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Replica  作者: 根岸重玄
七夕騒動編 上
182/216

語られざるルール

 2036年7月7日午前11時33分


「待て、『殺し屋』との件を知っているってことは……いつからオレを見ていたんだ?」


 天乃(あまの)は目を細め、(かささぎ)をじっと睨んだ。張り詰めた空気が一瞬、部屋に満ちる。


「ん? その日からだけど」


 あっさりと、(かささぎ)は肩をすくめて答える。あまりにも気軽な調子に、天乃(あまの)は思わず眉をひそめた。


「ってことは、一か月間!?」


 思わず声が上ずった。(おどろ)きと困惑が入り混じる。


「まぁまぁ、常にってわけじゃないよ。要所(ようしょ)要所(ようしょ)って感じかな」


 (かささぎ)は両手をひらひらと振りながら、笑ってごまかす。軽さとは裏腹に、その視線は天乃(あまの)を真っすぐに見据えていた。


「だったら、昨日の件も見ていたのか?」


 天乃(あまの)の声に、わずかに苛立(いらだ)ちがにじむ。


「あぁ、水無月(みなづき)のお嬢ちゃんと走り回っていた件ね。見てた見てた」


 何でもないことのように、(かささぎ)は答える。その口調には悪びれた様子はない。


水無月(みなづき)のことも知っているのか?」


 天乃(あまの)の問いに、(かささぎ)は頷いた。


「まぁね。彼女にとっては因縁浅からぬってところだよ」

「因縁?」


 言葉の意味を問い返すと、(かささぎ)は少しだけ目を細めた。


「あぁ、僕が彼女のお気に入りを取り上げちゃってね。(うら)まれてるんじゃないかなぁ」


 その言い草に、天乃(あまの)は呆れを隠せずため息をついた。


「いい大人が何やってるんだよ……」

「君も無関係ってわけじゃないんだぜ?」


 さらりと返されたその一言に、天乃(あまの)の背筋がひやりとした。


「どういう意味だ?」


 問いただす声には自然と力がこもる。だが、(かささぎ)はふっと目をそらす。


「それは、この場では言わない。フェアじゃないからね」

「フェアじゃない?」

「公平じゃないって意味だよ」

「知っている。誰にとってどうフェアじゃなくて、なぜそれを言えないのか聞いてるんだ」

「それを説明すること自体がフェアじゃない。だから、黙秘(もくひ)させてもらうよ」

「……じゃあ、昨日の件。あの獣の軍団はプレイヤーの仕業(しわざ)か?」


 核心を突く質問を投げると、(かささぎ)はわずかに首を傾げた。


「それは知らない。ただし、プレイヤー全員の権能を知っている僕から言わせてもらえば――あれはプレイヤーの仕業(しわざ)じゃない。駒の仕業(しわざ)である可能性はあるけどね」

「権能と、駒ってのは?」


 言葉の響きが引っかかり、天乃(あまの)は眉を寄せた。


「権能ってのは、プレイヤーの特権みたいなものさ。各プレイヤーに一つだけ権能が付与される。

 駒ってのは『殺し屋』にとっての《刃刃じんば》や、『信仰屋』にとっての《潰滅ついめつ》みたいな存在だよ。君が出会ったあの《十三騎士(アーサー・リード)》も『金融屋』というプレイヤーの駒さ」


 プレイヤー、権能、駒。次々に投げ込まれる単語の意味を、天乃(あまの)は頭の中で必死に組み立てていく。


「そのゲームってのは?」


 核心に近づいた手応えを感じながら問うと、(かささぎ)は笑った。


「それは言えない。君はまだ知る資格がない」

「ここまで話しておいて?」


 天乃(あまの)は思わず声を荒げたが、(かささぎ)はやんわりとした調子で答えた。


「まぁ、語るべき者がいるのさ。僕以外にね」


 どこか(さび)しげに、けれど確信に満ちた声だった。

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