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Replica  作者: 根岸重玄
競技大会編
137/286

境界にて止める者と潰す者

 2036年7月6日 午後2時30分


 浅木市・時計塔前広場


 空は雲ひとつなく晴れ渡り、真夏の陽射しが白い時計塔の壁面にぎらぎらと反射していた。

 《行き止まり(デッドエンド)》は、塔の正面、まるで友人との待ち合わせでもしているかのように立っていた。

 その目は、一見のんびりとした様子ながら、周囲の空気を細かに読み取っている。


(点在してるな……あの一団も、こっちも、あれも)


 広場のベンチ、木陰、売店の横、あらゆる“死角”に紛れている集団。

 服装は私服、動きも自然。だが、共通しているのは――特有の臭い。


(一般人にしちゃ、随分と“濃い”な)


 聖魔教の信徒。

 間違いない。

 だが、現時点では何の行動も起こしていない。

 “そこにいる”という事実だけでは、制圧の大義名分がない。


(チッ、これだから体制側は……)


 警備隊であれば、“予防措置”などという建前で接触できる。

 だが、自分は《暗部》――あくまで裏方。

 火種が燃え上がるまでは、手を出す理由がない。

 そこへ、三人組の男たちが近づいてくる。

 明らかに“こちら側”を意識した動きだ。


「これからここで我々の集会が開かれます。申し訳ないが、場所を移っていただけませんか?」


 語りかけたのは、まだ若い男。

 その後ろで、やや年配の男が静かに目を細めている。リーダー格か。


「ほぉ、“集会”とな。……それは、浅木市の許可を取ったやつか?」


 男たちの顔色がわずかに変わる。


「こいつ――」

「待て」


 リーダー格の男が手で制止し、言葉を続けた。


「許可は……ない。だが、どうか、頼む」

「そうかい。まぁ、そこまで頭を下げられちゃ、考えてやらんでもない」


 《行き止まり(デッドエンド)》はわざとらしく肩をすくめ、にやりと笑った。


「ただし、一つだけ教えてくれ。あんたらの“集会”ってのは、一体何をするんだ? こんなところで」

「祈りを捧げるのですよ。我々の神に、栄光と感謝を」

「へぇ、なるほど。……もしかして、アンタら聖魔教じゃないのかい?」


 男たちの顔が一斉に強張る。


「どうしてそれを……?」

「いやなに、ちょっとした“タレコミ”があってね。聖魔教が、この場所で“門戸(ゲート)”を破壊しようとしてるってさ」

「お前……まさか……!」


 その瞬間――


「はい、残念。もぉ終わっちまったよ」


 《行き止まり(デッドエンド)》が地面を踏み鳴らすように一歩、前に出た。

 その瞬間、時が止まったかのように、周囲の信徒たちが一斉に硬直する。

 《停止領域》――彼の代名詞ともいえる魔術が、広場を包み込んだ。

 呼吸を奪われ、声すら上げられぬまま、男たちはその場に固定される。


「さぁて――文句がある奴は、かかってきな」


 《行き止まり(デッドエンド)》の声が響く。


「特別に、この俺が相手してやるよ」


 その瞳には、冷たい怒りと、確かな覚悟が宿っていた。


 2036年7月6日午後2時42分 


 無言で崩れ落ちる信徒たちの間を、《行き止まり(デッドエンド)》はただゆっくりと歩いていた。

 空気は静止し、魔術によって歪んだ空間には緊張と静寂が満ちている。

 そこへ、足音。


「――ああ、嘆かわしい」


 銀の装飾が施された聖衣をまとう女が、信徒を引き連れて姿を現す。

 その姿には威厳と、異様なまでの慈悲が同居していた。

 《行き止まり(デッドエンド)》はその女の名を知っていた。


「神はお許しになりませんよ、異端者」

「……生憎、神様とやらに会ったことはないもんでな」

「無学な。会ったことがないから存在しないなどと、まるで愚者の詭弁」

「――アンタ、その身なり、立ち居振る舞い……《祝福者(ベネディクタ)》ドミニカ・フィデースだな」

「だとすれば、どうするというのです?」

「悪ぃが、ここで止まってもらう」

「神はかく語りき――神罰よ、あれ」


 その言葉と共に、空が裂けた。

 雷が天を貫き、《行き止まり(デッドエンド)》へと真っ直ぐ落ちてくる。

 だが――その一撃は、《停止領域》の(ふち)に触れた瞬間、

 まるで映像を一時停止するように、虚空(こくう)に溶けて消えた。


「……!? な、何を……」

「聖句と現象の組み合わせであらゆる奇跡を再現する、万能者系の魔術……特化者としては羨ましい限りだよ」


 《行き止まり(デッドエンド)》はゆっくりと前に歩み出る。


「俺にできるのは“止める”だけ。けどな、それで充分らしい」

「――何を言って」


 その時だった。


「何をやっている」


 広場に響いた、重く低い声。

 現れたのは、2メートルを超える巨体を持つ男。

 片手に担いだのは、祭具に偽装されて持ち込まれた、巨大な戦鎚(せんつい)

 その重量感は、遠目でも明らかだった。

 もしあれが本当に金属製なら、通常の人間では持ち上げることすらできまい。

 《行き止まり(デッドエンド)》はその男の名を即座に口にした。


「――《潰滅(ついめつ)》、マグヌス・ヴェルメロ」

「ほぉ。我が名を知るか」

「そりゃあな。アンタも“制圧対象”って名簿に載ってたからな」

「我ら全員を相手取る気か?」

「できないとでも思うのかよ」


 その返答に、《潰滅(ついめつ)》は口角を吊り上げた。


「気に入った。これの相手は我が務めよう。《祝福者(ベネディクタ)》、儀式の準備を」

「――はっ」


 ドミニカが即座に後退し、信徒たちを指揮して時計塔へと向かう。


「させると思うかよ」


 《行き止まり(デッドエンド)》が術式を再展開。

 周囲の空間に、再び《停止領域》が拡がる。

 だが――


「フンッ!」


 《潰滅(ついめつ)》が巨大な戦鎚(せんつい)を振り下ろす。

 空気が裂け、重力すら歪むほどの力が広場を襲った。

 そして、《停止領域》が――砕けた。


「……なにっ?」


 《行き止まり(デッドエンド)》の眉が僅かに動く。


「どうやら、術式の相性はこちらに分があるようだな」


 《潰滅(ついめつ)》は戦鎚(せんつい)を肩に戻し、ゆっくりと歩み寄る。


「面白ぇ……やってみるか、《潰滅(ついめつ)》さんよぉ!」


 対峙する、二人の異能者。

 ――“止める者”と、“潰す者”。

 激突の幕は、いま開かれたばかりだった。

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