8話 ~アックス&ハンマー~ 大斧と鉄槌、あるいは狂気な凶器
「待たせたのじゃ」
部屋に戻ってきたロッティは、さすがにビキニアーマーではなかった。
当たり前と言えば当たり前だよな。
パーティー内にビキニアーマーがゴロゴロいたんじゃ、目のやり場に困るし、そもそも何の集まりかと思われるしね。
だけど、幼女のビキニアーマーも見てみたい気がする。
あれ?
なんだか感覚がおかしくなってきたかな?
ロッティの装備は、色が金ピカな以外は至って普通の軽装備だ。
何故かスカートはひらひらのミニスカートなのと、大きなグローブが謎だけど。
でもそれよりも、その両手に持った物騒な物は……
「これがわらわの新作の得物じゃ♪」
ですよね。
右手にはバトルアックス、左手にはバトルハンマー。
しかも二つは、チェーンで繋がっている。
そこまではまだいいとして、問題はその大きさなんだよね。
明らかに、ロッティが振り回すには大き過ぎるサイズだ。
いくら怪力と言っても、相当な重さのはずなんだけど……
「おお! なかなかいいんじゃないか?」
ゾーイは本当にそう思っているんだろうか?
少なくとも、僕には振り回す自信はないよ。
呪われる前の姿でもね。
「そうか? ちょっと軽すぎる気もするんだがのう」
ちょっ!!
こんな所でぶんぶん振り回すとか……
って言うか、何でそんなに軽々と振り回せるの?
かなりの重さじゃないのかな?
それとも、実は見た目より軽いとか、新素材とか、そういうやつ?
「ロッティ、お前の“軽い”は全然軽くないんだよ!」
「そうか? お前たちが非力なだけではないのか?」
違うと思います。
「そンな事よりこれを見るのじゃ」
ロッティがそう言ってアックスとハンマーを合わせると、二つの武器は光を放ち、片側が斧の刃、片側がハンマーと一つの武器になった。
「どうだ? 凄いだろう♪ 持ち運びに便利だぞ」
魔法を使った細工だろう、確かに凄い。
凄いけど……
「大き過ぎないかな? それ」
それにますます重そうだし。
「ん? そうか? 片手で振れるし大丈夫だぞ」
いやいや……
片手で振れるのはロッティだけでは?
ああ、分かったからブンブン振らないで!
危ないから。
「とにかく、こいつの使い勝手を試したいから、よろしくな!」
「……はい」
何を“よろしく”なのかは知らないけど、ここは返事をしておくべきだろう。
その前に、いくらロッティにとって使い勝手が良くても、一般人が買うとは到底思えないけど?
重すぎて。
「それじゃあ、ロッティの準備も出来たし飯も食ったから、次に行くとするか!」
飯も食ったは余計だよね、ゾーイ。
「おい、ヴァニラ! 次行くぞ、次!」
「分かった、ちょっと待て。残すのは無礼だからな」
ゴク、ゴク、ゴキュ。
だからと言って、デキャンタで飲み干すのも充分無礼だと思いますけどね。
そもそも、料理は残ってるんですけど。
「おい、フィル。何やってんだよ。ヴァニラも早くしろって」
ゾーイはゾーイで、いつの間にか魔法陣を描いてるし。
もう何なのか、どうなるのか分かんないよ……
「じゃあ、行くぞ。ほら、フィルはちゃんと掴まれって言ってるだろ!」
むにゅー。
無乳と“むにゅー”は全然違うな。
そんなことを思いながら、またもゾーイの爆乳に顔を埋めながら転移する僕であった。
転移した先は、森の中だった。
森と言ってもヴァニラの家があった場所とは違い、かなり森の奥のようだ。
「ここは?」
「見ての通り、森だろ」
「そうじゃなくてさ。どこの何て森なのか聞いてるんだけど」
「エルフの里の近くの森だな。名前なんて無いだろ、たぶん」
エルフの里の近くの、名も無き森か……
そう言われても、僕にはエルフの里がどこにあるかなんて、知らなんだけどね。
「次のターゲットはエルフだぞ」
当然だよね。
この流れでエルフじゃなければおかしい。
その前に、このパーティー自体がおかしいんだけど。
「僕、エルフに会うのは初めてです」
「フィルは何でも初めてだろ? ドワーフだって初めてだったじゃねぇかよ!」
「それはそうなんですけどね」
実際、今日は初めてだらけだ。
フルールドラゴンにはじまり、ドワーフ、そして今度はエルフ。
考えたら聖騎士だって会った事はなかったな。
ヴァニラは“元”だけどね。
ああ……そういえば、ビキニアーマーも初めて見たな。
「フィルは田舎に籠り過ぎなんだよ。冒険者なんだから、もっといろんな所を冒険しろよ!」
「ごもっともです」
もっぱらスライムの森だけでしたので、言い返す言葉もございません。
「まあ、いいではないか。今から冒険すれば済む話だ。そうだろう、フィル!」
「え、あ……そうだね」
ロッティが言うと、不安いっぱいなんだけど……
「それで、そのゾーイの知り合いのエルフは、ここの森にいるんですか?」
「そういうことだ。たぶんこの辺にいるはずだがな」
その時、少し離れた岩場に人影は現れ、何か歌い始めた。
「オイラは風〜♪ 緑の風〜♪ 森を吹き抜ける、緑の風〜♪」
…………
…………
……………………
「ゾーイ……あのですね――」
「気にするな」
「いや、でも――」
「ああいう奴だ。気にしたら負けだと思え」
なんだか、もう……
どうなるんだろう……ね。