不在の真実、冷徹なる罰
2036年6月24日 午前10時00分
部屋は薄暗く、空調も動いていなかった。
こもった乾いた空気が、天井の照明にあわせて微かに揺れる。
その中で、《行き止まり》は壁にもたれ、黙したまま前方を見据えていた。
向かいの椅子には、百目鬼亜澄が座っていた。
白衣の袖を肘までたくし上げ、膝上に開いた資料の束を、機械的な手つきで繰っていく。
「――で、《流星》はどうなったの?」
声は柔らかかった。だがその奥には、試すような棘が確かに潜んでいた。
《行き止まり》は一拍の間を置き、顔色ひとつ変えずに答える。
「捨ててきた。使い物にならなかったからな」
百目鬼の手が止まる。
「捨てた?」
「期待外れだった。それだけだ」
その物言いに、百目鬼は口元をわずかに歪めた。
「“あの子”の魔術は、加速属性としては一級だったはずだけど?」
「そうかもな。でも、覚悟がない。制御も未熟だ。使えば死ぬ、使わなければ見捨てられる――そんな半端な状態で置いといても、こっちのリソースが無駄になるだけだ」
低く抑揚のない声音が、淡々と判断を下していく。
その言葉に、情も躊躇もなかった。
「俺がその分やる。だから関係ない」
百目鬼は資料を閉じた。
表情を変えることなく、ゆっくりと顔を上げ、《行き止まり》を見据える。
「……ですが、御堂さんをあなたにつけたのは、彼女に対する“罰”でした。それを一方的になかったことにはできません」
《行き止まり》はわずかに目を細めたが、何も返さない。
その沈黙に重ねるように、百目鬼は静かに笑んだ。
「代わりの罰が必要だと思いませんか?」
口調はあくまで穏やかだった。
だがその響きには、拒絶を許さぬ“決定事項”の冷たさが滲んでいた。
《行き止まり》は口の端をわずかに歪め、低く吐き捨てるように言う。
「……好きにしろよ。どうせ、お前らの“罰”は、俺たちの意志とは無関係なんだろ」
「ご理解、感謝します」
百目鬼の返答には、一切の感情がなかった。
資料のページが再びめくられる。
その音を背に、《行き止まり》は何も言わず、部屋を後にする。
冷色のLED照明が無機質に空間を照らし、床に熱を持たぬ影を刻んでいた。




