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Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
72/286

《境界書換》

 2036年6月7日午後5時26分


 相庭(あいば)魔力(まりょく)が、黒く(うごめ)く波のように広がっていく。それはまるで、空間そのものを(むしば)むかのようだった。

 《辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)》の魔力――それは、“贖罪(しょくざい)”の名を(かん)した(のろ)い。

 飲み込まれることは、ただの消滅ではない。

 かつての罪と共に、自我(じが)を喰われるということだ。

 天乃(あまの)の《魔眼(まがん)》がその過程(かてい)を捉える。魔力の色は、禍々(まがまが)しい黒紫(くろむらさき)

 相庭(あいば)の元々持っていた(やわ)らかな(あお)の魔力が、完全に()(つぶ)されようとしていた。


(何か、(まず)い気がする。同化しきる前に何とか――)


 その時、ふいに頭を過ったのは、三俣(みつまた)のあの言葉だった。


 “その時が来たとき、君は自分が何者なのかを改めて考えてほしい。”


(今か……!? ここが、“その時”か!!)


 天乃(あまの)は目を閉じ、自分の奥底(おくそこ)に問いかける。


(オレは記憶(きおく)を失った高校生。特別な眼を持っただけの存在(そんざい)

 ――違う。そうじゃ、ないだろ。

 “改めて考えろ”とは、違う視点から自分を見ろということだ。

 表層面(ひょうそうめん)のステータスなんかに意味はない。

 要は、()()()()()()()()()()()、ここで決めろということだ。

 そうとも、今のオレは無力だ。

 だが、もう無力なままのオレではいられない。

 答えは――決まった)


「オレが望むのは、戦わないオレだ」


 その(おも)いが確かに(かく)となった瞬間、《魔眼》の(かがや)きが変わった。

 (あわ)い光が、虹色(にじいろ)粒子(りゅうし)()びて広がっていく。

 天乃(あまの)視界(しかい)では、空間が(ゆが)み、色が反転(はんてん)する。

 《魔眼(まがん)》が、“世界”に干渉(かんしょう)する。

 力に力で(あらが)うのではなく、力の定義(ていぎ)そのものを()り替える。


「“勝てない戦いは勝たない”

 ――それに対するオレの解釈(かいしゃく)は、勝負すら勝負ではなくしてしまうことだ。

 真っ当な戦いで勝てないのなら真っ当な戦いでなくしてしまえばいい。

 勝利を得ずして目的を達成(たっせい)する。

 それがオレの(いた)るべき境地(きょうち)だ。

 オレは、勝ち負けすら否定する。

 勝ちも負けもない場所に相手を連れていく」


 天乃(あまの)周囲(しゅうい)に広がった魔力は、地下室(ちかしつ)の全てを包み込んだ。

 相庭(あいば)(むしば)もうとしていた『亡霊』の魔力が、見る見る間に分離(ぶんり)していく。


「だから、寄越(よこ)せよ、『世界ほごしゃづら』――そんなオレに相応(ふさわ)しい『覚醒(ふじょうり)』をッ!!!」


 その瞬間、空間に“反響(はんきょう)”が走る。


「――《境界(きょうかい)書換(かきかえ)》」


 天乃(あまの)は、静かに、それでいて世界を(ふる)わせるように宣言(せんげん)する。


「オレはこの魔術(まじゅつ)をそう名付(なづ)けた」


 2036年6月7日午後5時26分


「……何、この感覚(かんかく)


 建物の2階を探索(たんさく)していた水無月(みなづき)風華(ふうか)はぴたりと足を止めた。脊髄(せきずい)直撃(ちょくげき)するような悪寒(おかん)――いや、熱のような衝撃(しょうげき)とでもいうべきか。空気の密度(みつど)が変わったようにすら感じる。

 五感(ごかん)では説明できない何かが起きていると本能が告げていた。


「嬢ちゃん、『覚醒者(かくせいしゃ)』が現れたようや」


 同時に『虚空の旋律(コクウノシラベ)』が声を出す。


「『覚醒者』って何?」

「要は、世界を滅ぼす『超越者(ちょうえつしゃ)』を滅ぼす機構(きこう)のことや」

「『超越者』――『討伐令(とうばつれい)』対象者か。

 だったら、基本的にはいいことなのよね」

「せやね」


 普段(ふだん)以上(いじょう)()()ない反応に毒気(どくけ)を抜かれた水無月(みなづき)であったが、『虚空の旋律(コクウノシラベ)』の次の言葉にはさすがに反応せざるを得ない。


「ちなみに、反応は地下やで」

「地下? この建物に地下なんてあるの!?」

「さっき階段の踊り場で下に降りる通路(つうろ)あったやろ。嬢ちゃん、ガン無視(むし)しとったけど」

「……それ、先に言いなさいよ、このバカ本!」


 舌打ちしながら、水無月(みなづき)は来た道を駆け戻った。

 階段の手すりを勢いよく滑り降りると、『虚空の旋律(コクウノシラベ)』の指示に従って脇道(わきみち)へ――その先にある書庫のような部屋の奥、ずれた棚の背後に、重たい鉄扉(てっぴ)地下(ちか)階段(かいだん)が隠されていた。


「まるで隠してるみたい……」


 水無月(みなづき)は一瞬だけ逡巡(しゅんじゅん)したが、すぐに息を吸って、()み出す。


「……行くしかないか」


 何かが、この下で起きている。

 それが、天乃(あまの)の“覚醒(かくせい)”であることを、今の彼女はまだ知らない――


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