第二章 第一話 『病衣と白衣と二人の剣士』
今回から第二章です!誤字があるかもしれませんが後々修正していくのでご了承下さい。
「見知らぬ天井……」
デジャブを感じつつ俺は病衣に体を包みながら白くて綺麗な天井を見ながら思った。
仰向けに寝ながら、肩までかかる毛布にくるまり顔を横にする。
横にはひらひらと揺らめくカーテンが。そこから入ってくる日の光が眩しすぎて俺は再び目を閉じた。
今は昼過ぎ辺りだろうか。自慢の腹時計で推測するが、当たったことよりも外したことの方が多いので当てにならない。
体も怠くて動くのが面倒くさい、現実世界では部活にも入らずゲームや小説ばかりを読んでいた自分だ。
運動は学校の体育と朝のランニング程度でたいした運動をしていない。身体能力が常人でないことは自覚しているが、体力に関しては自信がない。
なのに、異世界召喚当日は魔獣との命がけの攻防、この前のサブレの村でのイデンとの戦い。
普段とは比べものにならない程、体も心も疲れてしまった。
体がだるくなっても仕方ない、今はただ寝よう。そう心の中で決めた俺は仰向けから横向きになって寝ようとするが、手からカチャッと音がした。
「ん……? カチャッ?」
俺はベッドから起き上がり、毛布を足で退けて自分の手をみる。
なんと自分の手には、よくアニメやドラマで見かけたあるものがついていた。
手錠だ。よく見たことがある黒色のものではなく水色をしていた。
「な、なんでこんなのが俺の手についているんだ……」
俺はどうしてこんなものが自分の手についているのか、不思議に思い俺は眠る前のことを思い出す。
「うっ……!!」
俺は顔を青ざめつつ手錠のついた手で口を塞ぎ、思い出すべきじゃなかったと後悔した。
俺は数々の死体を思い出してしまった。その中には、まだ十歳にもなれていない少女もいた。
そうだ、俺は確か自分から拘束する様に頼んだんだった。
あの後、いったいどうなったのか。なぜ騎士達はあの街に駆けつけたのか。
そして毎度のことだが、ここはどこなのだろうか。
隣にはよく病院とかにあるベッドとベッドの仕切りのようなものがある。目の前に見える大きな棚には沢山の薬がある。そしてその棚の隣には机があり、机の上には開きっぱなしのノートがある。
あのノートにはいったい何が書いてあるのか、とても気になる。だが、人のものを勝手に見るのは流石にいけないことだ。
俺は超優等生だからな。プライバシーはちゃんと守る派の人間なのだ。
なんて自分はできた人間なのだろうか。俺は自分で自分を褒めながらベッドに倒れ、そして目を閉じた。
「……」
やっぱり気になる。おれは目を大きく開きつつ、起き上がりあのノートを見つめる。
周りには特に誰もいない。いるのは外で鳴いている鳥くらいだ。今だけちょびーっと見るだけだ。うん。開いているページを見るだけなんだからきっと大丈夫。
自分でもバカバカしい理屈だと思うが、既に足はベッドから降りていた。
「つめてっ!!」
床がキンキンに冷えてやがった、裸足で床に立った俺は思わず声を出してしまった。
とりあえず冷たいのを我慢して俺は忍足で机の方に向かう。
動くたびに手錠がガシャガシャなってうるさい。
なんでよりよってこんなにうるさい手錠を選んだのかボルクスに問いただしたいところだが、今は気にしない気にしない。
俺は少しずつゆっくりと机に近づくが、机の手前あたりに来たところで誰かが俺に話しかけてきた。
「やめといた方がいいぞー少年。そこに書かれてるの見るとショックで最低一週間は眠れなくなるぞ」
俺はびっくりして焦って後ろを振り返る。そこには俺と同じ病衣に身をつつみ、紫の髪を綺麗に真ん中で分けた眼鏡をかけた青い瞳の中年のおっさんが小さな本に目を通していた。
「俺はただいま絶賛拘束され中の男、ナルセ・グレンだ。おっさんは何者でなんてお名前なんですか?」
俺は手錠がついた右手の親指で自分を指しながらイキリ散らした笑顔で自己紹介をした。
「ふふっ、なかなか面白い自己紹介をするもんだな。そうだな……俺はただいま絶賛療養中のしがないおっさん剣士、ミヴァング・アードナルド。よろしくなぁグレン少年」
目の前のおっさん、もといミヴァングのおっさんは読んでいた本を閉じて、俺のノリに合わせて笑顔で自己紹介をしてくれた。
第一印象だけでは異世界で出会った人達の中で一番良いかもしれない。
俺はミヴァングのおっさんが注意してきたこのノートについて右手を前に差し出し、首を傾けて質問する。
「ミヴァのおっさんはこのノートの内容見たことあるのか?」
ミヴァのおっさんは何かを思い出したかのように体を震わせながらも笑顔を消さずに俺の問いに答えてくれた。
「そのノートの内容? よーく知ってるぞぉ……だが読まないことをお勧めするぞ」
「なんでだ??」
ミヴァのおっさんの回答に、すかさず俺は聞き返す。
「そのノートに書いてあるのはとある薬の材料だよ。ただその材料に少々問題があるんだ……俺でも二ページ読んだだけで一週間は眠れなくなったくらいだ。未成年の君が見ると……いったいどうなることか……」
これほど貫禄がついたおっさんが一週間も眠れなくなるとはいったいどんな材料が書いてあるのか……俄然気になってしまう。
俺は机の方に視線を戻し、手錠のついた両手でノートに手を伸ばそうと近づいてゆく。
いったい何が書いてあるのか、どんな内容だろうと後悔しない。俺はそう思いつつノートに近づいてゆく……が。
「そこまでにしときなさいよ」
俺がもう少しでノートの内容を見れるというところで茶色のドアを開けながらこちらに向かって女性が叫んできた。
俺は驚きつつも声が聞こえた左側を見る。綺麗な青髪を腰の辺りまで伸ばし茶色の瞳でこちらを見るツリ目の女性だった。
その女性は白衣の下に青色のシャツを着た口にタバコのような物を加えていた。
背丈や見た目からそこまで俺と歳は変わらないはずなのに、なぜタバコを加えているのか。
もしかしたらこの世界では俺くらいの年齢になるとタバコを吸ってもいいのだろうか。
というか、なんなのだろう彼女の大きなバストは……俺が異世界で見てきた女性の中でエクリアと一二を争うほどの大きさだ。
ちなみにリエラは、異世界で見てきた女性の中で一二を争うほどの小ささだ。
両手で顎を押さえながらどうでもいい考察をする俺を見て、白衣の女性は俺に話しかけてきた。
「目が覚めたようね、ナルセ・グレン。あなたの恐ろしい寝顔をもう見なくていいと思うと清々すゆわ。」
昔、学校行事で一緒に泊まった友達も言っていたが、俺の寝顔ってそんなに怖いのか?
とまぁ少々落ち込むが、今はそんなことよりも他に聞くべきことがある。俺は女性の顔を見て、まずは名前を聞き出そうとする。
「えっーと、俺の名前はもう知ってるんだよな……よければあんたの名前を教えてもらいたいんだけど……」
俺が両手を彼女に向けて差し出す。すると彼女は腕を組み、動物を見るかのような目でこちらを見ている。
恐らく警戒しているのだろう。
すると女性ではなくミヴァのおっさんが女性に指を刺しながら答えてきた。
「彼女はこの国随一のマッドサイエンティスト! 我らが『七剣士』の一人、アイリス・マーケリングさ!」
ミヴァのおっさんが少々ドヤ顔で彼女の自己紹介をしてくれた。俺がおっさんを見ながらなんであんたが答えるんだとツッコもうとした瞬間。
「どうしてあなたが答えるんですか、ミヴァングさん。私はマッドサイエンティストではないですよ、医療剣士アイリス・マーケリングです」
アイリスという名前の女性は両目を瞑り、ため息をつきつつミヴァのおっさんの紹介に否定をいれた。
「ところで、あなたは何をしているのかしら。まるで私がいないのをいいことにこっそりノートを見ようとしてる様に見えるのだけれど」
アイリスはツリ目で俺の方を睨みながら威圧してくる。
俺はその目にビビってしまい、頬に汗を垂らしながら笑顔でミヴァのおっさんの方へ視線をそらす。というか恐ろし過ぎるほどに彼女の考察はドンピシャだ。
俺は右手の人差し指で頬を掻きながらなんとか彼女の考察を否定しようと嘘を考えるが。
俺はミヴァのおっさんが言ってたことを思い出し目を大きく開いてアイリスの方を向き、とある疑問を問いかけた。
「あんた、『七剣士』の一人なのか!?」
こんな明らかに回復系ポジションのくせに、もしかしてあのボルクスみたいにバカ強いのだろうか。
目の前の女性は、組んだ腕の上に大きな胸を置きながらこの世界では当たり前のことを知らない俺を方をみてアイリスは髪をなびかせつつ答える。
「あまりその総称は好きじゃないのだけれど。そうよ、私はこの国最強の剣士の一人。『七剣士』の一人よ」
まさか本当に『七剣士』だったとは……驚きを俺は隠せずにいる。こんなか弱そうな女性までもがボルクス程の強さを持っているとは。
俺はその事実を聞いて自分の力の弱さとどうしてこんなにも強い能力を持った人間達がいるのに殺されてしまう人間がいるのだろう。
誰にだって届かないものがあるというのはわかっているのに、そんなことを考えてしまう。
俺が自分の弱さと悲しいこの世界の現実について考えていると、俺に近づいてくる足が見えた。
俺が俯いていた顔を上に戻すと、目の前にはアイリスの顔があった。
「悪いけど、ちょっと来てもらうわよ」
アイリスは右手を俺のうしろまで伸ばし、そして肩にアイリスの手がトンッと当たると、俺は床に倒れ意識を失っていった。
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「知らない場所で見ず知らずの相手に対して警戒心がなさ過ぎるわね。私は医者よ、人を簡単に気絶させる方法だって心得ているというのに。こんなに簡単に近づかせるなんてね」
伸ばしていた腕を戻し再び腕を組みつつその髪をひらめかせながら倒れるグレンを見下ろし喋るアイリス。
彼女がグレンを気絶させようとしてることに気づいていながらも、それを黙って見ていたミヴァングは彼女に対して話しかける
「あーあ、やっちまったな……こいつ意外と物わかりがいい性格してそうだし、別に無理して眠らせる必要なかったんじゃないのか?」
「念には念を……ですよ。もしかしたら暴れる可能性だってあるかもしれませんからね、さぁ彼を運びましょう。王の部屋へ」
アイリスは長く黒いスカートを折りつつしゃがみながらミヴァングに言い返した。
そしてミヴァングの方を向き、そして口に加えているタバコのような物を一度口から取り出しそしてミヴァングに手伝うように要求する。
「いつまでも寝てないで、彼を運ぶの手伝ってくださいよ。どうせもう体だって普通に動くんでしょ……」
「おっさんはまだちょーっと、動くのきついかもなぁ……こうゆうのは若い子だけで頑張らなきゃ意味ないぞっ!」
ミヴァングは屁理屈を述べながらアイリスの要求を拒否する。
「ただのおじさんなら、まだ動けないでしょうね。 ただのおじさんならね。ねぇ? 『七剣士』ミヴァング・アードナルドさん」
ミヴァングが左手で後ろの髪を触りながら笑顔で「へーへー」と答えると彼はベッドから降りてグレンを担ぎ上げ、そして窓から出て壁を走り出す。
「何してるんですかーミヴァングさん。病み上がりなんですから、普通に行きましょうよー」
アイリスは窓から顔を出し壁を登るミヴァングに対してめんどくさそうに話しかける。
そしてアイリスの声が辛うじて聞こえたミヴァングは彼女の言葉に返す。
「こっちの方が早くオー様のとこまで行けるからなぁ!! 久しぶりに動くんだし、これくらいやらせてくれよ!」
壁を走るミヴァングの姿は見た目は大人ななのに中身はまるで無邪気な少年のようだった。
今回で二人の七剣士が登場しましたね!
この二人がこれからいったいどんな風に物語に絡んでくるのか。楽しみにしていてください!
よければ、感想評価おねがいします!