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Replica  作者: 根岸重玄
競技大会編
139/286

潰し合う者たち

 2036年7月6日午後3時4分


「《祝福者(ベネディクタ)》――あの娘の相手を」


 《潰滅(ついめつ)》は《祝福者(ベネディクタ)》に指示を出すと、《行き止まり(デッドエンド)》のほうを向く。

 そして、地響きのような詠唱が、空を裂く。


「“――おお、怒れる民よ、我が戦鎚(せんつい)を見るがいい”」

「詠唱!? させるかよぉぉ!!」


 《行き止まり(デッドエンド)》が魔力噴出による飛翔で《潰滅(ついめつ)》に肉薄する。

 だが、《潰滅(ついめつ)》――マグヌス・ヴェルメロは巨躯に似合わぬ身のこなしで、詠唱を中断することなくその接近を躱した。


「“この巨大な威光を、意匠を見るがいい”」

「“諸君らの無念はいまここに報われる”」

「“我が戦鎚(せんつい)の薙ぐ先は無窮(むきゅう)の大地と化すであろう”」

「“あらゆるものは壊滅(かいめつ)し、消滅(しょうめつ)し、潰滅(ついめつ)する”」

「“我が偉業、我が一振りを誇るがいい”」

「“――没入開始(ダイブ・イン)、《潰滅の巨人(ティタヌス・エクステルミナーティオニス)》”」


 詠唱の終わりと同時に、潰滅(ついめつ)の動きが一瞬だけ静止する。


「今だ、止まりやがれぇぇぇ!!」


 叫びと共に、《行き止まり(デッドエンド)》が展開する――多層構造の停止領域。

 領域は連なった刃のように襲いかかる。

 一層、二層、三層――砕かれる。

 だが、五層目から戦鎚(せんつい)の動きが鈍る。

 八層目が、ついにその動きを封じた。


(……()った)


 そう確信しかけたその瞬間。

 潰滅(ついめつ)の身体が、停止した空間の中で、なおも動いていた。

 《潰滅の巨人(ティタヌス・エクステルミナーティオニス)》――それは没入(ぼつにゅう)という技術が使われた術式。

 自らの世界を構築し、その中で完結する戦闘形態。

 つまり今、《潰滅(ついめつ)》は外界の法則とは無関係な“自分だけの世界”にいる。

 その内側の法則が《潰滅(ついめつ)》の周囲の世界を侵食しているのである。

 停止領域すら、それを侵せない。


(チッ……止めても止まらねぇってか)


 だが、行き止まり(デッドエンド)もまた、自らの極地を知っていた。


(だったら、こっちも切り札だ)


「“原初に抱いた我が情景は、世の理を侵す思想”」

「“汝らよ、どうか我が眼前を駆け抜けて欲しい”」

「“汝らの疾走を阻むことこそが我が唯一の渇望であるが故に”」

「“停止した世界こそ最も穏やかで安らげる居場所となるのだから“」

「“終焉の幕はもう下りない”」

「“此処が終点――《行き止まり(デッドエンド)》”」


 術式の名とともに、静寂が訪れる。

 それは停止でも消滅でもない。

 ただ、あらゆる運動量が失われていく――減速。

 限界まで摩擦が増幅されたような、抵抗の塊。

 《潰滅(ついめつ)》が、その足を一歩、踏み出そうとする。

 その瞬間――空気が、押し返した。

 音が鈍る。

 色が褪せる。

 動きが止まりかける。

 《行き止まり(デッドエンド)》の“真の領域”――形なき篏合型干渉領域(かんごうがたかんしょうりょういき)が完成したのだ。

 この領域には形がない。見えず、感じられず、認識すらできない。

 かつて天乃がその“境界”を見出せず、《境界書換》ですら干渉できなかった《行き止まり(デッドエンド)》の切り札である。


(形がないなら……あいつの“潰滅(ついめつ)”は通じねぇ)


 《潰滅(ついめつ)》が戦鎚(せんつい)を振り上げる。

 その重量が、空気ごと押し潰すはずだった。

 だが――

 重さそのものが、止まりかけている。

 衝撃が減速し、余波が消える。

 世界が、徐々に《行き止まり(デッドエンド)》の法則へと沈みつつあった。


「――終点は、てめぇの足元だ。《潰滅(ついめつ)》さんよぉ」


 その声は、もはや宣告だった。

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