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Replica  作者: 根岸重玄
七夕騒動編 上
189/216

赤き影、再び

 2036年7月7日午後12時52分


 緋澄(ひずみ)は妹の遊上ゆがみと共に、街のカフェで遅めの昼食を取っていた。今日は特に急ぐ用事もなく、食後に映画でも見ようかと軽く相談していたところだった。

 だが、ふと通りに目をやった瞬間、彼女の表情が凍りついた。


 雑踏の中に、場違いなほどの存在感を放つ女の姿があった。

 赤のチャイナドレス。高く結い上げた黒髪のシニョン。

 明らかにこの街の空気から浮いている。


 《懐古主義者ノスタルジア》の幹部として暗躍(あんやく)していた魔術師――《禁絶きんぜつ》。

 緋澄(ひずみ)天乃(あまの)間森(まもり)とともに交戦した相手であり、その実力は並の魔術師の比ではない。あのとき勝てたのは、ほとんど天乃(あまの)の働きによるものだ。《禁絶きんぜつの世界》という致死級の魔術を封じ込められなければ、今ここにいる人間すべてが(ちり)となるかもしれない。


 緋澄(ひずみ)は瞬時に判断し、目の前にいる妹の腕を強く引いた。


真理まり、行くわよ。急いで」

「えっ? どうしたの、お姉ちゃん?」

「あとで説明するわ。とにかく、あっちに」


 《禁絶きんぜつ》の進行方向とは逆の路地に入る。人気は少なく、安全な場所ではないが、今は見つからないことが最優先だった。


「お姉ちゃん……何があったの?」

「《懐古主義者ノスタルジア》の幹部がいたの。《禁絶きんぜつ》よ。強力な魔術師、最悪の部類」

「……どうしてそんなのが、街中に?」

「わからない。でも、あれが動いてるってことは、何か目的があるのよ」


 遊上ゆがみの表情が引き締まった。彼女は緋澄(ひずみ)と違い、直接《禁絶きんぜつ》と対峙したことはないが、《懐古主義者ノスタルジア》の幹部たちについてはよく知っていた。

 かつて自分が所属していた組織――《懐古主義者ノスタルジア》。そこに《禁絶きんぜつ》がいたことも。


「《禁絶きんぜつ》……あの人がここに現れるなんて。まさか、何か再始動してるの……?」

「知ってるの?」

「面識はないよ。でも、組織にいた頃、その名前はよく聞いた。誰も近寄らなかった、文字通りの“禁忌(きんき)”だった」


 遊上ゆがみはバッグから携帯端末を取り出し、指をすばやく動かす。

 幾つかのセキュリティを破り、浅木の監視ネットワークに不正アクセスする。数秒後、映像が手元の画面に映し出される。


「いた……この交差点を東へ。……迷いがない。何か明確な目的があるんだ」

「真理、それ、追跡できる?」

「もちろん。カメラを切り替えながら、移動ルートは把握できる。私はこのまま後方支援に回る。でも……お姉ちゃん、本当に行くの?」

「行くわ。見過ごせる相手じゃないし、私が気づいた以上、何かが起きる前に動くしかない。あなたは近づかないで。サポートだけ、いい?」

「了解。でも、無茶はしないで。できるだけ安全に、冷静に」

「わかってる。真理もね」


 二人はそれ以上多くを語らず、すぐに行動に移った。

 緋澄(ひずみ)眞琴は再び雑踏へと戻っていく。

 だが、ただの一般人としてではなく――この街を守る魔術師として。


 そして、再び《禁絶きんぜつ》に対峙する者として。

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