳を握って離す仕草を二回繰り返すと、立ち上がりジャンプする。
「自由だぁぁ!!」
開放された喜びで思わず叫んでしまう。そんな俺を見つつ、笑う者もいれば睨むものもいる。
そんな俺を無視して王様は言葉を放つ。
「では、彼につける『七剣士』を選ぶ」
場は再び鎮まり、皆の視線は王様の方へ移動する。いったい誰が選ばれるのか、運命の選択である。
誤字などが有れば教えてもらえると幸いです。
次回は本日七時投稿予定です。
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