4話 ~ハウス・オブ・ザ・ビューティー~ 美女の住む館、あるいは不法侵入者たち
「もうとっくに着いてるぞ。いつまで抱きついてんだ?」
転移は一瞬で終わっていた。
「す、すいません」
ゾーイの爆乳から顔を離すと、そこはどこかの屋敷の一室だった。
シンプルながらも洗練された調度品。
充分すぎる大きさの暖炉。
窓の外は緑に囲まれている。
建物自体もそう大きなもではなさそうだ。
誰かの別荘か何かだろうか?
「……ここは?」
「ん? ここか? ここは――」
ゾーイがそう言いかけた時、部屋の扉が開かれた。
「うわぁっ!!」
……ですよね。
誰もいないはずの部屋に人がいたとしたら、誰でもこうなりますよね。
たぶんこの家の主なのだろう。
部屋の扉を開いたのは、美しい女性だった。
「ういーっす♪」
「……ゾーイ、また貴様かよ」
「何だよヴァニラ、貴様呼ばわりすることないだろ」
いや、勝手に部屋の中に入ってる人は、貴様呼ばわりされても仕方ないと思うんですけど。
「我が家にも、玄関と呼べる場所はあるんだぞ」
プラチナホワイトの長い髪に白い肌、そして真っ白なワンピース。
ゾーイがヴァニラと呼ぶその女性は、全てが白く、まるで雪の精のようだ。
「転移魔法が何故かこの部屋に繋がるんだ、仕方ないだろ」
ゾーイはそう言っているが、顔が笑っている。
多分、嘘だね。
「まあいい。ところでその猫耳族の少年は誰なんだ?」
「おお、さすがヴァニラ。いいところに気が付いたな」
さすがも何も、誰でも気づくよね。
「それについて少し相談があるんだが……茶は出んのかな?」
図々しいにも程がある、ってのはこういう事なんだろうが……
「ああ、気が付かなくて済まんな。ちょっと待ってろ」
ヴァニラさんはそう言って部屋を出て行った。
この女性も、どうなんだろう。
美人だが、少し抜けてるところがある気がするな。
「誰なんです? あの女性は」
「あいつはヴァニラ。ああ見えて元聖騎士だぞ」
「聖騎士って、あの聖騎士ですよね」
「この国で聖騎士団は一つしかないぞ」
「ですよね」
聖騎士団と言えばこの国の最強部隊だ。
あの美人が“元”でも聖騎士団の一員だったなんて……
「純白の聖騎士とか呼ばれてたらしいぞ」
ああ、分かる気がする。
見たまんまだし……
「実際は、ただの残念美人だけどな」
なぜだろう。
それも何となく分かる気がする。
「ただし魔法剣士としては上等だぜ。魔王討伐パーティーには打ってつけな程にな♪」
ここに来たのだから分かっていた事だけど、まさか元聖騎士だったなんて……
「そんなに凄い人なんですか?」
「そりゃあ……隊長だったしな」
「ふぁっ?! た、隊長ぅ?」
聖騎士団の隊長って、団長、副団長の次ですよね?
元とはいえ、数名しかいないはずの隊長職って……
「いや……無理ですよね? 幾らなんでも」
リーダーが猫耳の底辺冒険者なのに、仲間になるとは思えないんですが?
「たぶん大丈夫だな。まあ、見てなって」
ゾーイは何故か自信ありげだ。
根拠は不明だけど……
「待たせたな」
ヴァニラさんがティーカップをトレイに載せて、部屋へ戻ってきた。
「それで、相談ってのは?」
「実はこの少年はな、猫耳族じゃないんだ。剣の呪いで、こうなっちまったんだよ」
「呪い……? そんな呪いがあるのか」
「あるんだよ! 本当は16歳の人族なのだがな。今はこの通り、10歳くらいの猫耳少年だ」
「それは一大事……いや、一大事なのか?」
「大変ですって! 困ってるんです、助けてください」
猫耳はともかく、一生少年なんて、少なくとも僕には一大事だ。
が……
生き死にレベルの呪いでもないし、虫になったとか魔物になったとかでもない。
他人からしたら、どうでもいいレベルだよな。
「とうの本人が困っているんだ。一大事だろ?」
「そう言われればそうだが……」
当然の反応ですよね。
わかります。
「それで、私にどうしろと? 私が何かしてやることで、そこの少年が元に戻るのか?」
「ああ、その通りだ、ヴァニラ。お前の協力が必要なんだ」
正確には、ヴァニラさんである必要はないんですけどね。
僕にはこんな事を頼める女性なんて皆無だし……
「協力と言われてもな……そもそも何をどうしたら呪いが解けるんだ?」
「それなんだがな――」
ゾーイがヴァニラさんに呪いの説明をし出した。
とりあえず任せておくとして……
せっかくだから紅茶でも頂くとしますか。
ゴクッ、っとね……
……
…………ブファー!
「な……なにこれぇ?」
「ん? どうした? テーロワイヤル、火酒入りの紅茶だが……」
「ぶ、ぶらんでぇ………………」
「おい、どうした? フィル、おいフィル!」
ゾーイの声が遠のいて……い、く…………
……………………
…………
……